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真田十勇士

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巻ノ九十一 消える風その七

「密かにな」
「そうなのですか?」
「まさかと思いますが」
「それは」
「これは拙者か十二神将でないとわからぬ」
 服部は自分の言葉に驚く伊賀者達に言った。
「時折出て真田家の者達だけが知っておる道がある様でな」
「その道を通り」
「そして、ですか」
「何かをしておりますか」
「その様じゃな」
 服部は九度山を見つつ言うのだった。
「とはいっても幕府に逆らうものではない」
「しかし山を出ているとなると」
「それは、ですな」
「証拠を掴みたいが」
 しかしだった、服部はこのことはよくわかった。
「それをさせる左衛門佐殿ではない」
「世はよく真田殿のことを言われますが」
「左衛門佐殿もですか」
「注意すべき御仁ですか」
「そう思う、味方にすればこれ以上はないまでに頼もしいが」
 しかしというのだった。
「敵にすればな」
「逆に、ですか」
「これ以上はない敵ですか」
「そうなりますか」
「うむ」
 やはり九度山の方を見て言った。
「そうなる、出来れば拙者はな」
「左衛門佐殿はですか」
「お味方にしたい」
「そうなのですか」
「人としても嫌いではない、いや」
 ここでだ、服部はこうも言った。
「むしろあのご気質はな」
「お好きですか」
「左様ですか」
「あれだけ義に篤く生真面目で公平な方はおられぬ」
 まさにというのだ。
「だから好きじゃ、戦国の世にあれだけ一本気な方はそうはおられぬ」
「だからこそですか」
「左衛門佐殿は敵にせずに」
「そうしてですな」
「お味方になって頂き」
「そして共にいたいですか」
「そのお力幕府に貸してもらいたい」
 服部はこうも言った。
「そうも思う、しかしな」
「それでもですな」
「左衛門佐殿が幕府に入られるか」
「そのことは」
「あの方は禄や官位や役職には興味がない」
 幸村のことのことは服部もよくわかっていた、そうした欲は全くないのだ。それが幸村という男の気質なのだ。
「道を歩まれるのみ、そしてその道はな」
「幕府ではない」
「そうなのですか」
「だからですか」
「幕府には入られぬ」
「そうなりますか」
「敵でいて欲しくはない」
 服部にとっては切実な願いだ。 
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