虚弱ゲーマーと似非弁護士の物語 -求めたのは力では無く-
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Act2 仮想世界
前書き
タイトルの虚弱ゲーマーと言うのは、原作の何処かでキリトが自分をその様に自虐的に言っていたからです。
似非弁護士と言うのは士郎の事です。理由は弁護士らしいところを恐らく、これから先殆ど書かないからです(←お前のせいじゃん!)
大学を卒業した士郎は現在、弁護士として働いている。
しかも何処かの弁護士事務所で雇われるのではなく、弁護士の一年目でしかないのに自分の事務所を立ち上げたのだ。
しかし幸いな事に、年齢に不釣り合いなほどの非常に優れた観察眼と記憶力や行動力と戦術眼を在学時から期待されていたので、依頼主が途絶える事は無いくらいだった。
そんな一年目からの仕事の多さにも慣れて来てから半年以上経過したある日の事、久しぶりに親友であるギルの店のダイシー・カフェに来ていた。
「ずいぶんと美味くなったな。また腕上げたんじゃないか?奥さん」
「お前の作る料理には負けるがな」
今は昼前だが、この店の特徴なのか、士郎以外の客はいなかった。
だがそれでも、夕方から夜にかけては常連の固定客が集まって繁盛しているらしい。
それはさておき、食事の手を止めて士郎が見つめる先には、奥の壁に設置してある大型テレビだ。
「世界初のVRMMORPGだったか。俺も話には聞いてるが恐ろしい位人気で、もう発売してるんだったか?」
「今日な!あと2時間で正式サービスが始まるぜ」
「その口ぶりからすると・・・入手したのか?」
「おうよ!今からワクワクが止まらねぇぜ!」
「良い歳して何言ってるんだか」
「うるせぇ!」
こんな軽口をたたき合っている2人だが、予想出来る筈も無かった。
VRMMORPGの最初の専用ソフト、ソードアートオンラインの正式サービス開始から数時間後、2人は空想と現実の壁で阻まれる結果になろう事など。
-Interlude-
ソードアートオンライン、略してSAO正式サービス開始の日。
一週間前からベータテスターの1人としてログインし続けていた黒髪の少年――――桐ケ谷和人は、中学から自宅に帰る途中、日本語を流調に使う外国の老紳士の荷物運びを手伝う事になってしまい、あまりに重いので公園のベンチで休憩する事になった。
「いやー、すまないね和人君。重い荷物運びを手伝ってもらって」
「い、いえ・・・」
明らかに初対面の2人だが、此処まで来るまでに軽い自己紹介は終えていた。
和人は老紳士に気付かれないように公園の時計をチラ見した。
勿論理由はSAOだ。
ゲーマーと言うのは、初心者だろうが上級者だろうが一度ハマれば睡眠時間をも削ってでもプレイ時間を捻出したいモノだ。
そして和人も例に漏れず、本音は早くこの荷物運びを終わらせたくて仕方なかった。
そんな和人の逸る気持ちを知ってか知らずか、老紳士は少しだけ質問をしてきた。
「和人君。英雄とはどんな存在か判るかね?」
「英雄・・・ですか?」
いきなりの質問の上に意図が分からなかった和人だが、早く手伝いを終わらせたいと言う気持ちが先行して率直に今考えた事だけを口にする。
「常人にはまねできない武功を挙げた者や、多くの人間を救い出した人じゃないですかね?」
「ふむ。では君の語る英雄が現代に現れた時、その末路とはどの様なモノだと考える?」
「末路・・・・・・?」
流石にこれには先程とは違い長く考える和人。
「・・・・・・日常に帰るじゃないんですか?」
「帰れると思うかね?その様な結末、親しい者達は受け入れても社会と言うシステムが許さないだろう。故に現代での英雄の末路とは、社会と言うシステムに異物が発生した時、それらを排除して世界を継続させるための“奴隷”だ」
「奴隷・・・・・・」
「君はそんな末路に堕ちないでくれたまえよ?キリト君」
「・・・・・・・・・・・・え?」
本名では無くSAOでのアバター名で呼ばれた和人、は思わず老紳士へ向けて振り向くが、そこには誰もいなかった。
荷物は勿論、此処まで自分を手伝わせた本人も。
あの重い荷物を持って瞬時に消えたと言うのか?
有りえないと思いながらも、目の前の現実に狐につままれた様な顔をする和人。
とは言えすぐに復帰して、周囲の何所にもあの老紳士が居なくなったことを確認してから家に帰宅する事にしたのだ。
そして数時間後、士郎の親友のギルと共に和人もまたSAOの世界に囚われる事になったのだ。
-Interlude-
――――一年半後。
士郎は本業の弁護士の仕事に暇が出来たら色々としているが、その中の一つとしてダイシー・カフェの手伝いをしている。
本来の店主であるギルは今もSAOの仮想世界に囚われているので、奥さんが女手一つで今も店を切り盛りしているが、そんな店の現状の弱みにつけこむ輩が一年ほど前に現れたが、弁護士である士郎が物理的法的の両面(物理的は非公式)で下種を完膚なきまでに叩きのめしたこともあった。
そうして店主不在のダイシー・カフェでのある日の事、久しぶりに店に手伝いに来ていた日の閉店間際に、ギルの奥さんから相談を持ち掛けられました。
「VRMMORPGをしたい・・・・・・ですと?」
「はい。ギルが今も、どんな世界で過ごしているか知りたくて・・・」
これはちょっとした惚気だろうか、旦那の状態に少しでも寄り添いたいと言う愛情表現なのでしょう。親友とは言え、此処まで愛されているとちょっと妬けます。
そして勿論士郎に断る理由はありませんが、
「アミュスフィアとALOのソフトが無いと出来ませんよ?」
「それはちゃんと用意していますが・・・・・・もしかして士郎君、既に体験済みだったりしてます?」
「はい。近所の知人に半ば強引に誘われて、もう半年以上前に。ですから案内する事も出来るかと」
「ならお言葉に甘えて―――――って、士郎君、確か例の件が大詰めじゃなかったかしら?」
「それならご心配なく、すでに臨床試験中ですよ。それも結果は上々の様です」
「すごいじゃない。これが成功すれば、世界中で病に苦しんでいる多くの人達を救えるでしょ――――浮かない顔だけど他に問題が?」
ギルの奥さんの指摘通り、士郎は言葉とは裏腹に何とも言えない様な顔をしていた。
「いえ、なんでもありませんよ。それより、早く行きましょう」
だが、友人の奥方にこれ以上余計な心労を掛けさせまいと、直に笑顔に切り替えて誤魔化すのでした。
それから彼女を案内するために先に士郎がログインし、初心者が初めてログインする召喚陣の近くで待機する事10分。
「――――ここが仮想世界。ゲームの世界なんて・・・」
彼女のいる場所は、ALOにて九つある陣営の中の一つの猫妖精族領です。
いかにも猫が好きそうな住処を人が住めるように改装を施した街並みに、ケットシーの特性の一つであるビーストテイマーの力を活用するためにモンスターたちを飼育管理する区画も遠くに見えていた。
そこへ、あるケットシーが1人近づいて来た。
「ようこそ、ケットシー領に」
「・・・・・・もしかして、士郎君?」
「やっぱり分かります?」
「だって、猫耳と尻尾と服装以外士郎君そのままじゃない」
ギルの奥さんの言う通り、士郎が操っているALOでのアバターのケットシーはほぼ9割弱士郎そのままである。
「確かケットシーは背が低いのが特徴では無かったかしら?」
彼女の目の前にいる士郎のアバターは、明らかに現実の士郎とほぼ同じく身長が190以上あるのでした。
「如何やらレアアバターらしくて・・・」
「赤い髪はサラマンダー特有では無かったかしら?」
「それもレアアバターの恩恵らしいんですよ」
「現実でもゲームの世界でも士郎君は何でも有りなのね」
「ネームレスですよ」
「え?」
「俺のこっちでのプレイヤー名です。現実での個人情報が割れないように、極力実名は控える様にと説明文に記載されていたでしょう?」
「ええ、だから私は一番好きな花であるスイセンカにしようとしたら、既に別の人が登録していたよらしいのよ。以前やっていたMMORPGでもスイセンカだったから残念だわ」
オンラインゲームではよくある事でしょう。
「だから二番目に好きなサクラにしたから、こちらではサクラと呼んでね?」
「―――――――――」
士郎は今、何とも言えぬ心情だった。
ギルの奥さんである彼女は、自分の本当の世界で先輩と呼び慕ってくれていた可愛い後輩の面影を昔から今もあるのだが、彼女の操るアバターは最後に見た写真の中に移っていた女性と言う呼ばれ方が適切な歳にまでなった後輩の姿そのものだったからです。
その上で名前もサクラなのだから、姿を被せて想起或いは彷彿して締まっても仕方がないと言えるでしょう。
「如何かしたかしら?」
「いえ、良い名前だと思いまして」
しかし士郎はその感情を一瞬で切り替えます。
何せ目の前のサクラとあの世界の桜は違うのですから。
「さてサクラさん。約束通り案内しますよ」
「宜しくお願いしますね。ネームレスさん」
そうしてサクラのVRMMORPGの初体験が始まるのだった。
-Interlude-
士郎ことネームレスとギルの奥さんことサクラが街並みを楽しみながら歩いていると、何やら大声で騒いでいるケットシーたちを見つけた。
「如何したんでしょう?」
「如何やら領主が警備の者の目を掻い潜って、外出した様ですね」
クロは呆れ100%の声でサクラにそう説明しました。
「もしかしてお知合いですか?」
「はい。俺をこの世界に半ば強引に誘い込んだ上に、問答無用に自分が領主をしているケットシーに入れと頼み込んできた近所に住むとんでもない知人ですよ。確か今は大学生だった筈です」
「それはそれは・・・」
「さらには俺がリアルで忙しいと知り得ているのも拘わらず、何故たまにしかログインしてこないのかと毎日のように抗議のメールを送ってきたりします。まあ、毎日論破して黙らせていますが」
「それはそれは・・・」
ネームレスの言葉にサクラは苦笑いで答える。
そんな時、別の方向から新たなケットシーが凶報を届けて来ました。
「大変だ!アリシャ様が外出した場所は判明したのだが、そこにプーカの二個中隊が近づいているらしい!」
「何でそんな偶然が!?」
「プーカ達に誰かが情報を流してるって言うのは聞いていたが、まさか本当だったとは」
「そんな悠長に話し込んでる場合か!直に救援を送らねば!」
「そんな事は言われずとも解ってるが、間に合うのか?今から!」
「そ、それは・・・」
「高みの塔は今誰も使ってないか?」
言い合いを続けているケットシー達に突如、ネームレスが会話に割って入って行きました。
「アンタは・・・・・・?」
「サラマンダー!?」
ALOを始めてからまだ一月程度の新人ケットシーは、ネームレスの姿を見てそれぞれの反応で驚いています。
それをもう2人のケットシーは、姿勢を正しくして、軍人の様に敬礼をします。
「お久し振りです、教官!」
「まさか、いらしていたとは!」
「なぁ、コイツ、サラマンダーじゃないのか?」
「猫耳と尻尾が見えないのか!?教官のはレアアバターなんだよ!」
「すみません教官、この2人はまだ新人でして」
「教官・・・?」
ネームレスが教官呼ばわりされていることに、頭を傾げるサクラ。
「いえ、忘れて下さい。――――それよりも、高みの塔は誰も使っていないのか?」
4人の話に全く関心を示さないネームレスは、自分のするべきことを優先するべく動きます。
「あっ、はい!今確認します!」
「いや、自分で確認してくるから、彼女を任せる」
対応するケットシーの返答も聞かずに、ネームレスはケットシーの特性の脚力と俊敏性を生かし、アミュスフィアから伝達される自分の肉体のスペックに身に着けた歩法で、一瞬でその場から高みの塔の最上階まで移動した。
「うぇ!?きょ、教官!?何時の間に此処へ!いや久しぶりに」
高みの塔の監視役のケットシーは、突如目の前に現れたネームレスに驚きつつ、どもる。
ただ、どうやって此処にとは聞かなかったので、如何やらこのケットシーはネームレスの非常識性には慣れている様です。
「挨拶はまた後でな」
監視役のケットシーにそれだけ言うと、ネームレスは黒い洋弓を構えて矢を番える。
ここで少し話が逸れるが、VRMMORPGにはチートや裏技を防ぐためにカーディナルシステムが備わっています。
だからこれからネームレスの起こす行動はチートや裏技の類ではなく、製作者側も予想していなかった幾つもの偶然が重なった結果です。
「まず1人」
ネームレスが二本の矢を連続で放つ。
ネームレスはケットシーだが、そのアバターを操る士郎自身が鍛冶師でもあるため、レプラコーンでもないのに武器を作れます。
「二、三」
ネームレスが二本の矢を連続で二回放つ。
此処で偶然の一つだが、士郎は只の鍛冶師では無く、それこそ国宝クラスの職人芸を極めた鍛冶師(本人にその自覚は無い)でもあるのです。
さらには武器の素材となる材料は、現実とは比較にならないほど分かりやすい程です。
そんなものを巨匠レベルの士郎が見れば、現実で調べられている攻略法などにも載っていない合成具合で、最高の武器を作れます。
それこそ、弓矢を10キロ以上先まで飛ばせる弓なども。
これこそ製作者側の予想外の一つで、まさか巨匠クラスの人がVRMMORPGをプレイするなど夢にも思わなかったからなのです。
「四、五、六――――」
ネームレスが次々に弓矢を遠くへ射って行く。
しかしどれだけ規格外級の射程のある弓を作れようと、相応の使い手で無ければ宝の持ち腐れとなるのですが、此処でもう一つの偶然があります。
それが士郎の弓兵として視力と呪い級の腕です。
士郎の視力は昔は二キロまで見えていたが、今では十キロまでなら正確に見える規格外の視力を具えている。魔術を使えば昔も今もその倍の視力を得る事が出来るのです。
ですが魔術を使わなくともケットシーの特性の視力が有るので、このALO内では、士郎ことネームレスは20キロまでなら正確に見る事が可能なのです。
そして士郎の精密射撃の腕は文字通り呪詛の如く、百発百中。
これは生まれ故郷での世界は勿論の事、この世界でも士郎の精密射撃度は全く衰えていないのです。
その証拠に学生時代から中学部、高等部、果ては一般の部まで、出場した全ての弓道大会を総なめしました。
もう一度言いますが、これはチートの様な反則ではありません。
システム外スキルの一つで、ネームレスのそれを名付けた者は“神弓”と呼んでいるのです。
「――――さて、これで終わりだ・・・・・・・・・ん?如何した?」
ケットシー領主のアリシャを取り囲んでいたプーカ二個中隊を、全て射抜き殺して弓を下した時、監視役のケットシー(アバターもプレイヤーも女性)がネームレスを多少色が入った視線で見ていた。
「教官・・・・・・」
「ん?」
「私と結婚してください!」
「なんでさ」
本気か冗談か判別が難しい監視役のケットシーのカミングアウトに、ここ最近ではあまり使わなくなった昔の口癖を思わず呟いてしまうのでした。
-Interlude-
私はケットシー領の領主アリシャ!
ケットシーは魔法力も攻撃力も低いけど、俊敏性や脚力、視力の良さなどが売りの種族よ!
これらを生かしてどの陣営よりも強くしたいけど、攻撃力も魔法力も低くてあまり人気が出ない。
猫の何所がいけないのよ!猫可愛いでしょ!猫好きは皆ケットシーに集まるべきよ―――――と叫びたいけど、言ってもどうせ誰も聞いてくれないし集まらないでしょうね~。
だけど私にも切り札はある!こうなったらアイツを強引に誘い出すしかない!ボーイフレンド(単に昔から付き合いのあるご近所さんと言うだけ)の人外であるアイツを!
なのになんでよ~!私の様な美女(自己申告)のメールを何時もの様にお役所仕事の様な、善処すると返して来るだけで拒否してくるってどういう了見なの~!!
こうなったら直接出向いて色香で惑わしてやる~って思って行ったら、色んな色気漂うポーズをアイツの事務所でやったら、ん?お遊戯?なんて返してきやがった!
ムッキ~!侮辱罪で訴えるわよと脅しても、面倒そうな眼を向けて来るだけ。
こうなったら意地でも落としてやると言う気持ちで色々やったら、アイツが遂に堕ちた(毎日の様に長居されるのが迷惑なだけ)わ~!
事前に私が買っておいたアミュスフィアをALOのソフトを渡してケットシーとしてログインさせたわ!
そして、矢張り私の目に狂いは無かった。あいつの人外ぶりはこのVRMMORPGでこそ相応しかった。あいつ自身の強さに指揮能力の高さ、加えて百戦錬磨を感じさせる戦術眼を駆使させて、たった一週間で以前とは比べ物にならないほどにケットシー領の強化に成功したわ!
けどアイツを迎え入れた事で別の問題が発生してしまった。
アイツの面倒見の良さは異常過ぎて、対象の誰かを悉く誑してこんでいく。
それをケットシー領でも無駄に如何なく発揮したアイツに誑し込まれた領民は半数以上に上って、今や私よりも人気が高い。
別にアイツのクーデターを心配してるんじゃなくて、アイツの影響力が士気に関わってることが問題なの!
アイツ現実が忙しいからって、あれ以来ログインしてくる回数が極端に減って、アイツが来なくなる期間が長くなると半数以上の領民の士気が駄々下がりになる。
こうなったらアイツには毎日ログインしてもらうしかないと催促のメールを送っても、リアルが忙しいとだけしか来ない。
勿論抗議のメールを送っても論破される毎日だ。
来る日もあるけど、毎日来てくれない事に腹が立つわ。
だけどそんな日々も慣れてきたけど不満は堪る一方。
そこで久々に外に散歩しに行こうと、警備の者たちの目を盗んで、側近を2人ほど連れて外出してからプーカの二個中隊と遭遇してしまった!
何でよりにもよってこんな日に!―――――いや、違う。これは不幸な偶然の出会いなんかじゃない。
前々から別のプーカのスパイがいるんじゃないかと噂があったし、多分それだわ!
でもそんな事が今分かっても何の意味も無い。最早これまでと覚悟した時だった。
「え?」
「「へ?」」
「びゃ?」
私に一番近くでランスを突き出して来ていたプーカの左胸と額辺りに、いつの間にかに矢が突き刺さっていた。
射貫かれてる本人すらも自分に何が起きたのかも理解しないまま、ポリゴンの屑となって私の目の前で消えて行った。
突如として起きたこの現実に私は勿論、仲間を突然やられたプーカたちも驚いていたが、彼らにはその暇を与えてはもらえない様だった。
先に消えて行ったプーカと同じように、何所からともなく1人づつに矢が二本飛来していき、先と同じ個所に突き刺さってポリゴンの屑えと還られて行く。
この事態に私の側近は今も驚愕しているが、私には似たような光景を見た事があって、それがデジャヴっていた。
弓道着に身を包んだ赤い髪のボーイフレンドが、そこに居る全ての人の目を集める程の射を見せた瞬間と重なるの。
いつの間にかに番えていた矢が的の中央に中でていた時の光景―――――って、私達を囲っていたプーカたちの最後の一人が射殺されたところで気づいた。気付いてしまった!?
「よりにもよって、アイツも如何して今日此処に来てんのよ!」
何かの嫌がらせなのかと、ムキーッと憤慨していた私に恐る恐る側近の一人が聞いて来た。
「やっぱり助けてくれたのはネームレス特務顧問殿ですか?」
「そうでしょうね!」
「――――と、と言う事は、帰ったら迂闊に抜け出したお説教が待っているんでしょうか?」
「「!!?」」
もう一人の側近の恐怖に引き攣った言葉に、私は別の側近と揃って顔を見合わせて恐怖した。
「「「って、何々!!?」」」
突然私達に一番近い木のオブジェクトに一本の矢が突き刺さった音に過剰反応してしまう。
恐る恐るその矢を見ると、紙が巻き付けてあったので開くと――――。
『早く戻って来いアリシャ・ルー。そこからなら飛べば十分で帰還できるはずだ。遅れた場合、一秒ごとに・・・・・・・・・・・・増える。byネームレス』
「「「何がっ!!?」」」
一番知りたい箇所が書かれてないのが余計に恐ろしいが、遅れれば遅れるだけ自分達が損するだけだと理解した私たち三人は、嘗てない程に我先にと帰還に急ぐのだった。
-Interlude-
「ふーっ」
「お疲れ様です、教官!」
ケットシー領主の執務室から溜息をつくと同時に退出したサラマンダー似のケットシーのネームレスを待っていたのは、彼を慕うケットシーの領民プレイヤー達と、今回この仮想世界の中をエスコートする予定で連れて来たサクラが待っていた。
因みに、アリシャ・ルーと他2人は、ネームレスの説教でのびている。
「すみませんサクラさん。案内する筈がこんな事に巻き込んでしまって」
「いいんですよ。ネーム君は忙しいのですから。それに他の方が親切にしてくれましたので、特に不便には思いませんでしたよ?」
「ありがとうございます。フカヒレにキャビアもありがとな」
ネームレスのお礼に、フカヒレとキャビアと呼ばれた2人のケットシーは、敬礼しながら答える。
「いえ、教官のお知合いですから!」
「教官のご友人の案内が出来て、光栄であります!」
まるで軍隊の中の部下と上官のやり取りのような会話に、ネームレスは天を仰ぐ。
「デスマス口調は要らないと言ってるだろ?あと教官呼ばわりは止せと何度言えば・・・・」
「「すみません特務顧問官閣下ッ!!」」
「――――もう、教官でいい・・・」
さらに呼ばれ方がグレードアップした事に、ネームレスは諦めることにしたようです。
それはそれとして――――。
「――――所で、ネーム君と言うのは渾名ですか?」
「はい。呼びやすいと思って考えたんですけど・・・・・・駄目ですか?」
「いえいえ、サクラさんの好きな呼び方で結構です」
「でしたらネーム君。私に戦闘の稽古を付けてくれませんか?今までのMMORPGと違って、此処ではプレイヤーの力量に左右されるのでしょう?」
「それはそうですね。サクラさんがお望みでしたら付き合いますよ」
ネームレスの承諾に嬉しそうに手を合わせるサクラですが、周囲から抗議?の様な声が飛んでくる。
「酷いですよ、教官!」
「私達にも手取足取り教えて下さい!」
そうだそうだー!とでも言いたいのか、次々にネームレスの稽古を頼みたいと言う声が彼方此方から湧き出て行く。
「お前達にはもう、ビギナーの稽古なんて必要ないだろ?」
「そんなことありません!」
「教官からご教授願いたい事など、まだまだ山の様にありまする!」
これらの声に今度は頭を押さえるネームレス。
そしてサクラをチラ見する。それはこのままでは大人数になりますが如何します?と言う意思表示です。
それをサクラは構いませんよと、送り返す。
エスコート相手自身が了承しているなら是非も無いと、ネームレスは周囲に声を響かせる。
「教えて欲しい奴はついてこい!」
『『『『はい!』』』』
そうしてネームレスとサクラを先頭に、稽古場に向かうのだった。
今回を機に、サクラはALOプレイヤーの中で、半年の間に中堅クラスにまで上り詰めるのでした。
さらにはちょうどその頃――――つまり半年後、SAOがクリアされたと報道され、士郎にとって友人のギルが仮想世界から現実に帰還する日にもなるのでした。
後書き
ALOのアバターが士郎にそっくりな理由は、SAO世界のコピーであるバグの一種と言う事で無理矢理納得してください。
そもそも外見が士郎かエミヤかエミヤ(オルタ)のどれかじゃないと、別人同然だし、想像しにくいでしょう?
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