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真田十勇士

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巻ノ六十五 大納言の病その六

「学問もです」
「我等は殿に及びませぬ」
「あらゆる書を常に読まれていて」
「恐るべき教養も備えておられます」
「文武両道か、さらによい」
 大谷は十勇士達の話を聞いて確かな顔で頷いた。
「武芸もよいが軍学、そして学問もな」
「どれもですな」
「備えてこそじゃ、しかし御主は」
 ここで幸村を見据えてこうも言った。
「政については」
「そちらは」
「不得手か」
「父上、兄上には及びません」
「やはりそうか」
「どうにも」
「それなりにそつなく出来る様だが」
 それでもとだ、大谷は幸村を見つつ言った、稽古は今も続き三本の槍が激しく打ち合って音を立てている。
「それ以上ではないな」
「どうにも」
「御主は強者じゃな」
「そちらですか」
「武芸、そして軍学の者じゃ」
「その道に生きる者ですか」
「必ずや」
 それこそと言うのだった。
「天下一の武士となる」
「なりますか」
「必ずな、御主はなる」
 まさにというのだ。
「そしてそれを目指してな」
「精進をせよというのですか」
「これからもな」
「はい、それがし鍛錬はこれからも」
「欠かさぬな」
「例え何がろうとも」
「書を読み武に励め」
 是非にと言うのだった。
「よいな」
「さすれば」
 幸村は大谷に頷いた、そのうえで稽古で汗をかいた。それから風呂にも入り夜は酒を飲んだが。
 大谷は十勇士達と共に飲む幸村のところに来てだった、曇った顔でこう告げた。
「大納言様のことが伝えられた」
「大坂城からですか」
「うむ、やはりな」
「死病ですか」
「年を越せても」
 それでもと言うのだった。
「弥生まではな」
「もちませぬか」
「その様じゃ」
「そうなのですか」
「残念なことにな」
「ですか」
「人の寿命はどうにもならぬ」 
 幸村の隣に座りだ、大谷は無念の顔で述べた。
「捨丸様もまたな」
「あの方もですか」
「折角天下が一つになったというのに」
 大谷は眉を顰めさせてまた言った。
「大納言様がおられなくなる」
「それが天命なのでしょうか」
「そうであろうか、しかしな」
「関白様、天下にはですな」
「大納言様はさらに必要であられるというのに」
 秀長が天命で死ぬとはだ、大谷は考えたくはなかった。それで幸村にも言うのだった。そしてその義父にだった。
 幸村は杯、酒を入れたそれを差し出し言った。 
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