フェイト・イミテーション ~異世界に集う英雄たち~
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ゼロの使い魔編
第四章 タルブでの戦い
青き少女の因縁
前書き
セ「さあいよいよタルブ戦ですね。」
士「とその前に、って奴かな今回の話は。」
零「いよいよ本章では新サーヴァントが登場しますよ!」
セ「いやもう出てるでしょ。」
零「分からない人は二章のエピローグや三賞の三話目をチェケラ!」
士「(ダセェ・・・)」
―――――――――――――
最初に“あの男”に出会ったのは、いつだっただろうか。確か初めて任務を終えて家に帰った時だった気がする。
『初めまして。シャルロットさん、でしたね。私は・・・まあ周りからは『先生』と呼ばれている者です。』
白衣を着た金髪の男だった。本家からやって来たということで、私は警戒心をむき出しにしていた。だが、にこやかな表情で私の前に現れた“彼”が最初にしたことは、
『怪我をされたようですね。どうぞこちらに来て下さい。』
傷の手当てだった。かなり慣れた手つきで消毒をし、包帯を丁寧に巻いていく。皆が言う『先生』とは、どうやらそういう意味のようだ。
それから“彼”は、私が任務から帰るといつも家で待っており、毎回治療を行ってくれた。そしていつもそれが終わる度に、
『任務、お辛いでしょう。』
そう言ってきた。それには本家の人たちのような嫌味や皮肉がなかった。
『私にはこれくらいしか出来ませんが、どうか負けないように頑張って下さい。』
優しく、本心から労わるようにそう私に語り掛けてきた。私にはそれが少しでも救いになった。憎むべき本家の奴らの中にも、“彼”のような人物がいるのだと。表情には出さなかったが、正直嬉しさを感じていた。
後に思い知らされた。
“彼”こそ、本当に倒すべき者の一人だということを・・・。
「―――サ。タバサ!」
「!」
自分を呼ぶ声にハッと我に返る。目の前に学院で唯一の親友がこちらを覗き込んでいた。どうやら馬車の揺れにつられて、ついうたた寝をしてしまったらしい。
「眠っちゃったの?疲れてたのね。」
親友の明るい声にコクンと頷いて外の様子を眺める。懐かしい景色が見える限り、目的地が近いようだ。
「あ、タバサ!あれかしら、貴女のお家って!」
言われて馬車の行く先を見てみると、
見えた。
懐かしく、
とても大切な、
そして今は忌々しくもある
我が家が―――
話は少し前まで遡る。
架たちと竜の羽衣を探していた時、タバサは手紙にて実家に戻るよう言い渡されていた。授業の方ももうじき夏季休暇に入るということで問題はない。学院に戻り、手早く身支度して即出発するつもりだった。
ただ一つ予定外だったのは、
「せっかくですもの。貴女が良ければ招待してくれないかしら。」
キュルケもついて行くと言い出したことだった。元々怒り狂ったルイズから逃げるための口実だったのだが、理由を問いただしてみれば
「だって、男共も実家に帰るって言うし、何よりダーリンや貴女がいない学院なんている価値ないわ。」
とのこと。要は唯の退屈しのぎらしい。一体彼女は学院に何しに来ているのだろうとつい疑問を感じてしまう。言わないけど。
だが結局タバサはOKを出した。まあ彼女がそうやって気ままに行動することはよく分かっていたし、それに一人で帰るより心強かったというのもある。
まあそういうこともあり、こうして馬車に乗り二人はタバサの実家のあるガリアまでやって来たのだった。
「へえ、なかなか立派なお屋敷じゃない。」
馬車から顔出しながら、キュルケはそんな感想を漏らした。タバサは未だに本を閉じる気配はない。
というか、キュルケは気付いていた。ガリアの領域に入って以降、タバサが本のページをめくっていないことに。そしてその表情は沈んでいくことに。他の連中には相変わらずの無表情にしか見えないだろうが、これは長い付き合いの彼女だからこそ分かる変化だった。
「(そんなに嫌がるほどの実家って、どんな感じなのかしら。)」
そういえば、この子が学院に来た理由って聞いたこともなかったわよね、とキュルケは思った。
かくいう彼女も、ゲルマニアにある実家からほとんど厄介払いで来たようなものである。今更あの家に帰ろうなどと、微塵も思ったことなどない。
そうこうしている内に馬車は屋敷の手前まで来ており、開け放たれた門をゆっくりとくぐった。
「・・・あら?」
その時キュルケは気付いた。門に刻まれていたのは、紛れもないガリア王家の紋章であった。つまり、
「タバサ、貴女って王族の・・・」
そこまで聞いたところで馬車が止まった。
馬車を降りると、ドアの前で一人の老執事が待っており、タバサを見るや否や恭しく首を垂れる。
「おかえりなさいませ、シャルロット様。」
屋敷に到着した二人はそのまま居間まで通された。到着してからというもの、いよいよ重々しく、しかしそわそわと何とも複雑な空気を漂わせるタバサに、先ほど馬車でのことを完全に聞くタイミングを失ったキュルケであった。
「今日はお父様はいらっしゃるのかしら。ご挨拶したいわ。」
「・・・。」
気を取り直して言ったキュルケの申し出にタバサは黙って首を横に振った。そして「ここで待ってて。」と一言だけ残すと居間から出て行った。
「?」と小首を傾げていると、「失礼致します。」と声をかけられた。振り返ってみると先ほどの老執事が紅茶の入ったカップを持って立っていた。
「当屋敷の執事をしております、ペルスランと申します。」
「ゲルマニアのフォン・ツェルプストーと申します。急な押しかけにも拘わらず歓迎してくれたご厚意に、感謝いたしますわ。」
立ち上がって貴族らしい礼を執ると、ペルスランは「いえいえ。」と老人らしい優しい笑顔で応えた。
「それにしても、シャルロットお嬢様がご友人をお連れするなど初めてでございますな。」
「・・・『シャルロット』があの子の本当の名前なのね。」
キュルケの呟きにペルスランは「は?」とキョトンとした顔になった。
「あの子、学院ではタバサって名乗っているの。それで、名前以外自分のことは誰にも話したことがないのよ。」
「そうですか。お嬢様がタバサと・・・。」
タバサという名前に心当たりがあるのだろうか。ペルスランはどこか感慨深げに呟いた。
そして、徐に壁に立てかけてある一枚の大きな絵に目を向ける。そこにはタバサと同じ青い髪をもつ一人男性が描かれていた。
「あの方は?」
「お嬢様の御父上であります、シャルル・オルレアン公であらせられます。」
「オルレアン公・・・じゃあやっぱり、タバサは王族の子なのね。」
キュルケの言葉にペルスランは重々しく頷いた。
「『タバサ』というのはお嬢様が奥様から頂いたお人形に付けた名前。お嬢様の本当の名は、『シャルロット・エレーヌ・オルレアン』と申します。」
「さっさと出ていけ!!」
屋敷のとある一室に怒号が響き渡る。
声を上げたのは青い髪をもつ女性であった。目はやや血走り、頬も痩せこけてしまっているが、髪の色といい顔立ちはどことなくタバサに似ていた。
「王家の、王家の回し者めっ!!私の大事な娘にまで手を出そうっていうの!?」
と、女は持っていた人形を庇うように抱きしめた。
「私たちは静かに暮らしていたいだけなのに・・・。誰が王の座を狙うなどと・・・。」
人形を娘のように愛おしそうに撫でながら、女性は目の前の無礼者を敵意をもって睨み付けた。
「さあ早く、早く出てってちょうだい!!この娘は・・・『シャルロット』は誰にも渡さないわ!!」
母のそんな様子にタバサはただ言葉を返す。
「・・・また会いに参ります、母様。」
優しく、愛おしく、そして今にも崩れてしまいそうな微笑みを浮かべながら。
「はぁ・・・」
その日の夜。寝室にてキュルケはため息をついた。視線の先にはベッドの上でスヤスヤと眠るタバサの姿。ため息の原因は彼女にあった。
『ツェルプストー様を信じ、お話しましょう。お嬢様のことを、お嬢様の今の境遇を。』
あの後、ペルスランからいろいろなことを聞かされた。
タバサの父、シャルルは現ガリア王ジョゼフの弟であり、魔法の才においてはジョゼフを凌ぐほどとされていた。
先代の王が無くなってから、次にどちらが王に相応しいかで宮廷が派閥争いを始めた。
そしてその中で、シャルルは暗殺されたのだった。
ジョゼフが王になってからは、王家の者たちはタバサの命を狙った。恐らく、遺恨を絶つためだろう。
晩餐会に招待したタバサに彼らは毒の入った飲み物を差し出した。毒は飲んだ者の心を狂わせる水魔法。
タバサが飲もうとした瞬間、罠に気付いた母が身代わりとなり毒を飲んだ。
以来母は、精神が侵されてしまっているという。
「(まさか、この子がこんな運命を背負っているなんてね・・・)」
「母様・・・母様・・・!それを飲んじゃ・・・ダメ・・・!!」
気が付くと、タバサはうなされていた。何かを引き留めようと必死に手を伸ばしている。
この子は自分を、自分の家族をひどい目に遭わせた連中をどう思っているのだろうか。
憎いのかもしれない。もしかしたら、いつか復讐の道へと走り出してしまうかもしれない。そして、それを止める権利は自分にはないだろう。
「(もしそうだったとしても―――)」
キュルケはタバサの横に寝そべり、その小さな体をギュッと抱きしめた。
―――傍にいよう。
どのようなことがあっても、せめてこの子が独りにならないように。
キュルケの腕の中にいるタバサは、少し安堵した表情になっている気がした。
―――――――――
ある日、本家からの任務を終えて家に戻るとやはり“彼”が待っていた。
いつものように治療と軽い雑談を交わす。その頃には、私は自分でも分かるくらい“彼”に心を許していた。
普段ならこれで“彼”は帰るのだが今日は違った。
『今日はこれからお城の方まで同行してもらいます。』
聞いた途端物凄く不快感を露わにした。まさかあんな所に行くなんて。この間倒した凶暴なドラゴンともう一度戦ってこいと言われた方が何十倍もマシだと思った。
無表情なのは自覚しているが、それでも顔に出てしまったのだろう。“彼”は困ったように笑った。
『すみません。ただ、貴女の叔父上から話があると・・・』
ホントは凄く嫌だった。でも私が行くのを断ったら“彼”にも迷惑がかかる。散々渋ったが、結局私は“彼”についていくことにした。
これから地獄を見ることになるとも知らずに―――
『待っていたぞ、シャルロット。』
久しぶりに――出来れば二度と見たくない――叔父の顔。挨拶もせずに不満の顔を見せるがあいつは動じない。
『そう嫌悪するな。ここは王家の連中でもごく一部の人間しか知らん。お前にも、一度見せてやりたかったのだよ。』
案内されたのは地下にある工房のような場所だった。階段の下は広い構造になっているようだが、薄暗い所為で見下ろしても良く見えない。ジメジメとしているし、更に入り口付近に刻まれていた浄化――主に消臭の効果がある――の魔法陣も気になった。
『まあそう急くな。直に・・・ふむ来たか。』
叔父が向く方を見ると、一人の兵士が大きな袋を抱えてやって来た。兵士は私たちの前で袋を降ろし、開けた。
中身は男の死体だった。
『この男は近頃城下を騒がせていた連続強盗犯でな。つい今しがた処刑を終えたばかりなのだよ。』
不幸なことに(自分で言うのもなんだが)私は死を身近に感じた故に、死体とかそういったモノは見ても動じない。ホントに自分で言うのもなんだが。
だから、こんなものを私に見せて何がしたいのか分からなかった。
『お前に本当に見せたかったのはこれではない。・・・始めろ。』
『はい。』
返事と共に暗闇から現れたのは、最近知り合った先生と名乗る“彼”だった。その表情はいつもの穏やか様子はなく、氷のように冷たいものだった。
“彼”はチラリと私を見たが、すぐに視線を死体へと戻した。そして、徐に取り出した注射器で死体にプスリと刺した。
『・・・ギ』
その時、私は信じられないものを見た。
『ギ、ギギギギギギギギ、ガァアアァァアァアアァアアァァァッッッ!!!』
確かに死体だったはずの男が突然動きだした。
生き返らせた?しかし、それにしては、今の男は人間には程遠いものだった。
目は濁った赤色でギラギラと光り、理性があるかも怪しいほどガクガクと奇怪な挙動。口からは血と唾液が混ざったものを撒き散らし、理解不能な言語しか出てこない。
何が起こったのか分からない。一つだけ分かったことは“彼”がこの死体に何かしたということだけだ。
『この死体は理性がなくてな、簡単な命令しか受け付けない。だが、既に死んだ身であるから痛みを感じん。恐らく、手足を千切られても動くことを止めないだろうな。さらに、空腹や渇きも感じないため魔力を与え続けさえすれば半永久的に存在し続けるのだ。』
叔父は目の前の光景に動じることもなく説明していく。いやそれどころか、その顔はとても生き生きとしていた。まるで、子供が自分が作った作品を親に自慢するように。
そして、私は叔父が考えていることが何となく分かった。分かってしまった。
『そう、かつて強盗という罪を犯したこいつも、今は兵器として十分に価値があるということだよ。そしてだ、シャルロット。』
と、叔父はしゃべりながらスッと右手を挙げる。
『これがもし大量に生産できたとしたら、正に最強の軍団ができると思わんかね。』
そう言って、指をパチンと鳴らした。途端に広い工房にポウと灯りが付いた。
私は見てしまった。階段の下に広がる光景は―――――
死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体――――
いくつも光る赤い目。聞こえてくる呻き声、何かを引きずるような音、カチカチと歯が鳴る音。
数えるのもおぞましくなるそれらは、ここからでも分かる。確かに死体だ。
そう死んでいるはずなのだ。なのに、何故、何故、ナゼ・・・・
ナゼ、ミンナウゴケテイル・・・!?
思わずバッと顔を背けた。体の震えが止まらない。顔の血の気が引いていくのが止まらない。冷や汗が止まらない。吐き気が止まらない。
止まらない止まらない止まらない――――分からない、どうしたらいいのか分からない。
とうとう私は崩れ落ちて蹲った。自分の杖にしがみ付くようにするのが精一杯だ。
不意に誰かが背中をさすった。誰なのか確認する気も起きない。が、背後からその主が声をかけた。
『そうだ、他の連中から聞いたのだが、君はどうやら彼らからの仕事に手を抜いているそうだな。』
その言葉に私は思い当たるものがあった。殺せと言われたのに止めを刺さなかったり、取ってこいと言われたのに偽物を持って行ったり。母様をあんな風にした王家に対する、せめてもの反抗のつもりだった。
だが、それは最悪の形となって私に跳ね返ってきたと知ることになる。
『私としてはお前とはもう少しの間仲良くやっていきたいのだよ。お前は私の大事な姪なのだからな。お前もそうであろう。』
叔父は私の耳元に近づき、死の宣告より恐ろしいことを告げた。
『大切な母上を、下にいる連中の仲間入りにさせたくないだろう。』
それは母様があいつらと同じになるということ。
絶望に染まりながらゆっくりと顔を上げると“彼”と目があった。手当てをしてくれた“彼”。話相手になってくれた“彼”。励ましてくれた“彼”。それら全てが、まるでなかったことのような無表情にこちらを見つめる彼を見た最後、
私はゆっくりと意識を手放した。
その日以来、“彼”が私の前に現れることはなかった。
――――――――――――
翌朝、王家から出された任務にタバサは出発することとなった。いつも通り、簡単な準備をし、即出るつもりだった。
ただ一つ予定外だったのは、
「私も一緒に行くわ。」
キュルケもついて行くと言い出したことだった。
あれ?つい最近も同じ光景を見たような、と思いつつ今度はタバサも難色を示した。下手をしたら命に関わるかもしれないのだ。
だが、それでもキュルケは強引に行くと譲らなかった。
「一宿一飯の恩義って奴よ。それに―――」
一人より二人でしょ。
この言葉に、結局タバサはコクンと頷いてみせたのであった。
また、このやり取りの陰で、ペルスランがこっそり涙を拭いていたことに二人は気付かなかった。
場所はトリスタニアとガリアの間にある『ラグドリアン湖』であった。水の精霊が住むと言われるこの湖だが、最近日に日に水嵩が増していきとうとう近隣の村にまで及んできたらしい。で、事の原因である水の精霊を退治せよというのが今回の任務である。
昼頃には湖に到着した二人だが、人気が無くなる夜まで待つことにした。この辺りの住民には避難命令が出ているが、万が一精霊と戦う時になって一般人を巻き込まないようにするためである。
やがて日も傾き、辺りが暗闇に包まれる。明かりとなるのは月だけであり、近くなら兎も角、少し距離が離れると途端に見えにくくなる暗さだ。
「さあて、そろそろかしらね!」
座っていたキュルケが立ち上がり、湖に一歩踏み出した時だった。タバサが無言でキュルケの前に杖を出し、待ったをかけた。
「・・・」
「タバサ?」
「・・・誰か来る。」
「!」
残念ながら実践経験は少ないキュルケは存在を確認することは出来ない。だが、今はこの相棒を信頼することに決めた。
「数はどのくらいかしら?」
「・・・一人近づいてくる。更に奥に二人いる。多分三人ともメイジ。」
「もうこっちに気が付いているのかしら。」
タバサは無言で頷いた。まあまあの手練れってとこかしらね。と、キュルケは推測する。どうやら対精霊より先にメイジ同士の戦いになりそうだ。向こうの目的は分からないが、今のキュルケたちにとっては邪魔者でしかない。早々にお引き取り願おう。
やがてキュルケにも何となく敵の存在が分かるようになってきた。遠くの二人は動く気配がない。まずはこの一人に集中しよう。
二人は着ていたコートのフードを目深に被って敵の動きを待つ。既に向こうもこちらに感付いているのだ。今更隠れる必要もない。
と、次の瞬間敵メイジが詠唱と共に魔法を放った。地面が盛り上がり、巨大な触手のようなものが二人に襲い掛かる。
『アース・ハンド』、土系統のドットスペルだ。正直言って大したことはなさそうだ。タバサが風魔法で迎撃し、触手を破壊する。
敵は負けじと次々にアース・ハンドを放つが、二人に命中させることが出来ない。本来魔法を放てば、少なからず隙が生まれてしまうのだが、二人が交互に魔法を出してお互いの隙をカバーし合っているのだ。
(何だ、楽勝じゃない。)
と、キュルケは余裕の笑みを浮かべた。先ほどから敵はこのドットスペルの魔法しか打ってこない。威力の面から考えても、どうやら元から大した実力ではないのだろう。こうして敵さんが疲れるまで迎撃を続け、隙が出来たところですかさず反撃、これでケリが付くだろうと思っていた。だが―――
「今だっ!」
敵メイジが叫んだ。すると、二人の足もとが突然盛り上がった。咄嗟に二人がその場を飛び退くと、
『グオオオオオッ!』
そこにはキュルケたちよりも一回り大きく、どことなく不格好なゴーレムが現れた。
(しまった、囮!?)
タバサはメイジ三人しか補足出来なかったが、実際は四人目のメイジが伏兵として隠れていたのだろう。気配がバレバレなメイジがこちらの気を逸らし、その隙にゴーレムで奇襲を仕掛ける、といった具合か。
ところで先ほどの声、どこか聞き覚えがあるのだが・・・と感じつつも、
「っ!舐めるんじゃないわよ!」
キュルケはゴーレムに特大のファイヤーボールを放つ。これが奴らの狙い目だとしたら、先ほどまでのような半端な威力では倒せないだろう。
『キ、ガガガが・・・』
炎の玉を喰らったゴーレムは暫くは耐え忍んだが、やがて火の威力に押し負けたのかボロボロと崩れ落ちていった。
(やった!)
キュルケが歓喜を示した瞬間
ゾワッ
「っ!?」
背後からとてつもない殺気を感じた。と同時に、何者かが猛スピードで接近してくる。
(しまった!こっちも囮!?)
まさか二重の罠を仕掛けてくるとは・・・!キュルケは咄嗟に対処しようとするが間に合わない。そこへタバサが素早く両者の間に割って入った。
「『エア・ハンマー』!」
既に詠唱は完了していたらしく、圧縮した空気の槌を相手に放つ。
「デル!」
「応よ!」
敵の声が聞こえた。今度はもっと聞き覚えのある声。というかこれは・・・とキュルケが一瞬気を逸らした瞬間、
「!?」
「嘘!?」
タバサの魔法が突如消えた。いや、これは吸収されたといったところか。敵にそんな武器が備わっているとは完全に想定外だった。
「っ!タバ「動くな」
いつの間にか距離を詰められたのか、目の前まで来た敵はタバサの首元に剣先を当てていた。相手の重い声と気迫に二人は動けなくなる。
(あら、でもこの声って・・・)
暗い上にフードを深く被ってるため、顔をはっきりと確認出来ないが、間違いなくキュルケは相手の男を知っている。彼女の思いを他所に、相手はこちらに気付かないのか警告を続ける。
「二人とも杖を捨てろ。大人しく従えば危害を加えるつもりは―――」
「ちょ、ちょちょちょちょ待って!」
確信に変わったキュルケはバッとフードを脱いだ。果たして、そこには予想通りの人物が立っていた。
「ダーリン!」
「・・・キュ、キュルケ?」
さっきまでの気迫と打って変わって、目をぱちくりさせ少々間抜けな顔になった影沢架がそこにいた。
後書き
今回は若干残酷描写に挑戦してみました。タバサが案内された地下工房についてはfate本編の間桐の蟲蔵をイメージしてくださればと思います。
本作品はゼロの使い魔のストーリーに沿りつつサーヴァントやマスターを登場させるというものでしたが、最近「これただなぞってるだけじゃね?」と若干スランプにはまりつつあります。
ご意見などがありましたら、よろしくお願いいたします。あ、でもあまりキツイのは止めてね。死んじゃうから、精神的な意味で。(震え声)
その他、いつも通り感想、評価などよろしくお願いいたします!
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