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最低で最高なクズ

作者:偏食者X
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ウィザード・トーナメント編 前編
  雷鳴の女帝

イザベルの魔法はその威力から辺り一面を更地にするかも知れない。敵の一人がそう判断して即座にフィールド召喚魔法を発動。今回召喚されたフィールドは廃工場跡で建物を上手く使えば相手の隙をつくこともできる。


だがそれ以上に彼らが選んだフィールドには問題があった。それはフィールドとイザベルの属性魔法の関係性を考えなかったことだ。このフィールドは使われなくなったにも関わらず、施設の電気系等はすべて生きている。雷魔法が使えるイザベルにとって、電気を蓄えた物が置かれたフィールドはかなり有利だ。


「ライトニング・スピア。」


イザベルの周りにバチバチと音を立てながら漂う雷がだんだん彼女の右手に集まっていく。やがて激しい閃光にその手が見えなくなる。


閃光を纏った腕を槍で突き刺すのように振れば、地を舐め上げるように閃光が獲物を狙う。その閃光は防御という概念が存在せず、直撃を受ければ一撃で瀕死に陥るような威力はもはや暴力に近い。


その迫力に棒立ちになった敵が何人か直撃を受けて、全身麻痺で動けなくなる。その間にも冷静に攻めることを得意とする奴らは続々と迫ってくる。1対多数の戦闘において一番厄介なのが冷静に攻め方を考えてくる奴だ。


そう考えればイザベルにとって誠はかなり天敵だ。彼は早い段階で自分の欠点に気付いていた。その欠点を知った上で、彼はその欠点を埋めるために尽力すると言っていた。味方であれば頼れるが、敵として戦えば難敵なことは間違いない。


何せ彼は戦い方が分かっている。敵の技や普段の癖から相手の戦闘スタイルを把握して、それに的確に対処する術を多く持っている。


「もらった!」


敵の一人が懐にまで入り込み、勝ったように言葉を発するが、それは一瞬にして敗北へと塗り変わる。イザベルを中心にして再び電磁波のようなものが放射線状に展開して相手を巻き込む。


「テラボルテージ。」


彼女は誠の指摘を受けてから詠唱についてもそうだが、とくに注目したのがタイムラグ。連続で発動することが困難な雷魔法をいかにして短時間で多く発動できるようにするか。


まぁ誠から教わったのは基本、近接格闘がメインだから魔法の使い方はあまり関係ない。次弾装填に時間が掛かるなら、素の戦闘技術でその時間をカバーする。


だが時間をカバーするだけなら別に戦おうとする必要性はない。むしろ、次弾をより効果的に使えるポイントまで相手を誘い込むほうがよっぽど効率的でリスクを伴わないで済む。


近距離と中距離を制したイザベルが残りに制すべきポイントは遠距離。とくにスナイパーのような役回りの相手をここで倒しておく必要がある。遠距離まで対応できるとなれば、見えない牽制として相手の動きを一時的に封じ込めることが可能になる。


スナイパーの役割が元より敵の動きを抑制することだから遠距離の攻撃はそれと同じ効果を持つ。3距離のどれでも相手を圧倒することができれば、万に一つ勝てないとしても、時間は稼げる。


だが、その状況を打開するとしたらそれは序列10位以内の生徒たちだ。彼らに関しては常識的な考えが基本通じないと考えて良い。いっそのことなんでもできるものと思って見たほうがいいかも知れない。


思考を巡らせるイザベルを約500メートル先でスコープに捉える男がいた。敵のメンバーの一人だ。ゆっくりと息を吐きながら、自分の中を空っぽにするような感じで、無になると同時に引き金に指を掛ける。


次第に感覚が一点に集中を始め、無駄な情報を自動的に排除し始める。頬を伝う汗のもどかしい感覚も今は一切感じなくなった。


「...............っ!!」


引き金を引こうとした瞬間、突然視界が一面真っ白に染まり、一点に集中した感覚を全体に引き戻すように全身を強烈な電撃が駆け巡る。彼は自分が攻撃されたとは気付かないまま気を失う。


相手の生徒たちは遠くの距離に雷が落ちたのを確認してスナイパーがやられたことを理解する。その瞬間から相手の生徒たちがザワザワと騒ぎ出す。どうやらイザベルの狙い通りに相手に魔法を警戒させることには成功したようだ。


「ふざけんなよ。500メートルは離れてるスナイパーを倒しやがったのか......。」

「馬鹿な500メートル先なんて常人の目で見えるはずがねぇだろうがよ!」

「じゃあスナイパーとの通信が途絶えたのはどう説明するつもりなんだ!」

「分かんねぇよ!とにかく....アイツには安易に近付かないほうが良いってことだろ。」

(どうやら作戦は成功したようだ......恐らく真希乃を通じて誠兄へ連絡が来ているはず、あと数十分くらいは保たせることが可能か。)


イザベルは策を練る。ウィザード・トーナメントのことを考えると魔法のすべてを使うわけにも行かない。そこでひとつひらめくと、廃工場の電気系等から漏れる電気を自身の体に蓄積し始めた。


雷魔法が使えるイザベルにとって機械に使われる電気は外部から獲得できる武器に等しい。本来は魔力量の半分近くを消費して発動する魔法も外部からの電気の供給があれば普段の半分くらいの消費で発動できる。


「悪いが手早く済ませるため、容赦はしない。」


(ほとばし)る電気がイザベルの右腕に集中し、それが手のひらに集まると閃光を放ち、何かを握るような形にするとブレード状に光が伸びる。


雷切(らいきり)。」


雷が漂う閃光の刃をひと振りすれば、電撃が撒き散らされ触れた相手を麻痺させて戦闘不能にする。まるで必殺のひと振りのようだ。


気付けば相手は残すところ3、4人。あとひと振りもすれば完全勝利することができる。イザベルはとどめの一太刀を振るおうとしたが、それはあっさり消滅する。もちろんイザベルの魔力量が底を尽きたわけではない。第三者の干渉が原因だ。


「誰だ?」


イザベルが静かに問い掛けると3、4人のモブの後ろから明らかにオーラの違う男が現れた。男が静かに放つ殺気に周辺の空気が凍結したかのように、重くて冷たいものに変化する。


「俺か?俺は神代(しんだい) 維人(いと)。マーリン学園、序列10位。コイツらのヘッドだよ。」

「序列10位ともあろう者が、このような工作を用いるなどとても感心できるものではないな。」

「ハハッこれは作戦だよ。ウィザード・トーナメントにおいて不戦勝は恒例行事みたいなものだからな。とくにアンタのパートナーさんは警戒すべき相手だ。」

(マズイな...序列10位が相手では分が悪い。)


イザベルが再び雷切を発動させて神代に斬りかかろうとするが、神代の目の前で彼女の体はピクリとも動かなくなる。これが神代が序列10位になった証拠だ。


応用力の高い代償魔法は、依り代さえあれば召喚魔法も属性魔法も使うことができる。古い魔法ほど応用力に富み、新しい魔法ほど応用力が低い。


イザベルが全く動かない腕に目をやると、僅かな光によって光沢を放つ細い何かがイザベルの腕からさまざまな方向へ伸びていた。よく見るとそれは複雑に絡まるようにイザベルの腕に巻き付いている。


(これは.........。)

「アンタの戦闘スタイルはさっきから見てたよ。すべての距離に対応できる優秀な魔法だな。けどそれを使うお前は勝利に焦っている。その性なのか考えが甘くなっているように見えるが...違うか?」


神代は指一本も動かせないイザベルの目の前までやってくると、手を伸ばしてイザベルの白い頬に触れる。恐ろしい雷魔法を使うにしてはあまりにも綺麗な顔だ。


「"雷鳴の女帝"とでも称すれば良いか。綺麗な出で立ちで居やがる。本来ならもっと楽しみたいわけだが、先ほど連絡が入ってな。」


神代が端末の画面を見せると、その上を動き回る赤い点が目に写った。どうやらこの近隣を慌ただしく移動しているようだ。イザベルはそれが誠だとすぐ理解する。


「もう意味が分かっただろ。コイツに乱入されるとどうなるかは俺にも分からねぇからな。」


























(間に合え.....間に合え.....!)


狭い路地裏は迷路のように行く手を阻む。真希乃が教える目的地はもう目の前と言ってもいいのに、あと少しが少しも進めない。俺は自転車を降りて、怒りの拳を建物の壁面にぶつけようとする。すると、まるで幻影を殴るように手応えがなく、拳がするっとすり抜ける。


「これは!」


幻影はあっさりと消滅し、1つ向こうの道に繋がる道が現れた。俺がそこを走って出ると、ゴミ溜めの中に捨てられたかのようにイザベルが倒れていた。その瞬間に全身から血の気が引く。


「イザベル!!」


俺はイザベルに駆け寄り、今にも崩れて無くなりそうなその体を繊細に抱き上げる。だがイザベルの意識は戻らない。唯一、呼吸が続いていることが俺にイザベルの生存を伝えた。


プルルッ♪と携帯が鳴る。俺の携帯に誰かが連絡をしてきている。俺は真希乃からだと思いその電話に出る。しかし、そこから聞こえてきたのは男の声だった。


(ハハハッ!プレゼントだ。生かしてやっただけありがたく思うことだぜ。)

「へぇ...お前が犯人なんだな?」

(いかにも...復讐したいならいつでも来いよ。俺の派閥を総動員して相手してやるからさぁ。)

「なるほどお前は序列10位以内の人間なんだな。」

(やっぱり鋭いなぁ。で?だからどうしたんだ?)


可能なら今すぐコイツの眉間に風穴を開けてやりたかった。死を目の前にして泣きながら命乞いをするであろうこの醜い男をどんな手でも良い、殺したいと思った。


「アンタすげぇーな。」

(はぁ?)

「今までにここまで人を恨んだことはなかった。だから覚悟しとけよ?」

(ハハッ!何をだよ?)


神代が相手をビビらせるためか急に声のトーンを下げて話す。だが、俺にとってはそんなことはどうでも良かった。だから俺も威嚇には威嚇で返した。いつも以上に圧倒的な殺気を剥き出しにしながら。


「俺はお前のどんな言い訳も反省も許さねぇから。」
 
 

 
後書き
今回はここまでです。
ぶっちゃけイザベルがやられるのは最初からずっと考えていたことです。相手の神代もかなりの悪ですねぇ。

次回から誠がいろんなことをしていきます。ウィザード・トーナメントまでもう少し、果たして誠はどうなるんでしょうか。

次回もお楽しみに。 
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