最低で最高なクズ
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ウィザード・トーナメント編 前編
君に決めた! その弐
ー放課後ー
一連の授業を終えた俺は真希乃が連絡を入れてくれた3人の女子に会いに行くことにした。真希乃のお陰で少しは俺のことを理解してくれているだろうが、真希乃の性格だから相当美化されている可能性もなくはない。
まず一人目の子は真希乃の幼稚園からの幼馴染だという「神尾 伊豆奈」。あまり他人に興味を持たない反面、打ち解けると急激に距離が縮まるというのが彼女の性格。
最初こそ素っ気ない態度を取るが、彼女にとっての真希乃のように、仲良くなってしまうと常に相手のことを心配して困った時は積極的に力になろうとするタイプ。
「友達思いで心配性な奴か。人に対しての警戒心が薄い真希乃にはちょうど良いな。けど.....」
(真希乃みたいに円滑にコミュニケーションが取れるかはこの上なく不安だ。だってあんなに心の距離を縮める真希乃を心配するくらいなのだから守備範囲は狭く硬くってのが普通だろうし。)
「どう攻め崩すかによって俺の印象が180度変わるからかなり重要なんだよな。」
待ち合わせ場所に向けて歩きながら考えているといつの間にか考え事に夢中になって待ち合わせ場所の教室を通過していた。そしてそんな怪しい俺を見て、待ち合わせ相手だと察知した伊豆奈が声を掛けてきた。
「ねぇアナタ。真希乃から聞いた誠兄って人?」
すごく冷徹な声だ。初対面の相手に緊張しているのか、はたまた普段からこんなドライな声で話すのか現時点では理解できない。
ただ、こんな声で罵られたら間違いなく喜ぶ人間がいるであろうと俺は思った。別に俺がM気質な訳じゃない。単にそういう知識が豊富だから思うだけだ。俺自体はどちらかで言うと他人をいじめたくなるSな性格だ。それは俺がイチイチプライドが高い時点で察しがつくだろう。
「別に同い年なんだから"兄"はいらないけど。俺が真希乃の紹介を受けた誠だ。」
「用件も真希乃の雰囲気からなんとなく分かってる。ウィザード・トーナメントのパートナー探しでしょ?」
察しがいい。故に付け入る隙がないとも取れるが、段階を踏むのが嫌いな俺としてはむしろありがたい。それに用件を踏まえた上で俺に会ってくれるんだからパートナーになってくれる可能性は高い。
「じゃあさっそく聞くけど.....」
「お断りよ。」
「.........えっ?」
あまりにも唐突な解答に俺は戸惑う。まるで問題を読み上げてる間に解答を述べられるくらいの気分だ。つまりかなり癪に障る。
「私が真希乃のお願いに応じたのは、真希乃がちゃんとした人と仲良くしてるのかを確認するためよ。そしてアナタは何か危ないにおいがするの。」
「はぁ!?」
初対面の相手にこんな謎の査定をされて困惑しない奴がいるなら、是非ともどんな対応をすればいいか参考程度に教えて欲しいものだ。少なくとも俺は困惑している。
「そんな独断と偏見で人を査定してよく真希乃みたいなピュアな奴と友達になれたな。」
俺の悪い癖が出る。気に食わなければそのまま流してしまえばいいものをわざわざ悪口に走ってしまう。しかも割とナーバスな点を突くため相手を傷付けやすい。
案の定、伊豆奈の顔が暗く沈む。その瞬間に俺の中で「やってしまった」という気持ちが生まれた。僅かでもあったパートナーの可能性がここで消えた気がした。しかし伊豆奈から帰って来た解答は意外だった。
「真希乃は昔から危なげで放っておけない性格だったからずっと一緒にいるの。真希乃もそれを嫌がってないし、私にとっても真希乃は大切な人よ。」
(100点の解答ではないが、確固たる意志はあるってことなのか....なるほどな。真希乃の友達らしい。)
俺は真希乃にするように伊豆奈の頭を撫で撫でする。伊豆奈も最初は不意打ちのようで反応しなかったが、状況が整理できた瞬間に動揺した。顔を真っ赤にして。
「なっなっ!何するのよ!」
「おぉ、やっと人間味のある反応しやがったな。こうして見ると真希乃とはまた違う意味で妹属性だな。」
「はぁ!?妹属性!?」
どうやら伊豆奈はそういうジャンルの知識はないように思える。真希乃が純粋な妹属性とするならば伊豆奈はツンデレ妹属性とするのが普通だろう。俺はツンデレがデレデレになっていく過程を見るのが嫌いではない。いやむしろ好きだと言ってしまっても構わない。
「いつまで撫でてるつもりなのよ。」
「えっ.....あぁ悪い。」
つい真希乃の時と同じことをしてしまった。もっとも、真希乃なら撫で撫でをまず嫌がらないからその点は真希乃とは決定的に違う面でもある。まぁ、交流の機会が増えればきっと真希乃のように普通に撫でても怒らなくなるだろう。
「不謹慎な人。とりあえず答えは聞いたでしょ。早く他の待ち合わせ場所に向かうべきじゃないの?」
「おっと、もうこんな時間じゃねぇか。それじゃあな。次会うときはもうちょい良い雰囲気で接してくれよ。」
別れる直前に腕時計で時間を確認すると、待ち合わせ時間を既に過ぎていた。俺は次の相手との待ち合わせ場所に急行した。
待ち合わせ場所に着くと、いかにも「待ってますよ」と言わんばかりのオーラを出す子が待っていた。結果的には5分くらい遅れたわけだし、正直申し訳が立たないと思っていた。
「遅れて申し訳ない。かなり待ったか?」
「あら、そのように慌てる必要性はありませんよ?」
さっきの伊豆奈とは打って変わっておっとりした性格の女の子だ。その服装は学園の規定の制服にどことなく和を感じさせる装飾が施されていた。そして行動も見た目のままで、自分でたてた茶を飲んで待っていた。
「ご覧の通り、私は決して退屈などしていません。どうぞお隣が空いておりますので。」
「あ、分かった。」
なんだか手玉に取られたような感覚がしたが、別に悪い気分ではなかった。俺は時間に厳しい人は苦手だ。真希乃に限っては話が別だが、基本的には彼女のようにおしとやかな性格の方が好みだ。
座ってようやく気付いたことだったが、ここはマーリン学園の庭園の中でもとくに日本の花が咲く場所。四季を問わずここには桜などが咲いている。
宙を舞う花びらの影響で彼女の姿がより際立っているのを感じた。その光景は本当に1つの絵にできそうなくらい儚さとそれ故の美しさをかもし出していた。
「では、貴方の用件を聞かせて頂けますか?」
「あぁ、ウィザード・トーナメントで俺のパートナーになって欲しいんだけどお願いできないか?」
少しの間沈黙が続く。それだけじっくり考えてくれているということだと俺は解釈した。これは今まで以上にパートナーになってくれる可能性が高そうだ。
「あの.....」
「なんだ?」
「先に自己紹介をしてもよろしいですか?」
「...........えっ?」
思わず突っ込みたくなる気持ちを無理矢理押し殺し、とりあえず彼女の分析を始めた。まぐれなのかも知れないが、もし彼女がただおしとやかな訳ではなく、純粋に馬鹿な奴なら少し問題がある。
今後、俺が彼女を制御する必要があるわけだ。それは普段のコミュニケーションにおいても、ウィザード・トーナメントにおいても変わらない。すなわち、放っておけば制御の効かない爆弾と同じようなものだ。
だが今はとりあえず彼女のペースに合わせるために自己紹介をすることにした。
「俺は造偽 誠。お前は?」
「はい。私は出雲 美湖と申します。」
とにかく容姿から何から何までそのままのイメージ過ぎて、むしろ違和感を感じそうだ。これまでもそうだが、俺が相手に対してマイナスの感情を多く抱くのは、初対面の段階ではあまりフレンドリーに接することができない、つまり俺も問題児なわけだ。
「じゃあ改めて聞かせて欲しいんだが、ウィザード・トーナメントで俺のパートナーになってくれないか?」
「なるほど。要件とはそのことだったのですね。ですが良い答えはできません。私には既にパートナーがいらっしゃるのです。」
「名前は?」
わざわざパートナーの名前を聞いたのはこの上なく嫌な予感がしたためだ。とくに伊豆奈に対する嫌な予感。
「真希乃さんの友人の神尾 伊豆奈さんですよ。ひょっとしてご存知なのですか?」
(知ってるも何もさっき会ってた奴じゃねぇか!)
「いや、知らない人だな....悪い、変なこと聞いて。」
「いえ、このくらいなら伊豆奈さんも怒らないと思いますので構いませんよ。」
こんな偶然があるだろうか。どことなく伊豆奈に計られたような気がしてならなかった。しかし、よく考えれば二人とも真希乃の友達なので繋がりがあっても不思議ではない。美湖としても真希乃から軽く紹介されただけの俺より真希乃を通じて実際にコミュニケーションをとっている伊豆奈の方が安心できるだろう。
「そうなのか....分かった。」
「協力できないのは申し訳ありませんが、恐らく貴方のパートナーはもうすぐ見つかると思いますのでご安心を。」
俺は美湖の元を去った。美湖は意味深なことを言っていたが俺にはちゃんと聞こえてはいなかった。時間的にも3人目の相手との待ち合わせ時間にはちょうど良かった。少しのんびりと3人目の待ち合わせ場所に向かう途中、俺は庭園を見ながら校舎内を歩いていた。
「ん?誰だ?」
ふと目にとまったのは、庭園で花に水をやる一人の少女だった。入学式から2週間ほど経つが、毎日庭園で羽を伸ばすのに今まで彼女の姿を見たことはなかった。
その子はただ黙々と花に水をやっていた。距離もそれなりにあるため顔は分からないが、間違いなく純粋な人なんだろうと我ながら勝手に査定した。
そうこうしているうちに3人目の待ち合わせ場所に辿り着いた。そこにはすでに誰かが待っていた。白くて長いツインテールに軍帽を被り、制服はどことなく軍服を思わせるようなデザインが入っている。
(なんでどいつもこいつも制服をちゃんと着ないんだ。)
「ほぅ、ソナタが真希乃より紹介を受けた誠兄だな?私の名はイザベル・ロック・ステイン。まぁ長い名前なので親しみを込めてイザベルと呼んでくれ。」
「お、おう。よろしくイザベル。」
なんだか口調まで軍人を意識しているようで、やけに堅苦しい。軍服のような制服と相まってより一層雰囲気を強くしている。しかも、話の主導権を出だし早々取られてしまった。
(その容姿で"誠兄"はなんか笑えてくるから勘弁して欲しいところなんだが。)
「ソナタの声、聞こえているぞ?」
「はぇ!?」
(何言ってんだコイツ。)
どうやら単なる軍服美女ではなく、中二病発症型軍服美女だということが分かった。俺としては今まで会った真希乃の友達の中で1番幼い顔をしているから、服装とのギャップもあってかなり可愛いと思うわけだが。
「私の心眼はソナタの心を手に取るように見ることができる。故に私に隠し事はしないことだ。」
「ほう.......。」
聞けば聞くほどイザベルが痛い奴に見えてくる。もし彼女がパートナーになったら可愛いとはいえ、しばらくの間この中二病と協力しなければならないわけだ。その過程で俺まで痛い奴だと思われるのは悩みどころだ。
「ではソナタの用件を聞かせて頂こうか?」
(結局直接聞くのかよ。)
「ウィザード・トーナメントで俺のパートナーになって欲しいんだが頼めるか?」
「ほう........。」
イザベルは深く考え込む。その姿は彼女が同い年であることを忘れさせるくらい大人びいていた。まるで軍の司令官が作戦を立てている時のような緊張感が辺りに撒き散らされる。
「.......よし、答えを出そう。」
(これで決まってくれれば.........。)
「私で良ければ構わないぞ。」
俺は一瞬その言葉をちゃんと理解できなかった。自分の中でどことなく無理だと決めつけていただけに尚更その言葉を理解するのには少しばかり時間を要した。
「マジ...だよな。嘘じゃ...ないよな?」
「あぁ、私で良ければ構わな.....」
俺は条件反射の如くイザベルに抱きついた。そこに微塵の下心も存在していない。あるのは純粋な感謝の心だけだった。
「ひゃっ!!」
イザベルが先程とは打って変わって女の子らしい声を出した。どうやら中二病少女も普通のハグには動揺を隠せないらしい。これはこれで新しい勉強になった。
「ありがとう!本当にありがとう!これからよろしく頼むな!」
こうして俺とイザベルのパーティが誕生した。イザベルの魔法については後々説明していくつもりだ。
後書き
【現時点での容姿まとめ】
○神尾 伊豆奈(かんの いずな)
新垣あやせ(俺の妹がこんなに可愛いわけがない)
○出雲 美湖(いずも みこ)
千夜(ご注文はうさぎですか?)
○イザベル・ロック・ステイン
アルタイル(Re:CREATORS)
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