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虚弱ゲーマーと似非弁護士の物語 -求めたのは力では無く-

作者:昼猫
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第一章 ヒーローズ オブ ヴァーチャル アンド リアリティ
  Act1 英雄は現代を生きる

 
前書き
 《作成、英雄キリトへ》とか言いながら、アインクラッド編は無いし出番も少ないです。
 少なくとも士郎に比べれば。 

 
 「まさかこんな奇跡が起きるなんて、凛に一体何が起きたんだ!?」

 第二魔法の見習いにまで至った友人に、死の淵から助け出された上に平行世界に送られた衛宮士郎は自分の今の状況に信じられないものを感じていた。
 体が小さくなり小学生くらいにまで若返っていた。
 遠坂凛に関わればそう言う事位当然の様にあるだろう。
 だからこそその程度であれば驚きもしないのだが、今の事態は正直予想外にも過ぎるのだ。
 例えば空中に投げ出されるとか、性別が変化してるとか、戦場の真っただ中とか、週末戦争後の廃墟郡とかに転移させられるかと思えば、ファンタジーからも無縁のごくごく普通の現代世界だった。
 どの様な手を使ったのか、住む場所に最低限の生活費に戸籍まで整っている。
 そして半月ほど暮らしているが、結局何も起きる事は無いのだ。

 「如何したんだ凛!?何時もの如くうっかりを起こさないなんてお前らしくないぞ・・・・・・ん?まさかあの凛は偽物か!」

 本人に聞かれれば殴られそうなセリフである。

 「いや、もしかしたらこれから厄介ごとに巻き込まれるのかもしれない。その日まで備えられる様に今まで以上に鍛錬を熟そう」

 士郎は今でも自分の命は軽いモノではあるが、此処までして助けられたからには今までと同じように自分の命を粗末にする生き方はするべきでは無いと判断した。
 今日より、士郎の第二の人生が此処に始まった。


 -Interlude-


 数年後。

 アンドリュー・ギルバート・ミルズ。通称ギル。
 アフリカ系アメリカ人だが、ギルの祖父母が日本をいたく気に入り住み始めた。
 そしてギルは父親と同じくして、ご先祖の育った地とは遠く離れた極東の東京で生まれたため、外見と名前に反して生粋の江戸っ子として育った。
 彼の両親は非常に出来た人間だったため、ギルも相応に義に厚い少年に成長して行った。
 それ故に、中学の仲の良いクラスメイトが数人の不良にカツアゲされている現場に遭遇すれば、助太刀するのも仕方ないと言えた。
 だが――――。

 「おうおう、坊主。勇ましく乱入してきた割りには、もうグロッキーか?」
 「クッ」

 カツアゲされていたクラスメイトを庇う様に、3人の不良の前でファイティングポーズを取り続けるギルは口元の殴られた後を付け乍ら睨み付けていた。

 「ほ~ら?根性見せて見ろ、よっ!」
 「ガッ!」

 下卑た笑い声と共に左頬を殴られたギルは、とうとう庇っていたクラスメイトの壁役を維持できなくなり、踏ん張りも聞かずに無様に倒れ込んだ。
 その壁役が居なくなったことで、元々カツアゲされていた少年が襟元を掴まれながら金を出せと脅迫を受けている。
 ギルは何とかして立ち上がろうとしているが、3人の内の1人に背中を踏まれているので起き上がれずにいる。
 そして此処は薄暗い路地の為、本来の歩道から離れているので誰も気づかないだろう――――いや、中には気づいた通行人もいたが見て見ぬふりでさっさと歩いて行ってしまった。
 ギルはそれに悔しくはあるが失望はしなかった。
 要らぬトラブルに巻き込まれたくないと言う思考こそが常道だ。
 それこそ見知らぬ他人のために体を張る馬鹿などそうはいない。
 だがいい意味でギルの予想を裏切り、赤い髪の少年が1人路地に足を踏み入れて此方に近づいて来たではないか。

 「ん~?また正義の味方面した少年君が来たぞ?」
 「もう、メンドくせぇから、これ見せればビビるだろ?」

 不良の1人が取りだしたのはナイフ――――しかもバタフライナイフでは無く保管時に鞘に納めて保存する構造のシースナイフだ。
 何故そんなバタフライでは無く、そちらなのかはどうでもいい事だ。
 それを赤い髪の少年に向けてチラつかせる不良。

 「おい小僧。これ見て分かるだろ?俺達はコイツから金巻き上げたいだけなんだ。見逃してやるから失せろ。それともお前がコイツらに代わって金くれんのかよ?」

 ギャハハハと、下卑た笑い声が路地に響く。
 その声に胸ぐらを掴まれてる少年は悔しそうに顔を俯かせ、ギルは自分の無力さに腹を立てつづけている。
 しかし赤い髪の少年は彼らの笑い声を無視して言う。

 「御2人を離してくれませんかね?2人は学校(うち)の先輩方なんですよ」
 「あ?俺達の話聞いてたのか?」
 「まあまあ、ちょっとした手品を見せてあげますから」
 「は?って、俺のナイフ!何時の間に!」

 彼我の距離は5メートルも離れていると言うのに、不良の手の中に在ったナイフはいつの間にかに赤い髪の少年の手の中に移っていた。

 「手前ェ!返せよ!それ高」

 不良が自分のナイフを取り返そうと足を踏み出そうとした所でそれは起きた。

 「なっ!?」
 「「は?」」

 ゴキっとした音の後、シースナイフの刃は少年の右手に、そして左手の中には綺麗に刃の部分が無くなっている柄だけが有った。
 張りぼてでも無ければそう簡単にナイフの刃と柄が泣き別れ風に切れると言う事は無い。
 勿論素手であれば尚更だ。
 しかし現に不良たちの前で赤い髪の少年がその信じられない事をやってのけたのだ。
 驚愕の光景に固まる不良たちだが、赤い髪の少年は本番はこれからですと、笑顔で言う。
 刃の部分だけのシースナイフを握った直後、先とは比べ物にはならない擬音が少年の右手の中で鳴り響き、不良たちに見せるように開いた右掌の上にはあら不思議。
 文字通り粉々になった元シースナイフ(刃のみ)の成れの果てがそこに在った。
 その驚愕なんて言葉が生ぬるい事態に、シースナイフの持ち主だった不良Aが思わず尻もちを付き、恐怖によって顔を歪めていた。

 「ヒィイイイイイイイイ!!」
 「何なんだお前、何なんだお前っ!?」
 「クソっ!これならどうだ!」

 胸ぐらを掴んで脅していた不良Cが上着のポケットから拳銃――――いや、拳銃そっくりのガスガンを取り出して赤い髪の少年に向ける。

 「これはな!零距離なら一昔前程度のテレビのディスプレイの強度程度なら穴を空けられるんだぜっ!これ喰らって後悔しやがれ化けモンがっ!」

 恐れながらも不良Cは赤い髪の少年に向けて撃ち放つ。
 それを少年は自分の顔に当たる前に、左手でガスガンから放たれたBB弾を難なくつかみ取った。

 「なっ・・・!クソッ、クソッ!」

 またも信じがたい現実に驚いたが、直に復帰して赤い髪の少年に向けてガスガンを撃っていく。
 勿論赤い髪の少年は、自分に当たる前に全てのBB弾を左手で全て掴みとっていく。
 そうして残ったのは、もう空になったにも拘らず赤い髪の少年に向けてエアガンをひたすら構えて引き金を引き続けている顔を真っ青に染めている不良Cと、恐怖におびえる不良A・B。そして信じ難くはあるが驚きから抜け出せないでいるギルと脅されていた少年と今この場に主導権を取っていると言っても過言では無い笑顔のままの赤い髪の少年。
 そんな状況で笑顔を取り続けている赤い髪の少年に不良たちは全員腰が引けている。

 「それで如何ですかね?手品も見せましたし、そろそろ先輩方を解放してくれると嬉しいんですが」

 言葉と共に赤い髪の少年の足が一歩前へ踏み出すと、不良たちは堪らず怯えて逃げ出そうとする。

 「構いません!構いませんから助けてくださ~い!」
 「待ってくれ!待ってくれよ~!?」
 「ヒィ!ヒィ!」

 路地の奥に向かって我先にと逃げ出す不良たち。
 しかし一番後ろの不良Bに士郎が肩を掴んで待ったを掛ける。

 「ヒィッ!!肩掴まっ、折らないで!!」
 「怯えなくていいですよ。単にこれを回収してもらおうと思いまして」

 赤い髪の少年が渡したのはビニール袋。
 恐る恐る除くと、ビニール袋の中身は粉々に慣れ果てたシースナイフの成れの果てと刃の無い柄。
 それと多くのBB弾だった。

 「きちんと持って帰ってきちんと分別してくださいね。――――さもなければ」

 最後の言葉にドスを聞かせる赤い髪の少年の態度に、今まで以上に甲高い悲鳴を響かせながら去って行くB。
 それを見送った赤い髪の少年は、一番近くで倒れ込んでいるギルにまず手を差し伸べた。

 「立てますか?」

 それがアンドリュー・ギルバート・ミルズと赤い髪の少年――――衛宮士郎の出会いだった。


 -Interlude-


 「――――懐かしいよなぁ。お前と過ごした日々で、後にも先にもあの時が一番印象的だったぜ?」

 此処は都内にある、とある居酒屋。
 そこを一晩貸しきって、結婚式に呼んだ久しぶりに集まった級友たちとの二次会を楽しんでいる最中だ。
 誰の結婚式かだと?勿論、アンドリュー・ギルバート・ミルズの結婚式に決まっている。
 そして主役の1人であるギルは、カウンター席で一番の親友である衛宮士郎と飲み交わしていた。

 「そんな印象的な事した覚えが無いんだが?」
 「あのなぁ・・・。普通の奴はナイフを素手でたたっ斬ったり砕いたり出来ねぇんだよ。そもそも誰が同じ中学の先輩だよ!お前あの時小学6年だったろ?」

 そう、実は士郎とギルの歳の差は二歳では無く三歳だったのだ。

 「・・・・・・俺は一応、自分の老け顔には自覚があったからな。あの顔つきで小学生は通らないと思ったんだよ」

 士郎は昔は童顔だった自分とこの世界での自分を比べて、何とも言えない気分のまま心の中で溜息をつく。
 だがギルは相変わらず自己評価が低すぎる、3つ年下の親友の言葉に溜息をつく。

 「まったくお前は・・・」
 「ん?」
 「いや、今まで何度も言ってきたんだ。今また同じこと繰り返しても意味なんてねぇだろ」

 何なんだ?と何時もの様な言葉を黙殺したギルに丁度、酒に酔ってバカ騒ぎしている友人から誘いがあった。

 「ま、たまにはいいか・・・。行ってくるがお前は如何だ?」
 「いや、遠慮させてもらう」
 「チッ」

 舌打ちしながらギルは酔っ払いの友人達と合流する。
 それを見送る士郎は誰にも聞かれない声で1人呟いた。

 「この世界には微かにサーヴァントの存在を感じたのに、結局十数年何も起きなかったな」

 と――――。 
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