艦隊これくしょん~男艦娘 木曾~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第二話
前書き
どうも、一週間位と言ったな。どうやら嘘だったらしい。
「いや、だから俺は男なんだって。ついてるもんはついてるし、ねぇもんはねぇし。そりゃまぁ、こんな顔だから女っぽいとは言われるが、生物学上確かに男だ。」
俺は目を白黒させている目の前の女の子に再びそう言った。……まあ、生物学上で言うと人間が海の上に浮くなんて有り得ない訳だが。もっと言ってしまうと手足のように砲門を動かすなんてもっともだが。
「は?いや、ちょっとまて、え?男?」
かなり焦っている様子の女の子。女の子からしてみれば、有り得ない事が起こった様なもんだろうな。そりゃ焦る。
ここで、何やらケータイの着信音の様なものが鳴った。
「あ、わりぃ。こちら木曾。逃がした一隻だが……たまたま艦……娘でいいのかな……になったばかりの奴が撃沈させた。んで……あー……詳しい話は帰って話す。んじゃ。」
と言って、女の子は通信?を切った。
「おおそうだ。忘れてた。俺の名前は木曾だ。よろしくな。」
と言うと、手を差し出してきた。まぁ、ここで掴まないという訳にもいかないだろう。ただでさえ座ってる訳だし。
「おう。どうよろしくされるか知らねぇがよろしく。」
俺は差し出された手を掴み、立ち上がろうとした。しかし、立ち上がった瞬間に、足から力が抜けた。当然、俺を立ち上がらせようとしていた木曾も俺と一緒に転んでしまった。
「「おわぁ!?」」
二人の声が重なり、俺達の体も重なった……けしからん意味は無い。むしろ木曾の着けている機械が当たって痛いくらいだ。身体中の感覚という感覚を研ぎ澄ませば柔らかい『何か』を感じることはできるかも知れないが、そんなことしてたら多分なんか刺さる。
「いてててて……。」
「大丈夫か?」
木曾がそう聞いてきた。心配してくれるのはありがたいけど、そうなら早く退いてほしい。俺のせいとはいえ。
「大丈夫だけど、なんか、身体中に力が入らねぇ。」
どっかに体のなんか打ち付けたかな?とも思ったが、どうにもそんな感じはしない。近いものを言うとすれば……疲労か?
「あー、ちょいと失礼。」
木曾はそう言うとむくりと起き上がって、俺の背中の機械を何やらゴソゴソし始めた。
「あー、やっぱり燃料切れか。ついでに弾薬もスッカラカンと。」
「燃料?」
燃料って言いますと、あのガソリンとかのか?
「この機械……艤装って言うんだけど、これには俺達が戦うために必要な燃料や弾薬ってのを入れててな?それを使って海の上を走ったり、砲弾撃ったりするわけだが……艤装ってのは使う当人と一心同体でな?燃料が無くなると動けなくなるし、弾薬が無いと攻撃出来ない。」
うん、色々と突っ込みたい所満載だが、それも今更、スルーしていく。
「えーっとそれってさ、ガソリンスタンドとかで補充できる?」
「いや、残念ながら。」
どうやら俺の考えていたことを理解したのか、手を広げて答える木曾。
「取り敢えず、うちのアジトみてぇな所に連れてってやる。そこで色々話そうじゃねえか。」
と言う木曾は俺の艤装にガチャガチャと何か付け始めた。
「んじゃ、出発!」
そう言うと、木曾は海の上を走り始めた。少し後で、体に衝撃。そして、俺の体も動き始めた。成る程、艤装にロープでもくくりつけたか。
俺は起き上がって抵抗するとこもできないので、そのまま引っ張られていった。
少しして、もう遠くになって殆ど見えない砂浜を見ようとした。しかし、もう何も見えない。
「……お前、砂浜の奴らの容態を知りたいんだろ。」
……やっぱりバレてた。
「その様子じゃ察してるんだろうが……俺達は表立って人前に姿を表せないんだ。」
国家機密、とでも言うやつか。
「まぁ、艦娘になった奴らの親族には事情が伝わるし、心配すんな。」
「ちげぇよ。」
「…?」
確かに俺としてはそこも心配だが、それより……。
「俺は多分、マトモな生活は送れねぇんだろうなって……何となく思っただけだよ。」
木曾が急に立ち止まった。俺は立ち止まれる訳も無く、そのまま木曾の足に当たる。
「確かに俺達は兵器だ。人間じゃない。あいつらと戦わないといけない。そういう宿命だ。」
木曾は悲しそうにそう言った。
だが、こう続けた。
「だけど、俺達はいつか安心して海と暮らせるようになる日を目指して戦ってる。」
「それが、俺達艦娘の宿命だ。」
どうやら、木曾が抱いている覚悟は並外れているのだろう。人類のため。世界のため。いつか来るかもしれないその瞬間のために戦っている。
……その覚悟はビシビシ伝わって来たのだが……。
「クマちゃんパンツを見せびらかしながら言っても若干説得力に欠けるけどな。」
俺は今、海の上に寝転がっていて、そのまま木曾の足に当たって止まったんだよね?そのまま動かなかったらさ、見るなって方が無理でしょ。ただまぁ、本人は全くそんなこと思ってなかった訳で。
「ぎゃあああああああああああああああ!!」
そう叫びながら、足を後ろに振り上げた。当然俺の頭にクリーンヒット。
よく小説とかで『目の前の星が~』とか言うけど、本当に星が見えた。俺の体はその衝撃で宙に浮いた。これこそ一種の人間の夢ではとか思った。
しかし、そんな夢も俺の背中の艤装、というかロープが邪魔した。ピンと張ったロープ。俺が海面に落ちるのも容易に想像できる。バシャン、と音を立てて着水する俺。うん、これ、さっきの砲撃より痛い。
しかし、流石艤装と言うべきか、今のこのもうすぐ切れそうな意識でもやはり海には沈まない。
「くっそ……球磨姉の仕業か……。後でぶっ殺す……。」
と言う木曾の物騒な台詞を吐いた所で、俺の意識は完全にブラックアウトした。
後書き
読んでくれてありがとうございます。前回少し量を張り切りすぎたので、今回はこのくらい、というか今後多分これくらいに落ち着くはず。
少なくとも前回より多い文字数にはならない……はず。
ではまた次回。
五月二十日 投稿作品全体に修正を加えました
ページ上へ戻る