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Element Magic Trinity

作者:緋色の空
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その生誕に祝福を


「アルカー!目覚まし止めに来たよー!」

ばん、と遠慮容赦なく力いっぱい部屋のドアを開けて、ぱたぱたとスリッパを慣らしながら明るい声が近づいてくる。枕元でけたたましく鳴り響いていたベルの音がようやくぴたりと止んだのを掛け布団越しに確認して、頭まですっぽり覆い隠していた掛け布団をそっと下げた。目元だけ外に出して目を向けると、屈託なく笑う同居人がこちらを見つめている。

「……はよ」
「うん、おはようアルカ」

意識がはっきりしない。うっかり目を閉じようものなら三秒と経たずに二度寝出来てしまいそうだ。とはいえ、それではルーの朝食を用意出来ず、そうなれば料理の出来ないルーはアルカが起きてくるまでお腹を空かせているか、仕方ないから自分で朝食の用意を始めるだろう。
……朝食の、用意。あの、壊滅的に料理が出来ないルーが。ほんの少し脳裏を掠めたそれを、寝ぼけた頭で深く考える。まだ覚め切っていない頭から、一つ記憶を引っ張り出す。
そうだ、思い出せ。前に一度、ルーに料理をさせてみた時の事を。あの時コイツが作った料理はどうだったか、あの時のキッチンの惨状はどうだったか。あの、本当にこれは食べられるもので作った結果なのかと疑いたくなるようなあの代物を思い出して、思い浮かべて、そして。

「…!」
「わっ」

無言で勢いよく飛び起きた。
驚いて瞬きを繰り返すルーを見て、一つ頷く。

「よし起きる、すぐ飯にするからな」
「?うん」

この瞬間、我が家のキッチンと二人分の胃袋を守るのはオレの役目だと、朝っぱらからアルカは実感したのだった。








と、覚悟を新たにキッチンに入ったアルカは、そこで信じられないものを見た。

「ふふ、キッチン借りちゃった。おはよう、アルカ」

なんという事でしょう。
自宅のキッチンに、朝っぱらから、恋人たるミラジェーン・ストラウスの姿があるではありませんか。
……何で?

「……え?」
「あ、ミラだ。おはよー」
「おはよう、ルー。もうすぐ朝ご飯出来るからね」

立ち尽くすアルカの横をするりと抜けたルーは、どうしてミラがここにいるのかも何をしているのかも一切問わず、アルカが現状について尋ねようものなら「え?何言っちゃってんのアルカってば」とでも返されそうなほど違和感なく、ごくごく自然な流れで席に着いた。
正直まだ完全には冴え切っていなかった頭が一気に覚醒する。いや待て、確かにミラには合い鍵を渡しているし、家に入れた事自体は別におかしい事ではない。けれどこんな朝早くに、しかも招いた記憶はなく、更に朝食まで用意してくれているとは何事か。
訳も解らないまま突っ立っているアルカに、エプロンを外しながらミラが言う。

「ほら、アルカも早く座って。すぐ用意するから」
「え、おう……?」

何が何だか全く、さっぱり、これっぽっちも解らない。
だが、とりあえず朝食を待つべく、促されるままに席に着いた。考えても解らない事については深く考えない、それがアルカのポリシーなのである。








深く考えない、とはいった。それが自分のポリシーであるとも思っている。
だが、朝食を食べ終えて着替えを済ませるなり、右腕にミラ、左腕にルーが抱き着く状態でギルドまで歩く事になるとは全く思っていなかった。ここまでいろいろ続くと深く考えたくもなってくる。まあ考えても解る事なんてこれっぽっちもないのだが。

「な…なあ、今日どうしたんだ?二人して」
「どうもこうも、ねえ。だよね、ミラ」
「そうね。どうもこうも、ね」

半ば引っ張られるように歩きながら問うが、二人は目を合わせて微笑みながらはぐらかす。ふふ、なんて小さく笑い合っているが、何か面白い事でもあったのだろうか。
いつもの癖で髪をかき上げそうになって、両手とも自由に動かない事を思い出して断念する。

(マジでどうした二人とも、何かあったんだろうけど……あー、オレって本当に察し悪ィなあ…)

二人の様子から見るに、アルカに関係する事ではあるのだろう。けれど思い当たる節は全くない。ギルドに入って丁度何年、という訳でもなく、交際記念日ではない(アルカはそういった記念日をしっかり覚えているタイプである)。
そもそも今日は何日だっただろう。家のカレンダーを思い出しながら一つずつ日付を追って、ふと気づく。

(あ、まあ…強いて言うなら)

アルカの記憶違いでなければ、今日は十九日。
カレンダーのめくり忘れがなければ、今月は六月。

(今日、誕生日か)

そういやそうだったなあ、なんて。
燃えるゴミの日を確認するかのように淡々と、今日が特別な日である事を思い出した。








「よーっす……って、おわあっ!?」

パンパンパンパンパン!と、何重にも重なったクラッカーの音が一斉に響く。びくりと肩を震わせて固まるアルカに、悪戯が成功した子供の様にナツとハッピーがニヤリと笑う。

「へっへー、驚いたか!」
「たかー!」
「随分と間抜け面ね、本日の主役サン?」
「は、主役?…っておい、ルー!」
「はっ、気配消してたのに僕が付けたってバレてるよう!何で!?」

可笑しくて堪らぬとでも言わんばかりに口角を吊り上げたティアの言葉に首を傾げるが、注がれた目線を追って気が付いた。肩からこっそり付けられていた「本日の主役」と書かれたタスキを掴んで振り返ると、タスキを付けた張本人は愕然とした表情で驚いている。
…何でも何も、アルカに気づかれないようにタスキを付けようと思ったら背後から狙うしかなく、今アルカの後ろにいるのはルーとミラの二人で、二人のうちこういう事をしそうな方の名前を呼んでみただけだったのだが。

「残念だったわね、ルー」
「今日の為に、頑張って気配消す練習したんだけどなー…やっぱり一ヶ月はかけるべきだったかも。三日じゃ無理だねー」
「つかお前、そんな練習してたのか」
「うん!頑張ってティアの背後取ろうとしたんだけど、全然出来なかった!いっつもギリギリで気づかれちゃって」

えへへ、と笑うルーから視線を外してティアを見る。目が合った彼女はちょっと口元を緩めて小さく肩を竦めた。人の気配に人一倍敏感なはずのティアがギリギリまで気付かないとは、と聞いた時は驚いたが、どうやら敢えてギリギリまで気付かないフリをしていたらしい。相変わらずルーには甘いなあ、と思いながら笑い返す。

「アルカ、何笑ってるの?」
「何でもねーよ」
「?…ならいいけど……あ、ミラ!ほら早くっ、ミラが一番に言わなきゃ!トップバッターだよ!」

適当に誤魔化すと、不思議そうに首を傾げていたルーは元々深く追及するつもりはなかったのか、思い出したように声を上げながらくるりと振り返ってミラの手を取った。くすくすと笑っていたミラは、手を取られると目を丸くして首を傾げる。

「あら、私が一番でいいの?」
「だってミラは一番に言うべきだもん。僕は二番目くれればそれで十分だしー、あっ、だったら三番はティアだね!」
「はあ?……ま、貰える位置は貰っておくわよ」
「と、いう訳でミラ、言っちゃってー!」
「それじゃあ、お言葉に甘えちゃおうかな」

跳ねるように横にズレたルーが満面の笑みで握り拳を突き上げる。
にこにこと微笑みながら一歩前に近づいたミラが、少し身を屈めた。後ろで両手を組んで、アルカの顔を覗き込むようにして、甘く笑う。

「アルカ」
「ん」

今の自分の顔を鏡で見てみたくなった。きっと、可笑しくて笑い転げたくなるくらいにだらしない顔をしているのだろう。その自覚があった。
笑うように細めた目も、知らず知らずのうちに緩んだ口元も、引き締められない頬も、きっととんでもない事になっているに違いない。ティアに言わせるところの「惚気顔」というやつだろうか。普段は顔を顰めた上で追い払われるほど鬱陶しがられているが、今日くらいは許してほしい。

「誕生日、おめでとう!」
「……おう、ありがとな」

満面の笑みと共に贈られた祝福を噛みしめながら、アルカは差し出された花束を受け取った。










――――それが、今日の朝。
ふわり、とすぐ近くで花の香りがして、ふ、と意識が浮上する。頭だけを上げると、視界に銀色が飛び込んだ。

「……ん、ぅ…?」

髪をぐしゃぐしゃと乱しながら体を起こす。長い事同じ姿勢でいたせいか、体のあちこちが痛い。走る痛みに少し顔を顰めながら眠気を払うように数度首を横に振って、欠伸を一つ噛み殺した。
いつの間にか眠っていたらしい。ちらりと窓の外を確認すると、すっかり夜だ。腕時計を見ると、既に十一時を過ぎている。ぼんやりと視線を移すと、貰ったプレゼントが高く積み重ねられていた。

「あー…寝ちまったのか」

ぼそりと呟いて周囲を見回す。
アルカはいつも通りにカウンターの、いつもと同じ席にいた。カウンターにはほかにも数人が突っ伏して寝入っていて、アルカと向き合う形でミラも組んだ腕に顔を埋めている。少し目を走らせれば、珍しい事にティアまでもが体を丸めて床に転がっていた。
まあ、仕方ないだろう。朝っぱらから食べて飲んでの大騒ぎ、そこから度々乱闘になったり誰かが歌い出したり、いつもに増して賑やかに騒ぎまくったのだから。この時間になれば、そりゃあ眠くもなる。

「……」

顔だけ向けていたのを、体ごと向き直る。位置的にギルド中を見渡せる、この位置がアルカは好きだった。
大きなイビキを立てて眠るナツ、ハッピーを抱えるルーシィ。パンツ一丁な上に大の字で床に転がっているグレイに、鎧を脱いだワンピース姿でテーブルに突っ伏すエルザ。ルーシィのすぐ近くでルーがすやすやと寝息を立てて、ティアは狼姿のヴィーテルシアを枕にして毛布にくるまっている。そのヴィーテルシアも目を閉じていて、その傍ではクロスが姉同様に体を丸めていた。

「ん、ぐ……」

呻くような声がする。誰か起こしてしまったかと慌てて目線を走らせるが、誰も起きて来ない。

「…まだ、食べられます……むにゃ」

……もしや、と横を見る。どうやら、同じようにカウンターで眠っていたアランの寝言のようだった。寝るまでもかなりの量を食べていたはずなのだが、夢の中でもがっつり食べ続けているらしい。むにゃりと動いた口元が幸せそうに緩められている。きゅるる、と小さく聞こえたのは腹の虫だろうか。

(ナツと大食い対決した上、夢の中でも何か食ってんのか……)

ずり落ちた毛布を掛け直してやりながら苦笑する。ギルドに入った当初は何だか距離のあったアランがこうして馴染み切っているのを見ていると、少し安心した。

「…さて、と」

出来るだけ静かに、音を立てないように立ち上がる。
正直足の踏み場もないくらいあれやこれやと物が散らばっているが、慎重にやれば毛布を取ってくるくらい何とかなるだろう。








「これで全員か」

毛布を取ってきては掛け、取ってきては掛けを繰り返し、最後の一人を見下ろしながら達成感と共に呟く。少しでも気を抜けば派手な音を立ててしまうであろう足元に気を配りつつ、慎重に、それでいて素早く動くというのはなかなかに大変だった。
早々に寝てしまったメンバーには毛布が配られていたが、騒ぐだけ騒いで寝落ちした面々には毛布を渡してくれる相手がいなかった、もしくはそこで気を利かせてくれるような人は既に寝てしまっていたらしい。いくら六月とはいえ油断していれば風邪は引く。元々が兄貴気質のアルカがそんな状況を見てみぬ振りなんて出来るはずもなく、ギルドの物置から大量の毛布(時期に合わせて薄いもの)を引っ張り出してきたという訳だった。

「じゃ、次は…っと」

毛布は全員に行き渡った。それをもう一度確認してから、毛布と一緒に持ってきた大きなゴミ袋を静かに広げる。どうしてもガサガサと音が鳴ってしまうのに顔を顰めながら数枚のビニールの口を広げると、今度は同じく持ってきたビニール手袋を両手にはめた。
広げた袋のうち一つを手に取って、少し考える。ぐるりとギルドを見回して、「よし」と頷いた。

「割れ物からだな、寝返り打って怪我するとか嫌だし」

言うが早いが近くの割れた瓶を、断面に気を付けつつ掴んで袋にそっと入れる。それを重石に袋を安定させて置き、これまた慎重に足を進めながら大きめの破片や空の瓶から回収していく。手で取れないような細かい破片は流石にどうしようもないので、小さな箒と塵取りでいくらかは回収しつつ、後でモップをかける事にした。
一番危険で一番大きな音を立てそうな割れ物を目につく限りは回収し終えてから、次に取り掛かる。樽か何かが壊れたと思われる木の破片、何から取れたのかネジや釘(これは残しておいてガジルにでも渡せばいいのでは、と少し思った。ちょっと錆びているので止めた)。ギルドを飾っていた輪飾りは誰かが引っ張ってしまったのかだらりと垂れ落ちていた。少し申し訳ないが、これも回収させてもらう。







「……ふー」

誰も起こさないように、音を立てないようにと無意識のうちに詰めていた息を吐く。持ってきた袋は何とか縛る余裕を残してはいるものの、これ以上は詰められなさそうだった。もちろん分別はちゃんとしてある。それくらい当然の事だ。
時計を見る。無心で掃除を進めているうちに、もうすぐ日付が変わりそうだった。

「……」

もうすぐ、今日が終わる。一年に一度の、特別な日が終わる。
一秒、また一秒と時を刻む腕時計を少し眺めて、それから目線を上げる。アルカ以外誰も起きていない、静かなギルドを見つめる。
その場に座り込んで、後ろに手をつく。気付けば深く考えないまま、思った事を思ったままに呟いていた。




「……今日、楽しかったなあ…」
「それは何よりね」
「っ――――っっ!?」

返事が返ってきた。
と思ったら、隣でティアが膝を抱えて座っていた。
驚きすぎて、確かその座り方は下手をするとスカートの中が見えてしまうから止めろとクロノに言われていなかったっけなあ、なんて、一瞬現実逃避してしまった。その指摘を聞いて以降、この座り方をしている彼女をライアーが直視出来なくなっているから控えてやってほしいのだが。アイツはヘタレだが、健全な十八歳の男子なのである……ってそうじゃなくて。

「そこですぐに周りを思い出して声を押さえるのがアンタらしいわね」
「え、……何で起きてんの?お前確か、一回寝たら朝七時までは確実に起きねえって聞いたんだけど」
「寝ていても人の気配がするとすぐに起きる、っていうのは、聞いた事ないかしら?」
「……あー」

そうだった。彼女は人の気配に恐ろしいほど敏感で、それはいくら熟睡していようが変わらない。そのティアの周りを歩き回っていれば、彼女は確実に目を覚ましてしまうだろう。

「何というか、スイマセン……」
「いいわよ、別に。どちらにせよ寝てなかったし」
「マジかよ」
「眠かったのは事実だけどね。うとうとし始めてた辺りだから」
「何か本当にゴメンナサイ…いや本当に申し訳ねえ……」
「別にいいって言ってるでしょ」

ティアが目を細める。これは「これ以上この話題を引っ張るなら無理にでも黙らせるけど?」の意味だ。長い付き合いを舐めてもらっては困る。ここは一度黙るか話題を変えるに越した事はないのだ。さてどうするかと頭をフル回転させて、どうにか話題を変える。

「そ…そうだ。本ありがとな、あれ全然見つかんなかったんだ」
「…誕生日に物を贈るのは普通でしょう。けどアンタ、武器使わないし」
「まあ剣とか使わねえしなあ…」

頬を掻く。正直包丁とか贈られたらどうしようと思っていたりもしたのだが、彼女から渡された…というよりは突き出されたのは、人気料理家が監修したと話題のつい先日発売したばかりのレシピ本だった。いつだったかに欲しいと言った覚えはあるが、まさかそれを彼女が覚えていたとは思っていなくて。

「ああいうのなら、外さないかなって。予定通りで何よりだわ」

予想通りではなく、予定通り。その言い方が彼女らしくて、思わず小さく吹き出した。

「何よ」
「いや…らしいなあって」
「?…ま、何でもいいけど」

大きく声を上げて笑いたくなる衝動を必死に抑えて、くすくすと小さな笑いに留める。
隣で怪訝そうな顔をしたティアが抱えていた膝を離して真っ直ぐに伸ばして、アルカがひとしきり笑い終えるのを待ってから「それで」と呟いた。

「何物思いに耽ってた訳?」

ああ、それが聞きたかったのか。わざわざ起きて来て声をかけてくるとは珍しいとは思ったが。

「物思いって程の事じゃねえよ。ただちょっと…うん」

少し考える。ちらりと横を見ると、相変わらず真っ直ぐな青い目がこちらを見つめている。あの時もこんな風に目を逸らさずにいたなあ、なんて、ふと思い出した。
あの時。アルカが自分で張り付けたくせに剥がし方を忘れた仮面に強引にヒビを入れていって、こちらに手を差し伸べたあの日。今もたった一人、同居人も恋人も知らない、ヒビの入った仮面を知る人。あの時言った通りに、今も目を逸らさずにいてくれる人。ただ一人、アルカが弱音を吐ける相手。
年下相手に情けねえな、と苦笑して、口を開く。

「……あのさあ」
「何」
「今から凄え変な事言うと思う」
「そう」
「多分、いろいろ言いたくなると思う」
「ふーん」
「けど、何も言わずにちょっと聞いててほしいんだ」
「いいわ、聞いていてあげる」

少しの迷いもなく頷いたのに小さく礼を言って、立てた片膝を抱える。ぼんやりとギルドを眺めながら、思いをそっと紡いでいく。



「毎年の事だけどさ、みんな盛大に祝ってくれるじゃん。…今でこそ普通に受けられるけど、昔はそうじゃなかったんだよ」

「ほら…オレ、捨てられたからさ。じーちゃんもばーちゃんもよくしてくれたけど、やっぱり何か違うっていうか……祝ってもらう度に、じゃあ何でって思ってた。何で親父は、母さんは、姉貴は、オレを置いて行ったのって」

「多分、理由があったんだ。オレには今もよく解ってないけど、オレを置いて行く理由があったんだと思う。…けど、だからって割り切って考えるとか、出来ないし」

「だから、誕生日おめでとうって言われる度に苦しかった。オレは捨てられたのに、いらないってされた子供なのに、その誕生祝ってどうするんだって。…オレなんて、そんな事言われるような奴じゃないのにって」

「それはギルドに来てからも同じでさ。お前相手だから隠さず言うけど、受け入れられるようになったのってつい数年前からなんだよな。……姉貴が死んだ頃、なんだけどさ」

「姉貴から、手紙が来たんだ。突然何だと思って慌てて読んだよ。中にはエバルーがどうとか本がどうしたとか、訳解んねえ事ばっかり書いてあって……その中に、あったんだ」

「――――“お姉ちゃんは、アルカンジュの事が大好きだよ”って」

「……単純だろ?それだけの、本心かどうかも解らねえ言葉で、よかったって思ったんだ。ああ、オレは生まれてよかったんだって。オレには、オレの事を大好きだって言ってくれる家族が、まだいたんだって。嫌いだから、いらないから、だから捨てられたんじゃないって思ったら、ほっとした」

「今日、おめでとうって言われて。プレゼントも山ほど貰って。ご馳走食って、飲んで、騒いで……疲れて寝ちまって、それで起きたら、みんなも同じように寝てて。…それ見てたら何か、幸せだなあって、思ったんだ」

「みんながくれるおめでとうを、捻くれたりしないで受け止められてよかったって」

「こうやって祝ってくれて、一緒に騒げる奴等と出会えて、幸せだなって」

「――――オレ、生まれてよかったなあってさあ。思ったんだ」









日付が変わるまで、あと数分。
マグノリアの名所であるカルディア大聖堂のすぐ近く、とある二階建ての一軒家に、背の高い人影があった。切れそうな外灯が時折強く光って、僅かに人影を照らす。燃える炎のような赤い髪がが眩しくほんの一瞬照らされて、すぐに闇に飲まれていった。

「……」

ドアノブに紙袋の持ち手を引っ掛ける。かさりと小さく立った音に少し身を震わせて顔を上げて、周囲に誰もいない事を確認してほっと息を吐いた。
今、この家には誰もいない。きっと今頃仲間に祝われているだろう。だから直接会えはしないだろうが、それでいい。

「誕生日おめでとう、アルカンジュ。……愛しているよ」

誰にも届かない祝福を囁いて、人影はそっと夜に紛れていった。 
 

 
後書き
Q.誕生日要素薄くないです?
A.ひたすら「おめでとう」と言わせまくってたら、書いてるこっちが照れくさくなってきたのでカットしました。そのせいです。

という訳でこんにちは、緋色の空です。

前回予告した通りアルカの話なのですが……何せ何にも用意していなかった上に平凡な日常を描くのは不得意なので大苦戦しつつ、結局何なのか訳解らなくなりながら、とにかく書きたい事を書きました!やりたい事はやった!久々に一万文字以下ですよ…。
当初は普通にひったすらアルカにおめでとうおめでとう言いまくる話だったのですが、上記の理由で挫折……難しいぜ…。オチは予定通りなのですが……ううむ、微妙。やっぱり「アルカVS宝石を狙う怪盗、船上にて」の方がよかったかなー…。

前回のルーはルーシィに少し歩み寄りましたが、今回のアルカに関しては今まで通りティアを選びました。
なんというか、アルカはそういうところをきっちり分けていそうだな、と。ミラは「恋人」で、ティアは「目を逸らさずにいてくれる人」。一番好きなのはミラで、一番頼りになるのはティアだって思ってて、それで上手くいってるのかなあ、と。…あと、ミラの前ではカッコよくいたいからって何も言わなさそうで(笑)。「こんなの言えるかよカッコ悪ィ…」って頭抱えてそう。

という訳で。
本日六月十九日はアルカンジュ・イレイザーの誕生日です!わーぱちぱち。
同じく六月は、二十九日にサルディア・ルーナサーが誕生日ですが、多分更新無理なのでここでお祝いさせて頂きます。ごめんね!

次回はティアとアランの話かなー…これは早くにやっておく必要があるので。
ですがそろそろエターナルユースの妖精王を更新したいので、こっちの更新は少し遅れます。多分。

ではでは。
感想、批評、お待ちしてます。
そしてアルカ、誕生日おめでとう!大好きだぜ! 
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