遊戯王GX-音速の機械戦士-
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―決戦前夜―
前書き
結婚前夜?(難視)
「よう、遊矢」
「三沢……」
深夜のアカデミア。夜中は出歩いては行けないという校則があった気がするが、もはや公然の秘密と化しているそれに構わず、アカデミアをブラブラしていると。白衣を着た三沢に偶然会うと、久々だというのにフレンドリーに話しかけてきた。
「どうしたんだ? こんな夜に」
「何があっても、もうすぐこことはお別れだからな。また回りたくもなる」
「そうか……そうだな。俺も似たようなものだ」
俺は久々だから見て回っていたがな――と、三沢は苦笑する。先日、異世界からアカデミアに帰還した三沢が提示してきたのは、ダークネスへの反撃をする方法。すなわち、こちらの世界に侵攻されてばかりではなく、ダークネスの世界に打って出る計画だった。
「あとは見回りも兼ねてだな。今更、ダークネスの侵攻で失敗しました、なんて笑えない」
「……まあ、来ないだろうけどな」
ダークネスの世界への反撃は、明日にでも始められるほどに、着実に準備が進んでいた。とはいえダークネスが妨害してくるタイミングは、恐らくは反撃を開始する時という、最も油断するタイミングに他ならないだろう。
――明日は、決戦になる。
「それが分かっているなら安心だな。さて、俺は次元移動施設に戻るが、遊矢はどうする?」
「俺はもう少し、見て回ってるよ」
ダークネスがいるのは異なる次元。俺たちが散々苦しめられた、次元移動が反撃のために必要になるとは皮肉だが、今はそれに頼るほかない。異世界から帰還したと言っても、まるで変わらぬ三沢に内心で安心しながら、次元移動施設があるところまでは共に行こうとしようとするが。
「遊矢。これは独り言なんだが……さっき偶然、明日香くんにも会ってな。灯台の方に行くと言っていたぞ。お前も、行くところがあるんじゃないか?」
「……余計なお世話だ!」
――前言撤回。どうやら異世界の経験を活かして、三沢も少し強かになったらしい。こちらの抗議にも大人の笑みを見せる三沢と別れて、俺は灯台に向かって行った。
「明日香!」
「……遊矢?」
そして少しの時間経過の後に、アカデミアの極東である灯台の下へとたどり着いた。灯台は光を周りに照らし続けており、灯台下暗しという言葉が嘘のように、灯台の下にいる明日香を照らしているように見えた。
「どうしたの……って、あなたも見回りよね?」
「ああ。明日香は……何でここに?」
「ここは……色々、お世話になったから。兄さんの件でね」
明日香が灯台に手を触れて、思い出すように声を出す。吹雪さんがダークネスに囚われていた時、明日香はよくここに足を運んでいたらしい。それは亮も同様であり、何か吹雪さんとの思い出の地なのだと伺わせる。
「だから私としては、ダークネスとの戦いは兄さんにやったことへの意趣返し、っていうのもあるのかもね。……もちろん、夢のためでもあるけど」
明日香はそう言って、少々冗談めかして笑う。思い出が詰まった地に、願掛けをしに来たのだろう。ダークネスなんて得体の知れない連中に、自らの夢を邪魔されないように、と。
「夢と言えば……遊矢は決まったの? 将来の、こと」
「俺は……」
ダークネスとの戦いがどのようになろうと、俺たちはもうしばらくして、アカデミアを旅立つことになる。明日香は先生に、万丈目はプロに、翔はプロリーグの経営に――みんな、様々な夢を持ってこの戦いに臨んでいる。
「……決まったよ」
――もちろん、それは俺も例外ではない。一足先に夢を叶えた三沢を見て、ずっと考えていたことだった。最初は三沢への競争心だったかもしれないが、今は確固とした気持ちとしてそこにある。
「何か教えてもらってもいい?」
「それは………………秘密だ」
「……私は教えてるのに、それは不公平じゃない?」
とはいえ、わざわざ自身の夢を宣言するほど気恥ずかしいものはなく、つい誤魔化してしまう。明日香は最もな理由でもって不満げな表情を見せるが、すぐにその腕に装備したデュエルディスクを見せびらかした。
「意見が割れたらデュエル、よね?」
「相変わらずデュエル馬鹿だな」
「あら。自己紹介かしら?」
反射的に放った一言も、笑顔で皮肉を返されて臨戦態勢に入る――ただ話をしているより、こうしてデュエルしていた方が自分たちらしい。
「前のデュエルは引き分けだったものね、決着をつけましょう。それに……入ってるんでしょ? ペンデュラム」
「……ああ」
こちらの世界では普及していないということもあって、ペンデュラムモンスターたちは今まで使用を自粛していた。だがダークネス相手にその必要もなく、剣山を始めとしたアカデミアの生徒たちも、チラホラと使用者が現れていた。
ペンデュラムモンスターたちの改めての実戦投入に、先日のデュエルの決着。それらを含めて、俺たちはデュエルをするのに適した距離を取り、お互いにデュエルディスクを構えた。
決戦前夜だろうと――俺たちのやることは変わらない。
『デュエル!』
遊矢LP4000
明日香LP4000
「俺の先攻」
デュエルディスクはこちらに先攻を指し示し、俺は五枚のカードをデッキから手札とする。
「モンスターとカードを一枚ずつセット。ターンを終了!」
「私のターン、ドロー!」
セットモンスターとリバースカードを一枚ずつ伏せ、とりあえずは様子見の防御の布陣。そして明日香のターンに移り、早速一枚のカードがお目見えする。
「儀式魔法《機械天使の儀式》を発動!」
明日香の十八番。明日香もダークネスを相手にするべく、デッキを万全の状態にしているはずであり、それらは明日香の思いに応えるだろう。
「手札の《サイバー・エンジェル-韋駄天-》をリリースすることで、《サイバー・エンジェル-弁天-》を儀式召喚!」
儀式召喚されるは、明日香の儀式におけるフェイバリットカードである、《サイバー・エンジェル-弁天-》。儀式モンスターにしては攻撃力は多少低いものの、その程度なら幾らでもカバーする手はある。
「《サイバー・エンジェル-韋駄天-》がリリースされた時、フィールドの天使族モンスターの攻撃力は1000ポイントアップする!」
その一例である《サイバー・エンジェル-韋駄天-》のリリースされた時の効果に、《サイバー・エンジェル-弁天-》の攻撃力は2800となり、他の上級モンスターと比べても遜色ない数値となる。そしてこちらのセットモンスターに目を付け、必殺の一撃の準備をして。
「《サイバー・エンジェル-弁天-》で攻撃! エンジェリック・ターン!」
「くっ……!」
破壊されたのは《チューニング・サポーター》。元々戦闘に参加するようなモンスターではなく、呆気なく《サイバー・エンジェル-弁天-》に切り裂かれ、その破壊された破片が俺に襲いかかった。
「《サイバー・エンジェル-弁天-》が相手モンスターを破壊した時、そのモンスターの守備力分のダメージを与える!」
「っ……」
遊矢LP4000→3700
とはいえ幸か不幸か、《チューニング・サポーター》の守備力分のダメージでは微々たるものだ。特に気にする必要のないダメージを受け、明日香のバトルフェイズは終了する。
「メイン2。私はフィールド魔法《コート・バトル》を発動!」
「《コート・バトル》……?」
明日香が多用する《祝福の教会-リチューアル・チャーチ》とはまた違う、新たなフィールド魔法《コート・バトル》。発動されたにもかかわらず、フィールドを灯台からスタジアムに変える以外に何の効果を発動することはなく、明日香はさらにターンを進めていく。
「私はカードを一枚伏せ、ターンエンド」
「俺のターン、ドロー!」
まだどちらも様子見といったところか、最初の攻防は特に動きはなく終わる。こちらはリバースカードが一枚に、明日香は《サイバー・エンジェル-弁天-》に、不気味に沈黙するフィールド魔法《コート・バトル》にリバースカードが一枚。様子見に攻撃力2800のフェイバリットカードを出してくる、攻撃的なデュエルが明日香らしい。
「俺は《狂った召喚歯車》を発動! 相手のモンスターと同じ属性・レベルのモンスターを特殊召喚させる代わりに、攻撃力1500以下の墓地のモンスターと、その同名モンスターを特殊召喚する!」
ならばこちらもそんな明日香に応えて。魔法カード《狂った召喚歯車》の効果により、俺は先程破壊された《チューニング・サポーター》が三体に増殖し、明日香のフィールドには《逆転の女神》が守備表示で特殊召喚された。
フィールドの《サイバー・エンジェル-弁天-》と同じ属性・レベルならば、他の機械天使が特殊召喚されようものだが、それらは儀式モンスターにより召喚制限に引っかかる。よって《高等儀式術》のためのモンスターだろう、通常モンスターの《逆転の女神》が特殊召喚されたのだ。
「さらに《音響戦士ピアーノ》を召喚し、四体でチューニング!」
そしてチューナーモンスターたる機械戦士、音響戦士シリーズの一員たる《音響戦士ピアーノ》により、総勢四体のモンスターがチューニングの態勢をとる。《チューニング・サポーター》はシンクロ素材となる時、レベルの変更が可能であり、合計レベルを7とする。
「集いし願いが新たに輝く星となる。光さす道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《パワー・ツール・ドラゴン》!」
明日香の儀式におけるフェイバリットカードが《サイバー・エンジェル-弁天-》ならば、こちらもシンクロモンスターの代表こと、《パワー・ツール・ドラゴン》が対面する。黄色い装甲の隙間から竜の咆哮が響き、《サイバー・エンジェル-弁天-》を威嚇する。
「ふふ。この子たちも、前回の引き分けを気にしてるのかしら」
「……かもな」
前回の明日香とのデュエルでは、《サイバー・エンジェル-弁天-》と《パワー・ツール・ドラゴン》のぶつかり合いの果てに、俺と明日香のライフポイントは同時に0となった。それをふと思い出した明日香が微笑むが、すぐにいつものキリッとした表情に戻る。
「そんな話は後、だな。シンクロ素材となった《チューニング・サポーター》は、カードを一枚ドローさせる。よって三枚ドロー!」
シンクロ素材にした《チューニング・サポーター》は三枚。よって三枚のカードをドローすると、揃ったカードを確認して笑みを浮かべる。そして手札の中の二枚のカードを、デュエルディスクに新たに設えられたゾーンにセットする。
「俺はペンデュラムゾーンに《音響戦士マイクス》と、《音響戦士ギータス》をセッティング!」
「来たわね、ペンデュラム……」
二対のペンデュラムスケールのセッティングに成功し、赤と青の光が浮かび上がっていく。これでレベル2から6のモンスターを同時に召喚可能となるが、俺にそんな手札の余裕はない。ただしペンデュラム召喚が出来なくとも、カード固有のペンデュラム効果の発動は可能だ。
「《音響戦士ギータス》のペンデュラム効果。手札を一枚捨てることで、デッキから音響戦士モンスターを特殊召喚する! 現れろ、《音響戦士ドラムス》!」
デッキから特殊召喚されるレベル2のチューナーモンスター、《音響戦士ドラムス》。様々な音響戦士モンスターをデッキから直接特殊召喚出来ると、手札一枚をコストにしては破格の効果。もちろん《音響戦士ドラムス》だけではシンクロ召喚出来ず、もう通常召喚権は使っているが、フィールドには更なる旋風が舞い戻る。
「さらに墓地に送られた《リジェネ・ウォリアー》は、効果で墓地に送られた際にフィールドに特殊召喚される!」
《音響戦士ギータス》の効果の手札コストとなっていた機械戦士、《リジェネ・ウォリアー》がすぐさまフィールドに帰還し、これでフィールドにチューナーモンスターと非チューナーが揃う。
「墓地の《音響戦士ピアーノ》を除外し、二体のモンスターをチューニング!」
墓地の音響戦士チューナーモンスターは、フィールドに音響戦士モンスターがいる時、自発的に除外することが出来る。その効果によって布石を打っておくと、フィールドの二体はチューニングされていく――合計レベルは6。
「集いし拳が、道を阻む壁を打ち破る! 光指す道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《マイティ・ウォリアー》!」
大地を砕きながらシンクロ召喚されたのは、レベル6のシンクロモンスターである機械戦士。機械化されて肥大化した拳を、明日香に向けて威嚇する。
「さらに《パワー・ツール・ドラゴン》の効果発動! デッキから三枚の装備カードのうち、相手が選んだカードを手札に加える! パワー・サーチ!」
「……右のカードよ」
デッキから飛び出した三つのカードのうち、一つだけが俺の手札へと加えられ、残りのカードはデッキにてその出番を待つ。そして加えられた一枚は、すぐさま《パワー・ツール・ドラゴン》へと装備される。
「俺は《パワー・ツール・ドラゴン》に《ダブルツールD&C》を装備し、バトルフェイズ!」
そして《パワー・ツール・ドラゴン》の右腕に専用の装備魔法《ダブルツールD&C》が装備され、二体のシンクロモンスターは攻撃の態勢に移る。
「《パワー・ツール・ドラゴン》で、《サイバー・エンジェル-弁天-》に攻撃! クラフティ・ブレイク!」
攻撃力を1000ポイントアップさせ、さらに攻撃した相手モンスターの効果すら無効化する、実質的に専用装備魔法である《ダブルツールD&C》。ただし《サイバー・エンジェル-弁天-》の攻撃力がアップしているのは、リリースされた《サイバー・エンジェル-韋駄天-》の効果のため、無効にすることは出来ない――が、ギリギリでこちらの方が攻撃力は上であり、《パワー・ツール・ドラゴン》は《サイバー・エンジェル-弁天-》を打ち破った。
明日香LP4000→3500
「さらに《マイティ・ウォリアー》で、《逆転の女神》に攻撃! マイティ・ナックル!」
そして《狂った召喚歯車》によってデッキから特殊召喚された、《逆転の女神》に《マイティ・ウォリアー》が殴りかかった。守備表示で特殊召喚した為に戦闘ダメージはないが、破壊に成功したことによって《マイティ・ウォリアー》の効果が発動する。
「《マイティ・ウォリアー》が相手モンスターを破壊した時、相手の攻撃力の半分のダメージを与える! マイティ・ショット!」
「くっ!」
明日香LP3500→2600
《狂った召喚歯車》のデメリット効果も逆用した一撃に、明日香のライフポイントをかなり削ることに成功する。内心、上手く決まった――と思ったところ、戦闘で破壊された二対の天使の魂の欠片が、まだフィールドに留まっていることに気づいた。
「フィールド魔法《コート・バトル》の効果。モンスターが戦闘で破壊される度に、このカードにカウンターを置くわ」
「……ターンを終了する」
――もしかすると、上手く決まったのは明日香の方かと思いながら。俺は《パワー・ツール・ドラゴン》と《マイティ・ウォリアー》に守られながら、明日香へとターンを移す。
「ターン終了時、《音響戦士マイクス》のペンデュラム効果を発動。除外された音響戦士を手札に加えることが出来る」
とはいえ、ただ明日香の思い通りに動いていく訳にはいかない。ペンデュラムゾーンにセッティング済みの《音響戦士マイクス》の効果により、自身の効果によって除外されていた《音響戦士ピアーノ》を手札に加える。
「私のターン、ドロー!」
《パワー・ツール・ドラゴン》と《マイティ・ウォリアー》の攻撃により、明日香のフィールドはリバースカードが一枚のみ。とはいえ先のターンは様子見だったため、まだ明日香には余裕があった。
「私は《サイバー・プチ・エンジェル》を召喚。効果で《機械天使の儀式》を手札に加え、発動する!」
召喚することで《機械天使の儀式》かサイバー・エンジェルをサーチする、専用のサポートモンスターである《サイバー・プチ・エンジェル》により、新たな儀式召喚が執り行われる。それは《サイバー・プチ・エンジェル》当人と、《サイバー・エンジェル-弁天-》による儀式召喚。
「儀式召喚! 《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》!」
レベル8のサイバー・エンジェル。弁天と韋駄天とは一つ頭抜けたサイバー・エンジェルは、儀式召喚されてすぐさま俺のフィールドに迫る。
「《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》が儀式召喚に成功した時、相手はモンスター一体を墓地へ送らなくてはならない!」
「《マイティ・ウォリアー》を選択……!」
儀式召喚に成功した時、相手はモンスター一体を墓地へ送らなくてはならない、という他に類を見ないものの強力な除去効果。《マイティ・ウォリアー》は一刀のままに斬り伏せられてしまい、なすすべもなく破壊されてしまう。
「そしてリリースされた《サイバー・エンジェル-弁天-》の効果を発動。このカードがリリースされた時、デッキから新たな機械天使を手札に加える。私は《サイバー・エンジェル-韋駄天-》を手札に」
《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》の攻撃力は2700。こちらの《パワー・ツール・ドラゴン》の攻撃力は、《ダブルツールD&C》の攻撃力アップは自ターンの時のみのため、2300と劣る。とはいえ、装備魔法を身代わりに破壊は免れるか――と考えていたところ、明日香の無慈悲な言葉がこちらを貫いた。
「まだよ。魔法カード《儀式の準備》を発動し、デッキからレベル6以下の儀式モンスター、墓地から儀式魔法を手札に加える。《機械天使の儀式》を発動!」
「ッ!」
優秀な儀式のサポート魔法《儀式の準備》により、更なる儀式召喚を明日香は可能とする。《儀式の準備》で手札に加えたのだろう、またもや《サイバー・エンジェル-弁天-》がリリースされ、新たな機械天使がフィールドに特殊召喚される。
「儀式召喚! 《サイバー・エンジェル-韋駄天-》!」
儀式召喚される三体目のサイバー・エンジェル。他の機械天使よりステータス自体は低いものの、それを補って余りある補助的な効果を持っていた。
「まずはリリースされた《サイバー・エンジェル-弁天-》の効果。デッキから新たな機械天使をサーチし、次に儀式召喚された《サイバー・エンジェル-韋駄天-》の効果。デッキから儀式魔法をサーチ出来る!」
《サイバー・エンジェル-韋駄天-》の効果は、儀式召喚に成功した時、新たな儀式魔法をサーチかサルベージすることで、新たな儀式に繋げる効果。そしてリリースされた時、新たな機械天使をサーチ出来る《サイバー・エンジェル-弁天-》と組み合わせれば――
「手札に加えた《機械天使の儀式》を発動! フィールドの《サイバー・エンジェル-韋駄天-》と、手札の《フルール・シンクロン》をリリースし、二体目の《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》を儀式召喚!」
――何連続もの儀式召喚も容易いこととなる。二体目の《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》が降臨したかと思えば、その次の瞬間には俺のフィールドにおり、《パワー・ツール・ドラゴン》を斬り伏せていた。
「《パワー・ツール・ドラゴン》……!」
フィールドには《パワー・ツール・ドラゴン》しかいないため、強制的に《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》の効果の対象は、《パワー・ツール・ドラゴン》にせざるを得ない。さらに破壊ではなく墓地へ送るであるため、《パワー・ツール・ドラゴン》の耐性もまるで意味をなさない。二体の《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》により、呆気なくこちらのフィールドを壊滅した。
「さらに《サイバー・エンジェル-韋駄天-》がリリースされた時、私のフィールドの機械天使の攻撃力は1000ポイントアップするわ。バトル!」
そして《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》の儀式の素材になった《サイバー・エンジェル-韋駄天-》の効果により、フィールドにいる儀式モンスターの攻撃力は1000ポイントアップさせる効果。よって二体の《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》は、それぞれ攻撃力が3700という驚異的な数値となり、偶然にもそれは俺のライフポイントと同じ数値だった。
「行くわよ! 《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》で遊矢にダイレクトアタック!」
「くっ……リバースカード、オープン!」
《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》が八つの刃を構えて、無防備な俺に迫りくる。《パワー・ツール・ドラゴン》すら一刀に切り裂くその一撃に、俺どころか凡百のモンスターが耐えられる訳もないが――《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》は、俺の前でその歩みを止める。
「《トゥルース・リインフォース》!」
何故ならば、《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》の刃すらも通さぬモンスターが、こちらのフィールドに現れたからだ。その名は要塞の機械戦士――その名の通り、《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》の攻撃を全てシャットアウトしてみせる。
「《マッシブ・ウォリアー》……」
明日香がその名を呟いた通りに、デッキからレベル2以下の戦士族モンスターを特殊召喚する罠カード《トゥルース・リインフォース》により特殊召喚されたのは、要塞の機械戦士《マッシブ・ウォリアー》。マッシブ・ウォリアーは戦闘では破壊されないだけではなく、貫通効果を持つ《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》だとしても、相手からのダメージすらもシャットアウトする。
「でも破壊はさせてもらうわ! 二体目の《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》で、《マッシブ・ウォリアー》に攻撃!」
ただし《マッシブ・ウォリアー》と言えども、戦闘破壊を無視できるのは一度のみ。二体目の《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》の猛攻には耐えられず破壊されてしまうが、最後までこちらにダメージを通すことはない。こうして二体の《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》の攻撃は、何とか《マッシブ・ウォリアー》のおかげで防ぐことに成功する。
「エンドフェイズ。《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》の効果が発動するわ。墓地の機械天使か《機械天使の儀式》を回収出来る」
ただし《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》の効果により、明日香もまた次なる猛攻の下準備に入る。墓地にあるサイバー・エンジェルか、《機械天使の儀式》をサルベージ出来るという効果であり、明日香は二体の弁天と韋駄天のサイバー・エンジェルを手札に加えた。
「これでターンを終了するわ」
「俺のターン、ドロー!」
そして二体の猛攻を凌いだとはいっても、明日香のフィールドには攻撃力3700の《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》が健在であり、こちらのフィールドは壊滅的な被害を受けたことに変わりはない。
「俺は《音響戦士ギータス》のペンデュラム効果を発動! 手札を一枚捨てることで、デッキから《音響戦士ベーシス》を特殊召喚!」
しかしこちらとて、まだペンデュラムゾーンに二体のペンデュラムモンスターはセッティング済みだ。再び《音響戦士ギータス》の効果により、手札一枚をコストにデッキから《音響戦士ベーシス》を特殊召喚する。
「さらに墓地に送った《リミッター・ブレイク》の効果を発動! デッキから《スピード・ウォリアー》を特殊召喚する!」
そして先の《リジェネ・ウォリアー》の時と同様に、手札から墓地に送られていた《リミッター・ブレイク》により、マイフェイバリットカードが旋風となって現れる。
「っ……」
《スピード・ウォリアー》に明日香が息を呑むものの、《音響戦士ギータス》のレベルは1と、フィールドのモンスターの合計レベルは3。これでは【機械戦士】デッキにおいて、シンクロ召喚は不可能だ。
そんなことは百も承知だと言わんばかりに、俺の上空に魔法陣が浮かび上がった。
「セッティング済みの音響戦士たちでペンデュラム召喚! 来い、機械戦士たち!」
セッティングしてあったペンデュラムスケールにより、レベル2から6までのモンスターが同時に召喚可能。よって魔法陣から、レベル3の《ガントレット・ウォリアー》に同じく《音響戦士ピアーノ》がペンデュラム召喚される。
「そしてレベル1《音響戦士ベーシス》に、レベル3の《ガントレット・ウォリアー》、レベル2の《スピード・ウォリアー》をチューニング!」
そしてペンデュラム召喚からシンクロ召喚に繋げ、三体のモンスターがチューニングされていく。合計レベルは6、シンクロ召喚されるは次なる可能性を掴み取るための機械戦士。
「集いし星雨よ、魂の星翼となりて世界を巡れ! シンクロ召喚! 《スターダスト・チャージ・ウォリアー》!」
新緑のような緑色を基調とした装甲に身を包んだ、星屑の機械戦士がシンクロ召喚される。シンクロモンスターの機械戦士の中でも、最も攻撃力が低いモンスターではあるが、可能性を掴むことにかけてはこの機械戦士に右に出るものはいない。
「《スターダスト・チャージ・ウォリアー》がシンクロ召喚に成功した時、カードを一枚ドロー出来る!」
《スターダスト・チャージ・ウォリアー》は、可能性という名のカードを引く効果。シンクロ召喚に成功したためにカードを一枚ドローし、新たなカードをデュエルディスクに挿入する。
「通常魔法《アームズ・ホール》を発動! デッキトップを墓地に送り、装備魔法をデッキからサーチする!」
装備魔法をサーチする魔法カード《アームズ・ホール》。その代償は通常召喚を封じるという重いものであるが、今ならばペンデュラム召喚が可能のため、そのデメリットを軽減することが出来る。事実、通常召喚が無くとも《スターダスト・チャージ・ウォリアー》は展開出来ているのだから。
「そして装備魔法《継承の印》を発動! 墓地に同名モンスターが三体いる時、そのうち一体を特殊召喚する! 蘇れ、《チューニング・サポーター》!」
そしてサーチした装備魔法《継承の印》により、《チューニング・サポーター》が蘇生する。シンクロ召喚された《スターダスト・チャージ・ウォリアー》の他に、こちらのフィールドにはチューナーモンスター《音響戦士ピアーノ》が存在する。
「フィールドに音響戦士がいるため、墓地の《音響戦士ドラムス》を除外する。そして《音響戦士ピアーノ》と、《チューニング・サポーター》をチューニング!」
《音響戦士ピアーノ》のレベルは3、シンクロ素材となる時にレベルを変更する効果を持つ《チューニング・サポーター》だが、その効果を使うことはない。よって《チューニング・サポーター》のレベルは1のまま、合計レベルは4のまま光の輪に包まれていく。
「集いし願いが、勝利を掴む腕となる。光差す道となれ! シンクロ召喚! 《アームズ・エイド》!」
シンクロ召喚されるは機械戦士たちの補助兵装。モンスターに装備出来るモンスターとして、既にフィールドにいた《スターダスト・チャージ・ウォリアー》に装備される。
「《アームズ・エイド》はモンスターに装備することで、攻撃力を1000ポイントアップさせる!」
「だけどそれだけじゃ、《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》には及ばないわ」
確かに《アームズ・エイド》を装備したと言えども、《スターダスト・チャージ・ウォリアー》では《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》の3700を誇る攻撃力には及ばない。リリースされた《サイバー・エンジェル-韋駄天-》の効果によるもので、その効果を無効にする術はない。
「まだだ! 《スターダスト・チャージ・ウォリアー》に、《最強の盾》を装備!」
「《最強の盾》……!」
機械天使たちとは別に戦士族使いでもある明日香は、俺が発動した装備魔法《最強の盾》に警戒する。右腕に《アームズ・エイド》、左腕に《最強の盾》を装備し、《スターダスト・チャージ・ウォリアー》が俺のフィールドに君臨する。
「装備魔法《最強の盾》を装備したモンスターは、守備力分を攻撃力に加える!」
《スターダスト・チャージ・ウォリアー》の守備力は1300と高いわけではないが、それは右腕に装備された《アームズ・エイド》が補って余りある。よって最終的な攻撃力は――
「攻撃力……4300!?」
「《スターダスト・チャージ・ウォリアー》は、特殊召喚した相手モンスター全てに攻撃出来る! バトルだ!」
そして《スターダスト・チャージ・ウォリアー》は、相手モンスター全てに攻撃出来る効果を持ち、《アームズ・エイド》は戦闘破壊した相手モンスターの攻撃力分のダメージを与えることが出来る。《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》の攻撃力を僅かながらでも超えられたことは、それだけの意味がある。
「《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》に攻撃! パワーギア・クラッシャー!」
そして一体目の《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》に向け、《スターダスト・チャージ・ウォリアー》が右腕を伸ばす。左腕に装備された《最強の盾》がエネルギーを放ち、《アームズ・エイド》がギリギリと力を込めて握られ、《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》を殴りつけた。
「っ!」
明日香LP2600→2000
「さらに《アームズ・エイド》の効果! 装備モンスターが相手モンスターを破壊した時、相手モンスターの攻撃力分のダメージを与える!」
《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》の元々の攻撃力は2700と、明日香の残るライフポイントよりも高い。もしも防がれたとしても、《スターダスト・チャージ・ウォリアー》にはまだ一撃残っている。
「――リバースカード、オープン! 《リフレクト・ネイチャー》!」
「何!?」
明日香のフィールドに最初のターンから伏せられていたリバースカードが、遂に表側となった瞬間、明日香の前に鏡が浮かび上がっていく。そしてその鏡に向かって、《スターダスト・チャージ・ウォリアー》が《アームズ・エイド》による一撃を放つと、その鏡はこちらにそのバーンダメージを跳ね返した。
「このカードが発動したターン、相手から受ける効果ダメージを全て跳ね返す!」
「ぐあっ!」
遊矢LP3700→1000
思いも寄らぬ反撃によって、こちらのライフポイントは大いに削られてしまう。しかしてここでの思いも寄らぬ反撃というのは、《リフレクト・ネイチャー》というカードの性質のことだ。明日香のことだからダメージの反射は考えてはいたが、《リフレクト・ネイチャー》の場合、そのターンに受ける全てのバーンダメージを跳ね返す。
「くっ……」
つまりそれは、《スターダスト・チャージ・ウォリアー》による追撃も封じられた、ということだった。かつてのターンで《マイティ・ウォリアー》によるバーンダメージに対してでも発動出来たというのに、このように最高のタイミングまで温存されるとは。
「さらにモンスターが戦闘破壊されたことにより、フィールド魔法《コート・バトル》にカウンターが乗るわ」
さらに思考の端に追いやっていた、フィールド魔法《コート・バトル》にカウンターが乗っていく。恐らくはカウンターが特定数乗った時、効果が発生する効果ではあるのだろうが……
「さあ、どうしたの遊矢。攻撃して来ないのかしら?」
「《音響戦士マイクス》の効果を発動して……ターンエンドだ」
……結局は《スターダスト・チャージ・ウォリアー》の攻撃回数を残したまま、俺はターンエンドを余儀なくされる。エンドフェイズ時に除外された音響戦士を回収する効果を持つ、《音響戦士マイクス》の効果によって、《音響戦士ドラムス》を回収をしておくが、決死の一撃を避けられたショックは大きい。
「私のターン、ドロー!」
そしてこちらのフィールドは《最強の盾》と《アームズ・エイド》を装備した《スターダスト・チャージ・ウォリアー》に、二対のペンデュラム音響戦士。明日香のフィールドには《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》のみであり、お互いにライフポイントもかなり削られている。
「魔法カード《ドールハンマー》を発動! 自分のモンスターを破壊することで、カードを二枚ドローし、相手モンスターの表示形式を変更する!」
デュエルの決着は近い――と、どちらからともなく分かり合うと、明日香が早速の行動を起こした。カードを二枚ドローして相手モンスターの表示形式を変更する代わりに、自分のモンスターを破壊する魔法カード《ドールハンマー》を、フィールドに残った《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》をコストに発動する。
「《最強の盾》を装備したモンスターが守備表示の時、守備力を攻撃力分アップさせる!」
《ドールハンマー》によって守備表示にされたものの、《最強の盾》に表示形式変更の隙はない。元々の攻撃力を参照するため、同じく装備された《アームズ・エイド》による上昇値は加算されないが、それでも3300と充分な数値となる。
「さらに《高等儀式術》を発動! デッキから通常モンスターを素材に、手札の《サイバー・エンジェル-韋駄天-》を儀式召喚!」
デッキからレベル2の通常モンスター、《神聖なる球体》三体を墓地に送ることで、《サイバー・エンジェル-韋駄天-》がまたもや降臨する。先のターン、《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》のサルベージ効果で回収していたため、降臨するまでは計算内だが。
「《サイバー・エンジェル-韋駄天-》が儀式召喚に成功した時、墓地から儀式魔法を回収出来る。《機械天使の儀式》を回収し、そのまま発動!」
そして《サイバー・エンジェル-韋駄天-》の固有効果は、儀式魔法のデッキからのサーチか墓地からのサルベージ。墓地から《機械天使の儀式》が回収されるととともに発動され、手札の《サイバー・プリマ》が素材となっていく。
「儀式召喚! 《サイバー・エンジェル-弁天-》!」
同じく先のターンに《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》の効果によって回収していた、明日香の儀式のフェイバリットこと、《サイバー・エンジェル-弁天-》が儀式召喚される。《サイバー・エンジェル-韋駄天-》のサルベージ効果により、容易く機械天使たちが二体、フィールドに並ぶが――
「行くわよ遊矢。私自身の力で!」
――フィールドに二体、並ぶ。
「二体のサイバー・エンジェルでオーバーレイ・ネットワークを構築!」
ダークネスに囚われたレイとの戦いによって得た、明日香自身の力――明日香自身のナンバーズ。一年からどころか、先の引き分けとなったデュエルの時にも持っていなかったため、失念していた氷の少女がフィールドに君臨していく。
「集いし想いよ! 熱に溶ける氷のように、一つとなりて少女に宿れ! エクシーズ召喚! 《No.21 氷結のレディ・ジャスティス》!」
レイピアを武器とする、ドレスアップした氷の少女。それが明日香自身のナンバーズとして君臨した、《No.21 氷結のレディ・ジャスティス》だった。
「レディ・ジャスティスの効果! オーバーレイ・ユニットを一つ使うことで、相手の守備表示モンスターを全て破壊する!」
こちらのモンスター――《スターダスト・チャージ・ウォリアー》は、先の明日香の魔法カード《ドールハンマー》によって守備表示。レディ・ジャスティスが自身の得物であるレイピアを大地に突き刺すと、氷がツタとなって《スターダスト・チャージ・ウォリアー》に絡みついていく。そしていつしか、氷が《スターダスト・チャージ・ウォリアー》をも覆っていき――
「手札から《エフェクト・ヴェーラー》を発動!」
――氷の侵食が止まった。手札から放たれた《エフェクト・ヴェーラー》に包み込まれ、レディ・ジャスティスは一瞬にしろ効果を全て失ったのだ。
「ここで《エフェクト・ヴェーラー》とはね……フィールド魔法《コート・バトル》の効果を発動。このフィールドに乗っているカウンターを、全てレディ・ジャスティスのオーバーレイ・ユニットに出来るわ」
遂に明かされるフィールド魔法《コート・バトル》の効果。今まで破壊される度に溜まってきたカウンターを、全てエクシーズモンスターのオーバーレイ・ユニットにすることが出来るという効果であり、三つのカウンターがレディ・ジャスティスに吸収されていく。
「《スターダスト・チャージ・ウォリアー》は破壊できないけれど……それ以外はやらせてもらうわ。魔法カード《大嵐》を発動して、ターンエンド!」
《エフェクト・ヴェーラー》によって《スターダスト・チャージ・ウォリアー》の破壊は防いだが、明日香の《大嵐》によってフィールドの魔法・罠カードは全て破壊されてしまう。明日香は役目の終わったフィールド魔法《コート・バトル》のみだが、こちらは《最強の盾》に《アームズ・エイド》、二対のペンデュラム音響戦士と被害は甚大だ。
「俺のターン、ドロー!」
「この瞬間、《エフェクト・ヴェーラー》は効果を失って、レディ・ジャスティスは効果を取り戻すわ」
フィールドは《スターダスト・チャージ・ウォリアー》と、《No.21 氷結のレディ・ジャスティス》の一騎打ちの様相を呈していた。そしてこちらにターンが移ったと同時に、《エフェクト・ヴェーラー》の効果持続時間がなくなり、明日香の言の通りにレディ・ジャスティスは効果を取り戻す。
「そしてレディ・ジャスティスは、オーバーレイ・ユニットの数×1000ポイント、攻撃力をアップさせる。よって攻撃力は4500!」
「4500……」
レディ・ジャスティスの攻撃力は、オーバーレイ・ユニットの数で決定する。元々の攻撃力は500という下級モンスターにも劣る数値であり、《エフェクト・ヴェーラー》に効果を封じられていたため、《スターダスト・チャージ・ウォリアー》を破壊することは叶わなかった。
だがフィールド魔法《コート・バトル》により、大量のオーバーレイ・ユニットを得た今は、攻撃力4500という実に《スターダスト・チャージ・ウォリアー》の二倍以上の数値を得ている。
「だけど明日香……新しい力を取り入れてるのは、何もお前だけじゃない! 俺は《音響戦士ドラムス》を召喚!」
先のターンにおいて《音響戦士マイクス》の効果で、除外ゾーンを経由して回収していた《音響戦士マイクス》を通常召喚する。明日香の新たに使用した《ドールハンマー》や《コート・バトル》などは、《No.21 氷結のレディ・ジャスティス》を活用するためのカードだろう。だがそうして、新たに手に入れた力の更なる活用を果たしているのは、こちらも同じことだ。
「さらに墓地の《音響戦士サイザス》の効果を発動! このカードを除外することで、除外ゾーンの音響戦士を特殊召喚する! 時空の狭間から蘇れ、《音響戦士ピアーノ》!」
《アームズ・ホール》のデッキトップを墓地に送る効果によって送られていた、音響戦士の一種である《音響戦士サイザス》の効果により、除外ゾーンから《音響戦士ピアーノ》が特殊召喚される。とはいえ《音響戦士ピアーノ》と《音響戦士ドラムス》では、チューナー同士のためにシンクロ召喚は不可能であり、《スターダスト・チャージ・ウォリアー》もレベルが高すぎる。
「そして《音響戦士ピアーノ》の効果! このモンスターの種族を炎族に変更する!」
――ならば、どうするか。シンクロ召喚以外の召喚法に決まっている。
「俺は《融合》を発動!」
「――融合!?」
今まで《融合》と言えば、借り物の《サイバー・ブレイダー》とほぼ専用融合を持つ《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》以外を使って来なかったため、明日香から隠しきれない驚愕の言葉が響き渡った。
「集いし鉄に熱を込め、いつしか奔流となりて放たれよ! 融合召喚! 《起爆獣ヴァルカノン》!」
融合召喚されたのは機械化された獣であり、その動力源は炎であると言われても疑わない、火力を持ってフィールドに君臨した。その融合素材は炎族と機械族モンスターという異色の組み合わせであり、機械族はともかく炎族モンスターは【機械戦士】デッキには投入されていない。ただしその融合召喚を可能とするのが、自身と音響戦士の種族を自由に変更出来る《音響戦士ピアーノ》であり、その効果は。
「《起爆獣ヴァルカノン》が融合召喚に成功した時、このモンスターと相手モンスターを破壊し、破壊した相手モンスターの攻撃力分のダメージを相手に与える!」
「何ですって!」
起爆獣という名の通りに。明日香のフィールドにいるレディ・ジャスティスを巻き添えに、《起爆獣ヴァルカノン》は破壊されていく。相手モンスターの攻撃力分のダメージを与える、という追加効果を持つものの、レディ・ジャスティスの攻撃力は僅か500。大したダメージにはなりはしない。
明日香LP2000→1500
「《スターダスト・チャージ・ウォリアー》を攻撃表示に変更し、バトル!」
要するに、明日香のフィールドががら空きとなった、という事実が重要なのだから。
「《スターダスト・チャージ・ウォリアー》で明日香にダイレクトアタック! シューティング・クラッシャー!」
「きゃぁぁぁぁ!」
明日香LP1500→0
「私の負け、ね……これなら明日も、心配ないみたいね」
長いようで短いターンのデュエルが決着し、明日香は悔しがりながらもこちらを激励するように言い放ってくれる。
「明日香こそ。レディ・ジャスティス、活かしてきてるな」
「それはどうも。約束通り、遊矢の夢のことは、ダークネスを倒してからの楽しみにしておいてあげるわ」
「……ああ」
すっかり忘れていたが、そういえばこちらの夢がどうのこうの、というのが最初の話題だった。いざ聞かれた時は気恥ずかしかったが、今なら特に話すことに抵抗はない――と思っていると、どこからかエンジン音が響いてきた。
「十代!」
その聞こえてきたエンジン音の行き先は、アカデミアのモーターボートに乗った十代だった。十代はこちらに気づいたのか、モーターボートを灯台に寄せてきた。
「十代、どうしたんだ?」
「……童実野町と連絡が取れない。ダークネスの仕業かもしんねぇ」
「童実野町が……?」
童実野町と言えば、あの海馬コーポレーションの本社があるどころであり、恐らくはこのダークネス世界への侵攻計画にも深く関わっているだろう。そこと連絡がつかなくなった、となれば……何か、まずいことが起きていてもおかしくない。
「だから……行って確かめてくる。童実野町にな」
「そんな! 何かあったら一人じゃ危ないんじゃ……」
「ヨハンやジム、オブライエンも来てくれる。大丈夫だ。だから――」
明日香の警告に留学生たちの名前を出して突っぱねながら、十代は再びモーターボートのエンジンを再び大きく掛けた。そしてもう一度、こちらを向いて。
「――アカデミアのこと、頼むぜ」
「ああ。任せろ!」
十代の頼みに力強く頷いてみせると、モーターボートは童実野町に向けて高速でエンジンを轟かせていく。
――決戦前夜の出来事だった。
後書き
リ・コントラクト・ユニバース! リ・コントラクト・ユニバース! リ・コントラクト・ユニバース! リ・コントラクト・ユニバース!
僕だよ、サイバー・エンジェル! 僕たちはずっとこんな効果だったじゃないか!
そして出ない美朱濡。最初は美朱濡を出すためのデュエルだったのですが、はてさて。というか割とサイバー・エンジェルの殺意がヤバい。
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