ソードアートオンライン 孤独者と闇裂く対剣
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ビーター
第一章
二十五層 ボス ケルベロス
「ジン!ナギ!行くぞ!」
「「はい!」」
俺は武器を腰に掛け、仲間の二人を呼んだ。
力強く返事をしたのは大剣使いのジン、そして曲刀使いのナギだ。
しかし、表情には僅かな不安が滲み出している。無理もない。なぜなら今日は、アインクラッドの、第一クォーターポイントだからだ。
「あの、死なないで下さいね?」
心配そうに声を掛けてくる3人の少女の瞳には、僅かに涙が溜まっている。
この子らは先週助けた少女たちだ。
名前はボタン、アズキ、クルミだ。本来はここにあと二人いたらしいのだが、ラフコフの男に殺されたらしい。
「大丈夫だよ。もう君たちを独りになんてさせない。」
3人の頭を順繰りに撫でてやる。にへら、と顔から緊張がほどけている。
「「「いってらっしゃい!」」」
「「「行ってきます!」」」
3人の声に応えるように、俺たち三人は踏み出した。
「皆!準備は良いか!」
一人の男の声が響く。
「全員、死力を尽くして戦え!誰一人失わず、この層を突破する!先の打ち合わせ通り、パーティを組んでくれ!」
その合図で全員が一斉にパーティを組む。俺はキリトとユウキ、ラン、ジン、そしてナギだ。ちなみにユキもいる。
「よし!行くぞ!」
扉が開かれ、全軍が流れるように押し入る。
「戦闘準備!」
それぞれが得物を手にもち、構えをとる。
刹那、周囲のポリゴンの色が変化する。
ボスPOPの前兆だ。
「GAO!!!!」
鈍い咆哮と共に三つ首の牙狼がPOPする。
ケルベロスか…
「大層な名前つけんじゃねぇの…!」
「行くぞ!」
俺の合図と共に雪が先陣を切る。
獣が使える突進系統のスキル、<流星光底>。
コンマ数秒でボスの目の前にたどり着き、跳躍。
両の爪で腹を切り裂き、戦線から撤退していく。
「俺たちも行くぞ!」
まず、ラグナロクの3人が動きだし、ボスを翻弄していく。
「行くぞ!3、2、1!」
「「「はぁぁぁぁぁっ!」」」
3人がほぼ同時にエグザクト・オンスロートを放つ。
すると、ケルベロスの上体が大きく浮く。
「「「スイッチ!」」」
他の3人が前衛に入り、連携を仕掛けていく。
「GAO!!!!」
ケルベロスが喘ぐ様な声を出すが、それに構わず3人は上位スキルを繰り出していく。
短剣スキル、ミラージュ・ファング。
片手剣スキル、シャープネイル。
同じく片手剣スキル、バーチカルスクエア。
合計13の光亡がケルベロスを切り裂く。
ゲージがぐんぐんと減少し、残り一本半になり、ケルベロスが大きく後ろに退き、遠吠えをする。
不意に、「今なら行けるで!フルアタックや!」
と声が響く。ALS、アインクラッド解放軍の遊撃隊隊長、キバオウの声だ。
「おおおおおっ!」
彼の声で多くの隊員が突撃する。しかし、その判断は間違いだった。
「ガァァァァァァゥ!」
ボスが一際大きく吼え、纏う雰囲気が豹変する。
体力ゲージが満タンまで回復し、名前までもが変わる。
ヘル・ビースト…地獄の獣だ。
「まずい……!」
俺たちはすぐに後ろに退き、防御姿勢をとる。
その直後、
「ギャゥァァァァァァ!!!!!」
叫びが響く。
余りの威圧と音量に全員がたじろぎ、大きな隙が生まれる。そこを見逃さぬよう、ヘル・ビーストは追撃を仕掛ける。鋭利な鉤爪でキバオウを除くALSの隊員のほぼすべてを切り裂いた。一瞬で体力が減少し、消滅してしまう。フルレイドの約半数に当たる20名を一撃で失ったことにより、レイド内に大きな波乱が広がる。
「くそっ!転移!アールイー!」
「転移!」
「転移!」
半数で勝てるわけがない、そう考えたものたちが離脱を始めた。
どうする……せめてキリトとユウキたちだけでも逃がして……
「ぁぁぁぁ……ぅあ……」
不意にユウキのかすれた声が聞こえ、後ろを振り向く。
そこにはいつもの彼女の姿はなく、恐怖にうちひしがれ、立ち竦む少女の姿だった。
「リーダー!危ない!」
「ッ!?」
ナギの声で我に帰り、ヘル・ビーストの攻撃の直撃を避ける。
一瞬で多くのプレイヤーを殺した鉤爪の威力は、かすっただけでhpの3割を削られたことで嫌と言うほど理解できた。
「ハァッ!」
「ずぉりゃ!」
不意に、二人の男の声が響き、ヘル・ビーストがそちらを振り向く。
「エギルさん!ヒースクリフさん!」
そこには大きな得物ときらびやかな鎧を纏った二人がいた。
「こいつは俺とヒースクリフで引き付ける。ツバキは回復をしろ。」
「ああ。」
言われるがままに俺はポーションをがぶ飲みする。
決してうまいわけでもないが、自身にデバフ消去とバフを追加してくれるありがたいポーションだ。因みに、体力は全快。
「よし……!?」
体を自分以外の重さが襲う。
「やだ……行かないで……椿まで……死んじゃ、やだ……」
切実な訴えだった。
幼い頃から育ってきた家族同然の存在を失いたくない、
という、彼女の素直な気持ちだった。
痛いほど理解できる。俺にとっても、ユウキやランは大切な存在だ。でも、俺は所詮妾の子。両親が真っ当な生活をしていなければ誰にも巡り会うことのなかった、幻の命。仲間を守って果てるのなら、文句はない。
「退け、ユウキ。足手まといだ。」
俺はユウキを乱暴に振りほどき、キリトに告げる。
「お前は逃げろ。ここからは少人数の方がいい。あと_________」
俺の言葉を聞いたキリトは力強く頷き、ユウキとランの手を引いた。
「転移!始まりの町!」
素直に引き受けてくれた親友の優しさに安堵しつつ、俺は剣の重さを確かめるように握り直す。
残ったのは僅か9人。どれだけ時間が掛かるか……
「一か八かだ!スキルフル活用で行くぞ!」
「応!」
コレから始まるのは、血みどろの生存戦争だ。
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