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Dragon Quest外伝 ~虹の彼方へ~

作者:読名斉
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Lv23 ラウム鉱採掘跡(i)

   [Ⅰ]


 俺達の自己紹介が終わったところで、リジャールさんは古い羊皮紙のような色褪せた巻物を家の中から持ってきた。そして、巻物を俺達の前に広げたのである。
 広げた巻物はA3サイズ程の物で、見たところそれは、坑道の見取り図のようであった。
「さて、それでは本題に入ろうかの。今日は坑道の中にいよいよ入るわけじゃが、一応、ここにラウム鉱採掘跡の見取り図を用意しておいた。これを見てもらうと分かる通り、それほど中は深くない上に単純な構造となっておる」
 確かに単純な構造であった。分かれ道は幾つかあるが、それほど複雑なものではない。
 一応、簡単に書くとMapはこんな感じだ。
                             
 まぁ実際はもっと歪で曲がりくねっている所もあるとは思うが、見取り図は大体こんな風であった。
 リジャールさんは続ける。
「今日は、一応、見取り図に書かれておる所を全て確認するつもりじゃ。そこで、魔物どもと戦闘経験があるカディス達の意見を聞きたい。どうであろうの? 何か気掛かりなところがあるのなら、今の内に言ってくれぬだろうか」
「この坑道内はそれほど入り組んではいないので、迷うような事はなさそうですが……一番の問題は魔物が持つ毒であります。それに加え、今のところ、どれだけの魔物がいるのか皆目見当もつきません。ですから、坑道内を隅々までとなると、当然、解毒手段と傷の回復手段が必要になりますが……それの対応は、この方達が対応されるので?」
 カディスさんはそう言って、俺達に視線を向けた。
 リジャールさんは頷く。
「うむ。そこにおるコータローがキアリーを使い手じゃ。しかも、昨日話して分かったが、中々に優秀な魔法使いのようで、その他にも沢山の攻撃魔法や回復魔法を使えると言っておった。じゃから、坑道内では何かと頼りになるじゃろう」
「ならば、私からはもう何もありませんな。一番の懸念は奴等の毒でしたので」
 カディスさんはそう言うと、俺に向き直り、改めてお願いをしてきた。
「ではコータローさん、解毒の方は貴方にお任せするので、よろしくお願いします」
「はい、解毒や回復に関しては任せてください。それに俺だけじゃなく、この子もキアリーの使い手ですからね」
 俺はそう言って、サナちゃんの肩に手を置いた。
 するとリジャールさんは少し驚いたようで、感心したように頷きながら、サナちゃんに目を向けたのである。
「ほう、その年端も行かぬラミリアンの娘子もキアリーを使えるのか。まだ子供じゃというのに、優秀な魔法の使い手なのじゃな。さすがラミナスの民じゃわい。彼の国は、優秀な魔法使いを数多く輩出することで有名じゃったからのぅ」
「そ、そうでしょうか」
 サナちゃんは照れたのか、少し顔が赤くなっていた。
 こういうところは年頃の女の子っぽくて可愛い部分である。
 と、そこで、女性の声が聞こえてきた。
「ええっと……サナちゃんだったかしら?」
 声の主は、カディスさん達のパーティにいる胸のデカい女性であった。
「は、はい……そうですが」
 予想外の所から声を掛けられたからか、サナちゃんは少しキョドっていた。
 やはり、今までが逃亡生活だった事もあって、どうしても人見知りするのだろう。無理もない。
 まぁそれはさておき、この人は確か、自己紹介の時にゾフィと名乗っていた女性である。
 右目の下にある小さな黒子が特徴のスラッとした体型の女性で、肩より下に流れるウエーブがかったブロンドの長い髪には、銀の髪飾りがキラリと輝いていた。
 顔立ちも整っており、やや切れ長の目と潤んだ唇が印象に残る艶っぽい女性だ。
 上背は160cm程度だろうか。とりあえず、この中にいる女性だと、シェーラさんに次ぐ背の高さであった。
 だがこの女性の一番の特徴はメロンのような胸だろう。しかも、ドラクエⅧにでてきたゼシカのように、やたら胸を強調するけしからん紫色のローブを着ているのだ。
 その為、収穫を待つかのように、仲良く並んだ2つのメロンが3分の1ほど顔をのぞかせているのである。
 収穫祭があったならば、是非参加したいところだが……あまり胸ばかり見ていると、アーシャさんがまた足を踏みつけてきそうなので、この辺にしておくとしよう。
 というか、もう既に、俺に睨みを利かしているし……。おー怖ッ!
 ちなみにだが、この人のけしからんローブからは魔力を感じるので、多分、魔道士用のローブの一種だろう。何という名前のローブかは俺もわからないが、もしかすると特注品なのかもしれない。
 それと右手には、俺と同じく魔道士の杖を装備しているので、一目で魔法使いとわかるような格好であった。
 とまぁそんなわけで、以上を総合すると、大人の色気がムンムンのセクシーな女魔法使いといった感じなのだ。

 話は変わるが、もう1人の魔法使いの女性もゾフィさんと似た感じの方であった。名前はカロリナという。
 だがそれは背丈や雰囲気が似ているというだけで、着ている衣服とかはごく普通のベージュのローブであった。
 勿論、美人ではあるが、顔立ちも違う。どちらかというと、艶っぽいゾフィさんよりも幾分穏やかな感じの方なのだ。
 また、髪の長さは同じくらいだが、ゾフィさんのようなウェーブがかったブロンドではなく、ストレートな茶髪である。
 というわけで、それら考えると、似ていると思っていたが、全然違う雰囲気の女性なのであった。
 2人が似ているように見えるのは、恐らく、ゾフィさんが隣にいるからなのだろう。
 つまり、ゾフィさんがカロリナさんをエロくしているのである。
 全く持ってけしからん話だが……暗い洞窟内ではメロンを堪能できないので、今の内にゾフィさんの胸を観賞しておいた方が良さそうだ。などと、しょうもない事を考える俺なのであった。
 話を戻そう。

 ゾフィさんは、サナちゃんに優しく微笑むと言った。
「ホイミのような初歩的な回復魔法は使える者が沢山いるけど、キアリーやベホイミの使い手は少数派なの。だから、自信を持っていいわよ」
「は、はい、ありがとうございます、ゾフィさん。でも、私はまだまだ未熟なのです。回復魔法と補助魔法だけで、攻撃魔法は全然ですから……」
「あらそうなの。でも、回復と補助と攻撃の3系統を修得した魔法使いなんて、そうそういないわよ。大抵、どちらかに傾くそうだから」
 そういえば以前、ヴァロムさんも同じような事を言っていた。
 回復系と補助系と攻撃系の3系統の魔法を高いレベルで修得できる者は、余程の魔法の才がないと無理だと。
 それもあってか、俺がそれらを習得できたのを知ってヴァロムさんは少し驚いていたのだ。
 確かにドラクエⅢとかだと、それら3つの系統をネイティブに修得できるのは、賢者と呼ばれる特殊な職業の者だけだった。それを考えると、この辺の事情に関しては、この世界もある程度は準じているのかもしれない。
 まぁとはいうものの、俺が賢者なのかどうかは、甚だ疑問だが……。
 ふとそんな事を考えていると、リジャールさんが俺に話を振ってきた。
「さて、コータローよ。お主は何か、気になる事があるかの?」
「そうですねぇ……」
 俺はそこで見取り図に目を落とした。
「他に入れるところはないみたいですが、この坑道の入口はここだけなのですか? それと坑道内に水が流れていたり、湧いていたりする所とかあるんですかね?」
「ふむ……入り口はここだけじゃ。他から入れるところはない。それと、坑道内に水のある場所はないの」
「そうですか、ではあと2つ。昨日、坑道の入口付近に冒険者を常に十数名待機させていると仰いましたが、それはいつ頃からなのか? という事と、ここ最近、坑道から出て行った魔物や、新たに入ってきた魔物がいるのかどうかを教えてください」
「待機しているのは、マルディラントに陳情にいった後じゃから、もうかれこれ20日は経つかのう。それと魔物じゃが、警備についておる者達からの話じゃと、今のところ、坑道の外へは出ていないと言っていた。じゃから、魔物の出入りはないとは思うがの」
「そうですか……20日も経っているのですか、なるほど」
 するとリジャールさんは首を傾げていた。
 俺の質問の意図が、多分、わからないのだろう。
「今、妙な事を訊いてきたが、それがどうかしたのかの?」
「ああ、大したことではないのですが、最近、新しい魔物の出入りはあったのかなと思いましてね。それで聞いてみただけですよ」
 とりあえず、俺はそう返事しておいた。が、実を言うと、この質問をしたのは色々とわけがあるのだ。
 勿論、ラーのオッサンが言っていた死体を操る者の存在とも関係している。
 そして、今の話を聞いて漠然とだが、腑に落ちない点もでてきたのであった。
「ふむ、そうか。他に気になる事はないかの?」
「とりあえず、今のところはわからない事だらけですので、またその都度、訊く事にします」
「まぁそうじゃろうな。では、何か気になるところがあったら、その時は遠慮なく訊いてくれ」
「ええ、そうさせてもらいます」
 俺が返事をしたところで、リジャールさんは皆の顔をゆっくりと見回し、この場を締め括った。
「さて、それでは各々方、そろそろ坑道に参るとしようかの」
 そして俺達は、村の奥にあるというラウム鉱採掘跡へと移動を開始したのである。
 この先に何が待ち受けているのか……それは分からない。
 だが先程のリジャールさんから得た情報に少し引っ掛かる部分があった為、俺は移動しながら、それらについて考える事にしたのである。


   [Ⅱ]


 俺達は、ラウム鉱採掘跡へと続く砂利道を進んで行く。
 採掘跡は村の奥に広がる森の中にあるらしく、草木が鬱蒼と生い茂る狭い道を進まなければならなかった。それは思っていたよりも疲れる、険しい道のりであった。思わぬ所に伸びている木々の小枝や蔓などが、手や足や肩に引っ掛かるからである。
 特に、俺みたいなローブを身に纏う者にとっては、立ち入りたくない最悪な場所といえた。
 理由は勿論、木の枝に引っ掛かりまくるからである。今日ほど、重装備が出来たらなと思った日はなかったくらいだ。
 それもあり、この時の俺は少し後悔していたのであった。賢者のローブの上にジェダイローブなんか着てくるんじゃなかったと……。
 だが今更そんな事を言ったところで、何かが変わるわけでもない為、このまま俺は進み続けるしかないのである。
 とまぁそんなわけで、そんなウザい道を進んで行くわけであるが、どうやらそれも、後少しで終わりを迎えるようだ。
 なぜならば、目的地らしき穴が、前方に小さく見えてきたからである。
(多分、アレが坑道の入り口だろう……モロに鉱山て感じの穴だし……)
 ここから見る限り、穴が見える辺りは木々が無いようだ。その為、頭上を枝葉に覆われたこの木陰の道とは違い、日の光が降り注ぐ明るい場所となっていた。
 坑道の入り口らしきものが見えたところで、リジャールさんの声が聞こえてきた。
「コータローよ、あそこに小さく見えるのが目的の坑道じゃ」
「やはりそうでしたか。自分もそうではないかと思ってました。でも、ここから見る限りだと、結構開けた場所にあるのですね。てっきり、この鬱蒼とした森の中にヒッソリと口を開けているのかと思っていたので、少々意外でした」
「うむ。まぁそのお蔭もあって、魔物を食い止めるのには役に立っておるわい。やはり、戦闘となると、木々が邪魔するからの」
「確かにそうですね……」
 リジャールさんの言うとおりである。
 木々が密集していたならば、剣や槍といった長い得物を振るうには不利である為、そう簡単にはいかなかったに違いない。
 だから、あそこが広場になっていたのは不幸中の幸いだったのだろう。
 ふとそんな事を考えていると、入口周辺で待機する冒険者達の姿が俺の視界に入ってきた。人数にすると十数名といったところだろうか。
 この位置からだと姿がハッキリ見えないので、どんな容姿をした者達かまではわからないが、最前線で待機している事を考えると、この村に来ている冒険者の中でも選りすぐりの手練れに違いない。
 だがしかし、それを喜ぶわけにはいかなかった。これが意味するところは1つだからだ。それは危険区域という事であり、俺達ももうすぐ、そこに足を踏み入れるという事なのである。
 その為、俺はいざという時にすぐ魔法を発動できるよう、意識を戦闘モードへと静かに変えたのであった。

 周囲を警戒しつつ進んでいると、カディスさんの仲間の1人が俺に話しかけてきた。
「確か、コータローさん、だったかな」
「ええ、そうですが」
 話しかけてきたのはドーンという名の男であった。歳は30代といったところだろうか。
 やや浅黒い肌をしたプロレスラーのようなガタイのゴツいオッサンで、モミアゲから繋がった黒く長い髭を顎と口元に生やしていた。
 顔立ちは彫りの深い中近東アジアの系統で、ターバンでも巻いていればモロといった感じだろう。
 また、若干色褪せた感じのする年季の入った鉄の鎧と鉄兜を装備しており、背中には鋭い両刃の戦斧を担ぐという出で立ちであった。
 背中の戦斧は両刃であることを考えると、ゲームでいうバトルアックスとかいうやつなのかもしれない。
 というわけで、全体的な雰囲気を言えば、筋金入りの戦士といった感じの男だ。
 映画ロード・オブ・ザ・リングにギムリという酒と戦闘が大好なドワーフが出てきたが、俺にはあの類のキャラのように見えた。とはいうものの、あんな酒樽みたいな体型ではないが……。
 ただ、冒険者としてかなり場数を踏んでいるのは間違いないだろう。
 なぜなら、色褪せた鎧の継ぎ目から見え隠れする鍛え上げられた筋肉を見れば、本人が言わずとも、身体がそうだと語っているからだ。
 ちなみに、どうでもいい話ではあるが、自己紹介でドーンという名前を聞いた時、一瞬、江○2:50分の顔が思い浮かんだのは言うまでもない。
 まぁそんな事はさておき、ドーンさんは俺の肩にポンと手を置き、話し始めた。
「敵は毒の霧を吐いてくるから、今日はアンタの解毒呪文を頼りにしてるぜ」
「ええ、毒に侵された時は任せてください。良く寝たので魔力は充実してますからね。今日は一杯唱えられますよ」
 俺は微笑みながら自信満々に答えておいた。
 こういうのはオドオドすると向こうも不安に思うから、このぐらい言っておけば安心する筈だ。
「オウ、任せたぜ。しっかし、アレだなぁ、こんな所でアマツの民の者と会うとは思わなかったぜ。俺も旅をしてて、たまに会うくらいだからな」
 う~ん……これにはどう答えたらいいのだろう。
 悩むところではあるが、とりあえず、アマツの民ではないので否定しとこう。
「えっとですね……勘違いされてるようなので言っておきますが、俺、アマツの民じゃないですよ。まぁその系統の血は入ってるかもしれませんがね」
 するとここで、リジャールさんが話に入ってきた。
「なんじゃ、お主……アマツの民ではないのか?」
「エッ、そうなのか? てっきり、アマツの民かと思ってたぜ。じゃあ、どの辺の出なんだ? マルディラントか?」
 また答えにくい事を訊いてきたな。さて、どうするか。
 大きな嘘を吐くと後が面倒なので、とりあえず、目覚めた場所にでもしておこう。
 一応、あの辺りの事は大体わかるから、突っ込まれても何とかなる。
「俺の出身地はベルナ峡谷なんですよ」
「はぁ? ベルナ峡谷だって……。あんな岩山だらけの辺境の地に、町や村なんてあるのか?」
 ドーンさんは腕を組み、怪訝な表情になって首を傾げた。
 この反応は想定の範囲内である。
 ヴァロムさん曰く、ベルナ峡谷は、魔物と岩山だらけの人の寄り付かない土地という事で有名らしいからだ。
 まぁそれはさておき、俺は頷くと続ける。
「ええ、一応、ベルナ峡谷にはガナという小さな集落があるんです。そして俺は、その辺りに住む、とある人に拾われたもんでして……つまり、まぁ、そういうわけです」
 今言ったガナという集落の名前は嘘ではない。実際に存在する集落である。
 とはいっても、ヴァロムさんの住処からは少し離れたところだが……。
 ただ、このガナという集落は普通の集落とはちょっと違う特徴があるのだ。
 それは何かと言うと、実はこのガナに住む人々は、ベルナ峡谷にある岩山の洞窟で生活しているのである。なので、建造物というのは何もないのだ。
 その上、外部との接触もごく稀なので、このマール地方でも知っている者はかなり少ない集落なのである。
 ちなみにだが、何故、俺がそんな事を知っているのかというと、何度かヴァロムさんにつれられて行った事があるからだ。
 勿論、アーシャさんも一緒だったので、この集落の事は良く知っている筈である。
 というわけで、話を戻そう。

 俺の話を聞いたリジャールさんは、そこで顎に手をやり、ボソリと呟いた。
「そういえば、ガナから少し離れた所に居を構えておると言っておったな。あ奴は……」
 このリジャールさんの口振りだと、ガナを知っているようだ。それと、あ奴というのはヴァロムさんの事だろう。
 まぁそれはともかく、続いてドーンさんがコメカミをポリポリかきながら、罰の悪そうな表情で謝ってきた。
「そうだったのか……すまないな、コータローさん。嫌な事を訊いちまって」
 これは恐らく、拾われたという境遇に対しての反応だろう。
 だが俺の境遇は、色々と複雑な事情があるので、そんな事は些細な問題なのだ。気にしてたら負けなのである。
「ああ、別に構いませんよ。あんまりというか、全くその手の事は気にしてないので。だから、ドーンさんも気にしないでください」
「そうか、ならいいが……。まぁそれはともかくだ。今日はよろしく頼むぜ、コータローさん」
 そしてドーンさんは、俺の肩をバシバシと軽く叩いたのである。
 少し痛かったが、この人なりの元気づけなのだろう。
 と、その時であった。
 前にいる誰かが、不意に言葉を発したのである。
「なんだ一体? 入口付近の様子がおかしいぞッ」
 声を上げたのは、ネストールという名の男であった。
 この人もドーンさんと同様、鉄の鎧と鉄兜を装備する戦士である。が、武器は槍を装備していた。
 見たところ、金と銀の奇妙な装飾の施された槍なので、もしかすると鉄の槍ではなく、その上位武器であるホーリーランスとかいうやつなのかもしれない。
 また、体型はドーンさんの様なムキムキではなく、カディスさんの様なスマートな感じであった。
 ちなみに、他の2人とは違い、髭などは生やしてない。が、それでも鋭い目と引き締まった頬をしているので、中々強そうな顔つきの男であった。
 まぁそれはさておき、俺達はネストールさんの声を聞き、全員が前方を凝視した。
 すると坑道の入り口付近で、慌ただしい動きをする冒険者達の姿が目に飛び込んできたのである。
 確かに何か様子が変であった。もしかすると魔物の襲撃があったのかもしれない。
 と、次の瞬間、カディスさんの大きな声が、この森の中に響き渡ったのである。
【向こうで何かあったみたいだッ。急ぐぞッ!】――


   [Ⅲ]


 進行の邪魔をする草木を掻き分けて進むこと約5分。俺達はようやく、木々の無い開けた場所に辿り着いた。
 そこは頭上を覆う枝葉も無い為、澄みきった青い空から眩い光が降り注いでおり、辺り一面に生える草花が生き生きとした明るい世界であった。
 平穏な時だったならば、薄暗い森の中から出てきた反動で、凄く爽やかな気分になれただろう。が、今は非常時である。とてもそんな気分にはなれなかった。
 坑道の入口付近には、武器を構える冒険者達の物々しい姿があった。
(何があったんだ、一体……)
 俺達は脇目もふらず、急いでそこに駆け寄る。
 と、そこで、冒険者の若い男が俺達に振り返った。
「カディスさん! た、大変ですッ!」
「一体、何があった?」
「さっき突然、坑道の中から魔物がドッと現れて、ヴァイロンさんがかなり深い傷を負ったんです。ですが、リュシアさんはヴァイロンさんが死んだと思ったのか、逆上してしまって……1人で魔物達を追って、坑道の中に行ってしまったんですよ」
 冒険者の男はそう言って、坑道の入り口と地面に伏せる白いローブを着た冒険者を交互に指さした。
「何だとッ」
 カディスさんは顔を(しか)める。
 俺はそこで、負傷したヴァイロンという冒険者に視線を向けた。
 すると、周囲の冒険者達に、ホイミと薬草で今は治療してもらっているところであった。
 かなり深く負傷したのか、着ている白いローブは所々真っ赤な血で染まっていた。見るからに重傷といった感じだ。
 カディスさんは険しい表情で、坑道の入口に視線を向けた。
「仕方ない……俺達が連れ戻すしかないな」
【ま、待ってくださいッ!】
 声を上げたのは、ヴァイロンという冒険者の男であった。
 ヴァイロンという冒険者は、右手で左肩を押さえながら立ち上がる。
 それは若い人間の男であった。年は20代半ばといったところだろうか。
 しかも、すんごい美肌の中性的なイケメンで、女には不自由して無さそうな顔であった。勿論、髭などは生やしていない。目や鼻も、線が細く、美しい顔立ちであった。
 またそれに加え、風に靡くサラッとしたきめ細かな長いブロンドの髪が、より一層、この男をカッコよく引き立てているのである。
 だが、どことなくではあるが、冷たい雰囲気を感じる男であった。もしかすると、女関係にはドライな性格なのかもしれない。
 まぁそんなどうでもいい話はさておき、ヴァイロンという男はカディスさんに向かい、今にも泣き出しそうな弱々しい表情で頭を下げた。
「カ、カディスさん。妹が逆上して、1人で坑道の奥に行ってしまったッ。お願いだッ! リュシアを連れ戻す為に、俺も貴方達に同行させてくれッ。たった1人の家族なんだッ」
 カディスさんは眉間に皺を寄せる。
「しかし、ヴァイロン……お前は今、死ぬかもしれない程の深い傷を負ったのだぞ。大丈夫なのか?」
「傷はもう大丈夫です。坑道内では勝手な行動はしないと誓う。だから、お願いだ。リュシアを救出する為に俺も同行させてくれッ」
 カディスさんはそこで、リジャールさんに視線を向けた。
 リジャールさんは頷く。
「まぁ仕方あるまい。この入口の警護は多めに冒険者を配置してあるから、2人欠けても暫くは影響ないじゃろ」
「あ、ありがとうございます。リジャールさん」
 ヴァイロンという男は感謝のあまり、何度もリジャールさんに頭を下げた。
「礼を言うのは後じゃ」
 リジャールさんはそこで、ここのリーダーと思われる冒険者に視線を向けた。
「では、我々はこれより中に入る。じゃが、我等が坑道内に入る事によって魔物どもも騒ぐじゃろう。それが原因で、外に出てくる魔物もあるかもしれぬ。じゃから、外で待機する者達も、そのつもりで事に当たってほしい。そして村へ魔物を近づけぬように十分注意してくれ」
「はい、わかっております。ですが、中は相当危険だと思われますので、お気を付けてお進みください」
「うむ。では行くかの、各々方」
 この言葉を合図に、俺達は魔物の蠢く闇の世界へと足を踏み入れたのであった。


   [Ⅳ]


 薄暗い坑道内に足を踏み入れたところで、リジャールさんはレミーラを使って明かりを灯した。
 その瞬間、坑道内の様相が露わになる。
 俺はそこで、周囲を見回した。すると、壁や天井には、歪な模様のように見えるゴツゴツとした岩肌が広がっており、床にはトロッコが走っていたのか、2本のレールみたいな物が奥の暗闇に向かって真っ直ぐに伸びていた。モロに、坑道といった感じの様相である。
 通路の幅は、縦が約3mに横が5m程あるので若干広めだ。が、外からの光が満足に届かないのもあってか、少し圧迫感のある通路であった。
 しかし、それ以上に嫌なことがあった。それは、坑道内のカビ臭い空気に混じって、妙な腐敗臭が漂っている事であった。
 この臭気に当てられて、俺のテンションはさっきから下がりっぱなしである。ハッキリ言って気分は最悪だ。
 恐らくだが、これは腐敗した死体の放つ臭いなのだろう。断言はできないが、俺はそう考えていた。
 他の者達に目を向けると、衣服の袖や掌で鼻を覆ったり、摘まんだりしていた。
 まぁこうなるのも無理はない。それ程に嫌な臭いなのである。
 だが、俺はそれよりも、この通路内を見ていて少し気になった事があったのだ。
 それは何かと言うと、この通路の天井や壁や床には、青い粉状の物がその表面に付着していたからである。
 気になった俺は、好奇心から、壁に人差し指をやって少し触れてみた。
 そして俺は、指に付着した青い粉状のモノをマジマジと見たのである。
 と、そこで、リジャールさんの小さな声が聞こえてきた。
「それはラウムを切り出した時に出た粉末じゃよ。ラウムは青い魔鉱石じゃからの」
 小声で話しかけてきたのは、敵にばれないようにする為だろう。
 まぁそれはさておき、俺も小声でやり取りすることにした。
「では、これらの壁は全てラウムなのですか?」
 リジャールさんは頷く。
「うむ、これらは一応、全てラウム鉱じゃ。とはいっても、ここにあるのは残りカスみたいなもんじゃから、魔鉱石として価値など、とうに失っておるがの」
「へぇ、そうなんですか」
 俺はそこで手に付着している粉末を払うと、もう一度、周囲に目を向けた。
 今は残りカスかも知れないが、魔鉱石を採掘していた時代は、この坑道も賑やかだったのだろう。
「コータローよ、話は変わるが、お主はもうレミーラを使えるのか?」
「ええ、使えますよ」
「そうか、ならばよい。今は儂がレミーラを使うが、もし儂の魔力が残り少なくなったら、お主にお願いするとしよう」
「了解です」
 俺が返事したところで、リジャールさんはカディスさんに告げた。
「さて、ではカディスよ、ここからはお主に頼むとしよう」
 カディスさんは頷くと、皆の顔を見ながら、囁くように言葉を紡いだ。
「敵はどこに潜んでおるか分からない。だから、全員が周囲に気を配りながら進んでくれ。そして何か異変があったならばすぐに声を上げて、皆に知らせるんだ」
 俺達はカディスさんに無言で頷く。
 と、そこで、ヴァイロンという男が、ボソリと妹の名を呟いた。
「リュシア……今行くぞ」
 カディスさんはヴァイロンさんの肩にポンと手を乗せた。
「ヴァイロン……まずは、はやる気持ちを落ち着かせろ。今は慎重に坑道を調べていく事を考えるんだ。もしかすると、リュシアは近くにいるかもしれない。それにリュシアも優秀な魔法使いなのだから、そうそう簡単にやられはせん筈だ。だから今は妹を信じるんだ。いいな」
「はい、わかっております」 
 カディスさんはそこで視線を戻し、話を続けた。
「ここからは、私とネストールが先頭を行く。後方はドーンとレイスさんにお願いしたい」
「わかった引受けよう」
「よろしく頼むぜ、レイスさん」
 レイスさんとドーンさんはそこで互いに握手した。
「他の者達は我々に挟まれる形で進んでもらうことになる為、危険は減るが、それでも十分注意して進んでくれ。では、行くぞ」
 カディスさんの号令と共に、今言った隊列に俺達は並びを変える。
 そして俺達は、魔物の蠢くラウム鉱採掘跡を前に進み始めたのであった。 

 話は変わるが、今の俺達は後ろから攻められても、前から攻められても、常に同じような隊形を維持できるようになっている。そう考えると、こういった通路をこの人数で進む場合は、これが一番良い隊列のようだ。
 しかもカディスさん達のパーティと俺達のパーティは似ているので、その辺のバランスが凄く良いのである。
 なので、俺はこの時、サナちゃん達に来てもらった事を凄く感謝していたのであった。
 というわけで話を戻そう。

 坑道内には時折、ゴォォという不気味な唸り声のようなモノが奥の方から響いていた。だが、何の音なのかはわからなかった。
 魔物かも知れないし、もしかすると、リュシアという女性の悲鳴が坑道内の壁に反響して、そういう風に聞こえているだけなのかもしれない。
 どことなく、気圧の違いによる耳鳴りに似たような感じがしないでもなかったが、とにかく、そんな音が聞こえてくるのである。
 そして、アーシャさんはその音が怖いのか、音が聞こえる度にビクッと身体を震わせるのだ。
 ちなみにだが、なぜ、俺がアーシャさんの震えが分かるのかというと、さっきからずっと、アーシャさんが俺の二の腕を掴んで身体を密着させているからである。
 遊園地にあるお化け屋敷とかなら、可愛いなで済むが、今のこの状況はとてもそんな呑気な事は言っていられない。下手をすると足かせにしかならないのだ。が、しかし……今のテンパったアーシャさんにそれを言うと、逆に面倒な事になりそうなので、あえて俺は言わないようにしているのであった。
 まぁそれはさておき、俺達は周囲を警戒しながら前に進んで行く。
 今のところ魔物は現れてはいないが、探索は始まったばかりだ。油断はできない。
 なので、俺はすぐに魔法を発動できるよう、常に魔力操作と周囲の変化に意識を向かわせていた。
 そうやって警戒しながら暫く進んで行くと、まず最初の十字路が俺の視界に入ってきた。
 確か、朝見せて貰った見取り図だと、この左右にある通路を進むと小さな空洞があった筈だ。
 そして十字路の所に来た俺達は、そこで一旦立ち止まり、どちらに向かうかリジャールさんの意見を聞くことにしたのである。
「リジャールさん、どちらに行きますか?」と、カディスさん。
「とりあえず、左側の空洞を調べてから右側に行こうかの」
「わかりました」
 カディスさんは返事をすると左の通路へと足を向かわせた。
 だがその時、少し気になるものが俺の目に飛び込んできたのである。
 それは何かと言うと、十字路の床に浮き上がって見える無数の足跡であった。
 さっきリジャールさんも言っていたが、ラウム鉱の粉末が床に降り積もっているので、くっきり足跡が見えるのである。
 で、どんな足跡かと言うと……人が裸足で歩いたような跡や、何かを引きずったような跡、そして大小様々な靴の跡に加え、犬のような肉球のある4つ足動物の足跡であった。
 しかも、それらの足跡には埃などは被っていない為、ここ最近付けられたモノの可能性があるのだ。
 俺は嫌な予感がしたので、リジャールさんに確認することにした。
「リジャールさん、この坑道に棲みついたのは死体の魔物といってましたが、他の魔物というのは見てないのですか?」
「いや、他の魔物というのは見てないの」
「そうですか……」
「それがどうかしたかの?」
「いえ、ただ少し気になったモノですからね。見てないのならいいです。それともう1つ。魔物が棲みつく前なんですが、村の方々は犬などを連れて坑道内へ足を踏み入れる事が頻繁にあったのですか?」
「……いや、足を踏み入れる事などなかった筈じゃ。さっきから妙な事を訊いてくるが、それがどうかしたのか?」
 俺は床を指さすと言った。
「この床にある足跡なんですけど、最近付けられたモノだと思うので、それが気になるんですよ。靴を履いたものや、裸足のもの、4つ足の動物の足跡……これらは一体、何の足跡なのだろうってね」
「確かに、お主の言うとおりじゃ……これはもしや……」
 リジャールさんはそう言うと共に、少し険しい表情になった。
 アーシャさんとサナちゃんも驚いていた。
「ほ、本当ですわ」
「という事は、他にも魔物がいるという事なんでしょうか?」
「さぁ、それはわからないけど、気にはなるよね」
「お主はどう思うのじゃ?」と、リジャールさん。
「この足跡も、村の方々や家畜のモノであれば気にする必要もなかったのですが、そうでないなら、1種類の魔物だけという固定観念は捨てた方がいいかもしれませんね」
「うむ……どうやら、そう考えた方が良さそうじゃな」
 リジャールさんは他の者達にも今の事を告げた。
「皆、今の話を聞いて分かったじゃろうが、魔物は数種類いる可能性がある。そう考えて警戒に当たるのじゃ」
 全員、無言で頷いた。
 そして、そんなやり取りをしている内に、俺達はいつしか通路の先にある空洞へと辿り着こうとしていたのである。

 空洞の入り口手前に来たところで、前方から奇妙な音が聞こえてきた。
 ズザザザ、ズザザザと、何かを引きずるような音である。
 だがその音が聞こえた瞬間、先頭にいるカディスさんやネストールさんは、突然、武器を構えたのだ。
 そして一気に、物々しい空気へと様変わりしたのである。
 と、そこで、カディスさんの声が聞こえてきた。
「この引きずる音は奴等の歩く音だ。この空洞に、死体の化け物がいる。全員、気を抜くなよ」
 俺はそれを聞き、いよいよだと生唾を飲み込む。そして魔道士の杖を構えた。
 他の皆も勿論、臨戦体勢に入っていた。
 また、俺に密着していたアーシャさんも流石に空気を読んだのか、離れて祝福の杖を構えたのである。
 俺達はソッと静かに空洞内へ足を踏み入れた。
 と、その時であった!

【シャァァ】

 奇声を上げながら、化け物が4体、入口付近に現われたのだ。
 俺はその魔物を見た瞬間、吐き気のようなものが込み上げてきた。
 なぜなら、目の前に現れたのは、ゾンビという形容詞が似合う、身体の腐敗が進んだ歩く死体だったからだ。
 しかも、ゲームのようなアニメチックなビジュアルとは違い、バ○オハザードとかに出てきそうな、リアルでおどろおどろしい姿なのである。
 眼球や舌が外に飛び出ており、剥がれ落ちかけている体の一部からは内蔵や骨も見えていた。
 また腐敗している事もあってか、魔物達の物凄い悪臭が、こちらに容赦なく漂ってくるのである。 
(やっぱ、リアルな腐った死体がいたならば、どうしてもこうなるよな……)
 まぁそれはともかく、今は奴らを倒すことが先決だ。
「まず、俺とネストールで奴等を攻撃をする。ゾフィとカロリナは魔法で援護してほしい。レイスさんとドーンは後方に注意してくれ。他の者達は機を見て魔法攻撃を仕掛けてくれ」
 カディスさんはそれだけ言うと、ネストールさんと共に攻撃を開始した。
 剣を装備しているカディスさんは、一番近い位置にいる腐った死体を素早く袈裟に斬りつける。その瞬間、魔物の胸に大きな傷がパックリと開いた。
 続いてネストールさんの振るう槍が、その隣にいる腐った死体の喉元を容赦なく貫通する。
 と、その直後、ゾフィさんのベギラマと、カロリナさんのバギが魔物に襲いかかったのだ。
 4体の腐った死体は、炎によって焼かれ、やや小さめの鋭い旋風に切り裂かれる。
 そして4体の腐った死体は事切れたかのように、ドサリと地に伏したのである。
 魔物は微動だにしなかった。どうやら、倒したみたいだ。
 カディスさん達は流石に戦い慣れているらしく、素早い連携であった。が、しかし……俺は少し違和感を覚えていた。
 それは勿論、あまりに呆気なかったからだ。
(腐った死体って、こんなに弱かっただろうか……)
 俺は今の戦闘を見て、ふとそんな言葉が脳裏に過ぎったのである。

 魔物が動かなくなったところで、リジャールさんは口を開いた。
「ほぉ、流石じゃな。やはり、マルディラントでも指折りの冒険者と言うだけあるわい」
 だがカディスさんは、横たわる腐った死体を眺めながら、少し微妙な表情をしていた。
「こんな手応えだっただろうか……もう少し強かったような……まぁ気のせいかも知れんが」
 やはり、カディスさんも俺と同じことを思っているようだ。
 とはいっても、俺の場合はゲーム上での話なので、それを言うわけにはいかないが……。
 だが、もしこれがゲームならば、今の攻撃で腐った死体は倒せてないに違いない。
 今の攻撃で与えられたダメージを仮に数値化するならば、精々70~80ポイント程度だと思うのである。
 しかもそれは、カディスさんとネストールさんの攻撃した2体だけであって、他の2体に関しては魔法でのダメージだけなので、多分、50ポイント程度なのだ。
 それに対し、腐った死体のHPは100前後あった事を考えると、倒すまでには至らないのである。
 これをどう考えるかだが、ゲームと同じという確証はどこにもない。
 しかし、この事を無視するわけにはいかないので、俺はとりあえず様子を見る事にしたのである。
 カディスさんは暫し魔物を眺めると皆に告げた。
「では、この空洞から調べていこう。まずはリュシアを探すんだ」
 俺達は無言で頷く。
 そして、空洞の中へと足を踏み入れたのであった。 
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