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最低で最高なクズ

作者:偏食者X
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ウィザード・トーナメント編 前編
  雷帝と花姫

イザベルと組んで一週間、俺はただイザベルの使う魔法を事細かく観察している。言ってしまえば戦力外な俺は、彼女を支えるおぼつかない状態なのだ。


いざとなれば相手を倒すためにイザベルの魔法に巻き込まれるくらいの覚悟は既にできている。まぁ、そんな覚悟ができるのも心の底から「死なないから大丈夫」とどうにかして自分を無理矢理安心させているためだ。


「雷神よ!悪しき敵を切り裂け!」

審判の雷鳴(ジャッジメント・ボルテックス)!」


イザベルが決め台詞を叫び、魔法陣を展開して数メートル先に雷を落とす。間違いなく強力なのが雰囲気で分かる。だが、敢えて言うとするならばこの世界の魔法は詠唱をする必要がない。みんなが息をするように当然の如く魔法を使えるので、イザベルの詠唱は周りからすれば奇声を上げているのと変わらない。


(本当に俺まで痛い奴だと思われないでくれ。)


それは俺の切実な願いだった。これが続くとなると俺までワケのわからない詠唱をしないと逆に周りから変な奴に思われそうで、そうなってしまえば俺は1年生にして卒業まで「痛い奴」として扱われるかも知れない。プライドが高い俺が約3年間もそんな視線に耐えられる訳がない。
















ここでこの世界の魔法について説明したい。この世界において魔法は3つに分類されている。それは「属性魔法」「召喚魔法」「代償魔法」。どれも魔法なことに変わりないが注目するポイントは魔法の性質や、魔法を発動する流れなどで違っている。


「属性魔法」は名前の通り属性付きの魔法。炎を操ったり、氷を操ったり、風を操ったりなどのポピュラーな魔法のことを言う。イザベルの雷魔法はこの部類に当てはまる。だが、雷魔法は属性魔法の中でもとくに習得に時間が掛かるとされるため、イザベルの実力はかなり高いと思える。


「召喚魔法」はこれもまた名前の通り召喚魔法だ。召喚するものは生き物が中心とされている。その中でも特に多いのは「ドラゴン」や「グリフィン」などの幻想種。しかし、生物を召喚する場合、魔法で生物を服従させ操るという行程が必要なため、継続して魔力を消費し続けることになる。故に召喚魔法は持久力のある魔術士が身に付けることが多い。


ちなみに俺も召喚魔法を使う。何を召喚するのかは今は想像に任せることにする。敢えて言うならば、俺の戦闘スタイルは召喚魔法中心ではなく、肉弾戦中心だ。ひょっとするとこれだけで分かる奴もいるかもしれない。もし分かったなら敢えてその事実は伏せておいてくれ。


最後に「代償魔法」についてだ。これは言い方の問題になるわけだが、代償というのはいわゆる「依り代」のことで、宝石を使った魔法や、武器に火を纏わせるなど使い方の用途はこれが一番多いように思える。またこの魔法は唯一、自身の身に纏うことが可能な魔法である。


魔法としては古いものほど用途が広く、規模と魔力消費量が多い。代償魔法、召喚魔法、属性魔法の順番に新しくなり、属性魔法がもっとも新しい。


なぜ新しくなるにつれて用途と規模が抑えられてきたのかというと、それだけ人の魔力コントロール能力が向上し、使い方や使える規模などを細かくコントロールすることができるようになってきたからだ。















「雷神よ!悪しき敵を切り裂け!」

審判の雷鳴(ジャッジメント・ボルテックス)!」

(......勘弁してくれ.....。)

「ふぅ......決まったぞ!」


イザベルは相当調子が良いのかまるで一仕事終えたかのように清々しい顔をしている。確かに雷魔法を10発も続けて発動したのだから、消費した魔力量は既に俺の持つ魔力量よりも多いだろう。


その日の特訓はそこで終わった。運動は根を詰め過ぎるとかえって逆効果になるのと同じように魔法の特訓も根を詰め過ぎると回復に手間取って逆効果になる。


イザベルと別れた俺はいつも通り庭園に向かった。放課後の庭園は昼間ほどの人気(ひとけ)はない。しかし、ラブラブのカップルなんかは放課後にここでイチャイチャしてたりする。俺としては割と気分を害するわけだ。


「ん.....?」

(あの子は.....。)


俺の目には先日、庭園の花に水をやっていた一人の少女が写り込む。結局、目に止まったあの日以降庭園に行っても彼女に会うことはなかった。故にここで会えたことには少なからず運命のようなものを感じた。


しかもよく見るとかなり美人だ。ここで俺の悪い心が働き、彼女に話しかけてみることにした。しかしいざ話し掛けようと接近を試みると、その気配を感じ取っているのか距離を取られる。仕方なく声を掛けて止まってもらうことにした。


「ちょっと待ってくれ。」


その一言を聞くと彼女は立ち止まる。そこに俺が追い付き、彼女とコミュニケーションを試みる。振り返った彼女の姿は儚さ故の美しさを感じた。真希乃や伊豆奈、美湖、イザベルのような「普遍の美学」とは対極とも言える「朽ちていく故の美学」というのが表現としては合っていると思える。


「私に何か用ですか?」


声も聞き取りやすい優しい声だ。敢えて言うが、俺がこんな他人からひかれるくらい彼女を評価するのは、それだけ彼女を魅力的だと思っているからであって、過剰な下心は持っていない。「過剰」なんて言い方をしたのは下心が皆無ではないことを間接的に証明するためだ。


「ここの花は放っておいても咲き続ける。マーリン学園長の魔法でそうなるようになってんのに、なんでアンタは花に水をやるんだ?」

「それは.....」


彼女は言葉に詰まっている。まぁ、こんなこと突然質問する俺は相当ヤバい奴だと思われても仕方ないと思うわけだが、それでも彼女の答えを聞きたくなった。そして彼女はじっと言葉を選ぶように数分間考え込んだままようやく解答が返ってきた。


「私が花を好いているからです...かね...。」


彼女は解答を終えると、今何かを思い出したかのようにハッとする。俺ですら彼女にそれを切り出された瞬間はハッとした。つい最初の質問をすることに夢中になって初対面の相手にする当たり前の行為を忘れていた。


「自己紹介...忘れてましたね。」

「あぁそうだったな。俺は造偽(つくりぎ)造偽(つくりぎ) (まこと)だ。」

「私は如月(きさらぎ) 華澄(かすみ)と言います。改めてよろしくお願いしますね。」


華澄はクスクスと笑った。軽蔑されるかもしれないが、俺はイザベルがパートナーになっていなければ彼女とパーティを組みたいと思っていた。一度、庭園にいた彼女を見たその一瞥(いちべつ)の瞬間に俺は彼女に一目惚れした。


その後、華澄と少し他愛もない話をして俺は家に帰ることにした。マーリン学園の生徒が箒や絨毯で頭上を飛行していく中、俺は旧人に紛れ込むように道を歩いて帰っていた。


なぜ箒や絨毯での移動が普通になったのかというと、最初は「魔法使いらしく空を飛びたい」というロマンスがきっかけになったらしい。その後、それに慣れた魔法使いたちは歩くことを疎み、箒や絨毯を使った移動が魔法使いの主流になった。


だが俺は徒歩での移動を面倒だと思ったことはない。車の交通整備をするために信号機があるように、箒や絨毯での移動が増えてからは、空中の交通整備も行われた。交通ルールは車以上に厳しく、移動中に事故に巻き込まれれば、それなりに運転が再開するのに手間が掛かる。


それに何より季節問わず使い勝手が良い。電車は夏になれば冷房がかかり、冬になれば暖房がかかる。多くの魔法使いはその便利さを「歩くのが面倒くさい」という理由だけで我慢する。なんて馬鹿なんだろう。


そんなことを考えながら帰っていると突然、本屋が目に入り、あることを思い出した俺は本屋に駆け込む。毎週水曜日に発売される「ヂャンプ」と「ヤングヂャンプ」を買いに行くためだ。


最近のヂャンプの推しは「まらりひょんのぬご」だ。夜になると妖怪に変化する少年が百鬼夜行を率いて日本を統一するという物語(だった気がする)。夜という限られた時間のみ妖怪になれる主人公が大切な人を守るために悪しき妖怪を退治する話でもある。


ヤングヂャンプの推しは「キョート(京都)グール」だ。とある事件によりグールという人喰い人間に襲われた主人公は瀕死の重症を負い、同じタイミングで重症を負ったグールの臓器を移植されることで物語が始まる。


俺は2冊まとめて買うと本屋を出た。これで今晩の楽しみができたと我ながら心が踊った。2冊のヂャンプの読み終えたあとは今後のイザベルとのコンビネーションを考えなければならない。まだイザベルの力をすべて理解したわけではないだろうからもっと観察を続けなければならない。


「ただいまー。」


家のドアを開けると、真っ先にそこに駆け付ける者がいた。それはよく懐いた犬や猫などのペットではなく、俺のことが大好きな4歳になる妹だった。そしてその妹のあとに続くように俺の双子の妹がやってくる。双子の妹の名前が「紗友里(さゆり)」で4歳の妹が「(ひな)」。


「お兄ちゃーん!!」


雛が飛び付くように足に抱き付いてくる。俺としては4歳の妹を雑に扱うのは気がひけるため、いつも体力のある限り、あるいは奏音が疲れるまでかまってやるのだ。そして紗友里はそれを見ながら「ハァー」と呆れたようにため息をつくのであった。
 
 

 
後書き
【現時点での容姿まとめ】
○如月 華澄(きさらぎ かすみ)
 舞園さやか (ダンガンロンパ)

○造偽 紗友里 (つくりぎ さゆり)
 桐ヶ谷 直葉 (ソード・アート・オンライン)

○造偽 雛 (つくりぎ ひな)
 小鳥遊 ひな (パパのいうことを聞きなさい) 
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