提督はBarにいる。
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狂犬には紅い瞳を。
「んじゃ~……、作るの面倒だし、ビールで良いか?」
「うん!!飲んだ事無いから、提督さんにお任せするっぽい♪」
ならば、と俺は冷凍庫で凍らせたジョッキにビールサーバーから並々と注いでやる。銘柄は俺と同じサッポロの黒ラベル。最初は少し斜めにして注ぎ、7割程入ったらジョッキを垂直に立てて泡を立てる。 液と泡の比率は7:3。旨いビールの黄金比率だ。
「ほれ。とりあえず、MVPのお祝いに乾杯しよう。」
「えへへ、改めて言われると照れるっぽい~…。」
飲む前から頬を赤らめてフニャフニャしている夕立。チクショウ、可愛いじゃねぇか。
「んじゃ、MVPおめでとう。乾杯!!」
「かんぱ~いっ、いただきま~すっ!!」
その瞬間、一気にジョッキを傾け、ゴクゴクとビールを流し込む夕立。俺も釣られてジョッキに残っていたビールを飲み干す。少し気が抜けてしまったがこの炭酸の喉越しとホップの仄かな苦味、そして後からやってくる麦芽の甘味。これがビールの旨さだよなぁ。
「かぁ~っ、美味ぇっ!!」
「うえぇ~……。苦くて美味しくないぃ……」
いや、そこはぽいじゃねぇのかよ、と言うツッコミはよしておこう。やっぱりお子様にはビールは早かったか。などと考えていると、
「あ!提督さんが夕立の事子供扱いしてるっぽい‼」
再びご機嫌を損ねたらしい。駆逐艦の中には子供扱いされたくないと考える娘も多く、夕立もその内の1人だったらしい。
「夕立だってちゃんと成長してるっぽいっ‼」
そう言って胸を張ると、確かに改ニになる前には無かった膨らみがぽよん、と揺れる。どこが成長したって言うんですかねェ……?なんて、ゲスな考えは冗談としても。
「しょうがねぇなぁ。ほら、残ったビールこっちに寄越しな?」
「えー?こんなのどうするっぽい?」
「ははは、まぁ見てなって。」
ジョッキの半分程度に減ったビールに氷を足し、同量のトマトジュースでビルド(割る)。それを軽くステア。
「ほい完成。飲んでみな。」
夕立は不信がりながらも、恐る恐る口を付けた。途端に、疑いの眼差しが驚きに変わる。
「ちょっと苦いけど全然嫌じゃないっぽい‼美味しい~っ♪」
「良かったなぁ夕立。それに、そのカクテルはお前にピッタリなんだ。」
意味が解らない、と言った表情で小首を傾げる夕立。無防備なその仕草も可愛いなぁこの野郎。と、Barの扉が開かれる。
「提督ぅ~っ、飲んでますかぁ?」
軽く頬を紅潮させ、しかししっかりとした足取りで此方へ向かってくる軽空母の艦娘。
「あっ、千歳さんだ‼千歳さんも一緒に飲むっぽい~♪」
「あら、夕立ちゃんも来てたの?駆逐艦の娘が来るなんて珍しいですねぇ。」
軽空母・千歳。着任当初は水上機母艦だったが度重なる改装を受けて軽空母へと艦種を変更。実力もさることながら、隼鷹や足柄等と毎晩呑み明かす『チーム呑兵衛』の一員として有名だ。
「えへへー、提督さんにカクテル作ってもらった ~。」
少し酔って来たのか、とろんとした表情で千歳にそう報告した夕立。
「あら美味しそう。夕立ちゃん、一口貰える?」
「良いよ~♪はい。」
千歳は夕立からジョッキを受け取ると、ゴクリと一口。
「あら?『レッド・アイ』なんて、提督も中々洒落の効いた事をしますね。」
「あっ!さっきこのカクテルが夕立にピッタリだ、って言ったのって……」
そう、ビールをトマトジュースで割ったこのカクテルの名前はレッドアイ。紅い瞳をギラつかせ、戦場を駆ける夕立にはピッタリだろう。
「本来はタンブラーで作るモンだがな。残すのも勿体無いんで、緊急処置だ。」
「うふふ、提督らしい。……じゃあ、私はレッドバード頂けます?」
了解、と請け負って俺は準備に取りかかる。タンブラーグラスに氷を入れ、そこにまずはウォッカ。チョイスしたのはスカイシトラスのレモン。アメリカのメーカーのウォッカで、オレンジやレモン、ライムといったシトラス(柑橘類)のフレーバーをプラスした口当たり爽やかな奴だ。そこに倍のトマトジュース。これでもうカクテル『ブラッディ・メアリー』になっているのだが、ここに更にトマトジュースと同量のビールを加えて軽くステア。
「お待ち。レッドバードだ。」
「いただきます。」
黒タイツに包まれた脚を組み、軽くグラスを傾ける。…なんだろう、そこはかとない色気を感じるのは俺だけか。
「ふぅ、やっぱり提督の作るカクテルは美味しいですね。」
「そうか?ありがとよ。」
その後も俺達3人はささやかながらも祝勝会を続けた。そして最後に、酔い潰れた夕立を部屋まで曳航していったら、他の白露型の娘達に白い目で見られたのはまた別の話。
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