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飛べない揚羽蝶

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第四章

「ひょっとして」
「愛していると言ってもいいですが」
「いや、その人女の人でしょ」
「はい」
 やっぱりだった、そうした名前だった。
「私達がいる静岡生まれの方で小柄で歌もお上手で可愛らしいお姿で」
「まさかと思うけれど」 
 本当にこう思った、引いている顔になっているのが自分でもわかった。
「そういう趣味?」
「そういうとは」
「だから女の人が」
「いえ、私はレズビアンではありません」
 私がぼかしているところを自分で言ってきた、この抜けているところがどうにも危なっかしいのだ。
「ご安心下さい」
「自分で言う?けれどね」
 それでもだった。
「そうした趣味がないならいいわ」
「はい、それに私婚約者の方もおられますし」
「あっ、そうなの」
「お父様が決められたのですがお兄様の婚約者の肩のお兄様で」
「何か複雑な関係ね」
 つまりお兄さんの奥さんになる人と将来義理の妹にして義理の姉になるということか。妙な関係だと思った。
「子供の頃からよくして頂いて」
「いい人なのね」
「七歳の時から今のよく同じお布団で寝ています」
 私はこの何気ない笑顔での告白に思わず噴き出した、勿論笑ってじゃない。
「そして実は子供も」
「はい!?」
「はい、その予習も教えて頂いています」
「もう手をつけてるのね」
 相手の人はこの娘にだ。
「早いわね」
「七歳の時からですが」
「相手何歳差?」
「五歳ですが」
「何処をどう言っていいのか。ただね」
「ただ?」
「あんたもうサナギじゃないわね」
 道理で同じ歳の割に艶めかしい筈だ、お嬢様の気品にそれがあってこのことからも人気がある娘だ。
「立派な揚羽蝶よ」
「そうですか?」
「そうよ、赤ちゃん出来てないわよね」
 念の為にそれは聞いた。
「それは」
「いつもコンドームとペッサリーは付けています」
 にこりとして何気なくさらりと言ってきた、聞いている私の方が顔全体が真っ赤になるのがわかった。
「赤ちゃんは正式に夫婦となってから」
「そうなのね」
「弟と妹ももう」
「いや、それはいいから」
「そうですか」
「というかとにかくね」 
 尚私はそうした経験はない、彼氏すらいない。キスもまだだ。
「あんたもうね」
「揚羽蝶ですか」
「そうなってるから」
「そうなのですか」
「自由とかはともかくね」
 大人になった時に備えての修行である習い事はともかくとしてだ。 
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