レーヴァティン

「ホットミルクのことは別だ」
「そうか」
「ではホットミルクを飲んでだな」
「俺もコーヒーを飲んでいる」
「コーヒーも悪くはない」
「貴様も馬鹿にしないか」
「出来れば紅茶の方がいいが」
　こちらが男の趣味だった。
「レモンティーがな」
「紅茶はミルクティーか」
「ジョンブル好みか」
「駄目か、ジョンブルで」
「俺は食いものがまずい国は好きじゃない」　
　イギリスがとかく食事で言われる国だからこその言葉だ、八条学園にはイギリス人も多いがその中でも料理についての評判は悪い意味で有名だ。
「しかしミルクが好ならだ」
「ミルクティーもか」
「好きだ」
　それもというのだ。
「そちらもな」
「そうか」
「しかし今はホットミルクだ」
　男はまたこう言った、そしてマスターに顔を向けて言った。
「頼む」
「ホットミルクだね」
「それを淹れてくれ」
「わかった、じゃあな」
「貴様との勝負はそれからだ」
　男はあらためてだ、久志に告げた。
「わかったな」
「ああ、しかしな」
「しかし。何だ」
「俺も飲み終わってからにしたかった」
「コーヒーを飲んでからか」
「それ位の余裕が欲しい」
「同感だ、ミルク位はのむ」
　男も言った。
「ホットミルクをゆっくりとな」
「コーヒー位はな」
「その後で好きだけ貴様を叩きのめしてやる」
「そしてあの時の勝ちを認めるか」
「貴様に認めさせてやる」
「俺の勝ちをか」
「勝ったのは貴様だ」
　また言うのだった。
「いい加減にそれを認めろ」
「頑固な奴だな」
「俺は暴力と己の非を認めないことは嫌いだ」
「暴力もか」
「弱い奴をいたぶる趣味はない」
　これが男の暴力への考えだった。
「武器を持たない奴にもな」
「暴力は振るわないか」
「暴力ではない」
　男は久志の言葉を否定した。
「俺のものは剣術だ」
「そうか、俺もだな」
「そうだな」
「俺も剣術はするけれどな」
「武器を持たない者や弱いものに剣や拳を向けるな」
「そんな下衆じゃないさ」
　久志は笑ってコーヒーを飲みつつ言った。
「俺もな」
「そうだな、この時任英雄もだ」
「ああ、御前の名前か」
「知らなかったのか」
「悪いな、忘れていた」
「俺の名前を忘れるとはな」　
　その男時任英雄は久志の言葉を受けて口の端で笑った。それから久志に横目を向けてそうした言ったのだった。