Prologue...
今日も今日とて、僕達三人はいつものようにまったり休日を過ごしていた。
ここは僕の家。僕たちはベッドに座り、壁に背中を預けるようにしてもたれかかり、花陽と凛は僕にもたれかかるようにして静かに寝息を立てていた。
...静かだなぁ。
僕が息を殺してみると、時計の針が均等に時を刻む音が聞こえてくる。水色のフレームであるその時計は小学六年生の時の誕生日プレゼントとして買ってもらったもので、最近よく止まることが多くて寿命が来てるのかもしれない。でも動かなくなるまで使い続けようと思う。
ほら、勿体ないからね。
そして今度は窓の外を眺める。
少し曇りのかかった天気で今にも雨が降り出しそうな、そんな気がする。
電線には何羽の烏が停まっていて、『カァ!カァ!』と鳴き声を上げている...のかもしれない。
だって窓越しの景色だからよく聞こえないのだ。嘴の動きで判断しているので......
「あ、今お腹が鳴った...」
ぐぅぅぅと腹の虫が鳴り、そういえば朝ご飯以降何も食べていないことに気づく。
下に降りてパンか何かつまんでこようと考えたけど、両サイドで花陽と凛にがっちりホールドされているために身動きが取れない。
仕方ない、我慢しよう。
そして僕はまた視線を時計に戻してぼーっと眺める。
何もすることがない。でも、こんなことはよくあることで別に嫌だとか思ってもいない。むしろ居心地がいい。
こんな光景は幾度となく見てきた。そう、小学生の時からずっとずっと...
ふと、僕の頭の中に小学時代の思い出が甦って来た。
その数々の思い出の中で特に印象深く掘り起こされるひとかけら。
僕は涎を大量に垂らして僕の服を汚す凛を見つめる。そして、その綺麗な髪の毛をそっと撫でながら僕は......振り返っていた。
──僕と花陽ちゃん、初めて凛ちゃんと出会った時の思い出を。
時は遡ること七年前の小学三年生の春。
僕と花陽は幼稚園の入園式の頃からずっと一緒で、今回のクラス替えでも見事に同じクラスになってはしゃいでいた春。
新しいメンバーと仲良くなれるか期待と不安が強くなる春。
難しい勉強にもついていこうと気を引き締める春。
そして。
そして。
『あ、君が僕の隣の席の子なんだね?よろしく!』
僕と花陽の輪に新しい”幼馴染”が加わる春。
隣の活発そうな女の子は言った。
『初めまして!”私”は
星空凛って言うにゃ!よろしくね!!』
— 誕生日記念 野良猫と出会った僕 ―
その子は星空凛と名乗った。
その苗字の如く、綺麗で広大な心を持っていてクラスの男女から好かれていて特に同性からの人気は非常に高い。
星のように澄み渡った瞳が綺麗でそこから強い光を放っているように見える。
身長は小学三年生の平均よりは小さいけども、好奇心旺盛でムードメーカーな彼女の性格のおかげでクラスの中で一番存在感はある。何をするにしても星空凛は中心にいるのだ。
───かっこいいなぁ。
これが、星空凛に対する第一印象だった。
それに比べて僕たちはというと教室の隅で本を読んだり、太陽に日差しを浴びて日向ぼっこする...まぁ彼女たちとは対照的な立ち位置だった。
『今日ものんびり時間が過ぎてるね~』
『うん~、気持ちいねー』
二人してそんなことを言う。
ガヤガヤと教室の騒がしい昼休み、僕と花陽はお昼寝をしていた。
そんな僕と花陽の姿が目に入ったのか、星空凛は輪から外れて僕たちのもとにやってくる気配がした。
『あ、近寄らないほうがいいよ凛ちゃん!あの子たちは私たちと違うから、話しかけても面白くないよ?』
『そうだよ!戻ってきて!』
いつも星空凛と仲良くしている二人の女の子がわざわざ大声で警告する。
普通の声でも聞こえるのにわざわざ大声で叫ばなくてもいいのにね...
花陽はちょっと辛そうな顔をしていたけど、僕がは彼女の頭を撫でながら『大丈夫大丈夫、いじめられているわけじゃないんだから気にしないで』と声をかける。
そう。別にクラスの人たちにいじめられているわけじゃない。
ただ、僕たちのノリというかテンションがみんなに合わないだけなんだ。
星空凛は友達の警告にお構いなしに僕たちに寄って来る。
こういうところがもしかしたら好かれる要因なのかもしれない。
『二人とも眠いのかにゃ?』
『え?う、うん...まぁ眠くはないけどこう日差しを浴びてると穏やかな気分になるんだ~』
『ほぇ~そうなの?』
なにやら興味ありげな星空凛は、まじまじと僕たちの表情を伺いながら、近くの今は誰も使っていない机と椅子を引っ張って僕たちの机に合わせてきた。
その光景にクラスメートは驚いていた。
『どうしたの?』
『えへへ、私もまぜてにゃ!なんかおもしろそう!』
屈託のない笑みを浮かべて彼女はそう言う。
その発言に花陽は起き上がって『あわ、わわわわ』と真っ赤にして慌てている。
飛び起きた衝撃で眼鏡が少しずれていた。
『いいよ~、花陽ちゃんはどうかな?』
『ふぇぇっ!?わ、私ぃ!!??え、えっとぉ...』
新しいクラスメートにタジタジな花陽は眼鏡を直してから『ど、どうぞ...』と蚊の羽音のように小さな声で呟く。
途端、星空凛は嬉しそうにうんうんと頷いた後、すっくと立ちあがって教室入口隅のお友達に向けて声をかける。
『私、今日は日向ぼっこするにゃ!だからごめんね!約束はまた今度にするにゃ!!』
『えぇ~!せっかく楽しみにしてたのに~!』
ぶつくさと文句を言って教室を後にするクラスメートを他所に、星空凛はお構いなし。
机にぐでーっと寝そべって気持ちよさそうに大欠伸をする。綺麗な犬歯が見えた。
随分と自由気ままな性格のようで、変に気を遣わずにフレンドリーに話しかけてもらえるのは正直言って助かる。
僕はそこまで人と話すことに抵抗は感じないけど、僕の後ろに隠れて星空凛をじーっと見つめている幼馴染の花陽は警戒心丸出しなのだ。それくらい、人と話すことに慣れていない女の子なのである。
『花陽ちゃん?大丈夫だよ~いい子だから隠れてないで話しかけてみたら?』
『ふぇ!?い、いやぁ...でもぉ』
『いいかあらあいいから♪』
僕がぐいぐいと花陽の背中を押して彼女の近くに置いたのは少しでも友達を増やしてもらえればなという単純な願い。
『むにゃ~♪確かにお日様の光は温かいにゃ~』
『あ、あの...その...』
『ん?あ!貴女もこっち来て温まるにゃ!』
『え?』
彼女は花陽の恥ずかしがり屋という一面を多分知らない。
だけど、あくまでクラスメートの一人を自分のやることに誘うだけという事。
深い意味もなく、ただ一緒に遊ぼう、と。
花陽も最初はもじもじとしているけど、結局最後はゆっくり椅子を移動して星空凛の隣に座った。
ちらっと僕の方を振り向いたのち、ちょっぴり嬉しそうに微笑んだ。
『そういえば、自己紹介まだだったにゃ。私の名前は星空凛っていうにゃ!貴女のお名前は?』
『わ、私は...小泉、小泉花陽...です。”花”に太陽の”陽”って書いて、花陽』
『花に陽...じゃああだ名は
かよちんに決まりだね!!!』
これが今後数十年にわたって星空凛から呼ばれ続けることになる”かよちん”の誕生であった。
特にとても興味深い出来事を経て花陽が”かよちん”と呼ばれるようになったわけじゃない。
ごく普通の日常で、新しい友達ができてその子からあだ名をもらった。ただそれだけの事。
それが花陽にとってはとても嬉しいことだった。僕以外の子と話すのは久しぶりで、最初はぎこちなくても自然と隣で気持ちよさそうにしている姿を見て、僕は嬉しかったんだ。
『星空さんは、学校好き?』
『大好きにゃ!それと、私のことは”凛”って呼ぶこと!』
『えっ!?え、っとぉ~』
グイグイな星空凛に花陽は一瞬僕の方をちらりと視線を向けた後、恥ずかしそうに『凛...ちゃん』と声に出す。
それを聞いて彼女はさも嬉しそうな満面の笑みを浮かべる。なんとなく頭から猫耳、お尻から尻尾が生えていてぴょんこぴょんこしているように見えたのは気のせいだろうか...
『えへへ、かよちんは可愛いにゃ!』
『ふぇ!ちょっと恥ずかしいよぉ~!!!』
──僕たち三人がこうして仲良くなった出来事はこんな感じだ。
特に何かあったわけでもない。でも、それが僕たちらしい出会い方だったと思う。
その日を境に彼女...星空凛と花陽は共に行動している光景が見受けられ、その中に僕は混ざることなく遠目で二人を眺めていた。
ようやくできた同性の友達。
ちょっぴり寂しいな、なんて考えたりもしたけど。
──そんな僕と、星空凛が親密な関係になったのはそれから二か月後の梅雨の時期。
花陽ちゃんが家族との用事があるということで先に帰り、久しぶりに僕一人で帰宅しているときだった。
その日も雨だった。その時は小雨だったものの、いつ土砂降りになってもおかしくないと天気予報は報じていた。だからいつもより早歩きで歩いていた。
半透明な傘がパラパラと軽快な音を立てていて、その音源となった雨の雫が次第に大きくなってくるのがわかった。
『雨、強くなってきたな』
僕は駆け足で帰ろうとした。
T字路を左に曲がったとき、電柱の隣で黄色の傘をさして蹲る人が視界に入った。
僕に背を向けているため誰がそこにいるのかわからなかった。
多少の興味はあったので横に並んでちらりと横顔を覗く。
さらさらなオレンジの髪。
季節は丁度梅雨で、数日前の長袖長ズボンとはうってかわって短パンに緑と白のTシャツだ。雨でぬれているため中の下着が若干見えそうで見えない。でも、まだ僕は小学生。そこまで意識することなく彼女に声をかける。
『星空...凛、さん?』
『え?あ、
春くんだ』
『は、春くん?』
『だって高橋春人くんでしょ?だから春くん』
彼女は初めて僕の名前を呼んでくれた。
いきなりあだ名なので少しびっくりしたけど、全然悪い気はしなかった。
そのあと、星空凛はすぐに顔を戻して一点を見つめている。
何を見ているのかその視線の先を辿ると長方形の段ボール箱。そのなかにちんまりとした子猫がいた。
種類はわからないけど、白をベースとした毛の色で黒い斑点が全体にぽつりぽつりとあった。
そして、段ボールに張り紙が張ってあり、『誰かひろってください』の一言のみが書かれてあった。
『捨て...猫?』
『そうみたいだにゃ。なんだか可哀想』
『...何をあげてるの?』
『さっきコンビニで買った煮干しにゃ』と言いながら、星空凛は煮干しを細かくしてからその捨て猫にあげる。よほどお腹がすいていたのか、目の前に差し出された煮干しを勢いよく口の中に入れ、無くなったかと思うと子猫は彼女の顔を見て『にゃ~』と鳴き声でアピールする。
『とってもかわいいにゃ。なんだか妹におやつを分けている気分だ』
『星空さんには妹さんがいるの?』
『ううん。私は一人っ子』
『そうなんだね』
特に盛り上がることにない、とりとめのない話。
星空凛は子猫への餌やりに夢中で傘がずれて自分のスカートが濡れていることに気づいていない。
僕はその、濡れているところに自分の傘をかざす。
『子猫、可愛いね』
『...そうだね』
次第に雨は強くなる。
早く帰りたいのはやまやまだが、このまま彼女を放置してもいいのだろうか?まぁ、普通無理だよね。
『私ね、猫アレルギーなんだ』
『そうなの?じゃあ子猫に近づいちゃダメなんじゃない?』
『触れない程度なら大丈夫にゃ。でも、家で飼うのはできない...でもこの子を放っておくのもできないにゃ』
ちらりと僕を見る。
おっけ、彼女が何を僕に訴えているのか瞬時に分かった。額からじわりと汗が流れ落ち、それでも一応質問してみる。
『ど、どうしたのかな?そんな目をして...』
『この猫さん、春くん飼ってくれないかな?』
『え、えぇ~...』
予想通りの質問に苦笑いで返す。
そもそも猫なんて買ったことないからしつけ方も知らないし、飼うとなると餌代などの費用がかかる。
何より猫嫌いなお母さんに見つかったらその場で捨てられるかもしれないのだ。いや、かもしれないじゃない、確実に捨てられる。
『ごめんね星空さん。僕のうちはお母さんが猫苦手で多分飼ってもすぐに追い出されちゃうかもしれないんだ』
『そ、そんな~!!』
星空凛は心底残念そうな顔をして急に立ち上がる。
手から傘を離して道端に音を立てて転がり落ちる。雨が強いため、すぐに彼女はびしょびしょになってしまった。
『ちょ、ちょっと!傘ちゃんと持たないと濡れちゃうよ!というかもう濡れてるし...』
『え?にゃはは~、やっちゃった』
傘を拾い上げ、中にたまった雨水を捨ててから彼女に差し出す。
まったくこの子は天然といいますか...無防備といいますか。
多分それが彼女が好かれる一因なんだと思う。勿論それだけでないのは重々承知してる。
『でも、それじゃあどうしようかにゃ...このままにしておくのは私できないにゃ』
『そうだね...それに多分この子猫は生まれたばかりだよ。ほら、しっかり立てないみたいだ』
星空凛はがっくりと肩を落とす。
う~んう~んとしばらく唸るも、何やら良い考えが浮かんだらしく笑顔を浮かべて子猫の入った段ボールごと両手に抱えて『私についてきて!』とだけ言って前を歩きだした。
その、振り向いた時の彼女の笑顔に僕の鼓動は一瞬トクンと高鳴った。
無邪気で穢れの一つも知らないその笑顔は本当に可愛かった。
...可愛かった。
~☆~
結局、彼女はどこに子猫を置いたのかというと小学校の体育館裏だった。
なんていうか、よくあるようなところに隠したなと思ったけど僕たちの小学校には小動物を隠して育てられるような場所はここしかないし、なにより小屋にはウサギが飼われているため目立ってしまうのだ。
だけど、星空凛はまるでその子猫を自分の弟のように可愛がっていた(尚、性別はオスだそうだ)。
猫アレルギーのおかげで触ったり抱き上げることはできなくとも子猫が餌を食べている姿や僕とじゃれている姿を見て満足しているらしい。
『可愛いね子猫さん。名前はなんて言うの?』
その時は花陽も連れて三人でお世話していた。人目の少ない早朝、うんと背伸びをしている僕に向けて花陽は質問してきた。
『そういえば名前決めてなかったね。星空さん、名前どうしようか』
『パンダ』
『『......』』
即答だった。
名前といったらポチなどと連想するのだが、星空はパンダという固有名詞を口にした。
いや...あれかな?顔の黒縁がパンダみたいだからそう名付けたのかな?
『え、どうして...パンダ?』
『だってこの子猫ちゃんは”パンダ”って呼ばれたがっているような表情してるからにゃ』
『可愛いね!私はいいと思うなぁ~』
まぁ、可愛いのかも。
猫なのにパンダ、猫なのにパンダ。
頭の中で反芻し、くすりと笑みをこぼす。
昔から僕らはいつもマイペースにのんびり毎日を過ごしてきた。
変わったことといえば、僕と花陽の輪の中に凛が入ってきたこと、それだけだ。
───事態は急変する。
それはいつものように小学校へ登校しようとしていた時だった。
不幸な事件というものは不運がいくつも重なって出来上がるものだ。
凛が珍しく朝寝坊してしまったこと。
登校中にクラスメートの男子と遭遇してしまったこと。
パンダの存在をクラスメートに知られてしまったこと。
実は凛のことを女子らは妬ましく思っていたこと。
.....そして、凛がこの日、初めてスカートを履いてきていたこと。
すべてが一斉にやってくるなんて、不運そのものとしか言えなかった。
『やっほ!おはよー春くん!かよちん!』
いつもの時刻の10分後に星空凛はやってきた。
『おはよう!凛ちゃん遅刻だよ?早く行かないと学校遅れちゃう...って、あれ?今日はスカートなの?』
『そう...だよ?変、かな?』
もじもじ手を後ろに組んで視線を泳がせる姿は、女の子そのものであった。
『ううん、そんなことないよ!』
『そうだよ星空さん!可愛いよ♪』
実際に星空凛はこの時から可愛かった。
短い髪ながらもしっかり手入れされているみたいにさらさらで、すらっと伸びた手足。まだ小学生ということもあって身体にわかりやすい凹凸は無い。
だけどすれ違いざまに漂うシャンプーだとか、顔にかかる髪を触る仕草で更に彼女の魅力を高めていると思う。もちろん、今まで履いたことのなかったスカートを履いて恥ずかしがっている姿も初心で可愛い。
『かわっ!...いい。え、えへへ。そうかにゃ?えへへ...』
──唐突に聞こえてきた男の子の声。
『あ~モテ男じゃん!!』
『ほんとだ!それに小泉と星空もいるぞ!やっぱお前ら付き合ってんじゃね!?』
『罪な奴だな~!』
背後にはクラスでいつも男子陣の中心にいる三人組。
その三人の視線が僕や星空凛に一瞬向いた後、じ~っと花陽の方を向く。
...正確には花陽の小学生とは思えないふくよかな胸に。
今ほどではないが、この時から僅かながら成長が始まり、小学三年女子全国平均を超えているのだ。
その彼らの視線にムッとした僕は立ちはだかるようにして場所を移動する。
『や、やぁおはよう』
『みんなおはようにゃ!』
『お、おはようございます...』
僕にいら立ちのような視線を向けながら『はよっ』とだけ小さく呟いて視線を逸らす。
そんな中、ライトグリーンのフレームをした眼鏡の男の子が、星空がスカートを履いていることに気づいた。
『あれ?星空がスカート?』
『え?あ、ほんとだ』
『ど、どうかな?似合う...?』
この時の彼女はただ純粋に聞きたいだけだったのだ。
実のところ、この眼鏡の少年は星空凛に淡い恋心が芽生えていて、彼女の前だと素直になり切れない一面を持っていた。だからだろうね。
星空は、少年が自分に恋をしているなんて気づくこともなく聞いてしまったのだ。
幼い恋というものは時には残酷になってしまうこともある。
『な、なんか似合わねーっ!!!!!』
『ほんとそれな』
『え......』
本心からそう言ってるつもりが無いことは頬を染めている姿を見れば十分に伝わったはずだ。
だけどまだ彼女は小学生。
『あまり女の子らしいことするなよ星空~』
『そーそ。お前は男っぽい振る舞いするからみんなに人気なんだぜ?』
彼をきっかけに言いたいように言いまくる。
その発言が彼女のことを傷つけていることを知ってか知らずか。星空は驚愕と悲痛に溢れた表情を一瞬だけ見せ、ひゅんとすぐに笑みを浮かべる。それは作り笑顔であることは明らかだった。
『み、みんな酷いにゃ~。私だって女の子なんだからスカートくらい履きたくなる時だってあるにゃ』
『でも、星空のこと誰も女の子だって思ってないぜ?』
『...え?』
『お、おい。それ以上は言い過ぎなんじゃ───』
『その隣の小泉も高橋もきっとそう思ってるよ』
『そ、そんなこと言わないでよ。凛ちゃんが可哀想です』
僕らが静止にかかっても聞く耳持ってくれなかった。
...どうして彼らはそう言うのだろうか。今となっては理由はわかる。言っていることの反義が本音だということを。
『やべ!!今日日直だったの忘れてた!急がなきゃ!学校まで競争だ~!』
『ええっ!?負けてたまるかこんちくしょ~!!!』
気まずくなった眼鏡の少年は話を区切る。
いきなり登場して風のように走り去る彼らの後姿を眺める僕は、横目でちらりと星空凛の様子を伺う。
花陽も心配していて、そっと手をつないでいた。
彼らが駆け出す中、ただただ星空凛は肩を震わせて小さな雫を流すだけだった。
初めて彼女が泣く姿を見た。
『私、帰って着替えてくるね』
本当に帰してもいいのだろうか。そんなこと絶対にないのに。
彼女にスカートは似合わないなんて......
『そんなことないよ凛ちゃん。凛ちゃんはいつだって女の子だよ!』
『ありがとねかよちん。だけど今は、一人にして欲しいにゃ』
『でも──』
『お願い』
僕は何もできなかった。
それがいつものこととはいえ、声をかけることも止めることも。
多分それが僕の中で定まった行動原理じゃないからだ。
───僕と星空凛は友達じゃない、ただのクラスメートだ。
小学生とは思えない冷徹な感情があったからだ。
遠ざかる彼女の背中を見て、可哀相と思いながらも、ただ心の中でそう思うだけで何もしない僕がいた。
そんな最低な思考から、ちょっとばかり成長するのはもう少し先の話。
それは、”星空凛”から”凛ちゃん”へと変わったときの話。
~☆★☆~
彼女の泣き顔を初めて見た翌日のこと。
更に出来事は続いた。
早朝。
日直と先生からの要件と子猫のお世話という三件ほどやるべきことがあった僕は、朝6時であるにも関わらず学校に来ていた。
正門はカギがかけられてどうしようかと思ったけど、人目もなかったのでこっそり乗り越えました。
悪いことしているなぁと反省はしたけど時間があまり無いのでそこは断念。
グラウンドを堂々と歩く勇気は無いので少し遠回りして到着したのは体育館裏。
木々の間に手を突っ込み、段ボールを取り出す。
『おはよ~パンダ~っ。元気にしてた~?』
返事しているかのようににゃ~ご、と鳴き声。
いつも通り元気そうで何よりだった。
しかし、段ボールを開けて子猫を持抱き上げた時に僕は気が付いた。
『?』
”ソレ”を見た時は何がなんだか僕には理解できなかった。
子猫は妙にふるふると体を震わせて、まるで僕に抱きかかえられるのを拒否しているかのようだった。
猫は自分にとってのご主人様にしか懐かないと聞いたことがある。それは恐らく子猫を拾った星空凛だ。だから主人ではない僕に抱きかかえられるのを嫌がるのは至極当然だと思った。
───だけど、そうじゃない
次に僕が注目したのは子猫の右足。
...普通なら決して曲がることのない方向に”ねじ曲がっている右足”がぶらんと力無く爛れていた。
支えているはずの”モノ”はどこいったのかな?
『どう...して?どうしてこんなことに』
理解ができなかった。
猫だから一人で勝手に散歩しているかもしれないとは思ってた。子猫だからしないのかもしれないけど。だからもしかすると他の動物を遭遇して喧嘩してケガをしてこういうことになっているのかもしれないとしばらく考えた。
でも、どう考えても
人間以外の生き物が与えられるようなケガでないことは、いくら無知な小学三年生の僕でさえ理解できたのだ。
なんの害もない小さな猫が酷い目にあわされていて悲しくて仕方がなかった。
『どうにかしなきゃ...でも、この時間はまだ来てないと思うし、それに...』
そこでひとつ深呼吸を入れる。
冷静になって考えてみると、子猫を飼っていることを教師たちは知らない。
ここで騒ぎを大きくして逆に星空凛や花陽に迷惑をかけるなんてもってのほか。
『見捨てられないんだよね...』
当然だった。
命はたった一つ、どんな生き物にも必ずあって、そう簡単に失ってはいけないものだから。
それは悪いことだから。
だから僕は必死に頭のフル回転させる。
なにかないか?何か...手立てはないのか?小学生にしては大人びた表情で震えるパンダを抱える。
その時、背後から草と砂利をシューズで踏む音が聞こえた。音を発した主は、
『春くん?どうしたのかにゃ、こんな朝早くに血相変えて』
彼女がやって来たのだ。来るのには早すぎる時間だとふと自分の腕時計を確認する。意外にも時間はかなり立っているようでもう少しで児童たちや先生方が学校にやってくる時間になっていた。
時間経っていることに気づかないくらい僕は焦っていたことに心底びっくりした。
『星空さん...子猫が、パンダが!』
『えっ!』
僕の普段らしくない焦燥の声と表情ですぐに理解したのか彼女は駆け寄って僕から子猫を預かって容態を窺う。
全身の傷を見た後、今度は一番酷い前足に。顔色が青く冷め、『春くん、先生呼んできて!』と見向きもせずに叫んだ。
『でも!これでばれちゃったら──』
『パンダをここで見殺しなんてできないにゃ!』
『っ!!!』
初めて聞く星空凛の声色に僕はこれ以上口を開くことができなかった。
黙って頷き、一目散に職員室へ駆け出した。
あまり運動は得意なほうではないけども気にしている暇はなかった。
その後、僕と星空凛、そして花陽も職員室に呼ばれた。
子猫は先生の車で動物病院へ運ばれ、大事には至らないとのことで三人は安堵したものの、学校の規則を守らなかったということで事情を説明し、小一時間ほど指導を受けた。
星空凛は『そんなの間違ってる』と抗議したけど、所詮は小学生の我儘と捉えられ、先生は相手してくれなかった。
仕方ないとはいえ、これじゃああのまま子猫を放置すべきだったと遠回しに言われているような気がして苦虫を噛み潰したような気分でその時間を過ごした。
クラスでは僕たちの起こした問題の話題で持ち切りとなっていた。
指導という名の説教が終わり、教室に戻ると待ち構えていたのはクラスメートの様々な視線だった。
好奇、嫌悪、軽蔑。僕らに聞こえないようにひそひそと話しているのが不気味だ。
話を聞いているのであれば軽蔑なんて眼差しは普通向けないはずなのになぜか向けられている。
噂に尾ひれがつくのは僕の中では当たり前だと解釈しているのだが、一体どういう尾ひれの付き方をしたらこうなるのだろうか疑問に思った。
『ねぇ星空さんさ~』
いつも彼女と仲良くしている女の子の一人が代表として前に立つ。
ツリ目で前髪だけ金色に染めているのが特徴で、その子はズボンのポケットに手を突っ込みながら声をかけてくる。
『な、なに?』
『あのさ~、さっき聞いた噂ってホントなの?』
『う、噂って?』
『いやだからさ...
───星空凛が”猫を殺した”って噂』
直後、しんと静まり返る教室。
...え?なにその噂は。
あまりにも飛躍しすぎた内容に度肝を抜いた。
どこからそんなデマが流れてきたのか気になるが今は関係ない事。僕は星空とその子の間に入る。
『ちょちょっと待って。どうしてそんな話になったのかわからないけど星空さんがそんな事できるような子じゃないってわかるでしょ?』
『アンタは何様よ!いきなり間に入って来ていけしゃあしゃあと!アンタは教室の隅で黙っていればいいのよ!!』
なんという言われよう...
確かに僕はこうして渦の中に自ら入っていくような人物じゃないのはわかっている。
だけど、尾ひれの内容ができるような少女じゃないことはここ数日で知った。
僕には理解できなかった。僕や花陽より遥かに星空凛と関わりがある彼女が、いや、彼女たちが『アイツは酷いヤツ』、『あの子は最低だ』という意味の含まれた眼差しで彼女を見下しているからだ。
『とりあえずさ、どうやって猫を殺したのか私に教えてよ。そんな可愛い顔の裏でどんな残虐なことを考えているのか見てみたいわ』
『わ、私はそんなことしてないにゃ!!』
『大体さ、その”にゃ”はなんなわけ?前から気になってたんだけどそれで可愛いと思ってるつもりなの?男子の話によると、昨日スカート履いて学校来ようとしてたみたいだね。何のつもり?』
もはや収拾がつかなくなってきた。
猫の話題から星空凛自身へ話題が逸れた。
驚きのあまり彼女は視線を彷徨わせて助けを求めるも、クラスの仲の良かった友達でさえ嫌悪の視線を向けていて、それだけでフォローしてくれないのは目に見えていた。
『は、履きたかっただけにゃ!』
『へ~...
男の子であるアンタがスカート履くなんて変ね~!』
『っ!!私は女の子にゃ!!なんでみんなそういうこと言うの!!』
いつになく彼女は激昂していた。
仲良くしている友達が酷いこと言うからなのか、それとも”男の子”と自分が女の子であることを否定されているからなのか。間違いなく後者のほうが強い。
女の子なのに男の子と言われて喜ぶわけない。
それに...
『ホントはあたし、星空のこと嫌いだったんだよね!なんていうかさ、こういうことすれば男子から好感を得られるとか、更に女の子と仲良くしておけばみたいな媚び売ってるような態度が気に食わなかったんだよ!!自分でもわかる?!』
『そ、そんなことしてない!私は──』
『そうだよね~コイツ自分に酔ってるんだよ!あぁ!みんなと仲良くできる私は可愛い!みたいなこと考えてたんじゃないの?』
『...していない。私はそんなこと考えてないもん』
もうこのクラスの女子は誰一人星空凛を庇う者はいなかった。
あんなに仲良くしてた男子でさえも女子の気迫に飲み込まれてしまい、知らぬふりをして各々の会話をしていた。
どうしてこんなに脆いんだろう...
たった一つの小さな誤解が大きな歪へと変化していくのを僕と花陽は間近で見てしまった。
もう、星空は空虚な目をしたまま何も言葉にしようとしなかった。
ただ。
口をわずかに震えさせて、自分の肩を抱くその姿は一匹の
野良猫のように見えた。
そして。この時。この瞬間。
星空凛は
りんとなった。
~☆★☆~
一度は咲き乱れて散ってしまい、幻想的な花を忘れてしまった木々が、再びその身を焦がしてゆく。
蒼く、蒼く。
小学校のグラウンドの片隅、タイヤの形をした遊具でポツンと一人で彼女は座っていた。
何をするでもなく、ただちんまりと雲一つない青空を眺めていた。
花陽とわざわざここにやってきたのは他でもない、星空に...
凛に話さなければならないことがあったからだ。
『凛ちゃん、なにしてるの?』
花陽は尋ねる。しかし、ただ首を左右に振るだけだった。
僕と花陽は顔を見合わせて、何かを察したのか花陽はにこりと微笑んで凛の前に行ってその場にしゃがむ。
『一緒にあそぼ?』
『......』
反応はなく、以前として空ばかり眺めていた。
僕たちも一緒に空を見上げる。ただ、一面に青が広がるだけだった。
『空...見てるの。好き、だから......』
『そうなんだ~』
『うん、一面に広がる空がなんだかとっても羨ましい。なににも囚われず、なににも汚されず、綺麗で清々しくて...まるでかよちんの心みたいだにゃ♪』
『ふぇっ!?そ、そそそそそそんなことはははっ』
『そういうところ、可愛くてグッドにゃ』
『もう~!恥ずかしいからやめてよ~!』
笑顔であることに安心感を覚えた。
無理して笑っているようには見えないけど、それでも一抹の不安は拭えない。
『
りんはね、春くんとかよちんがとっても羨ましいんだ』
『それは、どうして?』
『二人にはりんにはいない友達以上の仲良しに見えるからにゃ。喧嘩しちゃってもすぐにまたいつもの仲良しに戻れるように見えてさ、りんにもそんな友達が欲しいにゃ~って』
凛は遊具から離れて足元に落ちている一枚の緑の葉っぱを手に取る。
『綺麗だにゃ~』と呟く。
『いつも遊んでて、ちょっとは気になってたんだにゃ。いつもりんが遊びを提案して、それにみんながいいよってのってくれるんだけど、どこかよそよそしくてこれで遊びたくないのかなって思ったんだけど、言わなかったからりんも何も聞かなかった。コソコソ話もしてる時もあった。でも、私たちは友達だって、ずっと一緒だって言ってくれたから!だから...りんは、ずっと!』
『これ以上は話さなくてもいいよ凛ちゃん。大変だったね』
『りんがパンダを学校に隠したってことが悪いことだって知ってるもん!女の子らしくないってこともよくわかってるもん!...自分勝手なのも知ってるもん!』
暖かい雫が彼女の綺麗な頬を伝った。
今まで我慢してきたとこが限界を越えたのか、うえんうえんと泣き叫ぶ彼女がとても可哀想であまりにも惨めすぎた。
体を動かすことが大好きで、とにかく休み時間は外や体育館にいることが多かった。
男子も女子も関係なく巻き込んでそれが良いという人もいれば嫌だという人もいる。体を動かすよりも教室で静かに過ごしたい女子もいたかもしれない。それを有無を言わさず連れて行った光景を何度か億激した。多分、凛のそういう無神経さに腹を立てたのかもしれない。
だけど。
だったら尚のこと、ちゃんと話をすべきだったと思う。嫌いだからあの場で酷いこと言って晒し者にしていいわけなんてない。
考えれば考えるだけ辛くなるのと同時に。
この子を......不器用な女の子を
支えたいと初めて花陽以外の子にそう思った瞬間だった。
『春くん、かよちん。ごめんなさい』
そう言った彼女の小さな手を、僕はそった握りしめた。
『...え?』
『ねぇ、
凛ちゃん』
初めて彼女のことを下の名前で呼んだ。それによりびっくりしたように目を見開くもすぐにその頬は緩んで嬉しそうに、にへらぁと口を綻ばせる。
言わなきゃならない
友達に嫌われてしまった。子猫にケガをさせてしまった。自分は女の子じゃないと否定されてしまった。自分に自信が持てなくなってしまった。自分が嫌いになった。頼れる仲間がいなくなった。
ううん、そうじゃないよ。
君には、君のことをわかってくれる大切な友達が”親友”がいるんだよ。
それを彼女に伝えたい。でも、僕も恥ずかしがり屋なのでもっと簡潔に、そして、確実に伝わるように...今から言うね。
『僕たちと──』
『私たちと友達になって...欲しいな?』
...え?
僕はポカンと口を開けて隣の花陽を見る。
花陽は満足げにぺろっと舌を出して誤魔化した。
『春人くんばっかりずるいよ?私だって...凛ちゃんともっと仲良くなりたいんだから♪』
『で、でもまさか花陽ちゃんに言われるとは思わなかったよ。しかも被せてきたよね?わざと?』
『しーらないっ♪』
僕らのやりとりに、遂に凛は笑顔を見せた。目から雫を零しながら笑ってくれた。それだけ、言えてよかった気がする
......まぁ、言ったのは花陽なんだけどね。
『あはははっ!春くんまんまとやられたね!』
『あ、あぁぁ僕がせっかく言おうとしたのに~!』
やっと、僕らは初めて”友達”になれた光景だった。
僕がいて、花陽がいて...そして、凛という新しい”風”を置く。
そうすることで僕らは僕らの絆が生まれる。
誰にもできない僕たちだけの。
僕はそれで満足だった。
僕が笑う
花陽ちゃんも笑う。
凛ちゃんも笑う。
それが、”僕たちの始まり”だ。
初めて見せる、心のそこからの笑顔。
僕は......嬉しかった。
Epilogue...
僕は懐かしさのあまり無意識に一人でほほ笑んでいたようだ。
それに気づいた時、僕は恥ずかしくなって両手で顔の熱を冷ます。ふと、それが習慣化されたように時計に視線が向く。丁度短い針が『4』を指していた。
訪れる欠伸を噛み殺しながらうんと背伸びをする。
「何ニヤニヤしてたのかにゃ?」
「うわっ、凛ちゃん...起きてたの?」
「ううん、今さっき起きたところ」
むくりと起き上がるとまるで猫のように背伸びをする凛。猫そのものになりきろうとしてるのかな?
じんじんと左太ももに痺れを感じる。これはしばらく動かさないほうがいいのかな。
「ねぇ春くん、何を考えていたのかにゃ?」
「なんでそう思ったの?」
「ん~...わかんないにゃ。なんとなくそう思っただけ」
「そっか~。まぁ、考えてたよ?」
「何々?りんにも教えて!」
「...僕たちが出会った頃の事だよ」
「え?あぁ、なるほど」
気まずそうに頷いて充電していたスマホを引き抜く。
すると突然凛は尋ねる。
「りん、あの頃と比べて...変わったかにゃ?」
手探りのように少し間を置きながらだった。
僕は遠回しに言わず、ストレートにぶつける。
「凛ちゃんはなにも変わってないよ」
「そう...だよね。うん、そうだよね」
「でも僕は、凛ちゃんには変わって欲しくないなって思ってみたり。ううん、そのままでいてほしいよ。どんなことがあろうとあの時の凛ちゃんも、今の凛ちゃんも大好きだから」
「......うん、うんっ」
また嬉しそうに笑ってるな~
それが僕にとっても嬉しくて恥ずかしさを紛らわせるために凛の頭をいつもより強く撫でる。
「ちょちょっと春くんどうしたにゃ!!あははっくすぐったいよ~!!」
そんな感じで。
そんな感じでこんな感じで僕たちは出会った。
結局のところ、凛と仲良くなれたことはとてもうれしいけど、まだ凛の抱えている闇というモノは払拭されていない。凛は、まだ自分が女の子らしくないと自分で押し殺している。
今後、たくさんの仲間と関わって、凛は変わるだろうと思ってる。
僕だけじゃない。花陽だけでも。
きっとμ`sのみんなが凛を救ってくれるだろう。
「ねぇ春くん」
「ん?」
「...かよちん、まだ寝てるね」
「そうだね...」
「あの、さ」
「...どうしたの?」
妙に歯切れが悪い。きっと話しにくい事なのだろうと予想して、僕は膝に頭をのせて寝ている花陽を起こさないようにゆっくり下ろして凛に向き直る。
「りんたち、あとどれくらい、一緒にいられますか...?」
真面目だった。
僕は考える間もなく、すぐに答えた。
「もちろん、ずっとだよ♪」
───僕は、二度目の、凛の心から嬉しそうな笑顔を見ることができた。
~FIN~