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真田十勇士

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巻ノ八十二 川の仕掛けその五

「そしてそのうえでじゃ」
「時が来れば」
「思う存分働け、よいな」
「わかり申した」
 幸村は父に強い声で応えた。
「そのことは」
「確かに言ったぞ、では後はな」
 それはというと。
「ここで戦うぞ」
「そうしますか」
「うむ、後は強くは攻めぬであろうが」
「敵を翻弄して」
「戦う、よいな」
「ではそうして足止めしましょうぞ」
 秀忠の軍勢をというのだ、そして実際にだった。
 昌幸と幸村は城を囲んで今度は迂闊に攻めようとしない秀忠の軍勢に奇襲も仕掛けていた。だが流石に秀忠もだ。
 守りを固め攻めようとしない、そのうえで全軍に言うのだった。
「慎重にじゃ」
「はい、今はですな」
「一気に攻めず」
「徐々にですな」
「攻めていくのですな」
「そうせよ、痛い目に遭ったからのう」
 それだけにというのだ。
「ここはな」
「迂闊に攻めずに」
「慎重にですな」
「少しずつ攻めていく」
「そうしますか」
「そうせよ、必ず攻め落とす」
 上田城を怒りに満ちた目で見つつだ、秀忠は言った。
「あの城をな」
「ただ、です」
 ここで榊原が秀忠に謹言した。
「あまり時をかけられては」
「そうか」
「はい、殿の軍勢とです」
「合流出来ぬな」
「遅参となります」
「ではか」
「それがしが思いますに」
 榊原は秀忠に強張った顔で述べた。
「もうそろそろ」
「この城から離れてか」
「はい、上がりましょう」
 中山道から都の方にというのだ。
「そうしましょう」
「わかった、ではな」
 秀忠も遅参が気になった、それでだった。榊原の言葉に頷きその上でこう言った。
「囲みを解いてな」
「そのうえで」
「上がろうぞ」
 都の方にというのだ。
「そして父上の軍勢と合流しよう」
「そうしましょうぞ」
「すぐにな」
 こう言ってだ、秀忠は慌てて城の囲みを解いて上洛を再開した。昌幸は黄色い徳川家の軍勢の動きを見て言った。
「ようやくじゃな」
「はい、十日ですか」
「十日かかりましたな」
「足止め出来ましたな」
「十日程」
「充分じゃ、それではな」
 勝った、だからだというのだ。
「満足しよう」
「さすれば」
「それで戦の結果はな」
 家康と石田のそれはというと。
「近いうちに報が来るか」
「そろそろですな」
「ではそれ次第で、ですな」
「今度はどうするかが決まりますな」
「それが」
「うむ、しかしこの度の戦伊賀者も甲賀者も出なかった」
 その彼等はというのだ。 
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