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真田十勇士

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巻ノ九十一 消える風その六

「ではな」
「はい、それでは」
「どうも暫く外に出ておれぬので気が塞ぎ込んでおったな」
「お身体は」
「それなりに剣を振るい馬に乗り道を歩き泳いでおったが」
「結構されているのでは」
「修行はしておったが」 
 それでもというのだった。
「どうもそれが足りなかったか」
「身体を動かしますと」
 幸村達は日々激しい修行を行っている、幸村はそれに加えて学問にも励んでいる。
「違いますから」
「気もな」
「そうされては」
「あらためてそうしよう」
「さすれば」
「そういえば忍術の鍛錬はしておらなかった」
 昌幸はこの修行を怠っていたことに気付いた。
「では忍術の方もな」
「励まれますか」
「忍術の鍛錬は雨でも嵐でもあらゆる中を風の様に駆ける」
 例えどういった状況でも素早く止まらず動ける様になる為にだ。
「あれは非常な鍛錬になる」
「ですから」
「そうするか、そうすれば気も晴れる」
「では」
「うむ、汗をかこうぞ」
「それでは」
 幸村はようやく気を取りなおした父に笑顔で応えた、そうして父の忍術の修行に付き合った。彼等はそうしてたが。
 その九度山を見てだ、黒装束の者達がひそひそと話していた。
「静かだのう」
「うむ、ずっとな」
「おかしな動きはない」
「一切な」
「昨日も今日もな」
「特にな」
 彼等はこう言う、しかしだった。
 その彼等のところにやけに袖と上着の丈が長い黒装束の男が来た、頭巾は被っておらず顔には面があり顔は一切見えない。面は能の翁のものだった。
 その翁の面の者がだ、彼等に対して言った。
「御主達はそう思うか」
「は、半蔵様」
「どうしてこちらに」
「うむ、拙者も直接見たいと思ってな」
 それでとだ、仮面の男服部は彼が率いる伊賀者達に話した。
「それで来たのだ」
「そうでしたか」
「左様でしたか」
「そうじゃ、拙者が見るにな」
 服部は顔を九度山の方に向けてだ、彼等にさらに話した。
「密かに動いておる」
「まさか」
「近くでも幾度も見ていますが」
「真田殿は動いておられませぬ」
「ご子息の左衛門佐殿もです」 
 幸村、彼もというのだ。
「そして左衛門佐殿の家臣である十勇士も」
「そう思うか、時折感じる」
「感じる?」
「感じるといいますと」
「その左衛門佐殿と十勇士達は時折九度山を出ておる」 
 そうだというのだ。 
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