問題児たちが異世界から来るそうですよ? ~無形物を統べるもの~
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一つの日常 キメラと三頭龍 ②
前書き
注意事項
若干(かな?)の独自解釈が入ります
安定してアジさんが原作のキャラから乖離していきます
『鬼道』に関する設定をチミチミ出していきますが、その関係で混乱を招くかもしれません
前回も言ったようにこの二人に恋愛的な要素は一切ありません
そもそもアジさんのお相手はもう決まっています
以上ッ!
「食べ過ぎではないか?」
「全く同じ量を食べてるアジさんにそんなことを言われても」
これといって参加できるゲームもなければ面白い見せものがあるわけでもなく、そして面白おかしく引っ掻き回せるものがあるわけでもない。となればもう食べ歩きくらいしかやることがないわけで。
どれくらい持たされてるのかと確認したら一輝の財布を丸々持たされていたから、遠慮なく食い倒れの費用にさせてもらっている。大丈夫、アジさん一切止めなかったし。
「それにほら、一輝から『遊んで来い』って言われたんでしょ?」
「言われたな」
「そして私の知ってる気軽にできる遊びは『ギフトゲーム』か『食い倒れ』だから」
「なるほど。言われたことをこなしている、というわけか」
と、そんなことを話しながらまたどんどん買い込んでいく。片手で歩きながら食べられるものは食べながら、それ以外はいったんギフトカードにしまっておくことにした。買い込み終わったらどこか座れるところを探して食べることにしよう。
と、そういえば。
「超今更だけど、アジさんもギフトカード持ってるんだね」
「ギフトカード・・・ああ、ラプラスの紙片のことか」
と、そう言いながらアジさんはポケットから真っ白なギフトカードを取り出す。今はほとんど全ての能力を一輝の中においてきている状態らしく、しるされているギフトも“龍種”、“龍影”の2つだけ。名前の欄にも一体何をしたのか「アジさん」とだけ記されている。まあこれなら取り出したとしても大変な騒ぎにはならないだろう。
「何、“ノーネーム”の執事をするなら必要だろう、といって一輝に渡された」
「待遇厚いな一輝」
「家事関連、警備関連で有能な人材にはそれなりに対応する、とのことだ」
どう考えても必要以上の人材だよね、うん。もう今更か。
「えっと、うん。本当にこんな扱いでいいの?アジさん的には」
「敗者の務めだろうさ。それに、やってみればリリたちと仕事をするのはそれなりに楽しく、和菓子は美味だ」
「和菓子好きなんだ」
「大好物といって過言ないな」
「・・・それならおすすめのお店があるけど、行く?」
「是非とも」
うん、これではっきりした。危ないんじゃないかとかあの戦いのこととか気にしてたけど、なんの問題もないな。立場的には下っぽいし、今後は一切遠慮しない方向で行こう。
========
「いかがでしたか?私のおすすめ和巡りは」
「言葉もない。つい買いすぎてしまったとは思うがな」
「ま、その分はお土産ってことにすればいいんじゃないかな」
あの後。個人的にお勧めの和菓子屋さんに行ってお店で食べて食べて食べまくってお土産を買ってから、であるのならと和巡りをしてみた。主に、というか食だけで。ひたすらに日本の食を攻めて攻めて攻めまくったのだ。気に入ってくれて何よりである。
「しかし、悪かったな。聞くところによると、今は箱庭に来てから初に近い完全休暇期間だったのだろう?」
「いやいや、お気になさらず。むしろ急に長い休暇をもらっちゃって超暇なの。暇を売って一儲けできるくらいに」
「であれば本拠の仕事を手伝えばよいのではないか?」
「私たちプレイヤーには、それが禁止されているのです・・・」
その辺りしっかりしましょう、という方針なのだ。戦うことのできない子供たちは、稼ぎを持ってくるプレイヤーのために。そこにプレイヤーが混ざっては意味がない・・・とか何とかで。主に黒ウサギがうるさいのだ。
「一部、プレイヤーと兼任している者もいるようだが?」
「それは隷属してる立場なんだから、ってことらしいよ」
その辺り、是非現リーダーの一輝には変えていってほしいものだ。めんどくさがりな性格は私たちと同じなんだし、それくらいしてくれてもいいと思う。
「まあ何より、私も一輝のお金で食べたいだけ食べれたし」
「確かに、だいぶ減っているな」
大丈夫、使っていいって言ったのは一輝なんだから。
「さて、と。それでどうでしたか?一日遊んでみた結果は」
「そうだな・・・ああ、悪くない。そんなところか」
「そっか、それはよかった」
悪くないって思ってくれたのなら、今後も大丈夫だろう。何があっても何とかなるはずだ。・・・たぶん。
「さて、そういうわけだ。オマエにはその礼をしなくてはな」
「お礼?別にいいよ、同じコミュニティの同士になるんだし」
「それでも、だ。それに・・・一輝関連で聞きたいことがあるのではないか?」
と、そう言われて。正直それを狙っていなかったわけではないから、遠慮なく聞くことにした。
「そう言ってくれるなら遠慮なく聞くけど・・・えっと、いくつか聞いても?」
「ああ、構わん。答えることを禁止されていることでなければな」
「・・・禁止されてること、あるんだ」
「ああ。曰く、「ギフトゲームの答えは教えない」、だそうだ」
言われてみて納得した、それはそうだ。当たり前にもほどがある。
そもそも、一輝の主催者権限『一族の物語』。それをクリアするために一輝関連での知識が必要になるのは当たり前のことだし、それを教えられるだなんて1プレイヤーとしてありえない。
「じゃあ、うーん・・・そうだなぁ・・・そもそも、鬼道の一族、って何なの?」
「・・・一言で言うのなら、世界を救う英雄の一族、だな」
「外道なのに?」
「輝かしい英雄譚、その裏にあるものなど圧倒的畏怖か迫害であろうよ」
はっきりそう言われてしまうとそうなのかもしれないと思う。英雄に倒される存在であるところのアジ=ダカーハにそう言われるとなおさら説得力がある。なるほどなぁ、と焼きそばをすすりながら感心した。
「でも、うん。やっぱりおかしいよ」
「ほう、おかしいか」
「うん、おかしい。だって、それを成すだけの功績が箱庭には一切記録されていないんだから」
「・・・なるほど、プレイヤーとしての才はあるらしい」
揚げパンを食べながらそう言われたので、この考えがそれなりに正しいものだったのだと実感できた。正直怪しいところ満載の考えだから自信はなかったんだけど。
そもそも、箱庭に招待されるということは何らかの形でその祝福なり功績なりが評価された結果だ。そして、そう言った実績の証明の形は多岐にわたる。
例えば、エジソンやノーベルのような発明品として。
例えば、豊臣秀吉や始皇帝、ナポレオンのような歴史に残る行動によって。
例えば、ヘラクレスやペルセウスのような神話として語られるだけの要素として。
例えば、十六夜や殿下のような世界を救う未来を祝福された形として。
例えば、私や飛鳥のようなギフトの回収の手段として。
それぞれ、箱庭へ招待されるだけの理由はそんなところだ。では、一輝はどうなのか。
ギフトの回収。それは理由として成立するだけのものとして間違いない。“無形物を総べるもの”だって一見そんなにだけど重力を操ったりと外に放置していては危険なものだし、神霊すら封じて自在に扱うことのできる“外道・陰陽術”は言うまでもない。それこそ、目の前にいるアジ=ダカーハレベルですらできてしまっているのだから、本当に規格外すぎる代物だ。
そう言った要素だけで見るのなら問題はないのかもしれない。けれど、一輝は“英雄”の一族なのだ。箱庭に始めてきたときにも黒ウサギが言っていたけれど、そう言った何かしらは『語られている』何かがあって初めて成り立つ。いや、英雄的功績があることと語られている何かしらがあることがイコールである、と言った方が正しいのか。
なんにせよ、そう言ったもののはずなのだ。しかし、何度も言うように一輝はそれに当てはまらない。一輝から聞く世界観に当てはまる何かしらの物語なんて私は知らないし、一輝から聞いた文化レベルの背景や西暦なんかからも私よりも後の時代で生まれるものではない。英雄として一輝が存在することだけは、絶対にありえない。
「もちろん、私が知らないだけでこの箱庭のどこかで記録されているのかもしれないけど、」
「安心していい、それはない。一輝とどうかしたことで私は知ってしまったが、それこそ“ラプラスの魔”であっても知らないだろう」
それは、うん。だとすれば箱庭のどこであっても誰であっても知らないレベルだ。
「そしてこれはサービスだが、私の正体のように今後何らかの形で箱庭から観測される事象ですらない。むしろ、本来一輝に関する出来事が箱庭より観測されることは絶対に起こりえないのだ」
「・・・まって、え、ちょっと待って」
一輝に関する出来事が一切観測されないはずだった。そして一輝は『世界を救う英雄の一族』であるんだから、つまり『一輝がいた世界は箱庭から観測できない』ってことで・・・
「でも、それなら何で一輝が箱庭に来ることが出来たの?」
「それはかつて、まだ名のあったころの“ノーネーム”に所属していたという一輝の先祖によるものだな。黒ウサギが招待をすることとなり、その際に初代との縁が、低すぎる低確率のもとほんの一瞬つないだのだ」
つまり、本来なら一輝が呼ばれることはなかったんだけど偶然に偶然が重なってしまった結果一瞬繋がった、と。そう言うことなのだろうか。
それは、うん。その奇跡に感謝してもいいかもしれない。
「つまり・・・鬼道=英雄であり、また強すぎるために迫害された一族である」
「うむ。まあ、時代の流れと共にその状況もそうでもなくなったようだがな」
「そして一輝のいた世界は何らかの要因αによって箱庭から観測することのできない場所に存在している」
「そうだ。例外的に関われてしまったのは一輝、湖札、清明そして初代鬼道の4人だけだ」
「・・・余計に分らなくなった」
これが歴史に埋もれて伝えられなくなってしまった英雄のお話、って言うんだったら分かりやすかったんだけど。そんなこともなくなってしまった。
というか、うん。本格的にこれは難しすぎる事態だぞ。アヴェスター、アヴァターラ、そして十六夜のみたいなはっきりと分かる疑似創星図とちがって一輝の使う疑似創星図はどれもこれも全くわからないものだし。
・・・・・・・・・
「謎が余計に深まっただけなんだけど」
「まあ、そうであろうな。そしてこれ以上は立場上答えられない」
「つまり、そこそこ答えに近いところまで来てる?」
「その一歩がどれだけ遠いのか、それは分からんがな」
うーむ・・・これ以上は引き出せそうにない。けど、あと一個だけ。
「その理由には、貴方が完全に消滅せず、同時に“絶対悪”がクリアされてることにも起因してる?」
「言っておくが、白夜王や第三種永久機関のように、『クリアしても箱庭に残る』例も存在する」
そう言えばそうだった。
「その上で言うと、確かに私は一輝のその要素によって完全に切り離されているな。もはや箱庭で何をしようと、外界への影響として及ぼすことは不可能だ」
「断言できるレベルなんだ」
「一輝が私の力を使い、という形であれば何かしら可能かもしれないがな。すくなくとも“絶対悪”として出来ることは存在しない」
うーむ、つまりその辺りに何かしらの理由がありそうだ。ついでに一輝の持つ霊格が異常なほどに大きい・・・それこそ、外界を救った場合と同じくらいの大きさを得られる理由も、一緒に考えられそうだし・・・
「・・・・・・・・・よし、分からない」
「あまりにもあっさりしているな」
「うん、正直まだ情報不足な感が否めないし。今はとりあえず買ったものを全部おなかに収めていかないと」
「まだ夕食もあるのだぞ?」
「うん、だからこの量なんだよ?」
おや、今何かヒかれた感じがするぞ?おかしいな。
「まあ確かに、大丈夫か。美味いものはいくらでも入るものだ」
「さっすが分かってるねアジさん。そう、美味しいものはいくらでも入る。こうして買いまくったものは全部美味しいし、リリの作るものも美味しいんだから」
「確かに、リリの作る料理は不思議なほどに美味しいものばかりだ」
互いに互いの目をまっすぐ見て、ただ無言で握手をする。もう、あの時の殺し合いとか関係ない。ようやく、本当の意味で彼を受け入れられた気がする。
「・・・そうだ、アジさん」
「なんだ、春日部耀」
「私と友達になってください」
「・・・友、か」
と、少し黙って考え込むアジさん。
「・・・不思議なものだ。まさかこの私が、友を得る日が来ようとは」
「そんなに不思議?」
「かなり、な。だが、悪くない」
と、繋いだままの手に力を込めてくる。
「これから、同じコミュニティの同士として、友として、よろしく頼む」
「うん、こちらこそ。友達一号としてよろしくね」
また和菓子食べ歩きとかしたいものだ。
後書き
賢明な読者諸君はお気づきになられただろう。十六夜に続き、この話によって耀にも魔改造が施されたという事実に・・・
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