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もう一人の八神

作者:リリック
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新暦79年
異世界旅行 ~カルナージ~
  memory:34 温泉パニック

-side other-

なのは、フェイトを除く大人組と子供たちは茜色に染まった夕空の下、ロッジへと戻っていた。

「あれからずっとやってたんだ」

「あははー。ちょっと気合入っちゃって…つい」

ノーヴェに誘われて大人組の訓練を見学していた子供たち。
しかし、それを見ているうちに体がうずうずしてきたヴィヴィオとアインハルトが見学を途中で抜けて二人でついさっきまで練習をしていたのだ。

わいわいと話しているとあっという間にロッジについた。

「ルーテシアお帰り~。みんなもお帰りなさーい」

「ただいま、ママ」

「メガーヌさん、ユーリどこにいるか知りませんか?」

「ユーリ君たちなら夕食の準備をしてもらってるわ」

「……たち?」

メガーヌはこれ以上はなにも言わず、うふふと笑うだけ。
全員?を浮かべながらロッジに入った。
その中で目にしたのは、

「~~~♪」

鼻歌を歌いながら料理を作る悠莉と、

「んしょ、んしょ」

悠莉の隣で手伝うイクスヴェリアだった。

「「「「イクス!?」」」」

ヴィヴィオ、コロナ、リオ、スバルが声を上げ、その他の顔も驚きに満ちていた。

「? ……あ、お帰りなさい」

「えっ? えっ? どういうこと?」

混乱する面々を見てやっぱりかと溜め息を吐く悠莉。

「ユー、やっぱりってどういうこと?」

「本人曰く、メガーヌさんには伝えてたみたいなんだけど…この様子じゃメガーヌさんは黙ってたみたいだね」

「ママ……。ん? ってことはユーも知ってたんだよね? なんで教えてくれなかったの?」

「そっちの方が面白いだろ。ルーだって同じ立場だったらするでしょ?」

「……否定できないわね」

イクスヴェリアが事情を伝えるとヴィヴィオたちは納得した様子で笑顔で騒いでいた。

「話も終わったみたいね。お楽しみのホテルアルピーノ名物、天然温泉大浴場に集合! ユーとイクスも行くでしょ?」

「はい。楽しみです」

イクスヴェリアはすぐに応えたが、悠莉はメガーヌを見た。

「料理なら大丈夫。先にみんなとお風呂に行ってきていいわよ」

「……それじゃあお言葉に甘えて」

「それじゃあレッツゴー!」

そんなこんなで各自風呂道具及び着替え一式を抱えて大浴場へと向かった。
到着すると定番ともいえる男湯女湯と書かれた暖簾が掛けられていた。

それに倣って男女に分かれて暖簾をくぐった。
男湯に三人、女湯に九人が。

―――五秒。

―――十秒。

―――三十秒。

『……て、ちょっと待ったーーー!!』

その声は男湯女湯の両方から響いた。

男湯からは悠莉とイクスヴェリアが、女湯からはヴィヴィオとノーヴェとティアナが出てきた。

「イクスはこっちじゃなくてあっち!」

「? どうしてです?」

「どうしてじゃないよ!? イクスは女の子なんだから女湯に入るの!」

「別に悠莉と一緒なら気にしませんよ? いつも一緒に入ってますから」

「ユユユーリと、いつも、いっしょに……」

「……ユーリ、アンタ……」

ヴィヴィオは何を想像したのか顔を赤く染めて俯き、ティアナとノーヴェは呆れたような目で悠莉に視線を向けた。

「……言っておきますけどいつもじゃないです。というかイクスが勝手に鍵を開けて乱入してくるんですよ。その上姉さんがふざけてやれやれ押せ押せと言わんばかりに……」

「……あぁ」

悠莉がはやての名前を挙げると、その様子が容易に浮かんだようで、悠莉を見る視線が生ぬるいものにかわった。

それを受けて悠莉は疲れたように重く溜め息を吐いた。

「とにかくだ、イクスはアタシたちと一緒にこっちだ」

「ヤ、です」

そっぽ向くイクスヴェリアにどうしたものかと頭を悩ます大人二人。

「悠莉」

不意にイクスヴェリアが悠莉の服をちょいちょいと引っ張った。

「なに?」

それから悠莉にしゃがむように言って、ないしょ話をするように耳元で何かを言った。

途中、悠莉から「う~ん」や「でもな」と悩むような聞こえたかと思うと「あー……」やら「はぁ……」といった諦めに変わった。

「それじゃあ決まりですね。ヴィヴィオ、ノーヴェ、ティアナ早くお風呂に入りましょう♪」

さっきまでとはうってかわって嬉々とした表情で女湯へと向かって行った。

「ユーリ…イクスとなに話したんだ?」

「些細なことですよ」

-side end-

-side 悠莉-

「ふぅ、やっぱり温泉はいい」

「そうだね。訓練後だから余計に」

イクスをティアナさんたちに引き渡して男湯にエリオと二人で温泉につかる。

「それにしても本当にびっくりしたよ。ごく当たり前にイクスが男湯に入ってきたんだから」

「普段は自重してるんだけどね。最初の頃なんて……はぁ」

「ユウも苦労してるんだね」

「あはは、一応はね。でも今回のは私が原因になるのかな?」

「というと?」

エリオに苦笑いで返しす。

「最近イクスに構ってあげられなかったんだ。ほら、学校の試験明けに来るって言ったでしょ? 試験勉強で忙しくって……。イクスもそれがわかってたみたいだから気を使ってくれてたんだ」

「へぇ~」

「だからその反動っていうのか? 抑えていたのか爆発していつも以上になったのかと」

「そっか。とろでさ、学校ってどんな感じ?」

「……ああ、エリオやキャロって同年代の人が集まる学校にかよらず仕事だっけ。当たり前すぎてすっかり忘れてた。そだね……」

最近の出来事や友達のこと。
あの先生はダメだの、この授業は面白いなど、いろいろ話した。
それに、エリオからは仕事場での様子を聞いたりもした。

「ふえっ!?」

「ひゃっ!!」

「はわわっ!」

「きゃあっ!」

「~~っ!!」

「あっ!?」

「ふえっ!?」

「うわっ!!」

「きゃっ!!」

突然柵の向こうにある女湯から短く悲鳴やあわてた声が聞こえ出した。

「向こう、なんか騒がしくなったけどどうしたんだろ?」

「ホント。まあ、ティアナさんとか大人組いるし、大抵のことには対処できるだろうから放っておいてもいいんじゃない?」

「そうなのかな?」

「んー、それならイクスに聞いてみるか。≪イクスー、そっちの方急に騒がしくなってるみたいだけど、なにかあった?≫」

≪ゆ、悠莉ですか!?≫

驚いたような、恥ずかしそうな返事が聞こえた。
まずは落ち着くように伝えた。

≪……落ち着いた? そっちで何があった?≫

≪は、はい。大丈夫です。えっとですね、多分ですけどセインからセクハラを……≫

≪セインが? それに多分って……≫

≪姿を見たわけではないので。あと、悠莉と私が部屋に荷物持っていった時に何となくウヌースを置いてたんです≫

≪あの時に?≫

≪はい。その後にセインが言ってたんです。温泉サプライズをしかけると≫

セインだしありえるね。
遊ぶみんなが羨ましいとかなんとかで。
まあ、やり過ぎなければ構わないと思うし。

「ユウ、なんだって?」

「どうやらセインのイタズラというかセクハラにあってるみた―――「やーーーっ!」い?」

今の声はリオ? それにしても若干違うような……

≪今のってリオ?≫

≪セインがリオの…その、胸に……≫

≪あー……うん。もういいや≫

≪それでリオが涙目で大人モードになってセインに空中コンボを決めてセインがちゅどーん≫

≪御愁傷様、そう言いたいけど……少しやり過ぎかな≫

冗談なイタズラといえど相手を、それも年下の子を泣かすのはちょっと、ね。

≪なので私もセインにお説教をしようかと≫

≪そっか。セインの自業自得とはいえ…やり過ぎないでね≫

そういって湯から上がる。

「もう上がる?」

「向こうはまだまだ時間がかかりそうだし。あとは、料理を途中でメガーヌさんに全部任せてしまったから手伝おうと思って」

「そうだね。僕も手伝うよ」

エリオと浴場から出た。
その間際、

「イクス? ちょっと怖いんですけど……!?」

「少しは反省してください! ―――アンブラ! 満漢全席の刑!」

「影ウサギ? 二つ折り!? さらに四つ折りって!? ちょ、ギブギブ!」

「アーンド、君が泣くまでこちょこちょをやめないの刑!」

そんなやり取りやセインの笑いや悲鳴が聞こえた。

-side end- 
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