マイ「艦これ」(みほちん)
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第58話<心の拠り所>
前書き
夜の海上、月明かりの下で自分の気持ちを吐露する北上。それは同時に司令も解放されていった。しかし……。
「過去には戻らないんだ」
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マイ「艦これ」「みほちん」
:第58話<心の拠り所>(改)
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「うふふふ」
北上は月明かりの中、海上を舞うようにして微笑んだ。彼女の黒髪と白い肌の対比が美しかった。
彼女が果たして私の気持ちを悟ったのかどうかは分からない。ただ、その滑らかに踊るような所作に私はハッとさせられた。
(えーっと……誰かに似ているな)
そうか、さっき中庭で出会った龍田さんか?
だが北上の場合は妖艶というよりは繊細な月下美人を想わせた。いつもの彼女からは想像も出来ない儚さと神秘さを漂わせている。何だか不思議な感覚だな。
私は舞鶴で半年以上、彼女と接していたから、それなりに性格も分かっているつもりだった。
しかし北上は、どちらかというと大雑把な艦娘というイメージしかなかった。
ところが、である。意外にもこんな繊細な一面があったのか? 艦娘は実に奥が深い。
気付くと北上に執着していたはずの舞鶴も口を半分開けて少し呆けたような顔をしている。海上で見せる彼女の繊細な一面には彼も意外だったようだな。
北上は後ろに回していた手をゆっくりと前に組み直して私のほうを向いた。
「今日さ、司令が初めて食堂に入ってきたときね……アタシさ何だか正直、合わす顔がなくってね」
そう言いながら彼女は手のひらを体の前に伸ばすような仕草をした。そして少し滑るように水面を漂っている。やはり滑らかに踊るような優雅な動作だった。
「司令は、ちゃんと大きくなって私の前に現れたのにね。私は全然……」
北上は、そう言って組んだ両手を軽く離した。ちょっと寂しそうに下を向いている。
「おいおい、別に私は何も変わってないぞ?」
私の言葉に彼女はチラッとこちらを見て言った。
「ううん司令は変わったよ。アタシには分かるんだ。それなのに私ってさ、何年も……何年も、いったい何やってたンだろうってね……嫌気がさしたんだ」
北上は何かを払い除けるように体の回りで手のひらをグルグルと廻す仕草をしている。ちょっと悔しそうな感じだ。
「アタシさ何だか急に恥ずかしくなって……堪ンなくてさ、逃げ出したんだ」
彼女にしては珍しく顔の前で拝むように手を結んで少し、はにかんだように恥ずかしそうな表情を見せた。この感情を、ストレートに出した仕草は北上らしい。
「ごめんね司令」
言い方はいつもの彼女そのものだが、まさか謝罪されるとは意外だった。私は慌てた。
「なぜお前が謝るんだ? 北上……私だって別に成長したから司令になったわけでも何でもないぞ」
私が釈明するように言うと彼女はチラリと上目遣いでこちらを見た。それはまるで悪戯をした少女が怒られるのを避けるようにしているみたいで可愛い。
「ふふ、安心してよ司令……アタシもこう見えて反省してンだから」
彼女は一瞬、手のひらを組んだまま海上で何かを吹っ切るように少し早く回転させた。
同時にサラサラの前髪が、ふわりと舞った。
「アタシも……司令と一緒に前を向いて進むンだから」
いつもの自然な笑顔に戻った北上は、また海の上でスッと静止した。
そして溜めていたものを吐き出すように言った。
「もう過去には戻らないって……うん、そうだよ。戻らなくても良いんだから」
何か自分に言い聞かせるように決意をこめた彼女の大きな瞳が印象的だった。舞鶴は、ずっと無言だな。
北上は改めてその大きな瞳で私を見た。
「司令や参謀がサ、どうこうってンじゃないから……これはアタシが自分で出した結論」
彼女は少し穏やかなホッとしたような表情になっていた。
「そうか……」
北上の純粋な心の告白を聞いていたら私の過去の壁までが共に崩れ去っていくようだった。
それは彼女や他の艦娘たちだけじゃない。舞鶴に対しても必要以上に後ろめたく感じていた自分がなぜか小さく思えてきた。自分自身を枠に押し込めて一人で勝手にもがいていた感じだな。
私も応えた。
「ああ、お前の言う通りだな。過去に囚われても何も戻ってはこない。時が来たら区切りをつけて一歩でも前に進むことだ」
私の言葉に北上もフッと笑った。私に呼応するように彼女は言った。
「私の戻る場所はサ、今はここなンだ。うん、そう思う」
それは彼女自身が言い聞かせるように聞こえた。北上は改めて舞鶴の方を向くと諭すように言った。
「もうアタシ決めたから……これで良いよね?」
「……」
舞鶴は、やっぱり何かを言いたそうだけど黙っていた。ハッキリ言えば良いのにな。
もっとも相手が北上では説得するのは難しそうだけど。
私は改めて彼女を見た。北上はいま、この瞬間に何かを決意したんだ。だから前よりもスッキリした表情になった。そして胸を張って、こちらの埠頭に向かって水面を歩き始めた。
「そうだよ北上。お前が決めるのが良い」
私は軽く腕を組んで言った。
そうやって節目を作って人は前へ進んで行く。それは艦娘だって同じだろう。
それは北上だけじゃない。他の艦娘たちだって我々と同じような葛藤を抱え、感情を抱いている。
むしろ彼女たちは我々以上に深い苦しみや哀しみを味わっている。だから我々は、もっと艦娘に寄り添うべきだろう。
人と違って記憶や思い出が霞んでいる艦娘にこそ新しい心の拠り所が必要なのだ。
私は悶々としている舞鶴を見た。
そもそも人は、なぜ自分勝手に他人を遠ざけるのだろうか? 直接、話し合えば通じることが多いのに直ぐに壁を作ってしまうのだ。それは既成概念なのか?
だが私は鎮守府の指揮官の任を受けたのだ。作戦遂行だけが指揮官の使命ではない。普段から兵士たちの心身の管理もすべきだろう。
特に艦娘は特殊だ。今までの軍隊の常識が通じない。そこに私は何らかの道筋をつけるべきなのだ。私も、もっと心を開いて他の艦娘たちと一緒に語り合い共に苦しみ抜こう。これは一蓮托生の道なのだ。
その第一歩として……私はこちらに向かってくる北上を見ながら思った。彼女が埠頭に戻って来たら心の底から「お帰り」と声を掛けて迎えるのだ。
今はそれしか出来ないが艦娘たちと共に美保鎮守府の勝利を少しずつ刻んでいこう。
近くまで来た彼女に私は声をかけた。
「ありがとう北上。お前と共に私もまた少しは前進できそうだよ」
「やめてよ今さら」
恥ずかしそうにダメだしをする仕草をした北上だ。相変わらずストレートな物言いだが、そこはお前らしいな。
その時だった。
『ソウハ、イクカ』
妙な声が響き渡ったような気がした。
『え?』
私たちは、ほぼ同時に辺りを見回した。
突然埠頭一帯は妙な空気に包まれている。直ぐに嫌な予感がした。
すると暗い海面上を不気味な航跡が迫ってくるのがはっきりと見えた。
魚雷か?
「あぶない!」
私の叫びを聞いた北上は、とっさに振り返ると海の上で身をかわす仕草をした。北上をかすめた不気味な航跡は埠頭の岸壁に突き刺さった。
それを見る以前に私は反射的に舞鶴へと突進していた。タックルするように彼と二人で埠頭の横の草むらへと身を躍らせた。次の瞬間には二人の体が宙を舞っていた。
後書き
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※これは「艦これ」の二次創作です。
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サイトも遅々と整備中~(^_^;)
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PS:「みほちん」とは「美保鎮守府」の略称です。
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