最低で最高なクズ
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ウィザード・トーナメント編 前編
やっぱりこうなったか
ウィザード・トーナメントまで残り1週間。この時期になってくると、パートナーとの連携は既に完成形に近い状態まで仕上がっているチームが、下調べとして他のチームの練習を見に来ることがよくある。
その下調べで誰が誰と組んだかがある程度周りに知れ渡り、強力なチームであれば噂が広まるのも異常に速い。とくに最近聞いた話で有力なのは序列1位と2位が組んだという噂だった。
1位の名前は「シルバー・スティング」。魔法も座学もどちらも完璧と言わざるを得ない彼は、その圧倒的な実力に反して派閥を作ろうとはしなかった。
多くの生徒が足元にも及ばない自分の実力から自然とシルバーを避けるようになっていったため、今のところシルバーがコミュニケーションを取る相手はそのほとんどが序列10位以上だ。
そして、それとは裏腹に別で注目を集める奴もいる。それは俺だ。なんたってシルバーが唯一2位という結果を残したのは座学。それ以外はすべて首席の結果を残した彼を唯一破ったのが紛れもない俺なわけだ。
俺としては完全に悪目立ちした気分なわけで、その話を耳にした一部の生徒が俺がどんな奴かを視察に来たりする。序列10位以内の生徒も数名、俺を見に来た。そのたびに「これは勝った」と言わんばかりに鼻で笑って帰って行くので妙なストレスだ。
中には「最下位が首席の邪魔をするな!」と変な横槍を入れてくるヤジも多い。俺だって好きで座学の首席を取ったわけじゃない。ただ俺が思う以上にその席の難易度が低かっただけだ。
「なるほど。君が造偽 誠くんだね。僕は..」
「いや、名乗らなくてもいい。序列1位の容姿を知らない俺じゃないからな。」
「あははっそうだね。君ならそれもありえるね。」
俺に声を掛けてきたのは正真正銘、シルバー・スティングだった。どうせ自分から首席の座を1つ奪った奴の顔を見に来たという所だろう。
ただ、彼の顔には他の奴にはあった「侮蔑」のような感情は一切見受けられなかった。むしろ、こんな最下位の俺をライバルとして見ているかのような正々堂々とした表情で俺と目を合わせる。
「首席が直接下調べだなんて俺は相当警戒されているのかねぇ。困ったもんだ。」
「僕を抜いたこと以上に、君が最下位にも関わらず学年のトップの1席に座ったことが他の人には信じたくない事実だったんだろう。」
確かにそれはそうだろうな。俺が首席を取ってしまったということは言ってしまえば自分たちの怠惰がこの事態を招いたことを認めてしまうわけだ。
自分たちが努力を怠ったために最下位に首席の席を譲ってしまった。どことなく認識の仕方が違うシルバーならなんとも思わないかもしれないが、多くの魔術士からすれば恥ずべき事実だろう。
「その様子だと偵察に来たわけじゃないってか?」
「あぁ。僕は君に警告しに来た。恐らくだが君、あるいは君のパートナーのどちらかが逆恨みのような理由で襲撃を受けるかもしれない。」
「.......在り得るのかそんなこと。」
俺は先ほどまでとは違って声のトーンを下げて問い掛ける。もしそれが在り得るならばイザベルを守らなければならない。
そしてシルバーはそんな俺の心理を悟ったのか、慎重に言葉を選んでから話そうとする態度を取り始める。二人の間に身震いしそうな悪寒が走る。まるで吹雪に晒されているような感じだ。
「ウィザード・トーナメントの過去数年の記録を見る中で必ずと言っていいほど数チームが出場を棄権している。恐らく開催の数日前に何者かに襲撃を受けて参加を辞退せざるを得ない状態になる。あくまでもこれは僕の推測だ。」
「その記録。俺にも見せてくれないか?」
「構わないよ。」
俺はシルバーが手に持つ記録を奪うように受け取ると過去の記録をザラ見する。彼の言うことは事実で毎年少なくとも5チームは出場を辞退している。
俺は携帯を取り出してイザベルに連絡を取る。魔法によって技術的には進歩しているように見えるが、肝心の身近な物品は過去の技術から何一つ変わっていない。
「もしもし....イザベルだが。」
「誠だ。今日の練習はここまでにしよう。」
「......事情はなんとなく理解できた。ならばソナタの意見に従うとしよう。」
俺は「ありがとう」とだけ伝えて電話を切った。これで最悪の事態を防げれば良いのだが、俺はひとつの疑問を持った。他でもないシルバーについての疑問だ。
「なんで俺にその情報を教えてくれた?もしかしたら戦うべき相手を減らせたかも知れないのに。」
「あぁ、それも1つの作戦なんだろうけど僕はむしろ君と戦ってみたいんだ。僕より富んだ才能を持つ君と全力を絞り切るような試合がしたい。」
「なるほど。俺が決勝までやってくることは当然だと考えてるわけか。相当な期待だな。」
「だが、負けるつもりはない...そうだろ。」
俺はその言葉に笑ってしまう。どうやらこの男は優勝以上に俺との勝負を望んでいるらしい。ならなんとしてでもコイツの期待に応えないといけない。「人間として」というよりは「男同士の約束として」だ。
............帰路。
イザベルは徒歩で帰っていた。街中には場所によって飛行禁止とされるエリアが存在する。道幅が狭いため、飛行は事故を起こす確率が高いとされるためだ。
(まさか学園の庭園にあんな女子がいるなんて。)
イザベルは今日、帰る前に気が向いたのか庭園に寄ってから帰ることにした。その時に庭園の花に水をやる一人の女子に会ったのだ。
「おや?ソナタは今まで見たことがないな名前はなんと言うのだ?」
「如月華澄と言います。あなたは?」
「イザベル・ロック・ステイン。長いのでイザベルと呼んでくれれば良い。」
それから少しの間二人は話をした。いわゆる女子トークというものだろう。男子が踏み込めるものではない。そのトークの中でイザベルは彼女が誠の知り合いだということを知った。
その後イザベルは何かを感じ取ったかのように適当に華澄との話を切り上げ、足早に帰ってしまった。それは今もまだ感じている。
「こんな所だろう。出てきてはどうだ?」
イザベルの呼び掛けでゾロゾロと裏路地の影から男子生徒が出てくる。彼女は庭園で彼らの気配を察知して華澄を守るためにその場を離れたのだ。イザベルは元から異常なまでに感が鋭く、話をすべて伝えなくても言いたいことが理解できてしまう。数時間前に誠から電話が掛かってきた時も、雰囲気で何を伝えたいのかは理解できていた。
「へぇ俺たちに気付いてたのか。ならこんな所に誘い込むより助けを求めるほうが普通じゃねぇの?」
「お前たち程度なら私でも相手できる。」
「言ってくれんじゃん。」
先頭に立つ男がポキポキと手を鳴らす。どうやら煽ることには成功したらしい。ただ、そんな挑発に乗るのは頭が働かない馬鹿だけだ。中には一切表情を変えることなく静かに戦闘態勢に入る奴もいた。
(ざっと見ただけでも10人は下らないか。)
イザベルが全身に纏うように雷を発生させ、瞬間的に辺りに緊張が走る。雷の発光によって裏路地が昼間の道路以上に明るく照らしだされる。全身の毛が逆立つほどの痺れるような電気。
「マーリン学園、序列50位。イザベル・ロック・ステイン。押して参る!!」
名乗りを上げると同時に先ほど以上の雷が発生し、薄っすらと水色に光る電磁波のようなものが放射線状にジリジリと広がり出し、やがて辺りを包んだ。
............同時刻。
俺はシルバーと別れてから自分のことを考えて帰っていた。5月の夕方は既に少し暗く、元々影だった場所はその影が更に延びて辺りを暗く包み始める。
「ピロリ♪」という音がして着信を確認すると、その相手は真希乃だ。真希乃は余程のことがない限り俺に連絡をしてきたりしない。俺は何か胸騒ぎがして着信の内容を見た。その瞬間、俺は全身の毛が逆立つ。
ーイザベルが行方不明なの!!ー
俺は咄嗟に真希乃と電話を繋ごうとする。待機音が鳴り出したと思ったら、すぐに真希乃が応答した。その声は既に慌てているようだった。
「誠兄!!誠兄は大丈夫なのね。イザベルが....イザベルが行方不明なの!!」
「それは今見た。何処にいるか分かるか?」
俺は敢えて冷静に返す。ここで俺も焦ってしまえばそれこそ元も子もない。案の定、俺の反応から真希乃もなんとか落ち着いてくれたようだ。
「分からない、ごめんね。でもGPSを使ってイザベルの携帯が何処にあるかは今特定してる。」
「イザベルの帰宅ルートは知ってるか?」
(確率は低いだろうが......。)
「うん。今誠兄の端末から誠兄の位置を把握したから移動しながら教える。」
「分かった。念のためにお前は外に出るないいな。」
「なっ!.................分かった。」
その声はどこか悔しそうに聞こえた。友だちの危機に駆け付けたいと思う真希乃の良心を俺は敢えて切り捨てるようにその言葉を放つ。真希乃まで巻き込まれれば他の奴にも迷惑が掛かる。それに何より真希乃に傷付いて欲しくない。俺に親しくしてくれる友人なんだからなおさらだ。
俺は自転車のペダルに足を掛けて一気にペダルを漕ぎ始める。チェーンがカラカラという音を連続で鳴らしながら、ペダルが少しずつ軽くなっていく。
急がなくてはならない。俺の大切なパートナーのためにそして俺が叶えなければならない願望のために、俺はその一心でさらにペダルを早く漕ぐ。
「はぁ.........はぁ.....。」
(頼む.....間に合ってくれよ!)
後書き
【現時点での容姿まとめ】
○ジェイル・スミス
シャンクス(ONE PIECE)
○シルバー・スティング
ジャーファル(マギ)
今回はここまでです。
いきなりヤバい展開になりましたね。
次回もお楽しみに。
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