虚弱ゲーマーと似非弁護士の物語 -求めたのは力では無く-
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Act7 取り返した平穏
前書き
第一章の最終話です。
最後に残った特大巨人騎士も潰してから、天蓋に敷き詰める様にいた守護騎士達の壁も駆逐して、アリシャやサクヤ、それにリーファを先頭に、同盟軍は次々とゲートをくぐって世界樹の上の空間に侵入を果たしていました。
ちなみに、ゲートをくぐる為ににファブリスから借り受けたパスコードを使用した様です。
そんな彼らは白い廊下をまじまじと見ていました。
「何だ此処?」
「とても空中都市には見えない・・・」
「そんなのはもう、ほとんど信じてないだろ!?それより俺達プレイヤーを騙していたと言う証拠を探すぞ!3人一組で捜索を開始する!」
『『オォオオオオッ!!』』
怒れる同盟軍全員が捜索を開始する中、アリシャとサクヤに一人づつ護衛が付き、それにリーファが同行して先行していました。
「アリシャ、ネームレスさんは?」
「アイツはやることが有るから放っておいていいのよ。それより、ログアウトして家で待ってなくていいの?」
リーファのキリトへのお兄ちゃん発言を聞こえていたアリシャとサクヤ含む数人が一応聞いた処、実はリアルで兄妹だったことを明かしてあるのです。
「うん。此処まで来たらお兄――――キリト君の所在を確認してからでいいよ」
「そうか・・・。だがこのまま私達と同行しつづければ、見たくなかったと思える現実が待っている可能性が高いぞ?」
加えて、アリシャたちはリーファに自分達が憤っている理由を伝えてあります。
「・・・・・・正直嫌だけど・・・・・・サクヤ達が知ろうとしてるのを知らないふり見ないフリする訳にはいかないよ」
「そこまで言うならば私も何も言わない。悪いがしばらく付き合ってもらうぞ?」
「うん!」
特別なガイドの指示に従っているわけでは無いようですが、今まで何度も推測してきた世界樹の頂のつくりと今この場の廊下のつくりを比較しながら分析して、遂に外に出ました。出てしまいました。
外へとつなぐ入り口を出たところには空中都市――――など無く、巨大な木の上の枝でした。
上を見上げれば矢張り空中都市など無く、幾重にも分かれした枝に、先に緑が生い茂っているだけです。
下にも当然空中都市などなく、小さくなって見える中央都市アルンの街並みと雲海が見えるだけです。
「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」
覚悟はしていた筈ですが、いざ真実と直面すると――――――かなりのショックを受けたのか5人とも呆然と深紅の夕日を見つめ続けるだけです。
「・・・・・・・・・ッ!もう解っていた事だ。今更だ!」
「そうよ!それよりキリト君を探さないと!」
同盟軍の中でネームレスを抜かせば、一番しっかりしているのは矢張り両領主の2人です。
2人はほぼ同時に復帰し、ショックを受けている自分たちを叱咤して、自分たちが今目指している目的を口にすることで思い出させます。
それによってリーファを含む3人は何とか復帰して、アリシャとサクヤたちを追いかけます。
目指す目印は巨大な鳥籠です。
彼女たち5人は周囲を警戒しながらも、鳥かごを探していたところに漸く見つけて辿り着きました。
「――――此処か?」
「現実で見せてもらった写真が本当ならその筈だけど・・・」
「お兄ちゃん・・・」
ですがキリトの姿かたちは鳥かご内も周囲にも見えません、影すらも見えません。
「もしかしたらログアウト済みなんじゃないか?」
「そうよね?此処に居ないんだとしたら、それしかないんじゃない?」
「そう――――なのかな?」
何かしっくり来ていないリーファですが、2人の言葉を否定できる根拠を持っていない様です。
「であればリーファは早く落ちるべきだ。現実で君が帰って来るのを待っているかもしれないぞ?」
「・・・・・・・・・そっか。分かったよ。私帰るね」
サクヤの言葉に無理矢理自分を納得させたリーファは、無理に反論せずに受け入れました。
「――――これでお別れだけど、もしかしてもう会えないのかな?」
「これだけの事が明るみに出れば、どうなるか判らんが、あまり楽観視も出来ないだろうな」
「でも、ひょんなことで、現実で会えるかもしれないじゃない?と言うかまた会える気がするけど?」
「また女の勘頼りな無責任な事を・・・」
「辛気臭い空気の中でお別れするよりはいいじゃない!」
サクヤが呆れ、アリシャが強く反論する。
その光景にリーファは、心の中でクスッと笑って、少し元気を取り戻せたようです。
「なら私も勝手に信じる。2人にいつかまた会える日が来るって!」
「そうか・・・」
「うんうん、やっぱりそっちの方が前向きで良いわよね♪」
「じゃあ2人共、いつかまた!」
「ああ!」
「アディオス!」
そうしてリーファは2人の前から消えてログアウトして行きました。
ですがそこにタイミング悪く、突然鳥籠内にキリトが出現したのです。
「あれ!?」
「キリト君じゃないか?君はログアウトしてたんじゃなかったのか?」
「サクヤさんにアリシャさん達まで・・・・・・如何して此処に?」
「理由は君の身を健気に心配している妹さんにでも聞いてくれ」
「え!?何で知って――――」
「いいから!早く帰らないと君の妹さんが心配するわよ?」
「えぇええ!?」
言葉で押される様にログアウトを勧められるキリトは、困惑しながらも従います。
「何れまた、何処かで会おう」
「じゃあね!」
「あっ、は、はい!」
事態の把握すること叶わないまま、ユイとも別れの挨拶をしてからキリトは帰還して行きました。
-Interlude-
キリトは現実に帰還後、感謝してもしきれない義妹の直葉にお礼の言葉を口にして、背中を押してもらって無事帰還しているであろうアスナに逢いに来ました。
ですが今は、底意地の悪さと逆恨みからの八つ当たりにより、和人を殺そうと待ち伏せしていた須郷との交錯によって、倒れている所を罵倒を浴びせられながら蹴られていました。
「――――ゲームの中だけで息巻いてるクソガキがっ!そんなクズ同然が、僕の足に砂掛けて邪魔するなんて、以ての外なんだよッ!」
「グッ」
「ク、クハハハハ、もういいや。死んじゃえよ・・・・・・お前ぇええッッ!!」
「っ!」
狂気に満ちた須郷が、地面に膝待づいている和人目掛けて、ナイフを振り降ろそうとした時にそれは起きました。
「ギリギリだったな」
そんな声と共に和人に向けて振り下ろす筈だったナイフは、いつの間にかに須郷の後ろにいた士郎によって手早く回収されました。
加えて両手首を一瞬で掴み取られて背後に回される形で即座に拘束される須郷。
それらを一秒に満たない刹那の間に行われたので、拘束された須郷は何から文句を付けようか把握できないようですが、それでも狂気を維持したまま口を開きます。
「なn」
「黙れ」
「ヒッッ!!!?」
圧倒的強者から浴びせられる殺気に須郷は悲鳴を上げた直後に、ショックから意識を手放しました。
それを何が起きたのか把握できていないもう1人である和人が、ゆっくりと起き上がります。
「貴方はいっ!?」
時間帯が時間帯なので暗くて見えなかったようですが、近づいてから自分を助けてくれた士郎の顔を見ると、グランドクエスト攻略で大いに助けてくれた《鬼神》ネームレスにほとんどそっくりな顔であることに気付いたのです。
それについて和人が口を開く前に、士郎が先に言います。
「色々聞きたいことがあるだろうが、今君がすべきことは何だ?何のために此処に来たんだ?」
「・・・・・・・・・・・・」
士郎に指摘された和人は、アスナがいる病室を見上げます。
「この須郷は俺が責任もって警察に引き渡すから、君は行っておいで。君の大切な人も目覚めて、君を待っている筈だ」
何故そんな事までと、口の先まで出かかった和人ですが、今は自分の望みを優先させることにしたようです。
ですがその前に――――。
「ありがとうございます」
「ああ、いずれまた」
何の根拠もないけれど、遠からぬ内にこの人と出会えると、和人はそんな予感を抱きながらアスナのいる病室に急ぐのでした。
-Interlude-
あれから二か月ほど経過した夕方。
和人はダイシー・カフェにてオフ会に参加していました。
「ところでエギル」
「ん?」
「この本日限定特別メニューってなんだ?」
「見りゃ解んだろ?今日限定のメニュー票だよ」
「いやだから、なんで本日限定なんだ?此処の料理のほとんどを作ってるのは奥さんなんだろ?料理人が変わる訳じゃないのに何でだ?」
それに、そういやぁそうだと、壷井遼太郎ことクラインも、バーボンをチビチビ飲みながら和人の意見に乗ってきた様ですし、当然の疑問です。
しかし――――。
「今出揃ってる料理を作ったのは、確かに俺の上さんだ。けどこのメニュー票に描かれてるのは、上さんの料理人としての師匠が作るからだ」
「えっ、じゃあ、今厨房の方にその人が来てるのか?」
「おう!今日、このオフ会の為に態々来てくれてるぜ?なんなら何か注文したら如何だ?ちなみに一つの注文だけで腹が膨れないように、サイズは全部子供用の量に設定してあるぞ、と。噂をすれば」
エギルが顎でキリトとクラインを、自分が見ているモノを見るように促されて視線を動かすと、奥さんがトレイに小さいどんぶりを乗せて篠崎里香ことリズベットの席に運んでいく様子でした。
「はい。本日限定の熟成味噌ラーメンです」
「ありがとうございます。さ~て、どれどれ?」
蓮華でまずスープを一口飲んでから面を啜りました。
近くに居る綾野珪子ことシリカと、結城明日菜ことアスナが感想を促します。
「お、美味しいぃいいいいいい!!何なの?この味噌ラーメン!こんな美味しいラーメン初めて食べるんですけど!?」
「へ~!どれどれ?・・・・・・あっ、ホントだ!」
「ちょっ!?」
「私にも少し下さい!・・・・・・お、美味しいですぅ!」
「ア、アンタら!量が少ないんだからもう少し遠慮してよ!一口しか食べてないのに、もう半分以下じゃない!」
「まあまあ」
「私たちが頼んだ分も分けてあげるから」
「当然でしょうが!」
2人の好奇心によって、頼んだ味噌ラーメンを半分以下にまで減らされた事にリズが憤っている間に、アスナとシリカが頼んだ品が運ばれて来ました。
「明日菜さんには牡蠣のアヒージョです。それに珪子さんには仔羊のナヴァランです。どうぞ、ご賞味ください」
2人は運んできた奥さんにお礼を言いながら目を輝かせます。
ですがそれ以上に目を輝かせているのは、何故かリズでした。
「うわっ、美味しそう――――って!アヒージョ?ナヴァラン??そんなのメニューに無かったけど!?」
「最初は私達も解りませんでしたけど、このメニュー票、二ページ目と三ページ目もあるんですよ」
ほらーと、ページをめくりながら今来たばかりの二品の品名をシリカが指を指しました。
あっほんとだーと、呑気に言ってから一拍置いてリズは唸り声を上げます。
「ちょっと、エギル!もうちょっと判りやすいメニュー票に出来なかった訳!?」
「仕方ねぇだろ?このメニュー票は今日の昼頃即席で作ったんだからよ」
少し離れたリズからの苦情にエギルが言い返していると、少し前からの心配事をキリトが口にします。
「なあ、エギル。ホントに大丈夫なのか?」
「あん?」
「いや、今日の会費が無料でさ?それにその本日特別メニューに載ってる料理の食材と言い、相当値が張るだろ?なのに・・・・・・」
キリトの心配も当然ですが、エギルは白いをむき出しにするように笑顔を作りながら答えます。
「心配ご無用!今日の会費も特別メニューの食材費用も全部ファブリスさんからの奢りだ。俺も流石に全額出してもらうのは気が引けたんだけどよ?これからの俺達への祝福を籠めてって押し付けられちまったんだよ」
「あの人が・・・・・・」
キリトはまだ二回ほどしか会っていないファブリスの事を思い出します。
正直今日まで何処か得体が知れなくて近寄りがたいと感じていたようですが、アスナの情報提供の時と言い、今回の事も含めて認識を改めると共に何れまた会う時が来たら謝罪とお礼をしようと心に決めたようです。
そこでキリトは、ある事を思い出しました。
「そういやぁエギル。謝罪と感謝で思い出したんだが、ALOでも現実でも助けてもらった人の特徴話した時、心当たりが有りそうな感じだったけど・・・」
「んん?・・・・・・あ―――――そういやぁそうだったな」
「で、如何なんだ?」
「あるつぅーか、1人しか思い当たらねぇな・・・」
「何所の誰か教えてくれ。まだちゃんとしたお礼も出来てないんだよ」
またも悪用されたVRMMOというゲームが復活すると同時に、運営会社は変化したものの、ALOも同時に復活を遂げたのですが、その仮想世界であれから一度もネームレスと会えていないのです。
また、リアルでの知り合いであるケットシーの領主アリシャ・ルーに聞こうとしたようですが、特定のプレイヤーのリアルに勝手に探りを入れるのはマナー違反中のマナー違反である為、思い止まったのです。
ですから、キリトは未だにお礼を言えず仕舞いだった事を心の片隅で気にしていました。
本当であればエギルに聞くのもマナー違反なのでしょうが、聞かずには入れなかったようです。
勿論断られれば、それ以上の追及もしないつもりの様です。
しかしエギルはあっさりと言います。
「何所の誰かっつーなら、今ダイシー・カフェに来てるぜ?」
「へ?」
「おーい、士郎!ちょっとこっち来られるかー?」
間抜けな声を出すキリトに構わず、エギルは奥にある厨房に向けて、士郎を呼び出します。
返事の声はありませんでしたが、代わりに何だ?と言いながら士郎が出てきます。
今の士郎の格好は赤と黒を基調としたオーダーメイドの執事服です。
そんな士郎を見て、キリトと1人誰からも離れていた直葉が、驚きながら瞬時に立ち上がります。
「「あ、あの時の!?」」
直葉はネームレスのアバターとそっくりの人がいる事に驚き、キリトは探していた目当ての人物がこんなすぐ近くにいた事に驚いている様です。
対して士郎はまずキリトへ声を掛けます。
「ん?あー、あの時の少年――――桐ケ谷和人君だったかな?」
「え!?如何して俺のフルネームを・・・」
「ファブリスさんに聞いていたからな。そもそもあの日の夜、君の行動パターンを読んでいたあの人からの連絡で俺は間に合ったのさ」
「そうだったんですか・・・。グランドクエスト攻略の援護と言い、あの時はありがとうございました」
「なんのなんの。俺も現実での調査が行き詰ってたから、世界樹の上には用があったからお互い様さ」
キリトの感謝の言葉に士郎はラフに応じます。
そんな士郎の顔をじっと見ているキリトは、まだ何か聞きたそうな顔をしています。
「何かな?」
「いやその、如何してネームレスのアバターと同じ顔なのかと・・・」
「あくまで予測だが、ALOのサーバーはSAOのコピーだと聞いてるから、その影響――――バグなんだろうな。最初は単にレアアバターだと思ってたんだがな」
苦笑しながら説明する士郎にキリトは成程と頷きました。
「そう言えばエギルとは如何いう関係なんですか?」
「10年来の友人だな・・・・・・一応」
「一応って何だよ!年上をもっと敬え!」
「だったらもっと年上らしい事をしてくれよ?人が多忙の次期からようやく抜け出したその日の内に、オフ会の飯作りに来いって、とても敬いたくなる年下の言動とは思えないな?」
当然の憤りを指摘されて、エギルは目を逸らしました。
その2人の会話を間近で聞いていたキリトは目を見開きます。
「ひょっとして・・・・・・この特別メニュー票の料理、貴方が作ったんですか!?」
「ああ。それと自己紹介がまだだったな。衛宮士郎だ。好きに呼んでくれて構わない」
『へぇ~!』
『えぇええ!?』
士郎登場時から彼に注目が集まっていたので、全員多かれ少なかれ驚いています。
「もしかしてお仕事は他の店のシェフとかですか?」
「いんや、コイツは弁護士だよ。コイツが弁護士として活躍してたのは俺達が寝てた間だったから上さんに聞いた話だが、既に依頼者から“先生”呼ばわりされてるくらいの多忙ぶりらしいな?」
「皮肉を言うとは、良いご身分だなぁギル?いい加減その軽口閉じないと――――縫・う・ぞ?」
圧力三割増しの士郎の笑顔にたじろぐエギル。
これ以上この話題を続けると本当にされかねないと恐怖を感じたエギルは、無理矢理士郎の料理人としての話に戻します。主に褒める方向性で。
「そ、そういやぁ、士郎の料理の腕はテレビで何度も紹介されて来た料理の鉄人や巨匠クラスの人達からも、声を掛けられるほどの腕前なんだぜぇ」
「へ、へぇ~、そうなのか」
エギルの無理矢理な話題変更にキリトは即座に乗りました。
そうしないとエギルが危ないと本能的に感じ取ったからです。
その2人の態度にヤレヤレと士郎が溜息をついて剣呑なオーラを止めます。
「褒めてくれるのはいいが、そろそろ厨房に戻っていいか?」
「あ、ああッ!」
「どうぞ、どうぞ!」
エギルとキリトに促されて士郎が厨房に戻った後、黙っていたクラインが店主に向けて言います。
「なあ、あのシェフも二次会に誘おうぜ?楽しそうじゃね?」
「アイツは多分、この後仕事で来れないと思うぞ?」
「そこを何とかすんのがお前の仕事じゃねぇか。10年来の友人なんだろ?」
「これ以上アイツに無理させるのは止してくれ。酷い目に遭うぞ?」
「お、俺が?」
「主に俺が。いや、俺だけが」
心からの言葉に聞こえたクラインは、哀れみを籠めてそっとしてやろうと悪乗り精神を抑えたのでした。
後書き
よし、マジ恋の方に戻ろう!
あくまでも最低限ですが、書きたい事は掛けましたから。
それから士郎の身長は、わけあって195センチとします。
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