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純血

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第四章

 そしてその明らかになっている言葉をだ。彼は僕に言った。
「小さな。コンビニって言えばわかりやすいかな」
「ああした感じなんだ」
「七時で閉まるね。そうしたお店なんだ」
「そこで買うんだ」
「本とかはね。生活用品もね」
 だがそれ以外の店はというと。
「お店はそこだけなんだ」
「ふうん、そうなんだ」
「本当に小さくて何もない村だよ」
 自嘲ではなくそのままだと。彼は僕に言ってきた。
「そういう村なんだ」
「ううん、正直に言っていいかな」
 彼の話をここまで聞いたうえでだ。僕は彼にこう言った。
「そうしていいかな」
「いいよ。こんな村がまだあるんだっていうんだね」
「うん。凄いね」
「本当にね。長い間一目を離れて暮らしていた隠れ里だったから」 
 平家が落ち延びていたというのは本当らしい。
「それでなんだ」
「こうした感じなんだね」
「そうだよ。じゃあ家に来てよ」
「悪いね、世話になって」
「いいよ。気にしなくて」
 彼は微笑んで僕に言ってくれた。そうしてだった。
 僕は彼の家、京都の金持ちのそれよりもまだ大きそうな、だがかなり古いことが窺える庄屋の家そのままの家に入った。そうしてその家の中で。
 見事な和服を着た初老の男女に畳の広い部屋の中で会った。隣には彼がいる。
 二人は僕にだ。彼の名前を言ってからこう穏やかな声で言ってきた。
「大学で知り合いですか」
「はい、そうです」
「わかりました。ではこの村でゆっくりとして下さい」
「有り難うございます」
 僕はその二人、彼の両親に応えた。見れば彼に似て穏やかな感じの親切な人達だ。 
 だが二人の顔を見てだ。僕は不思議に思った。
 性別は違う。だが、なのだ。
 その顔は似ていた。無気味なまでに。
 彼の顔も見る。すると。
 彼が三人いる気がした。そのことに奇怪なものを感じた。
 だがそのことについて何も言わず両親と別れてから彼に僕の為に用意してくれた部屋に案内してもらった。長く広い木の渡り廊下を進みながら。 
 彼は後ろにいる僕にだ。こう言ってきたのだった。
「僕の父さんと母さんだけれど」
「いい人達だね」
「見たかな」
 僕の言葉に応えずにだ。彼は僕に言ってくる。
「やっぱり」
「見た?何を?」
「今気付かないのならいいよ」
 彼は前を向いたまま僕にまた言った。
「それじゃあね」
「?一体」
「何でもないよ。それでね」
 彼は僕にこうも言ってきた。
「いいかな。これから暫くしたらだけれど」
「うん。御飯かな」
「この村はこれでも色々なものが採れるんだ」
 食べ物の話だった。それも具体的な。
「川も山も傍にあってね。田畑も一杯あるし」
「食べるものには困らないんだ」
「そう。だからずっとここで暮らせたんだ」
 隠れ里としてだ。成り立っていけたというのだ。
「そうした意味ではいい場所だからね」
「そうなんだ」
「うん。多分今夜は」
 彼はメニューのことも僕に話してくれた。
「山菜に野菜に鮎かな」
「鮎も採れるんだ」
「そうだよ。川の幸も豊富だからね」
 そうしたことを楽しみにしてくれというのだった。その話からだった。 
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