| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

STARDUST∮FLAMEHAZE

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第三部 ZODIAC CRUSADERS
CHAPTER#10
  PHANTOM BLOOD NIGHTMAREⅡ ~Seventh Dimension~


【1】


『フラトン・シンガポール・SPW』
512号室は上質なマスカットの香りで充たされていた。
 円柱状のティーサーバーに入れられた紅茶が
早朝の清らかな空気を艶冶に彩る。
 カップの中に陽光を映す、澄んだミカン色の液体をやや豪放に飲み下し
満足げな吐息をついた青年が口を開いた。
「イヤァ~、悪いねぇ~。部屋の中まで入れてもらって。
別に催促したつもりはないんだけどなぁ~」
 相手の警戒心を薄れさせる、妙に子供っぽい笑顔を浮かべるその男は
雄々しく梳き上げた銀髪を掻きながら言った。
「アナタが、部屋の前から動かないからであります。
不審者と間違われたら、後で責任を被るのはマスターなのであります」
 彼の真向かいからややズレた位置に座った女性は、
慣れない左手でも上品な仕草でカップを運んだ。
 蕭やかな躑 躅 色(アザレアピンク)の髪と澄み切った赤 紫(ローズレッド)の瞳。
しかし惜しむらくかな、その至上の色彩は今、
簡素な白い薄布でグルグル巻きにされていた。
 右前腕部、左大腿部、右下腿部、更に前頭部から左眼にかけて
施術に則った帯法で処置され、取り分け負傷の酷い右腕は分厚い
三角巾で提肘固定されている。
これは無論昨日の襲撃者、
黒怨のスタンド 『エボニー・デビル』 と交戦した結果であり、
万全の状態でない彼女の護衛をポルナレフが(自ら進んで)
する事になった顛末でもあった。
 本来単独行動が常のフレイムヘイズにとって、
戦闘で受けたダメージへの対処も使命に含まれる為
苦境は覚悟の上であったヴィルヘルミナだが、
逆に危難を取り除かれた今の状況は戸惑いを隠せないものだった。
(危難……?)
 そこまで考えて、桜髪の淑女は一抹の疑念に自答を返す。
(危難が “取り除かれた” とはなんでありますか。
手負いの時にはその時なりの戦闘法も身につけているのであります。
断じて、この者を頼りになどしていないのであります)
 歴戦の戦士の誇りがそうさせるのか、或いは別の理由か、
淑女はむっくりとした表情 (傍目には解らない)で
護衛役の淹れた紅茶を嗜む。
 温かく、香り良く、自分より上手いのがなんだか腹立たしかった。
(不稔)
 ヴィルヘルミナ以上に無機質かつ蟠った心情が側頭から漏れた。
 正確には彼女の桜鬢を彩る “髪飾り” から。
 この声は彼女の契約者、紅世の王その真名 “夢幻の冠帯”
ティアマトーによるものだが、彼女の不機嫌さ(非常に解り辛いが)と
この形状には然るべき理由がある。
 今現在、包帯姿のヴィルヘルミナの服装は
いつもの藤色が栄えるメイド服ではない。
 清楚な編み込みの入ったシルクのキャミソールと
縁に装飾のある黒のミニスカート、
銀色のラメが適度に鏤められたミュールと
欧米都市部の若い女性が着るような、
極めて現代的且つ開放的なスタイルである。
 シンガポールは熱帯である為、
このような軽装の方が傷の具合にも良いと
ポルナレフが買い揃えてきたものではあるが、
その真意は定かではない。
(何故かサイズがピッタリなのが妙に燗に障った)
 しかしチームに合流して日も浅いヴィルヘルミナには
替えの衣服がなかった為
(SPW財団に連絡しても流石に 「メイド服」 は調達に時を要するようだ)
仕方なくコレを着ているという次第であった。
 故に彼 女(ティアマトー)の意志を表出させる神器の形容も、
件のヘッドドレスではなく色とりどりの晶玉をあしらった髪飾りとなっている。
 別にいつもと違う形容なのが不快というのではなく、
全てが眼前で心底嬉しそうに紅茶を飲む男主導の元に
コトが運んでいるというのが不興極まりないのである。
(焦慮)
 元来、その麗美なる容姿により下心丸出しでヴィルヘルミナに言い寄る男は
(人間、フレイムヘイズ、紅世の徒問わず)星の数ほどいたのだが
それらは当人が或いはティアマトーが無言の拒絶と圧力により全て排除してきた。
 しかし目の前に座るこの銀髪の男、
“すたんど” とか云うモノを身に宿す異能者は
いつもと様子が違った。
 軽佻浮薄な様相を呈してはいるが、
他の者と違いこの男には 「下心」 が無いのだ。
正確には場面で場面での対応に於ける、後の 「計算」 が。
 現に今も部屋に(仕方無く)招かれただけで心底満足仕切り、
それ以上の接触は試みてこない。
 話題もわざと昨日の死闘の事は避け、
天気が良いなどどこぞの景色がキレイだの
あの果物が美味だっただのと取るに足らないものだ。
 まるで目の前のヴィルヘルミナが負傷などしていないように、
少しでも心の負担を和らげるように専心しているようにも見えた。
(腑落)
 もし昨日の話題を蒸し返し、己が戦功を誇示するような態度を取れば即座に
断裁してやろう(契約者も同じ気持ちだと彼女は心から信じた)と身構えていた
ティアマトーに取って、コレは大いなる誤算というものだった。   
 そして、嘗て想いを寄せていた者とは似ても似つかないこの男を、
負傷が理由とは言えヴィルヘルミナが招き入れた事も。
 思考に思考、そのまた上に思考を重ねても納得いく解答の出ない疑念に
歯噛みする王の傍らで、何気ない会話は途切れる事はない。
「ところでどうだい? オレの買ってきた服の着心地は? 
たまには違う格好も、新鮮な気分で悪くないだろ」
「腕と脚がスースーして、落ち着かないのであります。
熱気が籠もっては治療に差し支える故、着衣しておりますが」
 実際出逢って一日足らずの相手に、
ヴィルヘルミナがここまで喋るのは初めてみる。
「なぁ~に言ってんだよ。
アンタ折角美人なんだから、色んな服着て楽しまねぇと損だぜ。
“全ての女には幸福に生きる権利がある” ってな」
「な、何を言うので、ありますか……」
 そう呟いたヴィルヘルミナは、包帯の巻かれた頬を向けて視線を逸らした。
「ん? なんだ? 変な事言ったか? オレ?」
「アナタは、まともな事を言う方が珍しいのであります」
「だっはっはっは! そりゃあそうだなぁ~。オレとした事が一本取られたぜ」
 そう言って背けた顔が、朱に染まっていない事を淑女は願う。
 何故か、 “アイツ” は気づいてすらくれなかったのにと、
淋しい気持ちが胸中を突いた。
「にしても」
 互いが沈黙する間もなく喋り続けていたポルナレフの口が、そこで止まる。
 レースのカーテンが靡くバルコニー、その先に在り得ない光景が拡がった。
 山吹色に煌めく紋章と紋字を落葉のように散らす異邦の空間。
(紅世の……徒……!)
「待て!!」
 自らの負傷も厭わず外に飛び出そうとする淑女を、銀髪の騎士の声が諫めた。
 通常なら無視する制止にも関わらず、ヴィルヘルミナは想わずそれを聞き入れた。
 本人も驚きを禁じ得ない躰の反応だった。  
「 “封絶” 指定した範囲を現実から切り離す能力だと君から聞かされたが、
『こんなに大規模なモノなのか?』 オレ達二人を 「標的」 にしたモノなら、
街を越えて海まで射程距離が拡がっているのはどうしてだ?」
 変質した気配、普段とはまるで別人のような物言いに、
ヴィルヘルミナは戸惑いつつもはっとする。
 確かに、封絶は現実世界の被害を最小限に留める緩衝剤でありながら、
互いの 「決闘場」 という意味合いも兼ねている。
 当然その範囲が広がれば拡がる程存在の力も大きく消費する為
可能な限り狭めるのが定法。
 自らの力が途轍もなく大きい、それこそ “顕現” でもしない限り
街一個全てを覆い尽くす必要はない。
“というコトは”
「おそらく、もう既に此処へ敵の手が回っている。
相手の不意を突くのに一番効果的な方法は、
ソレ以外の何かに意識を向けるコト。
そうでないなら、わざわざ自らの存在を晒す必要はない」 
 初めての討滅戦だというのに銀髪の騎士は、
紅茶の残りを飲みながら冷静な見解を告げる。 
裡に宿る幻像の切っ先を想わせるような、研ぎ澄まされた明察力。
「では、どうするのでありますか?」
 万全ではない状況、加えて昨日の苦境が色濃く灼き付いている為
淑女は私情を抑え意見を仰ぐ。
「焦れたのか勇み足か、DIOらしくないやり口だが
『総力戦』 であるコトは間違いないだろう。
この近辺に紅世の徒の気配は?」
「市街地の方に複数感じますがこの近くには……
少なくとも、このホテルに近づいてくる者はいないのであります」
「ならば 『スタンド使い』 か。
そして十中八九 “遠隔操作系” だな。
「本体」 が無防備になるリスクを負うが、
『能力』 次第では数の優位性が意味を無くす」
 そう言って立ち上がったポルナレフは、
素早くドアの真正面へと移動しスタンドに開けさせると即座に戻す。
 数秒の沈黙を待って再び幻像を外に伸ばすと、
顔を前に向けたままヴィルヘルミナを手で招く。
「取りあえず、近くにはいないようだ。
どこかで観察しているのかもしれんが
ソレは同時に真正面からの戦いが苦手という何よりの証。
オレの後に続き、決して傍から離れないように。
解っていると想うが敵が狙うとしたら、
まず重傷を負っている君の方からだ」
「……」
 素肌がザワめくような鋭い気配を発する男の言葉に無言で頷く淑女。
 言いたいことは幾つか在ったが、戦場の直中で我を通すような愚挙を
戦士である彼女は犯さない。
「用心の為、従業員用の階段で降りよう。
まずはジョースターさん達との合流。
敵の数と情報、然るべき戦略を立てねばならぬからな」
「了解、であります」
「では、行こう。
君は、必ずオレが護る」
「……」
 山吹色の陽炎で染まったフロアを、二人は音もなく駆ける。
 無論周囲360°への警戒は緩めぬまま。
 視線の先で完全停止するエレベーターを一瞥した後、
空気を切って脇へと逸れた。
 その僅か数瞬後、動かない筈のエレベーターが澄んだ着階音を鳴らして開く。
 中から、嫋やかな杏色の髪を二つに括った眼鏡の少女が、
最新型のスマートフォンを忙しなくいじりながら姿を現した。
 豊かな脹らみをルーズに覆うボーダーシャツとパーカー、
その下は洗い晒したジーンズと限定モデルのスニーカーという出で立ちである。
 幻想的な空間に現代的なファッションで佇むというシュールな光景。
 少女は誰もいない、否、自分以外の全てが制止した空間を見据えると、
静かにその口を開いた。
「ふぅ~ん。マヌケなヤツかと想ってたけど、
結構鋭いじゃん、J・P・ポルナレフ。
アノ女が考えなしに外へ飛び出してたら、
一発で “蒸発” させてヤろうと想ったのに」
 無感情にそう言うと少女は、
再びスマホのソーシャル・ゲームに視線を戻す。
「でもまぁ、何をしようが絶対にこのホテルからは出られないけどね。
この私、 “アイリス・ウインスレット” のスタンド
『プラネット・ウェイブス』 が此処にいる限り」
 ゲーム画面に視線を落とした少女の前で、動かない筈の扉が閉まる。
 表示ランプはゆっくりと下へ向かって点灯し、
後に残された空間は、次第に罅割れ崩壊した。

 




【2】


「ハァ!? 何なにナニ!? 一体何なの!? コレ!?」
「オレに訊いたって解るわきゃあねーだろ! 
どっかの莫迦がドンパチやらかし始めたンじゃあねーのか!?」 
 シンガポール国際空港前、タクシーと送迎バスでごった返す人混みの中で、
美女と魔獣の声が重なった。
 周囲の人間は、その金切り声に反応する事なくただ静止している。
「だぁ~! もうッ! 1234567! 
これじゃあどれがどれだか解らないじゃないの!」
「突っ込むとこソコかよッ! フレイムヘイズきっての殺し屋が
封絶ン中でまで色惚けてんじゃあグゲオァ!」
 世界の因果から隔離された山吹色の異邦空間で、
喋る本に美女の鉄拳が撃ち込まれた。
 否定の意味ではない、何よりも肯定しているからこその一撃だった。 
「……何勘違いしてんのよ? 
より熱くなってきたって言ってるの……
こういう無粋な真似するヤツは、
原型留めないほど噛み千切って踏み潰さないとね……!」
 新調したタイトスーツ、そしてグラスの中に狂暴な蒼い炎が燃え盛る。
 本当に久しぶりに見る、そう錯覚するような彼女の変貌。
 ソレを目の当たりにした魔獣は、いつも以上に狂猛な叫びを挙げる。
「おうおうおう~!! ようやくらしくなってきたじゃあねーかッ!
我が復活の戦姫、マージョリー・ドー! 
こうなりゃ相手が誰だろうとカンケーねぇ!
ミナミナブッ殺して灰燼(はい)にしちまおうぜぇ~!!」
「当・然よ!!」
 陽炎に染まった異郷の地で、美女は封絶の中心部に向け大地を砕いた。




 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……
 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!
 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!




「冗談、だろ?」
 ビルの屋上で学ランの裾を靡かせながら、無頼の貴公子が呆れたような声を出す。
「香港から続いて三回目。巨大な存在(モノ)に遭遇するジンクスでもあるのかしらね」
 傍に立つ紅髪の美少女が、纏った黒衣を大袈裟に竦め手にした大刀を握り直した。
 二人の眼前に聳えるのは、その全面から山吹色の燐火を吐き出す無数の蔓。
 ソレが幾重にも絡み合って構成された、天にも届く幻想の大樹。
「ケンゲン、ってヤツじゃあねーのか?
あの “蹂躙の爪牙” とかいう犬ッコロみてーによ」  
「否、王の顕現というのは、貴様が想っているほど容易き所業ではない。
あの蔓から感じる存在の力は一律に制御されている。度が過ぎる程にな。
おそらくは名うての自在師が構築した強力な自在法だろう」
 承太郎の疑問にアラストールが答え、シャナは構えた大刀を振りかぶる。
「りゃあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――!!!!!!!」
 振り抜かれた刀身から、炎がカマイタチ状に具現化して襲い掛かる斬撃術。
“贄殿遮那・炎妙ノ太刀” 
 弛まぬ訓練の成果、炎気を込める時間を予備動作と直結させ威力もスピードも
落とさずに仕上げられた改良型。
 しかしその紅い斬撃は射出とほぼ同時に伸びてきた山吹色の蔓に阻まれ、
幹への着弾を阻止された。 
 炸裂と同時に弾け飛ぶ、双色の熱風。
「おまえいっつも失敗するな、ソレ」
「うるさいうるさいうるさい! ただの様子見よ!」
 実は結構自信があった、誉めて貰いたかったシャナの目の前で
バックリと抉れた焼痕から煌めく菌糸のような繊維が湧き出し
煙をあげる欠損部を修復していく。
「自己再生能力!? アノ男ほどじゃないけど、それでも速い!」
「やれやれ、こりゃまた、難儀そうな相手だぜ」
 僅か数秒で元に戻った蔓は、再度の攻撃に備えた承太郎とシャナの意に反し
大樹の方へと返っていく。
 当然の如く次は波状攻撃、或いは飛炎弾の襲来を警戒した二人を見透かすように、
幻想の大樹本体が眼下の街路をその根っこで踏み砕きながら近づいてきた。
(動くの!? アレ!?)
(ジジイのスタンドと似ちゃあいるが、正直ケタが違う……!)
 驚愕を何とか心中のみで留め、唖然とする二人の前で大樹の幹が静かに解れ、
中からその精霊の如き行使者が可憐極まる様相で姿を現す。
「初めまして」
 黄霞に靡く金色の髪、陽炎に揺らめく鍔広帽子とドレス。
 正に幻想世界の住人と呼んで差し支えない、
甘やかな眩暈すら催す至純の美少女。
「女!?」
「子供、じゃないの!?」
 巨大なる自在法を繰る者の、その意外なる姿に声を漏らすが、
「オメーが言うな」
「うるさいうるさいうるさい!」
一方の指摘に一方が廻し蹴りで応えた(無論ガードされたが)
「私は紅世の徒、その真名 “愛染他” ティリエル。そして」
 遙か頭上から、大気を圧するナニカが急速で下降してくる。
 ソレを少女は軽やかな指先を一振り、
舞い散った火の粉に連動した枝葉で受け止めた。
 大地が陥没する程の衝撃を分散吸収した枝葉の上に立つ者は、
華美な鎧に身を包んだ騎士の少年。
 形状からしてプレート・メイルに近いが、
機能性を重視してか関節部のパーツは外してある。
「この方が、私のお兄様、 “愛染自” ソラトですわ」
 そう紹介された、少女と瓜二つの少年の手には、
竜の首でも一撃で叩き落としそうな大剣が握られ
聳える大樹とはまた異質の脅威をギラつかせていた。
「『星の白金』 空条 承太郎様。
『紅の魔術師』 空条 シャナ様とお見受けしますわ。
相違はなくて?」
 高圧的だがそれを全く感じさせない美しい声でティリエルは訊く。
「DIOのヤローの刺客だな? 
能力はスゲーようだがこんなガキまで使うとは、
ヤローも随分切羽詰まってんじゃあねーのか?」
「余計な口上は無用。さっさと始めてさっさと終わらせましょう」
 出国以来、正確には出逢って以降本当に何度も繰り返されたやりとりなので
二人は顔色を変えず応える。
 逆に少女は一瞬その青い瞳を張り詰めさせたが、すぐに私情を諫め布告を受け入れる。
「そうですわね。格調も品格もありませんけれど、
アナタ方の最後の言葉としては相応しいかもしれませんわ。
お兄様? 何か言う事はありますか?」
 すぐにでも大樹を起動させ、全面攻撃を可能とする態勢を整えながら
ティリエルはソラトに振る。
 促されたソラトは焦った表情で冷や汗を飛ばしたがやがて、 
「君達……DIOサマの事、イジめるの……?」
封絶の気流に吹き飛ばされそうなか細い声でそう言った。
「あ?」
「ハァ!?」
 その小心な様子というより良く聞こえなかった事に苛立った二人が
凄味を滲ませて問い返す。
 どこぞの殺人鬼が聞いたのなら以下略、
ソラトはその壮烈な格好とは裏腹に怯むが
双眸に涙を浮かべて再び言う。
「DIOサマ、イジめる、の?」
「……」
「だからおまえ何フザけた事」
 戦闘状態で燃え上がる二人の、意識の外を突くように一迅の疾風が音もなく駆けた。
 気づいた時にはもう、承太郎の眼前で巨大な両手剣が振り抜かれている。
 真一文字に裂かれた皮膚から、滴り落ちる雫。
 文字通り首の皮一枚で躱した承太郎と声が言葉にならないシャナ。
 その姿に油断していたわけではない、寧ろいつ戦いが始まっても対応出来る程に
神経を張り詰めていたからこその驚愕だった。
 一拍於いて叩きつけられる、爆風のような空気圧。
(もうワンテンポ遅れりゃあ、首から上がソックリ無くなってた……!
この小僧(ガキ)……! シャナ並のスピード……! パワーはそれ以上か……!?)
 殺気を全く感じさせない、しかし兇悪なる殺傷力、
相反する要素が一体となった無垢で残虐な一撃に
さしも承太郎も寒気を覚える。
「このぉッ!」
 同じ脅威を感じつつも激昂したシャナが、
左掌中から炎弾の嵐を乱射する。
 しかし巨大なヒトデのように開いた大樹の蔓が、
剣を振り切ったソラトの側面を覆い尽くし完全にガードした。
 妹の援護を当然のものとした兄は、そのまま蔓を蹴り付けて宙返りし
甲冑を付けているとは想えない身軽さで中程に着地する。
 その先ではティリエルが既に勝利を確信したような、
優美なる微笑を称えていた。
「……」
「……」
 激戦の火蓋を切る光景の直中で、承太郎とシャナは眼を合わせず
知らぬ者のいない遊戯を行う。
 結果は、パーで承太郎の勝ち。
「右」
「左ッ!」
 それぞれの相手の位置を叫び、
承太郎がソラトに、シャナがティリエルに立ち向かった。




 熱帯の樹木が立ち並び、頭上に停止したロープウェーが見下ろす街路を疾走しながら、
花京院 典明はべっとりと粘り着くような視線を感じていた。
(付けられてるな……)
 歴戦の経験が培った感覚、
『スタンドバトル』 は、一 撃 目(ファースト・ヒット)がスベテ
と言っても過言ではない。
 相手の 『能力』 によっては、一度傾いた形勢を覆すのはほぼ不可能となるからだ。
 だが逆に考えるならば、ソコから相手の 『能力』 を類推するのは不可能ではない。
 少なくとも 『近距離パワー型』 か 『遠隔操作型』 かの区別が付くだけで、
戦況のアドバンテージは大きく変わる。
 わざと気づかないフリをして、視線や表情の不自然さも極力消して
翡翠の美男子は相手の動向を窺う。
 ソレを見透かしたかのように。
「!」
 首筋にザワめく気配から花京院が横っ飛びに避けた後、
先刻まで自分のいたアスファルトが破裂音と共に弾けた。
(遠隔操作!)
 刹那の認識と着弾の軌道から相手の居場所を探る同時考察。
 背後の交叉路で密かに動く影が在った。
(追って来いと言ってるのか? 挑発にしても稚拙だが、
それだけ自分の能力に自信があるというコトか)
 追跡してきた者が一転して撤退。
 どう考えても罠だが花京院はソレを逆手に取る。
( 『法 皇 の 緑(ハイエロファント・グリーン)……ッ!』 )
 空間を歪める音と共に出現する
異星人のようなスタンドの右腕を解れさせて延ばし、
頭上に撃ち出してロープウェーを運搬するケーブルに巻き付ける。
 ソレをクレーンのように巻き戻しながら山吹色の火の粉が舞う
上空で見下ろすシンガポールの街並み。
 ここまで来た 「経路」 は全て記憶済み。
 相手の逃げた先に隠れられるような路地裏は300メートル後まで存在しない。
追跡()けた相手が、悪かったな) 
 目論見通りの展開になっても怜悧な表情を決して弛めず、
花京院はスタンドの触腕を操作し大車輪のような廻転運動を執らせる。
 数回の廻転で充分な遠心力を蓄えた触腕を即座に振り解き、
弾丸のような速度でスタンドと共に滑空する。
 山吹色の火の粉に翡翠色の燐光が棚引き
三秒を待たずに目標地点へと到達した。
「!?」 
 両腕と両足を等間隔に開き、
その風貌を傾けて着地する独特の立ち姿。
 想わぬ方向から先回りされた相手は無言で立ち止まる。
「何故逃げる? ボクに用があるんだろう? 一体」
 余裕に充ちた微笑を浮かべる花京院の表情が、ソコで凍り付いた。
 自分を追って来た者。
 自分と戦うスタンド使い。
 ソレは。
「フッ……」
“自分自身だった”

←TOBE CONTINUED…

 
 

 
後書き
ハイどうもこんにちは。
三部にしてようやく、「メインメンバー」がここに集結といった話です。
あと一人 (?) を除いては、基本このメンバーで旅を続けます。
ソレと今回オリキャラが一人出ましたが、ワタシは基本オリキャラは
あまり出さない方針で進めているのですガ、ストーリーの設定上
やむにやまれず出す場合があります。
(二部のマージョリーの「過去 (復讐の動機) 」が
( ゚Д゚)ハァ? だった場合トカ)
お解りの人はお解りの通り『プラネット・ウェイブス』は6部のスタンドなので、
3部で出すには当然使えるキャラを考えなきゃならんワケです。
なので“彼女”はDIOサマではなくプッチ神父に忠誠を誓う、
外見と性格がアンバランスなキャラとお考え下さい。
(だから○が○○イとかワタシが好きとかヱ○ァのアレに似てるトカ
そーゆーわけではない)
ソレでは。ノシ 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧