真田十勇士
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巻ノ九十三 極意その十三
「各地を巡って修行をさせておるな」
「その様にしています」
「そして鍛えておるが」
「それが何か」
「よいことじゃ、しかも御主も修行を受けておるな」
「そうしております」
その通りだとだ、幸村は答えた。
「常に」
「そして御主自身もじゃな」
「強くなる様にしております」
「学問も忘れておらぬな」
「書も持って行ってです」
そうしてとだ、幸村は昌幸に正直に答え続けた。
「そのうえで」
「そしてじゃな」
「書も読んでおりまする」
「よいことじゃ、そうしていかねばな」
「人は上に行けませぬな」
「そうしたものじゃ、だからな」
「これまで通りですな」
幸村は確かな声で父に応えた。
「励めと」
「そうせよ、そしてわし以上に強くなれ」
「父上以上に」
「武芸だけでなく采配もな」
こちらでもというのだ。
「わしを超えるのじゃ、全てのことでな」
「人として」
「わし以上になるのじゃ」
「それはとても」
「いや、出来る」
謙遜した幸村にだ、昌幸はさらに言った。
「誰でもな」
「父上を、ですか」
「子は父を乗り越えるものじゃ」
昌幸のこの言葉は淀みがなかった。
「わしなぞ普通にじゃ」
「乗り越えられると」
「そうじゃ、御主だけでなく源三郎もな」
「兄上もですか」
「わしを超えられる」
二人共というのだ。
「そして御主達の子等もな」
「大助達も」
「御主達を超える、そうしてな」
昌幸はさらに話した。
「人はよくなっていくのじゃ」
「そうしたものですか」
「そうじゃ、だからじゃ」
「兄上もそれがしも」
「必ずわしより大きくなれるわ」
「それでは」
「励め、そしてわしを超えてみせよ」
我が子に告げた言葉だった。
「よいな」
「それではその様に励みます」
「頼んだぞ、ではこれからじゃ」
話が一段落ついたところでだった、昌幸はまた笑みになった。そしてそのうえで幸村に対してあらためて言った。
「わしも修行をする」
「そうされますか」
「まずは座禅をする」
「禅をですか」
「これが実によくてな」
「はい、座禅をしていますと」
幸村も時折している、これもまた修行だ。
「非常にです」
「色々と感じるな」
「書でも学べぬものを」
「そうじゃ、だからな」
「父上もですな」
「うむ、座禅をしてな」
そしてというのだ。
「他の修行もな」
「されますな」
「そうする、ではじゃ」
「はい、それがしもまた」
「共に修行に励もうぞ」
「そうしましょうぞ」
二人で話してだ、そのうえでだった。
昌幸は座禅に向かった、そして幸村も十勇士達のところに戻ってだった。そうして共に修行に励むのだった。人としてさらに高みに向かう為に。
巻ノ九十三 完
2017・2・1
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