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【完結】戦艦榛名に憑依してしまった提督の話。

作者:炎の剣製
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0036話『提督の心の行方』

 
前書き
更新します。 

 



妙高達から戦艦棲姫を撃破したという知らせを受けて少しばかりホッとしたと同時に急になにか寒気を感じている自分がいた。
最終作戦の半分は成功したのに素直に喜べない自分がいる。
それもこれも大本営の命令が原因であるのは明らかな事で…。
確かに私が率先して出撃すれば他の鎮守府の提督達の向けてきている視線や疑惑などは払拭できるほどだろうとは思う。
だけど、私自身の事を少しは考えて考慮してほしかった。
まだ通常海域で戦果を上げてそれを証明にすればいいという軽いモノなら少しは楽にできそうだけど、今回は相手が相手だ。
私も本気でやる覚悟をしないとこちらがやられてしまうのは必須な事で…。
そんな時に限って私の頭によぎるのはどこか寂しい表情を浮かべる榛名の顔。
榛名は以前にある事を言っていた。
私が聞き出した事でもあるのだけど、

『なぁ、榛名。お前は出撃できなくて寂しくないか…? 辛くないか…?』

私のふとした言葉に榛名の表情は固まっていた。
それでしばらくして榛名は体を震わせて、

《辛いです…金剛お姉様や他にもたくさんの仲間の皆さんが出撃しているというのに…私はなにもできずにただ皆さんの無事を祈る事しかできないのが…悔しいです》

榛名の本音から来るセリフに私は鈍器で頭を叩かれたような衝撃を受けた。
当たり前だったのだ。
榛名はうちでは最高練度に近い艦娘だった。
そしていつも限定イベントでは最終海域で旗艦を務めるうちの切り札だった。
だけど謎の光によって異世界に飛ばされた私がどういう訳か異物として榛名の中に入り込んでしまった。
そして榛名自身はそれ以降は私に完全に身体の自由を譲り渡してくれて今では精神体のような存在になってしまい、私は榛名の身体を奪ってしまった…。
負い目がないといえば百パーセント嘘になる。
榛名を榛名以外の意思で戦えない身体にしてしまったのだから…。
悔しがっている榛名の事をその場で抱きしめてあげられない自分が憎らしくもあった。

だからという訳ではないけど私は前からある事を考えていた。
榛名が戦えないのなら、榛名が役立てるように私自らが戦場に出るという事を…。
実際この世界に転移してきた時に妖精さんの助けもあったけど下級の深海棲艦とはなんとか戦えた。
だからって訳でもないけど自信がついたわけでもない。
そこまで過信しているわけもない。
私はあくまで中身はただの人間でしかないのだから。
榛名の練度は榛名自身のもので私が扱えるものではない。
せいぜい私が榛名の身体で戦闘をするものなら半分の力量も出せないだろう。
だから私が戦場に出れば役立たずになってしまうかもしれない。
だけど、それでも私は少しでも戦えるのならみんなと一緒に戦いたいと思っている。
だから今回の大本営の命令は願ったり叶ったりだったのかもしれない。
大本営自身は電文でこう言ってくれた。

『榛名提督…。君にはつらい戦いを強いると思う。
我々も君に無茶な注文を押し付けていると思っている。
だが、この世界の提督達の視線までは我々だけではすべて管理できない。
力不足を痛感させてもらったよ。
しかし、もし榛名提督がこの作戦を無事乗り切れたら我々も君に対しての疑惑の数々を払拭できるように尽力しよう。
君の努力が実を結ぶように提督達を説得して回る。
ふがいない我々だが君の、君達の勝利を祈っている。頑張ってくれ』

という内容が送られてきた時は少しばかり目頭が熱くなったのを感じた。
大本営にここまで言われてしまっては私ももう引き下がれないという思いを実感できた。
この内容を知っているのは電文を確認している大淀と私、そして榛名だけだ。
みんなにはこの作戦が終わったらこの内容を公開しようと思っている。
それで全員が大本営に感じているだろうしこりを取り除くことは全部は出来ないだろうけど、大本営の人達も人間だ。
だから手を出せる範囲も限られてくるのは仕方がない事だ。
だから話は戻ってくるけど私は戦う覚悟を決めた。



それで最終作戦の編成を発表する前に私はとある艦娘を執務室へと呼んだ。
彼女はしばらくして執務室へと顔を出してきた。
そこにはビッグ7の一角である長門の姿があった。

「提督よ。私だけを執務室に呼ぶのはなにか大事な用事か…?」
「ああ。長門、私が出撃している間だが提督代理としてこの鎮守府を管理してもらっていいか…?」
「わ、私がか…? しかし…」

そこで長門の表情は困惑に彩られる。

「わかっている。長門の気持ちも理解していると思うがあえて言わせてくれ。
もし私がいない間にこの鎮守府が襲撃にあう事があったら、いの一番に頼りになるのは連合艦隊旗艦の経験がある長門だけなんだ」
「……………」

それで長門は真剣な表情で無言で私の話を聞いてくれていた。
今はありがたいという思いを抱きながらも、

「だから頼りにさせてもらってもいいか…? こんな事を頼めるのは私の中で長門しか思いつかなかったんだ」

それで長門はしばらく黙り込んでいた後に、

「…わかった。提督よ、この長門に任せてくれ。鎮守府の守りはこの長門が引き受けた」
「頼んだぞ。私もきっと無事に帰ってくることを約束しよう」
「分かっているさ。提督ならみんなを悲しませることはしない人だと理解している。だから…榛名」

長門が榛名を呼んだ。
それで榛名が透明な姿で出てくる。

《はい。なんでしょうか、長門さん?》
「言いたいことは分かっているのだろう…? 提督の事は必ずお前が守るんだ」
《分かっています。そして提督を守るのは私だけではありません。妖精さん…?》

榛名が榛名の艤装に宿っている妖精さんを呼んだ。
すると机の上に妖精さんが実体化して、

《妖精さん。私とあなたで提督を守りましょう。私がカバーできない部分はお願いします》
【わかりました。お任せください。
この世界で一番提督との付き合いが長いのは私なんですよ?
ですから艤装の扱いは私がきっと補助します】

そう言って妖精さんも胸を叩いて私を手助けしてくれることを約束してくれた。

「頼もしいな…。普段、私達は無意識に妖精さんと意識を共有しているが、姿を現して尚且つ表立って協力はした事がない」

長門のそのセリフを聞いて驚いた。
妖精さんって普段から艦娘のみんなには見えているものではないのかと。
だけど、考えてみればそうだな。
艦娘と艤装は一心同体だ。
だから無意識化で艤装を操作できるのだろうと。
妖精さんが私の時は表立って出てきたのは私が頼りない証だ。
だから榛名と妖精さんには最大限手伝ってもらおう。

「ありがとうな。榛名、妖精さん…」
《いえ。提督を守るためならなんでもします!》
【はい。最大限力になります】

二人の返事に私は勇気が湧いてくる感覚をしだしていた。
今ならできない事などないんじゃないかという錯覚さえ感じる。

「…わかった。それでは最終作戦のために皆を執務室に呼ぼうか」
「ああ。鎮守府はこの長門に任せておけ。だから提督、派手に暴れてこい」
《榛名も頑張ります!》
【やってやりましょう】

三人の声を聞きながらも私は受話器を取るのであった。

 
 

 
後書き
今回は提督の内情と大本営の謝罪の意を書いてみました。
これで後は最終海域に出撃するだけです。

ちなみに長門は支援艦隊にいたのですが話の都合上、提督代理を務めてもらう事にしました。
他に務められる艦娘が思いつきませんでした…。



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