もう一人の八神
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新暦79年
覇王襲来
memory:27 練習のち、襲撃者
-side other-
中央第4公民館にて。
ヴィヴィオ、コロナ、リオ、イクスヴェリアは四人そろって更衣室で練習着に着替え、練習場へ着いたころにはすでに着替えた悠莉と私服姿のノーヴェとウェンディが待っていた。
「おしっ、全員来たな。そんじゃ、体を解してからはじめるぞ」
「「「「はーーいっ!」」」」
ノーヴェに元気よく返事を返して各々ストレッチを行った。
それを終えるとヴィヴィオとリオ、コロナとイクスヴェリアの二人組に分かれて組手を始めた。
「へーー! なかなかいっちょまえっスねぇ」
「だろ?」
ウェンディはヴィヴィオたちに関心して感想をもらした。
ストライクアーツは、ミッドチルダで最も競技人口の多い格闘技であり、広義では、『打撃による徒手格闘技術』の総称でもある。
「にしてもイクスの体捌き、ストライクアーツのそれと少し違うようだが……あれは旦那たちが教えているものなのか?」
「違いますよ。ベースは八神流のですけど、それに地球の武術の技術の一つである化勁というものを掛け合わせたもので、私が教えたんですよ」
「そりゃまた何でっスか」
「護身術の一環。ある程度年齢平均の体力や筋力がついてきたと言っても女の子だからね」
「……ああ、なるほど」
「それに化勁というのは相手の力を利用すること、綺麗に受け流すことが基本ですから今のイクスにぴったりと思って。そしたら……」
「気付いたころには八神流のストライクアーツと混ざり合っていた、と」
苦笑いで悠莉は頷いた。
その証拠にゆっくりとはいえコロナの拳や蹴りを防いでもインパクト音がほとんど聞こえることがない。
更に防御から攻撃への切り替えがスムーズで、多少カウンター気味になっている。
「教えた側としては嬉しい誤算なんですけどね」
「でもヴィヴィオ、勉強も運動もなんでもできてすごいよねぇー」
「ぜーんぜん!まだなんにもできないよ」
会話をしながらも手を休めない二人。
コロナとイクスヴェリアもヴィヴィオの言葉に耳を傾けながらも手を、足を動かす。
「自分が何をしたいのか、何ができるのかもよくわからないし。だから今はいろいろやってみてるの」
「そっか」
「リオとコロナ、それにイクスといろんな事、一緒にできたら嬉しいな」
笑みを浮かべて素直な気持ちを伝えるヴィヴィオ。
「いいね! 一緒にやってこう!」
リオも笑顔で返し、コロナとイクスヴェリアも頷いた。
「さて、あたしらもやっか」
ノーヴェの声が聞こえて四人は手を止めると悠莉とノーヴェが練習場の一角を使おうとしていた。
「すみません、ここ使わせてもらいまーす」
「失礼します」
それを聞いた練習客はざわめきながらもスペースを開けた。
「何か二人とも注目されてない?」
「いつもノーヴェさんとヴィヴィオがすごい組み手やってたから」
「初めて私以外とやるから周りの人も興味があるんだと思う」
周りのざわめきの中、悠莉とノーヴェは構えた。
「やっぱりプロテクタ付けないとだめですか?」
「当たり前だ。練習とはいえ怪我させたり、したりするわけにはいかないだろ。それにいつも道場でもしてるだろ?」
「まあ、そうなんですけどね」
苦笑いをしながらプロテクターのチェックをする。
「まずは軽くでいいですよね」
「おうよ!」
緊迫した空気が練習場に伝わったのか静寂が訪れた。
誰もが音を出さず、シィ…ンと静まり返る空気を破ったのはノーヴェの左足から放たれたハイキックだった。
悠莉は顔の右側面を捕らえようとするハイキックを右腕で化勁を行い、受け流す。
ただ、完全に逸らすことができなかったために力に圧されてよろけた。
それをノーヴェが見逃すわけもなく、気付けば目下に拳が迫ってきていた……アッパーカットだ。
しかし慌てることなく体勢を整え、上半身を逸らして難なく避け、空いたボディに拳を撃ち込む。
そんな悠莉とノーヴェの攻防が五分程すると急に弛んだ。
「ノーヴェさん、そろそろギア上げます」
「ああ」
「いきます」
その言葉と同時に一足一蹴の間へと歩法で飛び込んだ。
さっきのお返しといわんばかりの回し蹴りを繰り出す。
「クッ」
それをガードされても、着地後軸足変えて勢いそのままガードされようが撃ち抜く。
「すっごーーーいっ!!」
「ユーリさん、やっぱりストライクアーツもすごかったんだ……」
「だって悠兄ぃも道場でみんなに教えてるもん」
目を輝かせ興奮するヴィヴィオ。
驚くコロナに対して自分のことかのように無い胸を張って誇らしげにするリオ。
「それにしても二人ともやるっスね!」
「ええ」
イクスヴェリアもどこか誇らしげに相づちを打った。
「うぅ〜〜〜っ! このあと悠兄ぃに稽古付けても〜らおっと!!」
「あっ! ずっるい! わたしもノーヴェの次にやってもらおうと思ってるのに!」
「コロナはどうなんです?」
「わたしもやってみたいな。こっちの方はあまりしてもらったことないし」
四人とも悠莉とノーヴェを見て、うずうずしてきたようだ。
「それでは四人で勝負ですね」
「だね!」
「文句なしの!」
「一発勝負!」
それぞれが片手に拳をつくり、強く握って溜めていた。
「「「「じゃんけん、ぽん!」」」」
そして、その掛け声とともに拳を解き放った。
-side end-
-side 悠莉-
「今日も楽しかったねー」
「そうだね」
「でも結局誰も悠兄ぃに勝てなかったよね」
「大人モードになったらって思ってたのにー」
陽が沈み、街に溢れる光が夜道を照らす中、そう楽しそうに先ほどの練習を振り替える三人の後をイクスを背負って歩く。
「今日はヴィヴィオたちと一緒だったから張り切ったの?」
「……はい。悠莉、すみません」
本当に申し訳なさそうに謝るイクス。
「たまにだったらこういうのもいいよ。一生懸命やるのって大事なことなんだし。あ、だからといって毎度毎度はダメだからね」
「悠莉と一緒の時に張り切って、疲れたら今みたいにおんぶで連れて帰ってもらいます」
「なんでそうなる」
「……あぅ」
呆れながらイクスの頭を小突く。
それにしてもヴィヴィオたちのペースはイクスには辛かったみたいだね。
ほぼ毎日体を動かして体力はついてきたとはいえ、まだ半年くらいだ。
それくらいじゃまだまだヴィヴィオ達には追いつけないよね。
「悪ィ、これから救助隊に装備調整に行かなきゃなんねーんだわ、チビ達のこと頼めるか?」
「あ、了解っス」
「ノーヴェ、これからお仕事ですか?」
「そういうこった」
「お疲れ様です。……そういえばチンクさんから聞いてると思いますけど……」
「ま、大丈夫だろ。もし遭遇しても何とかなるさ。じゃ、またな」
「「「おつかれさまでしたー!」」」
ノーヴェさんは救助隊へと向かっていった。
「悠莉? どうかしました?」
「んー?」
「その…ノーヴェの後姿をジッと見て」
「……何でもないよ。さて、私たちも行こうか」
イクスはノーヴェさんをと言っていたけど、実際のところそうじゃない。
私が視ていたものはもっとその先の……。
……ノーヴェさんなら上手くやってくれそうなんだけど……。
「ただいまー」
「ただいま帰りました」
「二人ともおっかえりー……って、イクスどないしたん!?」
「ヴィヴィオたちのペースでやってたらバテたみたい」
出迎えてくれたエプロン姿の姉さんに事情を伝えると、
「そりゃまた……。で、それはそうとどないやったんや? 楽しかったか?」
「ええ、もちろん楽しかったです。ヴィヴィオたちとも久しぶりだったので」
「そりゃよかったなぁ」
「とはいえ、張り切り過ぎた結果がこれなんだけどね」
背負うイクスを下ろす。
「でも、あんま無理はせんようにな。無理して体壊したらみんな心配するんやから」
「わかりました」
その返事に姉さんは満足そうに頷いた。
そしてお風呂が沸いているからとすすめられた。
「それなら……悠莉、一緒に「一人で入りなよ」……むぅ、悠莉ケチです」
「ケチで結構」
「まぁまぁ、そう言わんで入ってやったらええやん」
と、イクスの肩を持つ姉さん。
そうは言っても年を考えろと言いたくなる。
「それに今日のイクスは疲れきっとるんやろ? もしかしたら湯船で溺れてしまうかもしれへんやろ」
「それなら姉さんが……」
「私は料理中や」
「だったら……」
「シャマルには切れてた調味料買ってきてもろてる。リインはそのお供や。シグナムとアギト、ヴィータはまだ帰ってない。……あ、後から入ればいいっていうのは無しや。イクスは女の子なんやから」
……はぁ、先回りされたし。
結局は諦めてイクスと一緒に入れと? これじゃあいつも通りじゃんよ。
でもまあ……はぁ。
「悠莉、早く行きますよ」
「……はいよ」
「ほな、ごゆっくり~」
姉さんに手を振られ、ドナドナのごとくイクスに手を引かれて行った。
……ところでイクス、お前は本当に疲れているのか?
-side end-
-side other-
悠莉が風呂から解放されたであろう頃と同時刻。
ノーヴェは救助隊の仕事を終え、帰路いついた。
今日一日のことを思い返しながら歩いていると、不意に感じた。
それと同時に声が聞こえた。
「―――ストライクアーツ有段者、ノーヴェ・ナカジマさんとお見受けします」
警戒を強め、バッと振り返る。
夜の闇を照らす街灯の上に一人の女性が佇み、見下ろしていた。
「貴方にいくつか伺いたい事と……確かめたい事が」
-side end-
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