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真田十勇士

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巻ノ九十八 果心居士その五

「確か」
「そういえばそうですな」
「あ奴はよく上がっておってな」
「そうしてですな」
「都にも入っておる」
「特にどの者が何処に行くとは決まってませぬが」
「拙者達は近頃な」 
 幸村達はというのだ。
「都に入っておらぬな」
「左様でしたな」
「だから久しかったな」
「はい、しかし」
「今ここに都に入った」
「すると自然にですな」
「うむ、懐かしさを感じるわ」
 幸村は笑みを浮かべ筧に応えた。
「昔は我等常にここにおったな」
「そうでしたな、殿がここで勤めておられたので」
「そうだった、しかしな」
 その久し振りに見回した都を見てもだ、幸村は話した。
「変わっておらぬな」
「我等が都を出た時から」
「どうもな」
「左様ですな」
 筧も都の中を見回しつつ幸村に応えた。
「あれから数年経ちますが」
「これといってな」
「変わっていませぬ」
「賑やかで人も多い」
「左様ですな、そういえば我等が最初に都に来た時の」
「あの豆腐屋か」
「あの豆腐屋もあるでしょうか」 
 こう幸村に問うたのだった。
「あちらも」
「そうじゃな、果心居士殿にお会いする前にな」
「あそこに行きますか」
「そうしてみるか」
「ですな、折角都に来ましたし」
 それならとだ、筧は幸村に笑顔で応えてだった。そのうえで。
 二人はその豆腐屋の前に来た、すると実際にその豆腐屋があった。あの時の娘はもうすっかり歳を取り大きな男の子に何か言っていた。
 その様子を見てだ、幸村は目を細めさせて自分と同じ顔になっている筧に対してこうしたことを言った。
「達者そうじゃな」
「そうですな」
「それならば何よりじゃ」
「全く以て」
「まあ今は我等は挨拶は出来ぬが」
 九度山にいることになっているからだ。
「あの娘も元気そうで何よりじゃ」
「子供も出来たのですな」
「思えばあの時から歳月も経った」
「亭主を迎え大きな子をもうけるのも」
「あることじゃ」
「左様ですな」
「そしてじゃ」
 幸村はさらに言った。
「これからよりな」
「幸せになるべきですな」
「泰平な天下でな」
 そうした世の中でというのだ。
「そうあるべきじゃ」
「家族で美味い豆腐を作って」
「是非な、それとじゃ」
「それと?」
「ここには長宗我部殿もおられる」
 長宗我部盛親、彼もというのだ。 
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