白き竜の少年 リメイク前
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託す答え
「オラァッ‼︎」
レツのパンチがシリュウを襲う。右手に火を纏うレツの拳を避けるシリュウが素早く印を結ぶ
「水遁・水龍弾の術!」
シリュウの術を後ろに跳ぶ事で躱したレツは笑みを浮かべる。強者と戦う事に喜びを見い出す、彼は戦闘好きな人間だった
「強えな。へへっ!燃えてきた‼︎」
「そんな余裕がいつまで持つのか楽しみですよ‼︎」
「火遁・激流火炎‼︎」
レツの手から渦を巻いて火が放たれた。それを躱すシリュウだが、大きく目を見開いていた。何故なら性質変化のみならず血継限界やなどの特殊な術を除けば術を行使する上で印は必ず必要となる。印がチャクラを火に変換させる役割を果たすのだ。しかし、レツは印を必要としない。それはこの忍世界において驚異的かつ革新的な事だった
「また印を結ばずに術を⁉︎」
「俺は火の性質変化を使うのに印はいらねえんだよ‼︎」
言うなればレツの特異体質も血継限界というべきもの。シリュウはその異常な能力に驚くが、冷静に考えを巡らせていた
「なるほど。確かだけど厄介な能力だ。しかし・・・・貴方のそれも完全ではないでしょう。忍世界に革新をもたらすかもしれないその力は」
「さあな‼︎」
火を両手に纏い連打を繰り出すが、その全てをシリュウは躱す。攻撃を完全に見切り、レツに触れさせる事はない
「はあっ!」
クナイがレツの頰を切りつける。距離を取って相手の動きを注視するが、そこには警戒の色が見えた
「やべえな、こいつ。全然本気じゃねえ」
「(八卦・掌回転‼︎)」
「本当にやり辛いわねー。ハルマ!手伝って‼︎」
ハルマがカナの隣に行き、彼の《黒い》瞳が二人を鋭く見つめる。あくまで相手を見据えながら二人は会話をする
「まず刀をどうにかしないとまずいんだけど」
「奪う隙がない・・・・か?」
接近戦に何度か持ち込んだが、攻撃は夜桜で悉く受け止められた。相手は遠距離戦で戦おうとしているせいで、そう簡単に奪うのは難しい。それでも二人の闘志が消える事は無い
「だけどやるしかない。依頼は必ず成功させる。それにあんな術に縛られたままには出来ねえだろ」
「ええ。そうね。姫様の為にもやらないと」
問題はどうやって相手から夜桜を奪うか。二人が考えを巡らせていると男が口を開く
「夜桜を奪えば俺が使える術は土遁のみ。雷遁が有効だ。そして、俺の身体は不老不死。封印しない限りそのままだ」
「喋れんのかよ」
ハルマのツッコミに確かにと内心同意するカナだが、白眼を使い、相手の動きを見逃さないようにしている
「とりあえずやるわよ!」
ーハルマが吹き飛ばされる。土遁の壁に当たり、砂塵が舞い上がる
「ぐっ・・・・!」
「ハル‼︎」
相手の突きを躱し、距離を取ったカナがハルマを呼ぶ。勢いよく壁にぶつかったものの大したダメージはないようで、カナはホッと息を吐く
「そう呼ぶなって言ってんだろ」
「あはは。ごめん。つい」
「とりあえず封印術ないか?」
「ないわよ。でも、封印しなきゃそのまま。どうにかしなきゃ」
男が話した言葉から封印しなければならない事は分かっている。だが、二人が使える封印術は無い。これが必須な為にどうにかしなければならないが、使えない以上は誰かが上に来るのを持ち堪えるしかなかった
「なら、雷遁で動きを縛るか。俺のチャクラならそう簡単に動けない。それまでにリン先生かオビトさんが来るのを待つ」
勿論、二人である必要は無い。味方の誰かが来るまで持てば良いのだから
「なら私が点穴を突くわ。そうなったら不死でもチャクラは練れない」
「分かった。任せる」
ハルマが印を結び、複数の火の玉を口から放つ
「(火遁・鳳仙火の術!)」
チャクラで操っている為に避けるのは困難だ。しかし当たる直前に土流壁を出され、壁に当ててしまえば避けれなくとも問題はない
「(土遁・土流壁!)」
続いてカナが八卦空掌を放つが、土流壁は完璧にそれを防いでしまう
「あの術をやるか?まだ未完成だけど」
「止めときなさい。腕が壊れるわよ」
ハルマが印を結び、口から放たれた雷が龍を象る
「(雷遁・雷龍弾の術!)」
雷龍弾は男に躱されたが、この術は動きを制限している土流壁を壊す為に発動したもの。最初から土流壁を狙っていたものだ。そして、躱した事で隙が出来た男はカナの領域内にいる
「私の領域にいる貴方は逃げられないわよ!」
「柔拳法・八卦六十四掌!」
八卦六十四掌。日向宗家の跡目だけに伝えられる奥義。身体に張り巡らされたチャクラの通り道 経絡系を突く技だ
二掌・・・・・・四掌・・・・八掌と経絡系上にある点穴を突いていく
「十六掌‼︎」
「三十二掌‼︎」
「八卦六十四掌‼︎」
理論上、正確に点穴を突けば相手のチャクラの流れを止める事も増幅させる事も思いのままにコントロールできるとされている。そしてカナは六十四の点穴を突いた。最早チャクラを練る事はおろか、立ち上がる事も適わないだろう
「これで貴方は立ち上がる事さえ出来ないわよ」
「日向の娘・・・・慢心するな。俺はまだ」
彼は刀を手にカナへ迫る。点穴を突いたのにまだ立ち上がれる事実にカナは一瞬、動揺してしまう
「下がってろ。ここからは俺一人でやる‼︎」
ハルマはクナイで夜桜を受け止めていた。彼がチャクラを練れないようになっているのは確かだろう。今、動かしているのは身体に埋め込まれた呪符によるもの。自我を保ちながらもそうするようにされ、もどかしい思いを抱いている事だろう
「くっ!避けろ‼︎死ぬぞ!」
ハルマのクナイが宙を舞う。弾き飛ばされたクナイは柱に刺さり、夜桜はハルマの腹部を貫こうと迫っている
「雷遁・縛り蜘蛛」
「ハル‼︎」
血による水飛沫が相手の顔を、身体を汚す。彼の腕を掴んでいる両手からは青白い雷が身体を縛り付け、動きを止めていた。ハルマはわざと躱さなかったのだと彼は理解する
「態と躱さずに動きを・・・・・・死にてえのか?」
「あんたになら殺されても文句はねえな」
「誇り高き死を望むか」
達観した様子でハルマは言う
「そんな大層なもんじゃない。ただ、俺は死ぬなら英雄か、強い奴に殺されたいってだけだ」
殺されるならせめて生きた証として栄誉あるものを遺したい。それがハルマの気持ち。そして、男にはその気持ちがよく分かるようだった
「・・・・・・お前はかつての俺に似ているな。国を追われた俺と同じ眼をしている」
「どういう事だ?」
「お前の雷遁のおかげで動けないからな。話してやるか」
彼は語り出す。簡潔に、しかし重い自身の生を
「俺は侍の国・・・・鉄の国で生まれた。父は侍。母はどっかの里の元忍だった。12歳までは幸せだったさ。だが、それまでだ。俺は命を狙われた」
「両親にか?」
乾いた笑いが彼の口から溢れる。未だ、あの時の痛みが癒える事はない
「襲ってきたのは父親だがな。母は里から下された命に従い俺を、父を殺そうとした。家族よりも里を取ったのさ」
「父を幻術で操り、俺を襲わせた。必死に抗い、気付いた時には俺は両親を殺していた。その日、俺は人間の醜い部分の一端に触れた。そして血の匂いと人を殺すという行為を知った」
簡単に言っているが、それはハルマも経験した事はない。自身が想像する以上の苦しみだということは分かる
「死のうとは思わなかったのか?」
「さあな。だが、生きていればその内希望が見つかると思って生きてきた。結局見つからなかったがな。希望も、意味も」
時は巡る。やがて彼は火の国に仕え、アサヒと出会う。その僅かな日々は彼を癒してくれた。それでも希望が生まれる事は無かった
「そして、最後は殺されても良いと思える相手に俺は殺された・・・・・・と思っていたんだがな。まさか生き返るとは。いや、あくまで俺はこの術によって現世に縛り付けられているだけだ。生き返った訳じゃねえな」
「あんたみたいな奴がこんな下劣な術にいいようにされるなんてな」
「だが、そのおかげで夜桜を託すべき人間が見つかった」
名前も知らぬ人間に操られるという屈辱を体験した筈なのに満足そうな笑みを浮かべている。それがハルマには不思議でならない
「夜桜は元々チャクラ性質を操る忍の為に作られた刀だ。血を吸い、使用者を獣に堕とすと呼ばれたこの刀は俺の相棒だった。お前にそいつを使ってもらいたい。どう使うかはお前の自由だ」
「だが、姫はこの刀を・・・・」
刀を託すと言われてもアサヒの事を考えればそれを受け入れる事など出来ない。しかし、彼は首を横に振り話しを続ける
「あいつが持っても刀は飾りにしかならん。刀は斬るものだ。自分の為。他人の為。または欲望の為なのか、信念の為か。それはそいつにしか分からねえがな」
人を斬るという行為を正当化するつもりは無い。だが、そこには必ず何らかの想いがあるのだと言う
「人を斬る力を持つんだ。忍の力を扱い、誰かを殺せるのと同じように。武器を持つ者も忍術を扱う者も、殺す力を持つ者には責任が伴う。力を行使するなら恨まれる覚悟を持ち、同じように奪われる覚悟を決めておかなければならない」
力を持つ以上は責任を持て。そう言われた気がした。彼は今、自分に全てを託そうとしているのだとハルマは感じている。ならば応えなければならない。ハルマは答える
「・・・・・・何となくだけどあんたの言う事は分かったよ。俺はこの刀を自分の信念を貫く為に使う」
強い覚悟。それをハルマから感じたのか、彼は目を閉じる。安心したような、そんな表情だ
「そうか。なら、俺がそれについて言う事は何も無い」
だが、我儘を言うなら。そう言って言葉を紡ぐ
「お前には俺と違った答えを見つけてもらいたい。俺が出した答えは希望はごく僅かな人間にしか与えられないものだった。俺とは違った答えを出してくれ。そして、見せてくれ!答えを出したその先を‼︎」
彼は死んだ後、希望を抱いた。自分に似た少年に全てを託したのだ。彼の指がハルマの額に触れる。暖かい光と共にハルマの中に色んなものが流れ込む
「(これはこの人の生き様?)」
「必ずお前の助けになるだろう。お前なら答えを出せると俺は信じている」
「ああ!必ず出してみせる。俺自身の答えを!」
「それでいい。お前の人生はまだ始まったばかりだ。俺と辿って来たものとも違うだろう。周りの環境もな。だから、必ず違う答えを出せる。それも俺よりもずっと良い答えをな」
同時に彼の身体が光る。塵芥が段々と消え去る
「身体が!」
「もう大丈夫そうだ。手を離してくれ」
彼はアサヒの元へ行く。彼の残した未練が無くなったのだろう。無くなった今、彼を現世に留める事は出来ない
「アサヒ・・・・・・わざわざ探してくれたって言うのにすまねえな」
「いえ。兄様が決めた事なら。それにハルマなら安心出来ますから」
涙ながらにそう話すアサヒ。願いは果たせなくとも兄と慕う人に会えた。それだけで彼女は形見が無くとも良くなった
「・・・・・・お前は優しい奴だ。国を正しい方向に導く事が出来る筈だ。民に寄り添いながらな」
彼がくれた言葉を信じて生きていく。今のアサヒならそれが出来る
「はいっ・・・・」
再びハルマに向き直る。腹部から夜桜を抜いたハルマは刀を鞘に納める。腹部に布を巻くカナを指差して彼は問う
「ハルマ。その子はお前の彼女か?」
「いや。腐れ縁」
それをハルマが顔の前で手を振り、否定するとカナはキッと睨みつける
「酷くない?傷付くわよ」
「じゃあ何だよ?」
「ん〜姉?」
少し戯けたように言うカナの言葉をばっさりと切る
「ナルト限定のな」
「はは。じゃあな。ありがとよ」
「俺の方こそありがと」
「頑張れよ」
彼の未練は自身が出した答えだったのかもしれない。穢土転生によって現世に再び現れ、彼は同じように世界を信じる事の出来ないハルマに出会った
「強い人だったわね」
彼はハルマに答えを託した。同じようにありながらもまだ世界を深く知らないハルマだったから託せたもの。だが、人に託すのは簡単ではない。それがずっと追い求めたものなら尚更
「ああ。俺には無理だ。あの人みたいに強くはなれない」
「そうかもね。でも、そんな人に色々なものを託されたんだから頑張らないとね」
想いが伝わってくる。彼の生きてきた道筋が
「そうだな。でもいつかヒカル。あの人みたいに自分の何かを託せるようになりたい。そう思う」
「うん。後はレツだけだけど・・・・・・⁉︎」
額当てが外れ、頭から血を流したレツが現れる。時空間忍術で再びこの場所に飛ばされたのだろうか
「レツ!大丈夫か?」
「ああ。マジやべえぜ」
彼らの背後からシリュウの声が聞こえる
「なるほど。二人を倒しましたか。三人まとめて消す為に戻ったのは成功でしたね」
「さて。どれだけ持つか楽しみですよ」
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