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魔王の友を持つ魔王

作者:千夜
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§1 魔王になった日

 
前書き
お引越しついでに結構改訂してみたり

前よりかはマシになっていると良いんですが…… 

 
 某県某市駅前カラオケ店706号室、ドリンクバー付きフリータイム。学生料金で1人460円也。
 友達連れで来るには最高の場所である。心からそう思う。しかしそれは「友達連れで来るならば」の話。1人でカラオケなど御免被る。寂しい。
 ぶつくさ文句を言う水羽(みずはね)黎斗(れいと)、ただいま1人カラオケ挑戦中。

「やっと60曲…… ノルマまであと40曲か……」

 賭けなんてしなきゃよかった。そう思うが全ては後悔しても後の祭りである。
 二学期期末テスト最下位は1人カラオケで100曲歌うこと。曲目及び採点された点数はその都度メンバーにメールで一斉送信すること。 800点中421点でボロ負けした黎斗は店員さんの「本日は混んでおりまして・・・」という一言で20人は入れそうな大部屋を独占である。端から見るとかなり寂しい人に見えるだろう。(ちなみに点数平均は580、最高は783だった)

「エタブレ75点、次は風にあそばれて……っと」

 カラオケの点数は60〜70をいったりきたり。もらい泣きの81点が最高であったりする。
 時刻は現在午後5時。 ……はたして終わるのだろうか?脳裏にささやかな疑問が浮かぶもそれを振り払って歌い続ける。




 午後7時。現在78曲目。

「終わらねー…… っか無理。もう無理……ホント無理……」

 メロンソーダを飲みながらため息を一つ。炭酸と甘みが疲れた喉を刺激し心地良い。癒しのひととき。
 そして気づく。妙に暑い。もうじき冬なのに服一枚汗の出る温度は流石におかしい。いくら歌っていたとしても。扉の外に煙しか見えないのも気になる。

「……け、煙?」

外では、サイレンが聞こえはじめた。消防車だろうか?

「ちょ……嘘でしょ……え……」

気づけば、部屋内にも煙が入ってきている。

「ヤバ……!!」

 貴重品を持つ。鞄の中から昨日の調理実習で使った後、出し忘れて放置していた三角巾を引っ張り出し口に。背を屈めて扉を開ける。目指すは外。避難訓練の成果は伊達じゃないことを見せてやる。

「……!?」

 部屋の外は煙一色だった。ロクに前も見れない。なぜ今まで気づかなかった、と自己嫌悪をしながら非常口の方向に見当をつけ、進む。
 煙はだんだん濃くなっていく。どうやったらこんなに濃くなるのだろう?ドアノブを捻り、足を踏み出す。途端、段差に躓き、転んだ。

「おわー!?」

 外に出た黎斗を待っていたのは燃ゆる街並みだった。世紀末と言っても通じそうな程に。空は血の色をしており、雨のように赤い液体が落ちてくる。

「何だよコレ……なんなんだよ!!」

 叫びながら走り出す。なんだかよくわからないが、早く家に帰ろう。そうだこれはきっと悪い夢、そう信じて走り出した少年の足は数秒後に停止を余儀なくされる。

「嘘、だろ……?」

 川の対岸が、無かった。自宅のあった場所、いじめられたり仕返ししたりした小学校、ラノベにハマった中学校。それら全てが、存在しなかった。黎斗の目に映る土地は全て、焦土と化している。荒地ですら、無い。踏み込んだら死ぬ、そんな気配が充満していた。

「ほう、生き残りが居たか。てっきり全員踏みつぶしたと思ったのだがな」

 妖艶で、優雅な、とても冷たい声。人のようだが、人にこんな声が出せるのだろうか。……後ろにいるナニカは人間なのか?

「あぁ、違う違う。人の子よ、(わらわ)をそなた達と一緒にするな」

 心を読んだかのような一声。恐る恐る振り向く。美しい、とても美しい女性が居た。そのあまりの美しさは触れた瞬間にこちらの心臓が止まってしまいそうな程に。思わず後ずさる。

「ひっ……」

「ほぅ、妾との格の違いを感じ取ったか」

 彼女に触れようとしてきた人間達は次の瞬間死んでいる。視界に入る男はみんなそれで死んだ。途中から面倒くさくなって都市ごと燃やし尽くしたが。やはり多くの生命を消していくのは愉しい。この少年も男共と同様の命運を辿ると思ったが。

「この惨状を見て、妾を見ては流石に妾を畏れるか」

 運が良い、と言うべきなのだろうか。だが、幸運はいつまでも続かない。度を過ぎた幸運は死神に興味を抱かせる。

「面白いことを考えたぞ、人間。貴様、無様に這いずり回れ。妾が復活したことを祝い、犬畜生のように逃げ回れ。そうだな、一刻程逃げ回れたら貴様は見逃してやろう」

 既に思う存分力を振るった彼女にとって、人間一人程度どうなろうが知ったことではない。だが、生き残った挙句彼女の力を薄々感じとる人間は、彼女に興味を持たせるには十分すぎた。

「さて、ただ逃げるだけではつまらぬだろう、鬼を出してやる」

 凄絶な笑み。無数の鬼が現れる。生理的な嫌悪感と共に、黎斗は更に後ろへ後ずさる。

「まだだぞ人間。まだ鬼ごっこは始まっていない」

 その言葉を聞いて、彼は必死に踏みとどまる。生き残るには、彼女の命令に従う他に在りはしない。

「ほう、言うだけで踏みとどまったか。素晴らしい。なれば褒美もやろうかのう」

 彼女の周囲の空間が歪む。この街を侵蝕していく―――!!

「妾の世界と繋げてやった。もしかしたら愛しき人間に会えるかもしれんぞ?」

 暗い昏い、光の届かない夜に血の雨が僅かな色を付ける。そんな世界。

「さて、妾をせいぜい愉しませろよ、人間。―――開幕だ」

 その言葉と一緒に美女の姿が掻き消える。鬼がゆっくりと、しかし確実に黎斗の下へ迫ってくる。

「くそっ!!」

 黎斗は必死に駆け出した。目指す先は自転車だ。運動神経皆無な黎斗では、自転車でも使わない限り勝ちの目などない。車が使えればさらによかったのだが、運転方法など知りはしない。

「ああああああ!!!」

 最後に気合を入れて、黎斗はペダルをこぎ出した。何が何でも、逃げ切って見せる。





「はあっ、はあっ……」

 汗も絶え絶えに、売店からペットボトル飲料を持ってくる。やっていることは犯罪だが、今回は勘弁してもらいたい。生きるか死ぬかの瀬戸際な上おそらくこの店の主も、もう居ない。

「ごめんなさい、だけど絶対生き延びますから」

 独り言のように呟いて店を出る。追いつかれる前に、遠くへ、遠くへ―――
 
「くぅ!?」

 自転車に乗ろうとした瞬間、上から飛び降りてきた鬼に腕を掴まれる。待ち伏せされていたか!

「うああああああああ!!」

 万力の如く締め上げる鬼によって、みしり、と左手が嫌な音を発する。

「「うおおお!!」」

「!?」

 もう駄目か、そう思った。諦めようとした矢先、見知った声が聞こえた気がした。

「……嘘」

「黎斗、逃げろ!!」

 鬼を後ろから羽交い絞めにするのは中学校の担任と親戚の叔父。周囲を取り囲む鬼にも父、母、祖母、叔母、親友、その他多くの黎斗と親しい人々が必死にしがみつく。

「みんな!!」

「俺たちはいいから早く行け!!」

「なんで……って、みんなどうするんですか!?」

「俺達は既に死んでいる。お前だけが生存者なんだ。お前だけでも、生き延びろ―――!」

「で、でも……」

 死んだと思っていた親しい人に会えて、第一声が「俺達は既に死んでいる」だ。黎斗に受け入れられる筈もない。当然黎斗は説得をしようと試みる。

「いいからいけ!! 俺たちの努力を無駄にするな!!」

 言っている傍から、鬼によって殴られて消えゆく叔父の霊。先生が必死に叫びをあげる。

「急げぇえええええ!!」

「うわあああああああああああああああ!!!」

 走り出そうとした刹那、

「残念だけど一回捕まったから終わりだ。あと少しだったのに残念だったな。まぁ人間にしては愉しめたぞ」

 死神が君臨した。

「あ、あぁ……」

 終わりか。終わりなのか。絶望に目の前が真っ暗になっていく。

「三文芝居もなかなかどうして、面白い。だがこれ以上は無粋だ、消えよ」

 美女は手を一振りする。巻き起こる衝撃波が、鬼もろとも人間達を一掃する。

「みんな!!」

 黎斗の悲痛な叫びも、掻き消され、死神と黎斗、場には二人しか残らない。

「残念だったな。とはいえ、とても面白かったぞ。三文芝居の礼も含めて最後にもう一回だけ、機会をやろう。妾と直接殺し合いをする、権利だ」

 無理だ。不可能に決まっている。絶望に打ちひしがれる黎斗に対し、面白そうに彼女は笑う。

「ふふふ。ホレ、無様に逃げ回って妾を愉しませた褒美だ。これもやろう。流石に勝機が零では可哀想だからのう。まぁ零から無量大数に一つに変わっただけだろうが」

 冷淡に突き放す死神。絶対的な死を前に、今までの人生が走馬灯のように脳裏をよぎる。優しかった家族。助け合ってきた友達。むかつくアイツも、頼りになったソイツも。全て、もう居ない。喪えるモノはもはや己の命のみ。後はもう、残っていない。全てこの数時間で、無くなった。

「上等……!! ゼロじゃないなら、なんとかなる!!」

 嘘だ。ヤケクソだ。勝ち目が皆無であることくらい、黎斗にだってわかっている。屈強な戦士ですら神殺しなど不可能だろう。病弱少年如きに出来る筈もない。だけど。

「みんなの、仇だ……!!」

 どうせ助からないのなら、刺し違えてでも、やってやる。そんな決意で剣を握り締めた。持っているだけで手が震える。剣の重みは、一介の学生たる黎斗程度の腕力では自在に振るうことなど叶わない。ましてこの剣は、黎斗を主と認めていない。

「うおおおおおおおおお!!!」

 握り締めて駆け出す。美女は余裕の笑みでこちらを見ている。あと数メートル。

「ああああああああ!!!」

 彼我距離、1メートルを切る。

「でやあああああああああ!!!」

 思いっきり、振り下ろす。完璧なタイミングで白羽取りをして、黎斗の絶望する表情を見ようとした彼女は―――

「何ッ!?」

「おりゃあ!!」

「やれ! 黎斗!!」

「「「「「おおおお!!!」」」」」

 背後から身体を掴むナニカタチに一瞬、動揺してしまう。その気になれば即吹き飛ばせる非力な力による拘束。死者たちの最後の悪あがき。ここに来て、冥界と現世を繋げていることが裏目に出た。もう無いと思っていたところからの反撃に、美女は確かに動揺した。刹那に満たない僅かな時間。しかし、その動揺は―――文字通り命取りとなる。

「がはぁ!!」

 意識が黎斗から外れた瞬間、決死の剣が彼女を唐竹割で斬り下ろした。

「こんな結末認めん、認めんぞ!!」

「あああああ!!」

 眼前の物体が何か喋っているが、黎斗に聞き取る余裕などない。振り下ろした勢いのまま、一回転。渾身の力を込めて逆袈裟で切り上げる。

「ぐぁああああ!!?」

 一際大きな絶叫と共に、彼女が崩れ落ちていく。周囲の空間が崩壊していく。冥界と現世の特異点であった彼女が消滅することで、二つの世界が分離しようとしているのだ。

「あうっ……」

 このままこの場所にとどまるのは拙い。崩壊に巻き込まれれば間違いなく生きて帰れない。だが、今の黎斗に動くだけの力など無い。目を開くことすら精一杯なのだ。徐々に体が重くなっていく。これが神の武器を使い、神を殺したことによる代償。

「……」

 もはや物言わぬ躯とかした彼は、生存者が存在せずただただ崩壊を待つ空間で崩落に巻き込まれ落下していく。世界の果てで発生した異常事態(イレギュラー)、それを知る存在など極僅かな例外を除けば、世界のどこにも存在しない。まして彼の直下に黒い扉が出現したことなど、一体誰がわかろうか。

「っと、ギリギリね」

 突如現れた蠱惑なる女神によって、黎斗の落下が一端止まる。否、空中で浮遊する形となった彼だが、それでも黒い扉との距離は近づく。黒く輝く扉が、まるで黎斗を吸い込まんとするが如く、彼のみを圧倒的な吸引力で引き寄せているのだ。

「忌まわしき魔女め。ここで姿を現すか」

 もはや肉体は消滅し、圧倒的だった存在感すら薄れゆく彼女の声が木霊する。

「お久しぶりでございます。申し訳ありませんが時間がありませんわ。さぁ、祝福と憎悪をこの子に与えてくださいませ!八人目の神殺しとなる運命を得たこの子に、聖なる言霊を授けて頂戴!!」

 本当は会話の一つと洒落込みたかったのだがそんな余裕はどこにもない。黒い扉の黎斗を引き寄せる力が、想像以上に強い。誰かはわからないが下手な神ではここまでの召喚を行使できまい。それほどの、力。パンドラですら両者が近づく速度を緩めることが精一杯なのだ。事は一刻を争う。

「……くくく。あははははははは!!!」

 もはや残滓も消えゆく美女が、告げる。

「よかろう。慢心の末の敗北とはいえ、負けは負けだ!! 認めたくないが認めてやろう。喜べ水羽黎斗よ、貴様に最初に祝福を与えるのは、天地開闢の最後を司る国土創世の主にして生命を生み出す死者の女王だ!! 神殺しの魔王よ、壮健であれ。貴様を殺すのは妾をおいて他に無し!!」

 その言葉と共に、彼女の気配は完全に消滅した。

「ふふっ、そんなに負けたの悔しかったのかしらね」

 パンドラが苦笑するのと同時に、黎斗の姿が黒い扉の中に消える。

「ギリギリだったわね。さて、転移先は……あら? わから、ない……?」

 パンドラの力をもってしても分からない場所へ飛ばされたとでもいうのだろうか。だとしたら、何処へ。

「……まぁいいわ。アタシとダンナの息子ならなんとかやるでしょ。いずれどこかで会いましょう」

 その言葉を残してパンドラはこの空間から消え去った。彼女が居なくなるのを待っていたかのように、空間の崩落が激化していく。全てを無に帰さんとばかりに、あらゆる存在を呑み込み自壊を起こしていく―――





―――時刻は多少遡る
 翼を持つ者が2人、アルプス山頂付近で剣戟を繰り広げていた。漆黒の翼を持つ者は片腕を失い、純白の翼を持つ者は片目を失っている。全身の負傷具合は両者とも同程度といったところか。

「バラキエル、そろそろ倒れろ」


「ナメんなサリエル、俺様の悪運が火を吹くぜー!!」

 バラキエルは叫びサリエルへ突撃する。相手の剣を体で受けて、右手の剣で相手の瞳を切り裂く。全ては相手の邪眼を封じる為。

「ぐぉぉ……!?」

 体で受ける、という狂気じみた行動を予測できなかったサリエルは両目を切り裂かれたが故に、バラキエルに実は致命傷を与えていることに気づいていない。

「へっ、ざまぁねぇなサリエル。いくぜ、このバラキエル様一世一代の大博打ぃー!!」
 
 瀕死となってまでバラキエルが狙っていた切り札。召喚術。
 ただし、彼の術はひと味違う。何を呼び出すかわからないのだ。それは石ころかもしれない。子犬かもしれない。神々かもしれないし雑誌かもしれない。そして、この召喚術の真価は対象を呼び出す際に時空を超越すること。過去、現在、未来。そのいずれかから何かを呼び出すのだ。それはまさにハイリスクハイリターン。代償は己の命の一部。瀕死の彼のなけなしの命が、全て賭金(BET)へと変わる。
 賭博で有名な彼は最後の最後まで一攫千金を目指して果てた。
 薄れゆく意識の中、彼が最後に聞いたのはマヌケな声。最後に感じたのは、何かが自分の上に落下した感触。





「寒っ……」

 黎斗が意識を取り戻したのは、身体に冷たい何かが積もってきたからだった。うっすらと目を開ければそこには雪。田舎だった地元に匹敵するか、それ以上の量の圧倒的な、雪。

「な、なんでこんなに雪……?」

 さっきまで何をしていたのだろう。それが思い出せない。何故か記憶が混乱している、気がする。時間がたてば思い出せるということだけは、なんとなくわかった。

「ここは何処だ?」

 おそらく知っている場所ではない。誰かに誘拐されたのだろうか、とも思ったがせっかく誘拐した相手を路上に放置していくわけもなし。

「っつー……」

 全身が痛む。なぜ身体が痛むのだろう?

「ん……」

 黎斗が体を起こすと、そこは一面雪景色だった。ビルも無ければ電線も無い。自分の下に人がいることに気づき、慌てて退こうとして今度は剣に躓いた。

「痛っ」

 その声に反応するかのように、前方で止まっていた優雅なオブジェクトが動き出す。

「バーラーキーエールー!!」

「ヒッ……!?」

 狂気に染まった声を聞き、黎斗の本能が警鐘を鳴らす。

――ここにいてはいけない

殺気にあてられて立つことすら叶わず、四つん這いになって逃げようとするも、右足を鋭い痛みが襲う。

「あぁぁー!!」
 
―――いたいいたいいたいいたいいたい!!!!!!
 
蹴られて飛ばされ背が地にぶつかった。口から血が流れ出る。頭上には目を瞑った白い翼の男。剣をこちらへ向けてくる。 助けを求めて必死に周囲の大地に手を伸ばす。指先に、冷たい感触。男が振り下ろしてくる剣に恐怖を感じ、目を瞑りながらもそれを防ごうと手を前に出す。

ぶすっ、という生々しい感触。

「がぁ……」

 呻き声が聞こえ、目を開く黎斗。彼が突き出した剣は男を貫いていた。

「あ……あ……」

 もう限界だった。黎斗は意識を、手放した。 
 

 
後書き
そんなこんなでこちらで書かせて頂こうと思います

あとはそんな大規模修正は無いかと思いますがチマチマ修正しつつ投稿させて頂こうかと考えておりますので全部移動にはもう少し時間を下さい

それでは、しばしおつきあいを頂けたらな、と思いますがよろしくお願いいたしますっ 
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