トシサダ戦国浪漫奇譚
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第一章 天下統一編
第六話 忙しい休日
今日は休みだ。昨日は日付が変わる前に帰ることができた。だが、屋敷に帰宅した時には既に日付が変わっていた。
「同僚と同じ時間に帰りたい」
俺は誰もいない書斎で机に向かいながら呟いた。昨日も俺だけ石田三成と二人で残業だった。まだ、石田三成の部下になって二日目だが、これがこれからも続くと考えると憂鬱になる。
石田三成は息抜きということを知らない。そして、それを他人にも押しつけてくるところがある。生真面目もあそこまで行くと悪癖と言える。
今朝方に俺の知行地の名主が俺に挨拶しにやってきた。俺は名主達に北条征伐による軍役の話を彼らに伝え、足軽と武家奉公人を徴発する命令書を彼らに渡した。武家奉公人とは後方支援を行う者達のことだ。戦場では戦闘を行う者達だけなく、兵糧等の物資を運ぶ者達も必要になるらしい。これは石田三成から貰った軍役の資料に書かれていた。
名主達は俺の申しつけに不服は口にしなかったが、彼らの表情は冴えなかった。彼らにしてみれば戦場に男手を取られることは歓迎することじゃないだろう。俺も戦場に行くなんて気が進まない。でも、行くしかない。
やる気の無い名主達に飴を出すことにした。俺は軍役に積極的に協力した村の税率は六公四民に下げ、それに加え足軽・武家奉公人に乱暴取り(略奪行為)を禁止する代わりに戦後に一時金を支払うと条件を出した。給金の額は足軽には米二俵半、武家奉公人は米一俵と定めた。これは相場の年俸の半分に相当する。
俺の提案に一部の名主達は表情を輝かせ乗り気になってきた。この話の半分は俺の北条征伐の成果次第によっては空手形になるかもしれない。その時には何か別のことで報いようと思う。
名主達が屋敷を去ると俺はある人物に手紙を書いていた。昼から津田宗凡が来るという話なので早く書き上げる必要がある。手紙の宛先は興福寺宝蔵院の院主、胤舜だ。胤舜に人材を紹介してもらうためだ。
「人がいない。伝手がない」
元服したての俺に人材を集める伝手は限られている。小出家と木下家をあたるくらいしかない。だが、それでは大した人材は手に入らないだろう。小出家と木下家はお世辞にも実力で大名になった訳じゃないと思う。秀吉の縁戚ということで引き立てられたと考えている。その証拠に大名にしては小身だからな。それに後世に伝えられるような武勇に優れた武士は家臣にいない。
俺は北条征伐で秀吉の期待に応える必要がある。そうしないと俺は元服早々に失脚する可能性がある。そして、永遠に石田三成の部下になる可能性が高い。
「治部の部下。想像するだけで身震いする」
俺は自分が斬首され三条河原に晒される未来を想像し身震いした。絶対に回避する。まずは石田三成から距離を取るために手柄を上げる必要がある。
俺は考えことをしながら手紙を書いていたため文字を書き損じた。俺は書きかけの手紙を恨めしそうにしばらく凝視していた。
「書き直すか」
俺は諦めて手紙を書き直すことにした。胤舜への手紙には俺が大名になったこと。それで人手が足りない窮状を切々と訴えた。胤舜とは半年の知り合いであるため、この手紙に答えてくれるか半信半疑である。でも、しないよりましだと思った。
当初の予定より人材集めが難航しそうだ。あと二月もない。一ヶ月中には人材を集める必要がある。足軽と武家奉公人は知行地で徴発すればどうにでもなる。問題は侍だ。単純に計算して四十人近い侍を仕官させる必要がある。俺は叔父・秀清に国家老として俺の領地を管理して貰おうと思っていた。だから、それ以外で四十人かき集める必要がある。だが、単に侍を集めればいいというものじゃない。
備の編成で騎馬隊に侍二十人が一番難しい。馬に乗れるだけで優れた技能と言える。かく言う俺は馬に乗れる。
次に鉄砲組の配属させる鉄砲足軽と、それを指揮する鉄砲大将をどう揃えるか。最悪、弓組にしてしまえばと思うが弓の技能もありふれたものじゃない。しっかり足軽に弓の訓練をさせずに戦場投入など常識的にしないだろう。時間があれば何とかなったと思うが時間は残り少ない。それに比べ鉄砲なら熟練度の差はあるが、短い期間で見た目だけでも鉄砲組の体裁は整えることができるはずだ。
旗組、長柄組、太鼓・貝、小荷駄は何とかなるだろう。軍監・目付は難しいところだが今は考えないでおこう。
俺はぶつぶつと独り言を言いながら手紙を書いていた。最後に俺はある有名な言葉を書き記した。「唯才是挙」と書いた。これは三国志の英雄、曹操が人材を求める時に書いた言葉だ。漢籍を読める胤舜なら、俺の気持ちを理解できるはずだ。はっきりいって、今の俺は才能があればどんな出自の者でも雇う。
「殿様、天王寺屋の津田様が参っておられます」
俺が手紙を書き終えた頃、リクが俺に襖越しに声をかけてきた。津田宗凡がやってきたのか。
「リク、奥座敷に通しておいてくれ。それと半九郎を呼んでくれ」
リクは俺に頭を下げると去って行った。俺は胤舜宛の手紙を紙で包み封し、秀清宛の手紙を書いていると半九郎がやってきた。
「殿様、御用でしょうか?」
「半九郎、もう少し待っていてくれ」
俺は手紙を書き終えるとそれを折り畳んだ。
「秀清叔父上のことは承知しているな」
「承知しております」
「この手紙を秀清叔父上に渡して目を通して貰ってくれ。それと、その時にこの文を一緒に渡して欲しい」
「かしこまりました」
半九郎は俺から文を受け取ると立ち去った。その姿を俺を見届けると奥座敷に移動した。津田宗凡を待たせるはずだから、俺は急ぎ足で向かった。
「津田殿、お待たせして申し訳ありませんでした」
俺が来ると津田宗凡が白湯を飲んでいた。彼の直ぐ後ろには数人の手代が控えていた。
「小出様、お気になさらずに。この時期はどこの武家も忙しいです」
津田宗凡は愛想よく俺に挨拶した。
「小出様は御武家様らしくありませんね。商人相手にも謙虚な物言いを為されます。無礼な物言いをしてしまい申し訳ありませんでした」
津田宗凡は慌てて俺に謝罪してきた。俺は何も気にしていないのだが。
「全然気にしていないです。人の目がある訳ではありませんから、津田殿のように気さくに話をしてもらえると嬉しいです。私はあまり肩苦しい空気は好きではありません」
「かしこまりました。では、ご注文をお聞かせ願えますか」
俺は津田宗凡に戦に必要な物資の注文を出した。百五十人分の足軽用の貸具足・陣笠。軍馬。物資を運ぶ荷車と駄馬。旗。馬印。全ての品物に俺の考えた家紋を入れさせることにした。小出家の家紋は「丸に園部額紋」。小出本家の養子である俺は本来ならこの家紋を使うことが筋だろうなと思った。だが、俺はこの家紋が好きじゃない。だから、木下家の「沢瀉紋」を変形した「抱き沢瀉菱紋」を俺の定紋にしようと考えたのだ。
俺は細かい注文に関する指示を出していく。津田宗凡の手代は俺の指示内容を紙に書いていた。その様子を津田宗凡は沈黙し聞いていたが徐に口を開いた。彼は俺に意見することを躊躇っている様子だったが、俺に意見しておかないといけないと強く思っているようだった。
「小出様、ご使用になる家紋は御家の家紋にされた方がいいかと」
津田宗凡は俺に言いづらそうに言った。「抱き沢瀉菱紋」を俺の定紋としようと思ったがまずいのか。
「小出様の御家の家紋は『丸に園部額紋』と記憶しております」
「それは分かっています。津田殿、この家紋の方が格好いいと思ったのです」
津田宗凡は俺の話を聞き、しばし沈黙し思案した後に口を開いた。俺は何か不味いことを言っただろうか。小出家の家紋はださい。折角だから格好良い家紋にしたい。俺の初陣を華々しく飾りたいのだ。
「理由なく御家の家紋を使用しない。これは武家において特別の意味があります」
津田宗凡は俺に初耳なことを言ってきた。勝手に家紋を換えるとまずいのか。小出家なんて成り上がりの家だから、あまり小うるさいことは言わないと思ったのだがな。
「特別な意味ですか?」
「はい。小出様は他の武家に氏族から追放されたと思われてしまいます」
「え!?」
家紋を好きに換えることがそんな大変な意味があるとは知らなかった。俺は言葉を失った。
「御家の定紋を換えたいのであれば、定紋に少し手を加えられては如何でしょうか?」
俺が家紋をどうするか思案していると津田宗凡が助言してくれた。小出家の定紋を使うしかないと悩んでいた俺は彼の意見に耳を傾けた。
「手を加えるとは具体的にどうするのでしょうか?」
「小出様の御家の家紋は額を丸で囲んでいますから、その丸を変えては如何でしょうか? 鉄砲菱や隅切り鉄砲角などがあります」
津田宗凡の提案に俺は返答に詰まった。彼の提案は額紋と調和しない。思いついたものを俺に言っているだけだろう。だが、どんな風に換えればいいかは理解できた。
うーーん。
悩む。
うーーん。
八角井筒にしよう。
「八角井筒にしようと思います」
「八角井筒ですか」
津田宗凡は俺の考えを額紋に合わせて想像しているようだった。
「小出様、問題はないと思います」
津田宗凡は笑顔で俺に答えた。
「津田殿、私は未だ未だ未熟者です。今後も足らない部分がありましたら助言してくださるとありがたいです」
「私でどれ程のお役に立てるか分かりませんが、できる限りのことをさせていただきます」
俺が殊勝な態度で津田宗凡に頼むと、彼は少し驚いた表情に変わるが直ぐに笑顔で答えてきた。
「では、御貸具足等に入れる家紋は『八角井筒に園部額紋』でよろしいでしょうか?」
「それで問題ありません。津田殿、よろしくお願いいたします」
「急ぎ注文いたします。代金は米の売却代金から差し引きさせていただこうと思います。それでよろしかったでしょうか?」
「それで問題ありません」
「では、差額は一週間後位にお届けに上がります。商品につきましては一月後に届けさせていただきます」
「お願いします」
軍役に必要な物を天王寺屋に注文し終えると、津田宗凡が俺の屋敷の奉公人の話をしてきた。俺は苦笑いした。俺の屋敷の奉公人は半九郎とリクの二人だ。二人とも下人であるため身なりはよろしくない。大身旗本である俺の屋敷の奉公人が下人二人ということは外聞が悪いに違いない。まだ、引越二日目であるから追々人を増やそうと思っていた。でも、性格の悪そうな奉公人は雇いたくない。半九郎とリクが気持ちよく働けるようにしてやりたい。
「小出様、これも何かの縁です。よろしければ若党と中間、それと侍女をご紹介させていただけますか? 身元は天王寺屋が保証させていただきます」
俺は津田宗凡の提案に表情を綻ばせる。
「津田殿、よろしいのですか?」
「はい。今後とも小出様とは末永くお付き合いしたいと考えております。この程度のことでよろしければお手伝いさせていただきたく思います」
津田宗凡は友好的な様子で俺に微かに微笑んだ。折角の申し出だから俺は受けることにした。
「津田殿、奉公人を増やしたいと思っていたので本当に助かります。不躾な頼みをしてもよろしいでしょうか?」
「乗りかかった船です。私で出来ることならお力になりましょう」
「実は北条征伐にあたり侍を募集しています。それで当家に仕官してもいいという人物をご紹介いただけませんか?」
「どのような人物を求めておいでなのですか?」
「出自は問いません。私は才能重視です。だから、戦働きを期待できる者をご紹介いただきたいと思っています」
「随分と門戸が広いのですね」
津田宗凡は愉快そうに微笑んだ。
「私は身分と人の能力は比例しないと考えています。例え織田や豊臣と対立した家の者や家臣の者であっても、私の元で働きたいというなら才能重視で雇います」
「因縁のある者達を雇うと裏切る可能性があるかもしれません」
「裏切られたのなら私の器量がそこまでだったということです」
俺の返答に津田宗凡は感心した様子で頷いていた。
「かしこまりました。この時節であれば、大阪や京に陣借りをしようと諸国から浪人が集まっていると思います。見込みのありそうな人物を見つけ小出様にご紹介させていただきます」
「よろしくお願いいたします」
俺の頼みを快諾してくれた津田宗凡に俺は頭を下げた。その後、津田宗凡は早々と帰っていた。俺は奥座敷から軒下の廊下に移動して外の景色を見た。まだ、日は高い。
「義父の所に挨拶をしておくとするか。引越では色々と世話になったしな」
俺は引越の手伝いの礼を義父に伝えるために義父の屋敷に向かうことにした。
義父の屋敷に向かう道すがら半九郎と出会った。その時、半九郎から秀清に手紙を渡すことができたと報告を受けた。俺が義父の屋敷に到着すると、侍女に案内され奥座敷に通されしばらく待たされた。その間、俺に白湯の一つも出しに来ない。本当に俺は歓迎されていないようだな。
半刻(一時間)経過した頃、義父が姿を現した。
嫌がらせのように待たせ、わざとらしい。
俺は義父に呆れながらも平静を装い平伏した。俺の方が義父より大身だが、こんな男でも義父だからな。それに引越の礼を言い来たのだからわざわざ波風を立てる必要もない。
「俊定、よく参った」
義父は愛想のない声音で俺に声をかけてきた。俺は顔を上げ姿勢を正し義父に向き直った。義父は俺に対して不愉快そうな顔をしていた。俺の知行の件は既に知っているのだろう。この屋敷から俺が出る日、俺に対して久方振りに愛想良く接していたのが嘘のようだ。
義父の反応は攻めるつもりはない。そんなものだろうと思っている。でも、義父も実子、吉英が生まれるまでは俺のことを可愛がってくれていた。あの頃が嘘のようだ。俺の義弟である吉英は元服後の名前で、今の彼は万作と名乗っている。
「父上、祝着そうで何よりでございます。引越の手配とご高配を賜り、厚くお礼申し上げます」
俺は引越の手配と米や味噌など生活必需品を持たせてくれたことへの感謝の言葉を述べた。
「俊定、親として当然のことをしただけのことだ。それで今日この屋敷に参った用向きは何だ?」
義父は単刀直入に俺に尋ねてきた。一応、この屋敷は俺の実家になるんだがな。義父の棘のある物言いを俺は聞き流し笑顔で義父を見た。
「私はただ父上に御礼を申し上げに参っただけです」
「そうか」
義父は俺の発言に拍子抜けした様子だった。俺に人を融通してくれないかと頼まれると考えていたのかもしれない。この様子だと快く人を融通してくれそうにないな。一応、粉だけ振っておくとするか。話の流れ次第では人材紹介を頼むとしよう。
「関白殿下から北条攻めへ参加するように厳命を受けました。一度はお断りしたのですが、初陣に良い機会と言われまして、有り難くお話を受けることにしました」
「ほう。お前も北条攻めに参加するのか」
義父は気のない返事をしてきた。この様子からして、既に秀吉から義父に伝えられているに違いない。義父は感情の起伏を感じさせず、全く驚いた素振りがない。
「関白殿下は木下家と小出家から人材を募れと命ぜられました」
俺の発言に義父は表情を途端に憮然とした。義父は腹芸が出来ないようだな。お陰で分かりやすい。俺は心の中で苦笑してしまった。
「関白殿下はそう仰ったのか?」
義父は不満気な口調で俺に言った。
「はい。元服したての私に伝手は限られるとお考えになって仰った言葉だと思います」
俺は淡々と義父に告げた。義父としては秀吉から告げられた以上、無視はできない。多分、俺に告げられるまで無視を通すつもりだったのだろう。浅はかな考えだ。生憎と俺は嫌われている相手でも必要なら頭も下げる。子供じゃないんだから。義父に呆れながらもそれを態度に出さない。
「父上、急な頼み迷惑なことと思いますが、人を融通してもらえますか?」
俺は義父に予防線を引いておいた。これで俺の頼みを拒否したら俺に対して「迷惑だ」と言っていることと同義になる。そして、このことは当然に秀吉の耳にも入ってしまう。浅慮な義父でも理解できるだろう。その証拠に表情を顰め俺のことを見ていた。
「俊定。何人欲しいのだ」
「そうですね」
俺は義父の態度に心怯むことなく思案した表情になった。秀清を入れて五人位でいいだろう。あまり多いと将来的には俺の家臣団の不安要素になるかもしれない。最悪のことを考えて粛正しやすい人数がいい。
「十五人お願いできませんか?」
俺は期待する人数の三倍を要求した。義父は俺の要求に眉間に皺を寄せた。
「十五人だと。そんな人数を出せん」
義父は憮然と言い放った。小出家の暇をしている五男・六男を集めれば、その位の人数なら融通できるはずだ。でも、俺に十五人も人を渡したくないのだろう。俺に人を渡しすぎて、俺が北条征伐功績を挙げられては堪らないと考えているのかもしれない。
いや違うな。
俺への嫌がらせの意味合いが強そうだ。流石の義父も初陣の俺に脅威を抱くとは思えない。自分より多い知行を元服するなり与えられた俺のことが気にくわないのだろう。
「では十二人でお願いできませんか?」
「無理だな」
義父は即答した。本当に狭量な男だな。
「では十人でお願いできませんか?」
「その位なら出してやろう」
義父は大仰に俺に言った。一々偉そうに言う義父に怒りを覚えたが、人を出してもらうためと怒りを押し殺し平静を保った。義父から融通してもらう家臣の大半は戦場での働きなんて期待していないが、軍役の人数を満たすための数合わせには必要だ。
我慢だ。
我慢だ。
俺は自分に言い聞かせた。
「父上、感謝いたします」
「人の希望はあるか?」
俺が底心低頭で義父に応対していると、義父は気分良さそうにしていた。
「人を融通していただけるだけで感謝いたします」
「俊定、遠慮無く言え」
義父の様子を見て、俺は後日にまた秀清を家臣に欲しいと頼むつもりだったが考えを改めた。この空気なら頼めるかもしれない。
「では、秀清叔父上をお願いできませんでしょうか?」
「秀清だと!? あれで良いのか?」
義父は拍子抜けした様子だった。だが、義父は直ぐに思案気な表情に変わった。
「秀清をやるとなれば十人も人はやれんな」
義父はわざとらしく思案気な顔をした後に陰険な表情を浮かべた。義父は俺によほど人をやりたくないようだ。態度から滲み出ている。養子とはいえ我が子に見せる顔じゃないな。俺は冷めた心で義父を見た。
「そうですか」
俺は一旦引き下がった。その様子を見る義父は愉快そうだった。義父の様子を見た俺はわざと困った表情で思案しているように演技した。
「秀清叔父上を含めた場合、どの程度の人数を融通していただけますか?」
俺は出来るだけ悩む素振りをした後に義父に声をかけた。
「そうだな。秀清を含め五人か」
義父は勿体ぶった態度で俺の要求の半分の人数を掲示してきた。俺は義父の答えを聞き悩んだ素振りで沈黙した。義父は俺の返答を待っていた。あんまり渋っても俺が秀清に執着していると思われても困るしな。
「父上、それで構いません。秀清叔父上を含め五人でお願いします」
「分かった。秀清には申し伝えておく。残りの四人は私が決めておく」
義父は大仰に俺に言った。その表情は満足している様子だった。本当に俺に人をやりたくないようだ。この様子なら俺の元に間者を紛れ込ませるような真似はしないだろう。
こうして俺の慌ただしい一日が終わった。
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