ハルケギニアの電気工事
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第07話:皇城へ………!!
前書き
第7話をお届けします。
やっと皇城の書庫に行くことができます。
色々騒ぎが起きていますが、まあ、大丈夫でしょう。
お早うございます。アルバートです。
ただ今、父上が『ヴァルファーレ』の安全確認のため試乗中です。
『ヴァルファーレ』は離陸してから300メール位までゆっくりと上昇してくれました。これなら旅客機より楽な上昇です。乗っている父上には結構楽しい遊覧飛行になっていると思います。
これだけ離れていても『ヴァルファーレ』と僕の間はテレパシーで話が出来ます。今の状況を聞いてみましょう。
「『ヴァルファーレ』そのままのスピードで屋敷の周囲を回って下さい。父上の様子はどうですか?」
[おぬしの父上は楽しんでいるようだぞよ。なにやら下手な鼻歌が聞こえるからな。それではこのままゆっくり1周回って着陸するぞよ。]
「良いですよ。その調子で着陸もゆっくりでお願いします。」
今日の天気なら、ずいぶん遠くまで見渡すことが出来るでしょう。この調子なら父上からの許可も貰えそうですね。そうこうしている間に『ヴァルファーレ』が降りてきました。無事に着陸すると父上がベルトを外して降りてきます。
「父上、乗り心地はどうでしたか?上からは眺めも良かったでしょうね。」
「アルバート、『ヴァルファーレ』の乗り心地は素晴らしいものだな。揺れないし風竜よりずっと乗りやすい。座席の具合も良いから、あのベルトをしていれば宙返りしても大丈夫だろう。これならおまえが乗っても大丈夫だな。いや~、それにしても眺めも良くて最高だった。」
よほど楽しかったのでしょうか、父上はご機嫌ですね。
「有り難うございます。それでは皇城までの往復は『ヴァルファーレ』に乗って行く事で問題無いですね。」
「良いだろう。但し今日は初めてなんだから、試運転のつもりで充分注意して皇城まで往復してこい。飛んでいる途中で天気が悪くなった場合や、危険な幻獣がいないかとか、途中に問題がないか確認してくること。次以降の皇城に行く際の細かい条件なんかは、その結果を聞いてから話しをするからな。」
「良かったわねアルバート。お母様も今度、是非乗せて貰いたいわ。」
「母上もメアリーも近いうちに乗って頂きますのでお待ち下さいね。それでは僕は早速、皇城まで行ってきます。母上、皇城への連絡はして頂けましたか?」
「昨日の内に鷹便を送っておいたわ。大丈夫だと思うけど注意はしなさいね。」
昨日の内って、まだ許可が出るかどうかも判らないのに送ったのですか?父上が苦笑していますよ。
「有り難うございます。メアリーも何かお土産買ってくるから大人しく待っているんだよ。」
「はい、兄様。ちゃんと待っています。今度絶対『ヴァルファーレ』に乗せて下さいね。」
「解ったよ。約束するね。それでは父上、母上行ってきます。」
出発の挨拶をすると、僕は『ヴァルファーレ』の背中に昇って座席に座りベルトで身体を固定しました。昨日座席を作る時についでに作っておいたゴーグルを掛けて準備完了です。
「『ヴァルファーレ』、それじゃ出発しよう。皇城まで宜しくね。」
[了解した。それでは行くぞえ。]
ふわっと浮き上がるのを感じて、どんどん小さくなっていく父上や母上、メアリーに手を振りました。
そのまま、グングンと上昇を続け、1000メールくらいの高さまで上がります。この高さならいきなり何かに襲われることもないでしょう。
「『ヴァルファーレ』この位の高さであっちの方に飛んで下さい。」
『ヴァルファーレ』は僕が指さした方向に首を向けると、一気に加速して飛び始めました。スピードといい、運動性能といい、風竜どころかサイトの零戦でも追いつくことは出来ないでしょう。『ヴァルファーレ』の力なのか僕の身体の前方にシールドが張られたようで、息をするのにも問題ありません。万一、原作のアルビオン戦に係わったとしても、この『ヴァルファーレ』や『シヴァ』、『イフリート』を召還すれば、あっという間に殲滅できるでしょうね。
途中、何も変わった事は起きず、1時間位空の旅を続けると、もう『ヴィンドボナ』が見えてきました。天気が良いおかげで遙か地平線まで見渡すことが出来ます。地平線を見ていると、この世界も丸いんだという事が判りました。こんなに順調だと気分はすっかり遊覧飛行ですね。
さて、この辺から『ヴィンドボナ』の近衛隊に注意が必要でしょう。出会っていきなり攻撃してくることはないと思いますが、見たこともない大きな幻獣が飛んでくるのですから、最低限止められて誰何されるはずです。
「『ヴァルファーレ』、このまま『ヴィンドボナ』上空に進入して、ゆっくりと螺旋降下してください。たぶん『ヴィンドボナ』の近衛隊が来ると思いますから攻撃しないようにお願いします。」
[解った。それで、万一向こうから攻撃してきた場合はどうするのじゃ?]
「一応避けるだけにしてください。僕が説明すれば解ってもらえるはずですから、攻撃はしないようにお願いします。」
[そうか。何にせよ主に危害が加わるようなことにならない限り、こちらからは手は出さないようにしよう。]
その後、2分ほどで『ヴィンドボナ』上空に到着し、螺旋降下に入りました。だいたい地上200メール位まで降りて来たところで、近衛隊のマンティコアが4機も近づいてきて呼びかけられました。
「止まれ!!何者か?此処は『ゲルマニア』首都『ヴィンドボナ』である。このような見たこともない幻獣に乗っているが何用があって来たのか答えよ。」
マンティコアに乗った4人の近衛兵は、完全に戦闘態勢に入っています。3機の近衛兵は『ヴァルファーレ』の両横と後方の3方から包囲しつつ、いつでも魔法を放てるように詠唱に入っています。誰何してきた正面の1機も杖剣を抜いて、何時飛びかかってくるか判らないような表情です。ちょっと怖いですね。
「怪しい者ではありません。私はアルバート・クリス・フォン・ボンバード。ボンバード伯爵家の嫡男です。本日は皇城に用があり参上しました。この幻獣は私が召還した使い魔の『ヴァルファーレ』といいます。私が本日『ヴァルファーレ』に乗って参上しますことは、先に鷹便にて連絡しておりますのでご確認の程お願い致します。」
「確かにそのような申し送りがあったが、しかし、このような見たこともない幻獣で来られたのでは、私の一存では判断できない。直ちに確認を取るのでそのまま待つように。」
「判りました。このまま待機しますのでよろしくお願いします。」
後方の1機が離れていきます。降下して皇城に確認に向かうようですね。
「『ヴァルファーレ』、少しの間このまま待って下さい。多分すぐに済むと思いますから。」
[判った。存外面倒な事よの。]
下の皇城を見下ろしてみると、大勢の人が出てきて騒いでいるようです。屋敷でもみんながひっくり返った位ですから、騒ぎになるのも当然でしょう。
やがて確認を取りに行った1機が戻って、正面の近衛兵に話しかけました。何を言っているのか聞こえません。すこしして正面の近衛兵が話しかけてきました。
「ただ今皇帝閣下よりご指示がありました。直ちに着陸するようにとの事です。申し遅れましたが、自分は近衛隊マンティコア隊所属、ボイス・スタンダードと申します。失礼のあった事お詫び申し上げます。それにしてもこの幻獣が使い魔ですか?大きさといい、迫力といい、今まで見たことがない幻獣ですが、危険は無いのでしょうか?」
「はい。非常に知能も高く、私との意思の疎通も出来ますので、私が攻撃されるようなことがない限り危険はありません。」
「了解しました。それでは自分が皇城の庭まで先導しますので付いてきてください。」
「有難うございます。それではお願いします。『ヴァルファーレ』あのマンティコアに付いて着陸してください。」
『ヴァルファーレ』は小さく頷くと近衛隊のマンティコアに付いて降下を始めました。高度が下がるにつれて、だんだん下にいる人の顔が判るようになってきました。もしかしてあの真ん中の一番前に見えるのは皇帝ではないでしょうか?守られる人が一番前に出てしまっては周りの近衛隊も大変でしょうね。マンティコアは人の集まっているところから少し離れた場所に降りましたので、『ヴァルファーレ』もその隣に着陸しました。
「『ヴァルファーレ』お疲れさまでした。すごく気持ちの良い旅でしたね。」
[なんの。これ位のことは何ほどのことでもないわ。主が気に入ったようで何よりじゃ。]
『ヴァルファーレ』にお礼をしてベルトを外します。翼を下げてくれましたので、座席の後にくくりつけておいた荷物を持って翼づたいに地面に降りると、後ろから声を掛けられました。
「良く来たな、アルバート。ずいぶん時間が掛かっているから、いったいどんな方法を考えて此処まで来るかと楽しみにしていたのだが、すごい幻獣に乗ってきたものだな。これがおまえの使い魔か?」
「これは皇帝閣下。わざわざお越しいただき有り難うございます。先に母上より鷹便によりご連絡を差し上げたものと思いますが、私の使い魔『ヴァルファーレ』を紹介致します。こちらが異界より召還しました『ヴァルファーレ』です。非常に頭が良く私との間では、声ではなく、直接頭の中で話しをすることで意思の疎通を図ることが出来ます。ご覧のように背中に座席を着け、私でも安全に乗ることが出来るように致しました。」
「それはすばらしいぞ。儂も一度乗ってみたいものだ。さぞ乗り心地も良いのであろうな。」
「はい。今日などは天気も良かったので眺めが最高でした。上空に上がっても寒くないですから気持ちいい飛行になりました。」
「そうか。そうと聞いては我慢できん。どうだ儂を乗せてくれぬか?」
「えっと。護衛の方とかはよろしいのでしょうか?一応一人乗りになっておりますので皇帝閣下お一人となってしまいますが。」
「なに、かまわぬ。これだけの幻獣に近づくものなどおらぬさ。」
皇帝はそう言いますが、周りの近衛隊の方達は小さく首を振っていますよ。もしかして、皇帝って結構好き勝手に動き回っているのでしょうか?だとしたら近衛隊も大変ですね。
「お乗りになる事自体は危険のない事を保証いたしますが、皇帝閣下に万一の事が有ってはなりませんので、やはりマンティコア隊に周りの護衛をさせた方がよろしいかと思います。いかがでしょうか?」
そう言うと皇帝はやや憮然とした顔つきになりましたが、
「皇帝などと言ってもこれ位の自由もないのだからな。おまえも覚えておくと良い、窮屈なものだぞ。仕方ない3名ほど付き合え。」
と言ってくれたので近衛隊もほっとしたようです。僕は頭の中で
「『ヴァルファーレ』申し訳ないけれど少しの間皇帝を乗せてあげてください。父上の時のようにごくゆっくりと安全飛行でお願いします。」
[色々とめんどくさいものじゃの。まあ、良いじゃろう。主のためとなるのなら従うまでじゃ。]
「ありがとう。よろしくね。」
その後声に出して、
「それでは皇帝閣下、『ヴァルファーレ』の翼を足がかりにお乗りください。お乗りになりましたら座席にお座りになり、腰と肩の所にある4本のベルトを締めていただけますようお願いいたします。」
「解った。少し借りるぞ。」
そう言うと、皇帝は『ヴァルファーレ』の背中に登って座背に座り、ベルトを締めました。
「皇帝閣下、準備は宜しいでしょうか?」
「おう、いつでも良いぞ。」
「それでは『ヴァルファーレ』お願いします。」
『ヴァルファーレ』は父上の時のようにゆっくり上昇していきます。300メール位まで上昇した『ヴァルファーレ』は、水平飛行に移って皇城の周りをスムーズに飛行していきます。その周りをマンティコア隊が3機囲んで護衛していますが、大きさがここまで違うと戦艦の周りを護衛する駆逐艦と言ったところでしょうか。多分攻撃力の面から見てもそんな感じになるでしょう。
今回は皇城の周りを3周して降下してきました。着陸すると皇帝が降りてきます。
「これは、すばらしい乗り心地だ。遙か彼方まで見渡せるし、揺れもほとんど感じない。おまえがつけたと言う座席もなかなか座り心地も良くて風竜やマンティコアなどよりずっと乗りやすいぞ。なにより両手が使えるのが良い。これなら剣を使うにしろ魔法を使うにしろ闘う事にだけ集中できる。う~む、これは儂も欲しいな。」
ここで、『ヴァルファーレ』をよこせと言われたら大変です。皇帝が僕から取り上げるような事はしないと思いますが、一瞬焦りました。
「お褒めにあずかり光栄です。使い魔の主としてこれほどの誉はありません。残念ながらこの幻獣は異界に住んでいるため、ハルケギニアにはおりません。大切な私の使い魔なので献上する事はできませんが、ご勘弁を願います。」
「解っているアルバート。何もおまえの使い魔を取り上げようなどと考えぬ。安心するがよい。だがな、これだけの使い魔だ是非ともほしくなるのは当たり前だろう。他にいないのが残念だ。」
皇帝と話している間に庭に出てきていた人たちが周りに集まって、『ヴァルファーレ』を見ながら話しています。そういえば母上の妹姫達もいますね。どうやら、はじめの驚きからさめて、『ヴァルファーレ』への興味の方が大きくなったようです。誰も悪く言う人はいないようで、すっかり人気者になりましたね。
「皇帝閣下、そろそろ私は書庫の方に参らせていただきたいのですが。」
「良かろう。好きなだけ使うが良い。また後で、話をしたいものだな。」
「解りました。それでは後ほど。『ヴァルファーレ』、僕は書庫に行ってくるね。帰るときにまた呼ぶから、今は一度戻って良いよ。」
[解った。主もゆっくりするが良い。また会おう。]
『ヴァルファーレ』が翼を広げると空が裂け、その向こうに異世界が見えます。そして『ヴァルファーレ』はあっという間にその裂け目の中に飛び込んで、次の瞬間空の裂け目は消えていました。
この怪奇現象を見ていた周りの人達は、さすがに驚いたようでまた大騒ぎをしています。皇帝も驚いているようですが、これで『ヴァルファーレ』もますます有名になるのでしょうね。
それでは、僕は書庫に行ってきます。
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