問題児たちが異世界から来るそうですよ? ~無形物を統べるもの~
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上層へ
「なあ君、いつになったら上層行くん?」
「運命は、自らの手で切り開いていくべきだと思うんだ」
「要するに気が向いたら、と」
「よくわかったな」
これでも長生きしとるからなぁ、と。ため息交じりに蛟劉が告げた。
「しっかし、わざわざ階層支配者サマがノーネームの本拠に尋ねてきて聞くことがそれかよ」
「それかよ、って言うけどな。こっちとしてはそこそこ大きな問題なんやで?」
と言われてもなぁ・・・と、はっきり言いこそしないもののメンドクサイという意志を態度で示す一輝。強ければ強いほど変人であるというのが箱庭の大原則である以上、上層巡りなんぞして神群の皆々様と会話するなど待っている未来は二通りだ。
とっても楽しい知り合いができるか、クッソメンドクサイ事態になるか。ノーネームの仮リーダーという立場として仕事もある身としてはそんな面倒ごとに首を突っ込みたくないのである。
「まあうん、忙しいから諦めてくれ」
「・・・じゃあそやな。今日を含めて四日分ほど、何をしとったんか教えてもらおか」
「何をしてたか、って言われてもなぁ・・・
先一昨日は、朝起きて、メシ食って、書類整理して、来てた手紙を全部灰にして、寝た。
一昨日は、朝起きて、メシ食って、同盟関連の書類と会議済ませて、寝た。
昨日は、朝起きて、メシ食って、二日分の来てた手紙を紙吹雪にして遊んで、寝た。
今日は、朝起きて、メシ食って、今のこの怪談を済ませて、寝る予定」
「クッソヒマやないか!」
本当に、ただの暇人生活である。確かに重要なものも含まれてはいたが、それでもやっぱりただの暇人である。
「ええ加減にせえよ!んなこといっとらんとトットと行ってこいや!」
「別にいいじゃねえか、オマエに関係ないんだし」
「キミが来ないどころか一切返事せえへんから僕の方に遠回しな脅迫来とんねんこのドアホ!!!」
蛟劉の悲痛な叫びが、ノーネームの本拠に響き渡った。
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「というわけで、上層巡りしてくることになった」
「後日黒ウサギ愛用の胃薬を送るのですよ・・・」
時間はたって夕食時にて。一輝がことの顛末を話した際の黒ウサギのコメントである。あの黒ウサギ愛用の胃薬なら問題ないだろう。
「ったく、旅費全部向こう持ちで上層巡りとか楽しそうじゃねえかオイ。なんだって後回しにしてたんだ?」
「立場上色々面倒が多そうだったからなぁ。あと、同盟関連で出張に出してる組が帰ってくるのを待ってたし」
「そういえば、一輝君のところは全員明日帰ってくるのだったわね」
「書類持ってくるはずだからそれを整理したり上層巡りの準備をするのにもう一日使うとして、明後日出発だな」
なんだかんだ仕事をしていた。これは本当に一輝なのだろうか。
「つーわけでレティシア。アジさん連れてくからその辺の調整頼んだ」
「了解したよ主殿。ちょうどいいから白雪をみっちりしごくとしよう」
さすがメイド長、容赦がない。そしてそんなメイド長に短期間で認められたアジさんマジ半端ない。さすが最強の魔王、絶対悪の魔王、人類最終試練!
・・・あんまり関係なかったかもしれない。
「ねえ一輝、それ私たちもついていくことってできないの?」
「ただでさえ六人分だせやと脅されていますので、これ以上は黒ウサギの胃的に問題なのですが・・・」
「まあ黒ウサギの胃と上層コミュニティの財政状況はどうでもいいんだけど」
「よくないのですよ!」
瞬間、黒ウサギはツッコミを入れて自分の席に戻る。本当に一瞬、人間の認識速度を超えたその一撃は、不可視のツッコミとなった。
「まあ黒ウサギの胃は置いといて、だ」
「十六夜さんまで何を言っているのですか!?」
瞬間、以下略。
「俺としても上層関連は興味がある。天部にも呼ばれてるんだろ?」
「あと仏門の方からも呼び出されてるな。・・・まあこっちは白夜叉に呼び出されたっぽいけど」
「そう言えば彼女、仏門に軟禁されたままだったわね・・・」
「うう、非常に人聞きが悪いのですよ・・・」
あながち間違ってもいないと思います。
「とはいっても、まあ無理だな」
「その心は?」
「本拠の守りが死ぬ。主に俺の暇つぶしのせいで色んな魔王に目を付けられたからな。主力をごっそり連れていったらここぞとばかりに攻め込んできかねない」
「全部一輝さんのせいなのですよ!?」
問題児に暇を与えてしまえば、起こる結果は目に見えている。大切な教訓です。
「つーわけで、だ。十六夜と飛鳥、耀は本拠に残る」
「・・・要するにオマエのせいじゃねえか」
「それについては謝る。マジですまんかった」
ヒマが一周して冷静になった結果、それなりにちゃんと判断できるようになったようだ。しかし後悔先に立たず、終わったことは変えられないのだ。
「あと黒ウサギについても、二つの理由から本拠な」
「2つ、とは?」
「一つは審判権限。もう一つは俺気ままにやりたい放題したいから」
「問題だけは起こさないでくださいね!?」
明らかに危険な笑みである。南無。
「戦力面はこんなもんで、あと農業、メイド、その他諸々各部のリーダーは残していくしかないとなると・・・やっぱ俺の手持ちで行くしかないってわけだ」
「あー・・・まあ、うん。確かに」
上層の美食食べたかったなぁ、と。ちょっと心残りとつぶやきながら、しかしちゃんと受け入れた耀。一輝のせいで起こったこともあるが、それでもちゃんと理由が成り立っているのだから仕方がない。
「まあそう言うわけで、だ。土産くらいは買ってくるからそれで勘弁してくれ」
と、そうしめて。名言こそしなかったもののどこの神群を相手にしたとしても滅ぼせるだけの戦力を整えた一輝は、上層へと繰り出す。
・・・や、戦力的に神群に勝てるとは言わないよ。どれだけオーバースペックでもさすがに無理だってことは分かってる。けどアジ=ダカーハがいるだけで神霊は全部何とかなっちゃうからね。仕方ないね。
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