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聖闘士星矢 黄金の若き戦士達

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219部分:第三十話 黒薔薇の香りその一


第三十話 黒薔薇の香りその一

                  黒薔薇の香り
 アフロディーテは己の船の船首に立っていた。そうしてそこから船を完全に取り囲んでいるインプ達の夥しい数の舟と対峙していた。
「ピスケスよ、今度は仕掛けていないようだな」
「あの紅い薔薇は」
「ロイヤルデモンローズのことですか」
 アフロディーテもまたその紅薔薇という言葉だけでわかった。
「あの薔薇のことですね」
「そうだ。あの薔薇のことは聞いている」
「その恐ろしさもだ」
 彼等はそれは既に知っているのだった。仲間達の犠牲によって。
「それにより確かに多くの仲間を失った」
「しかし。それでもだ」
「今はその紅薔薇はない」
 そこに勝機を見ているようであった。
「ならば幾ら貴様とてだ」
「この数の我等を前にして勝てる筈がない」
「馬鹿か、こいつ等」
 しかしそれを聞いたシオンが言った。
「幾ら何でも雑兵が束になってかかっても黄金聖闘士に勝てる筈がないだろ」
「だよな、確かに」
「その通りだけれどな」
 シオンの今の言葉にワルターとラシャーが頷く。
「こいつ等ひょっとしてそれもわかってないんじゃないのか?」
「だとしたら相当な馬鹿なんだがな」
「だが馬鹿は馬鹿でもな」
 ペテルも言ってきた。
「ここまで勇猛なのはある意味凄いな」
「確かにな。うちの雑兵達よりも凄いかもな」
「全くだ」
 そんな話をしながら見ていた。そしてその間にもインプ達は間合いを詰めんとしてきた。やはりアフロディーテが紅薔薇を出していないのを見て勝てる可能性を感じているようだった。
「ではピスケスよ」
「死ぬのだ、せめて苦しまないようにしてやる」
 今にもそれぞれの舟から飛び上がり襲わんばかりであった。
「血は流させてもらうがな」
「それでもだ」
「私は紅薔薇を出していなくとも」
 しかしここでアフロディーテは彼等に告げてきた。
「だからといって恐れることはありません」
「何っ、死を恐れていないとでもいうのか!?」
「まさかと思うが」
「死は最初から恐れてはいません」
 このことはそのまま答えてみせた。
「ですが」
「ですが?」
「それだけではありません。私の薔薇は」
「何っ!?」
 今声をあげたのはインプ達だけではない。聖闘士達もだ。
「紅薔薇だけではないというのか?」
「まさかとは思うが」
「いえ、そのまさかです」
 しかし彼は悠然としたままでまた告げてきた。
「そう、私の薔薇は」
「!?そういえばだ」
 ここでミスティはふと声を出してきた。
「聞いたことがある」
「ミスティ、何をだ?」  
 アルゴルがその彼に問うてきた。
「何かあるのか?」
「うむ、確かにピスケスの黄金聖闘士は紅薔薇を使う」
「教皇の間までのあの薔薇の園だな」
「そうだ。あれは教皇の間までの最後の護り」
 だからこそピスケスの黄金聖闘士は黄金聖闘士達の中でもとりわけ重要な存在だとも言われるのである。最後の護りとしてだ。
「それは確かに紅の薔薇だ」
「そうだな。それは聖域では誰もが知っていることだ」
「しかしだ。ピスケスの黄金聖闘士が操る薔薇はそれだけではない」
 彼はまた言うのだった。
 
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