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真田十勇士

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巻ノ七十一 危惧その三

「そして太閤様もな」
「そのことはご承知で」
「それで、ですな」
「関東に転封とされ」
「今も大坂に留めておられますな」
「天下を望んだことがあるのは事実じゃ」
 家康は正純と崇伝に話した。
「確かにな、しかし」
「今は、ですな」
「そのお考えは」
「消しておった、関東のこともあるし関白様が天下人として無事に治められる」
 だからこそというのだ。
「その考えは消しておったが」
「しかしです」
 正純は家康にあえて言った。
「その関白様がどうかなれば」
「次に天下を治められるのはか」
「殿だけです」
 こう己の主に言うのだった。
「この天下に」
「だからか」
「はい、その時は」
「わしに天下人になれというか」
「殿のお考え次第です」
「その言葉は聞いた、しかしじゃ」 
 それでもと言う家康だった。
「他言は無用、わしの胸の中に留めておいてじゃ」
「そしてですか」
「わしは関白様をお護りする」
 こう言うのだった。
「必ずな」
「そうされますか」
「天下を乱す者は天下人の器ではない」
「その逆ですな」
「天下を安らかにする者じゃ」
「例え戦があろうとも」
「無論野心はある」
 家康はこれの存在は否定しなかった。
「天下を目指そうとするな、しかしな」
「それでもですな」
「そうじゃ、天下人になるには」
 その為にはというのだ。
「野心も必要じゃ、しかし野心があろうとも」
「この天下を」
 正純も言う。
「安らかにする」
「それが肝心なのじゃ」
「だから乱すのではなく」
「所詮人の場所は限られておる」
 家康は遠い目になりだ、正純と崇伝にこうも言った。
「起きて半畳、寝て一畳」
「人がおる場所は」
「それだけですか」
「天下を取っても己の場所はそれだけじゃ」
 こう言うのだった。
「その後はな」
「天下万民のもの」
「天下人になろうとも」
「そういうものじゃ、野心だけで天下を取っても」
 乱してまでだ、そうしてもというのだ。
「続かぬ」
「到底ですな」
「天下を手に入れても」
「野心だけの者は」
「権勢だけ求める者は」
「わしはそれだけで天下を取るつもりはない」
 あくまでだ、家康はこのことは断った。
「天下を取って何をするかじゃ」
「では殿は」
 崇伝はここまで語った家康にあえて問うた。 
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