グランバニアは概ね平和……(リュカ伝その3.5えくすとらバージョン)
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第97話:自分の想像力の無さに絶望する時がある。
(グランバニア城下町・オモルフィ:バル)
レクルトSIDE
ウルフ君が不機嫌な理由が判ってきた。
如何やら我が国の武器開発部が、凄い新兵器を作り出したらしい。
それをお披露目したから、立役者のウルフ君が不機嫌になってるみたいだ。
如何いう事か一から説明しよう。
やさぐれ宰相に連れられ、サビーネちゃんと共に開店直前のキャバクラへ強引に入店した僕等は店長に案内され、店の一番奥に有る人目から逃れやすい席に座って水割りを飲み始めた。
僕は酒豪では無いけど、それなりに酒を嗜むので、美味しいお酒がどんな物なのかは知っている。普段はサビーネちゃんの強引な誘いで来店してるけど、上客としてそれなりに良い待遇で過ごさせて貰っている。勿論それなりに高い料金を支払わされてるけどね。
良い待遇で飲むお酒は、寂しく一人で飲むお酒より美味しく感じるし、女の子達が僕に対して『扱いやすいカモ』と考えてると解ってても、チヤホヤされるのは凄く嬉しいから、やっぱりお酒は美味しく感じている。
だけど今日の酒は不味い。
何時もと同じ物を飲んでるのに……何時もと同じ様な女の子達と飲んでいるのに……何時も以上に好待遇な環境で飲んでいるのにも拘わらず、今日のお酒は頗る不味い。
理由は判っている。今日の主役が不機嫌だからだ。
今日キャバに行くと決めたのも、支払いをするのも、この不機嫌な男だから酒が不味いんだ。無料酒ほど美味い物は無いと誰かが言ってたが、アレは嘘だね。だって無料酒飲んでるのに不味いもん。
国家のナンバー2が来店したことで店長が気を利かせて、この店のナンバー1をテーブルに付けてくれたけど、最初に挨拶を交わした以外、終始無言で酒を飲み続けてるウルフ君。
何かを話したくても、喋ることを拒絶するかのような雰囲気を出し続けてる。
本心を言えば逃げ出したいけど、彼((ウルフ君))には本当にお世話になっている。
少し前に利用されて軍部を混乱させられたけど、その後も友達として色々手を貸してくれた事もあった。(主にサビーネちゃん絡み)
だからせめて今日は憂さを晴らして貰おうと、サビーネちゃんにコッソリと『今日はウルフ君を立ててあげて』とお願いしておいた。その為、何時もなら軽口合戦をウルフ君と始めるサビーネちゃんも、彼を怒らせないように気を付けている。
だけど不機嫌な顔のまま水割りを飲み干し、空のグラスを無言で女の子に差し出し注がせ、また無言で飲み続ける彼に何も言えない状態が続いている。
折角ナンバー1の女の子も来てくれたのだし、僕が突破口を開かなきゃダメなんだよね。
そう思い不機嫌になった出来事を聞いてみる事にした。
より不機嫌になるかもしれないとは思ったが、現状を鑑みれば他の話題だと何も話してくれなさそうだったから、口だけを開かせて後の事は愚痴のプロであるキャバ嬢達に任せようと考えたんだ。
そうしたら話し出してくれた。
開発が完了した新兵器の事……その新兵器を持ってホザックに乗り込んだ事……乗り込んだ理由として、以前に軍部が作り出した“火縄銃”って兵器があの国に渡ってしまった事……そして火縄銃と我が国の新兵器の性能の差を、ウルフ君のイラスト(その場でサラサラ描いた)付で教えてくれた。
流石に軍部に居る者として「それって最高機密に属する事じゃないの?」と尋ねたら、「良いんだよ、強力な兵器は所持してる事を他国に知らせなきゃ意味が無いんだからな!」と言って僕を黙らせた。座った目で睨み付けながらね。
そんなウルフ君の説明は、最初にウィンチェストが発明した火縄銃と、陛下が発明させたアサルトライフルという名の性能差から始まった。
僕は火縄銃の性能について知っているけど、この場に居る美女達は知らない。芝居か本心か判らないけど、凄く興味ありげに瞳を輝かせて聞いてくれてた。
だけどアサルトライフルの性能を聞いて僕も本当に驚いたよ。
だってね火縄銃は1発撃って次弾を撃つのに熟練者でも20~30秒くらいはかかるはず。でもアサルトライフルは50発撃つのに20秒もかからないらしい。
そしてもう一つの性能として、火縄銃より遠くまで攻撃できることだ。
火縄銃は扱う者の技能次第だが、50~80メートルくらいしか攻撃出来ない。勿論それ以上の距離にも弾は届くのだが、狙って当てられる距離は50~80メートルなのだ。
それに引き換えアサルトライフルは1200メートル~1500メートルくらいを攻撃出来る。仮に火縄銃の扱いが凄く巧い人と、アサルトライフルの使い方を聞いたばかりの人が、互いに互いを打ち合った場合、アサルトライフルの人は火縄銃の15倍離れた場所から一方的に攻撃出来ると言う事なのだ。
そんな超兵器を携え陛下はウルフ君とリュリュさんを連れてホザックへ行ったそうだ。
ウルフ君は解るけど、何でリュリュさんを連れて行ったのかを訪ねたら「仕方ねーだろ……ホザックの王城へ行った事あるのはリュリュさんだけなんだから」との事。なるほどね……
そこで陛下は新兵器の威力を見せ付けた。
しかもホザックが手に入れたばかりの新兵器“ガンツァー”と直接比較させながら。
その光景もウルフ君は語ってくれたよ。
まず、陛下はホザックの王様が居る玉座の間へ押し入り、ウィンチェストをガンツァーを持って玉座の間へ来るように脅した。ホザック王の顔面を左手で鷲掴み、ギリギリと力を入れて頭蓋骨を軋ませて……
ガンツァーを手に現れたウィンチェストを確認すると、グランバニアの新兵器を見せ付け既に性能を凌駕した兵器が出来上がってる事を伝え、ガンツァーとの勝負を挑んだそうだ。
性能差を見せ付ける勝負なので、普通に戦い合っても意味は無く、陛下が提案したのが、ホザック城の玉座の間に設置されてる12枚のステンドグラスを互いの兵器で破壊し合う事だった。そんな事で勝敗が明瞭になるのか疑問だったが、詳しく説明を聞いて納得する。
なんせ勝負の詳しい内容ってのが……
ホザック城の玉座の間には入り口から見て正面の玉座の上の天井近くの壁に、4枚のステンドグラスが設置されており右と左の壁上部にも4枚ずつのステンドグラスがある。
その計12枚のステンドグラスを、ウィンチェストは左の入り口側から1枚ずつ破壊し、陛下は右の入り口側から1枚ずつ破壊していく。
小さくてもヒビを入れれば破壊したとみなされ、次々に破壊していく。
玉座上の中央で丁度半分の6枚となり、1枚でも多く破壊した方の兵器が勝ちという単純なルールだ。
我が国の新兵器の性能を知らないウィンチェストは、使い慣れたガンツァーの性能を信じて疑わず、ほくそ笑んで勝負を承諾。この勝負に勝ったら亡命もガンツァーの所有権も認めると言われたらしい。
しかもスタートの合図は、ウィンチェストのガンツァーの発射音で良いと陛下に言われ、デモンストレーション等で撃ちまくってるウィンチェストは7枚破壊出来ると確信してたらしい。
だがしかし、開始してみれば大惨敗。
当然だ……だってガンツァーは2発目を撃つのに20~30秒はかかるのに、アサルトライフルはその間に10発も20発も連射出来るのだ。
スタートの合図として撃ったガンツァーは、1枚目のステンドグラスに小さな穴を開けただけで、直後に爆音と共にバラ蒔かれた陛下の扱うアサルトライフルは、一瞬で1枚目のステンドグラスを粉々に粉砕。
そのまま少しだけ身体を動かして隣のステンドグラスを粉々にし、3枚目に突入。
音と威力に驚いたウィンチェストはガンツァーの次弾装填に頗る梃摺り、その間に3枚目も粉砕し終わってたそうだ。
陛下が4枚目に取り掛かろうとした時、アサルトライフルも弾切れになったらしく静かになった玉座の間には虚しくアサルトライフルの動作音だけが聞こえた。
陛下が無駄撃ちして行き詰まったと思ったウィンチェストは、鼻で笑った後に大急ぎで弾込めを行った。
だが陛下はワンタッチで空になった弾薬の容器を取り外すと、無表情のまま替えの弾薬容器を懐から取り出し、またもやワンタッチで取り付けチョチョッとアサルトライフルを操作すると、また爆音を轟かせ4枚目・5枚目と粉砕していった。
威力・連射性・扱いの簡単さに驚いたウィンチェストは、2枚目のステンドグラスの破壊に失敗。
撃った弾は天井に当たり陛下との差を縮める事が出来なかった。
勿論その間に陛下は6枚目も7枚目もアッサリ粉砕。
既に勝負はついたのだが陛下は弾薬容器を新しいのに替えて8枚目・9枚目・10枚目も粉砕。
ウィンチェストも諦めず次の弾を装填し、慌てて2枚目のステンドグラスに再度狙いを付けた。
それを見た陛下は『俺にとって11枚目……お前にとって2枚目は譲ってやる』と言って最後の1枚はウィンチェストに撃たせたそうだ。
絶望に打ち拉がれながらもウィンチェストは最後の1枚を撃ち、ガックリと肩を落として陛下に向き直ったそうだ。
そして陛下は、アサルトライフルをホザック王へと向けて『この男と、この男が提供した兵器の資料等全てを差し出せ……いや、返せ!』と脅した。
勿論、先方は拒否したそうな……
すると陛下は『ちょっと伏せろ』とホザック王を伏せさせ、がら空きになった玉座に向かってアサルトライフルを発砲した。
爆音と共にホザック王の上に玉座の残骸が降りかかり、悲鳴を上げながら陛下の要求を受諾。
部下にウィンチェストの提供した資料等を持ってこさせると、怯えながら当人を連れて早く帰って欲しいと懇願した。
だが陛下は資料等をウルフ君にその場で燃やさせ、燃えカスを確認すると直後にアサルトライフルでウィンチェストを殺したそうだ……
あの兵器の威力は絶大で、ウルフ君はヤツが粉々に飛び散る様子を目の当たりにした。
この事を聞いてウルフ君がリュリュさんに責められてた事に納得した。
彼女は大好きな父親の残忍な姿を見せられたワケなのだ。
だがウルフ君が落ち込んでる理由は、それだけでは無いらしい。
リュカ陛下が言っていたそうだ……
『俺の知ってる世界では、この兵器なんて可愛く見えるくらい残酷で破壊的な兵器が存在する。火縄銃やアサルトライフルが存在しなくても、何時の日かそんな兵器が誕生したかもしれない。だけどこれだけは言える……この兵器の存在で、その先の兵器の誕生が早まった事を』
ウルフ君の想像では、火縄銃より高威力な兵器等と言う物は“攻撃範囲が広がった”とか“軽量化に成功した”程度だと思ってたらしい。
だがしかし作り出された兵器は壮絶で、しかも更なる進化の可能性が含まれてるのだと言う。
この圧倒的な性能を見て、以前から陛下が言っていた『強力な兵器を手にした者の中には、それを持たぬ弱者を虐げて自らの利益を得ようと画策する奴が現れる』と言う事に、自分が大きく貢献してしまったと後悔している。
完全に泥酔してるウルフ君は、それらを僕等に話してる内に泣き出してしまった。
正直如何すれば良いのか困ってる。未来を読み切れる訳じゃ無いのだし、ウルフ君の責任じゃ無いと慰めた。
未来の事象に過去の人間の責任を問われても困る訳で……今を生きる者も、過去に生きてた偉人も、未来の人々を信じて良い方向に世界を発展させようと努めた訳で、未来に巻き起こる凶事は全て未来の人々の責任ではないだろうか?
そう言って慰めたが、『リュカさんは、それらを予測しているから強力な兵器開発を拒絶してきたんだ。なのに俺は……そんなリュカさんの心遣いを無視して、とんでもない兵器開発をあの人にさせてしまった!』と大泣き。
普段、不遜で不敵で生意気な彼が、人目も憚らず泣き出したのだ。
もう誰も何も言えない。ここからは見えないが、この店に客が入ってきてる事が、人々の陽気な声で推測出来る。だけどこの一角だけ葬式のように静まり返ってる。
酒のボトルやグラスが置いてあるガラステーブルに、打っ伏したままウルフ君の嗚咽だけが聞こえてくる。
流石のナンバー1キャバ嬢ですら、こんな男を慰める事が出来ず、居心地悪そうにウルフ君と僕をチラチラ見ている。
兎も角何とかしなきゃならないと思い、テーブルに打っ伏したウルフ君を引き起こした。
すると彼は眠っちゃってた!
いい気なもんだと一瞬だけ苛ついたが、起きて泣き続けられるより遙かにマシなので、起こさないようにソファーへ横たわらせる。
面倒な男が寝た事で、更なる面倒な事態に陥った。
コイツを如何するか? 店の料金を支払って放置する訳にはいかない。
店側も困るだろうし、国家のナンバー2を飲み屋に置き去りにしら大問題になる。
だが僕が彼を担いで帰る訳にもいかない。
僕が非力だからじゃ無い。
酔い潰れたナンバー2の姿を、色々な人々が目にする……そんな事態も避けなければならない。
困り果てた僕は、ウルフ君の懐からマジックアイテムであるMHを取り出し、ティミー殿下へと連絡を入れる。
なお、使い方は彼が何時も使ってるのを見て憶えてた。
暫くMHからコール音が聞こえ、ティミー殿下の姿が映し出された。
時間的に夕食を終わらせ、ご自宅で娘さんをあやしていたのだろう……
なんせMHにはアミー様も映っている。
「で、殿下……夜分に申し訳ございません」
『……それ、ウルフ君のMHだよね? 如何して軍務大臣秘書官のレクルトが使用してるの?』
当然疑問に思うよね。
「は、はい……実は」
レクルトSIDEEND
後書き
情けないウルフの姿……どう?
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