遊戯王GX-音速の機械戦士-
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―始動―
前書き
最終章始動感
「この万丈目サンダーを呼びつけた上で待たせるとは……」
「何の用ッスかねぇ」
いつものメンバーが校長室に呼び出されたものの、鮫島校長はそこにはおらず。ソファーに座っていたり窓から景色を眺めたり、各々が適当に過ごしていた。
「でも何だか懐かしいわね。七精門の鍵の時みたいで」
「確かに」
校長室にいたメンバーは、微笑んだ明日香が言ったように、件の七精門の事件に関わったメンバーがほとんどだった。大徳寺先生にクロノス教諭と隼人に亮がおらず、代わりに剣山にレイ、吹雪さんが加わってはいるが。
「でもこのメンバーが集められてるってことは……まあ、そういうことだろうねぇ」
「大丈夫です師匠! それに天上院くん! ダークネスとかいう輩は、このサンダーが蹴散らしてみせましょう!」
「なんでその二人だけに言うんスか……」
吹雪さんが言外に読んだ通り、恐らくはかのダークネスとの決戦。このメンバーの中でも半分ほどが戦った相手に、それぞれ緊張が走っていた。
「ダークネス……」
ダークネスが使うNo.カードに意識を乗っ取られたレイが、恐怖を帯びた声色で小さく呟いた。隣から頭をポンポンと叩いて安心させようとしたところ、顔を紅潮させて数回で逃げられてしまう。
「――アニキ!」
緊張感を保ちながらもほのぼのと談笑していたが、ソファーに座っていた剣山が、突如として立ち上がりながら叫びだした。窓から一人で空を眺めていた十代だったが、驚きながらも剣山の方を見た。
「お、おう……」
「こんな時に……いや、こんな時だからこそ、デュエルして欲しいザウルス!」
腰を直角に曲げて、剣山は十代にそう頼み込んだ。デュエルディスクは持っているし、この校長室はデュエル出来るだけのスペースはあるが……
「……いきなりどうしたんだ、剣山」
「オレがどれだけ強くなったか、そのダークネスとやらに通用するのか……アニキが卒業する前に、確かめたいザウルス……!」
そう言いながら、剣山はラー・イエローのデュエルディスクを展開し、十代に見せつけるように構えた。あとは外野の俺たちに口を出す権利はなく、十代はそれに対して――
「……いいぜ、剣山。かかってこいよ」
「……ありがとうだドン!」
――同じくオシリス・レッドのデュエルディスクを構え、剣山に応じるようにデュエルの準備を完了する。お互いに十分な距離を取ると、その間から外野の俺たちは抜けていく。
『デュエル!』
十代LP4000
剣山LP4000
「オレからだドン!」
先攻は挑戦者たる剣山から。お互いに五枚のカードをデッキから引くと、デュエルが開始されていく。
「オレはモンスターをセット! さらに永続魔法《凡骨の意地》を発動し、ターンエンドザウルス!」
「凡骨の意地……?」
剣山のデッキをよくしるメンバーは、口々に剣山の初手に違和感を持った。剣山のデッキは、攻撃的な効果を持った恐竜族を進化薬シリーズで速攻召喚し、そのまま力任せに攻め立てるお手本のような【ハイビート】。
にもかかわらず発動されたのは、通常モンスターをサポートする《凡骨の意地》。確かに《セイバーザウルス》などは投入されていたが、《凡骨の意地》を投入するほどではなかった筈だ。
「どうやら……今までの剣山くんじゃないみたいだねぇ」
「オレのターン。ドロー!」
吹雪さんの呟き通りに。これまでの剣山とは全く違う初手に、十代も心持ち警戒してカードを引いた。
「オレは《カードガンナー》を召喚し、効果発動!」
十代の初手は優秀な機械族である《カードガンナー》。効果を発動するとともに、十代のデッキからカードが三枚墓地に送られ、一時的にせよ攻撃力を1900にまで上昇させる。
「バトル! 《カードガンナー》でセットモンスターに攻撃!」
《カードガンナー》の銃弾が剣山のセットモンスターを襲い、あっさりとその連射はセットモンスターを貫いた。一瞬、恐竜に乗った鎧武者のような姿が垣間見えたものの、どんなモンスターなのか見たこともなかった。
「……カードを一枚伏せ、ターンエンド」
「オレのターン、ドローザウルス!」
そして破壊された際の効果も特にはなく、十代はカードを一枚伏せたのみでターンを終了し、不気味な沈黙を維持したまま剣山へとターンが移る。
「永続魔法、《凡骨の意地》の効果を発ドン! 通常モンスターを引けば引くだけ、追加ドローが可能ザウルス!」
剣山の宣言通りに永続魔法《凡骨の意地》は、通常モンスターをドローすれば、際限なしにカードを引くことが出来る。剣山は合計で三枚のカードをドローすると、手札から二枚のカードを取り出していた。
「手札の《竜角の狩猟者》と、《ランスフォリンクス》で、ペンデュラムスケールをセッティングザウルス!」
「ペンデュラム!?」
誰の驚愕の声だったかも分からない、もしかすると全員からだったかもしれない剣山の行動は、なんとペンデュラムスケールのセッティング。異世界で用いられていた召喚方法であり、覇王軍の一部が好んで使用していたものだ。
それをどうして剣山が使用しているのか――その問の答えは今は語られず、剣山の背後に赤と青の光の柱がそびえ立った。
「ペンデュラム召喚! 来るドン、恐竜さんたち!」
そのスケールは3から7。よってレベル4から6のモンスターが同時に召喚可能となり、剣山の頭上に描かれた魔法陣から、三体の恐竜族モンスターがフィールドに一斉に特殊召喚された。
「手札から二体の《ランスフォリンクス》! エクストラデッキから《レプティアの侍騎兵》!」
どうやら先程《カードガンナー》に守備表示で破壊されたモンスターも、ペンデュラムモンスターだったらしく。手札からだけではなく、エクストラデッキから《レプティアの侍騎兵》と呼ばれた恐竜族モンスターが特殊召喚され、あっという間に三体の恐竜族が十代に迫り来る。
「さらに《竜角の狩猟者》のペンデュラム効果! 自分フィールドの通常モンスターは、攻撃力が200ポイントアップするザウルス!」
さらにペンデュラムスケールにセットされていた《竜角の狩猟者》というモンスターにより、二体の《ランスフォリンクス》の攻撃力はさらに上昇する。通常モンスターにもかかわらず、ペンデュラム効果は持っているらしく、永続魔法《凡骨の意地》はあれらのモンスターのサポートカード。そして一斉展開やパワーアップが済んだ剣山は、十代に向けて攻撃を命じていた。
「まずは《レプティアの侍騎兵》で、《カードガンナー》に攻撃だドン!」
「っ……!」
十代LP4000→2600
対する十代のフィールドに唯一残っていたのは、攻撃力上昇効果はエンドフェイズのみのため、低い攻撃力を晒していた《カードガンナー》。あっさりと《レプティアの侍騎兵》に破壊され、十代のライフに少なくないダメージを与え、さらに残る二体の攻撃に繋ぐ。
「《カードガンナー》が破壊された時、カードを一枚ドロー出来る」
「《ランスフォリンクス》でダイレクトアタックザウルス!」
《カードガンナー》は破壊された時、カードを一枚ドローさせる効果があるが、全く関係のないかのように。まるで槍のように尖ったくちばしが目立つ翼竜、《ランスフォリンクス》が、がら空きになった十代を襲う。その元々の攻撃力は2500だったが、《竜角の狩猟者》のペンデュラム効果によって、その攻撃力は2700にまで上昇しており――計ったかのように、十代のライフポイントをギリギリ上回る数値だった。
「リバースカード、オープン! 《カウンター・ゲート》! 直接攻撃を無効にし、カードを一枚ドローする!」
ただしこんなところで終わる十代でもなく、その一撃はしっかりとリバースカードで防いでみせた。さらに通常罠カード《カウンター・ゲート》の真価は、攻撃を防いだこれからにある。
「さらにドローしたカードがモンスターだった場合、そのモンスターを攻撃表示で特殊召喚出来る! 」
直接攻撃のダメージを防ぎ、かつ一枚ドロー出来るだけならば、汎用カードたる《ガード・ブロック》とまるで変わらないが、《カウンター・ゲート》はドローした後が一味違う。ドローしたカードがモンスターカードであれば、そのモンスターを特殊召喚出来るという追加効果を持つ。
「来い! 《E・HERO ネオス》!」
「ネオス……!」
そして十代がドローしたカードは、流石というべきか《E・HERO ネオス》。あまりにも早いエースモンスターの登場に、剣山が苦々しげにその名を呟いた。
「でもネオスと言えども、今は《ランスフォリンクス》の方が攻撃力は上だドン! 最後のランスフォリンクスでネオスに攻撃!」
確かに持ち直した剣山がそう自らを鼓舞するように叫んだ通りに、《竜角の狩猟者》のペンデュラム効果の分、今は《ランスフォリンクス》の攻撃力の方が上だ。しかし、二体目の《ランスフォリンクス》の攻撃がネオスに放たれたものの、その間にはある戦士が盾となっていた。
「墓地から《ネクロ・ガードナー》を除外することで、攻撃を無効にする」
「くっ……カードを二枚伏せて、ターンエンドザウルス」
剣山のペンデュラム召喚からの攻勢は、十代の《カウンター・ゲート》と《ネクロ・ガードナー》の前に、半ば以上に失敗に終わる。確かにライフポイントは削ったものの、フィールドにネオスを召喚させてしまったのだから。
「チッ、冷や冷やさせやがって」
「防がれちゃったけど、剣山くんも凄い……」
「オレのターン、ドロー!」
外野の意見はともかくとして、ターンは十代へと移行する。十代のフィールドには、《カウンター・ゲート》の効果で特殊召喚された、《E・HERO ネオス》のみ。対して剣山のフィールドは、《レプティアの侍騎兵》に《ランスフォリンクス》が二体と、ペンデュラムスケールが揃って永続魔法《凡骨の意地》に、リバースカードが二枚。
「魔法カード《アームズ・ホール》を発動! デッキトップを墓地に送ることで、装備魔法カードを一枚手札に加える」
フィールドだけなら剣山が圧倒的だが、十代のフィールドにはネオスがいる。何か仕掛けてくるに違いない――という思考が正しいと認めるように、十代は装備魔法をサーチする魔法カード《アームズ・ホール》を発動する。通常召喚が不可能になる、という重いデメリットこそつくが――
「魔法カード《コクーン・パーティー》を発動! 墓地のネオスペーシアンの数だけ、デッキからコクーンモンスターを特殊召喚する!」
まるでそんなデメリットを感じさせることはなく、十代は剣山に負けじとモンスターを大量展開してみせた。ネオスペーシアンの幼生体たるコクーンモンスターは、それ単体では何の効果も持たず非力ではあるが。
「フィールド魔法《ネオスペース》を発動! そしてフィールドが《ネオスペース》となった時、コクーンモンスターはネオスペーシアンに成長する!」
十代が発動したフィールド魔法《ネオスペース》。ネオスやネオスペーシアンの生まれ故郷である宇宙に、アカデミアの校長室から風景が変わっていき、コクーンモンスターはネオスペーシアンへと成長していく。それぞれ三体のネオスペーシアン――《N・アクア・ドルフィン》、《N・エア・ハミングバード》、《N・フレア・スカラベ》。
「《N・エア・ハミングバード》の効果発動! 相手の手札×500ポイントのライフを回復する! ハニー・サック!」
十代LP2600→4100
剣山の三枚の手札から花が咲いていき、それをエア・ハミングバードが収穫していくことで、十代のライフは初期値以上に回復する。先のターンの戦闘を無為なものとするとともに、さらに十代は新たな魔法カードを発動する。
「魔法カード《スペーシア・ギフト》を発動! フィールドのネオスペーシアンの数だけ、よって三枚のカードをドロー!」
フィールドのネオスペーシアンの数だけドロー出来る、という癖はあるがハイリターンな魔法カード《スペーシア・ギフト》により、十代は三枚のカードをドローする。ライフの回復に手札の補充としてきたが、ネオスペーシアンたちの本領はここからだ。
「行くぜ剣山! ネオスとフレア・スカラベで、コンタクト融合!」
ネオスとフレア・スカラベ。二体のモンスターが時空の穴に飛び込んでいき、融合の魔法カード無しでコンタクト融合を果たす。その名の通り二つの力が混じり合い、ネオスは新たな力を得てフィールドに舞い戻った。
「コンタクト融合! 《E・HERO フレア・ネオス!」
真紅の鎧に身を包んだネオス。その効果は、融合素材となった《N・フレア・スカラベ》の効果を色濃く受け継いだものであり、この状況に相応しいモンスターでもあった。
「フレア・ネオスの効果! フィールドの魔法・罠カードの数だけ、攻撃力を400ポイントアップさせる!」
「しまったドン……ペンデュラムゾーンは魔法カード扱いザウルス!」
剣山も気づいた通りに。魔法・罠カードの数だけ攻撃力を上げるフレア・ネオスには、剣山の二枚のペンデュラムモンスターも含まれている。つまり、フィールドの魔法・罠カードは剣山のペンデュラムモンスターが二枚、永続魔法《凡骨の意地》が一枚、リバースカードが二枚。そして十代の《ネオスペース》を合わせ六枚で、《ネオスペース》の上昇値を含めて《E・HERO フレア・ネオス》の攻撃力は、圧倒的な5400ポイントという数値にまで跳ね上がる。
「バトル! フレア・ネオスでランスフォリンクスに攻撃! バーン・ツー・アッシュ!」
「《ガード・ブロック》を発ド……どわぁ!」
すんでのところで、伏せていた《ガード・ブロック》が剣山を守ってみせたが、その衝撃まで止めることは出来なかった。ランスフォリンクスが爆発した衝撃は剣山にまで襲いかかり、剣山は悲鳴を上げて吹き飛んでしまう。
「さらに速攻魔法《コンタクト・アウト》! フレア・ネオスのコンタクト融合を解除する!」
しかし十代は追撃の手を緩めることはなく、《融合解除》のコンタクト融合バージョン《コンタクト・アウト》により、フィールドにはまたもやネオスとフレア・スカラベが特殊召喚された。
「ネオスで二体目のランスフォリンクスに攻撃! ラス・オブ・ネオス!」
《ランスフォリンクス》は、確かに《竜角の狩猟者》のペンデュラム効果によって、攻撃力を200ポイント上昇させている。ただし、今のデュエルフィールドはネオスの故郷たる《ネオスペース》――よってその場で戦えば、ネオスの攻撃力は500ポイント上昇する。
剣山LP4000→3700
「さらにN・フレア・スカラベで、《レプティアの侍騎兵》に攻撃! フレア・コメット!」
ネオスとランスフォリンクスの攻防は、ギリギリのところでネオスが上回り。さらに続いて《N・フレア・スカラベ》が、《レプティアの侍騎兵》へと攻撃を仕掛けていた。フレア・スカラベは、攻撃力500ポイントの下級モンスターに過ぎないが、その効果は先のフレア・ネオスとほぼ同様。攻撃力を1600ポイント上昇させ、《レプティアの侍騎兵》をファイヤーボールで破壊してみせた。
剣山LP3700→3400
「さらにハミングバードとアクア・ドルフィンでダイレクトアタック!」
剣山LP3400→2000
そして剣山のフィールドががら空きになったところに、残る二体のネオスペーシアンの攻撃が炸裂し、剣山のライフポイントはあっという間に半分と化した。ネオスペーシアンたちの連撃から何とか立ち上がると、剣山は半笑いで十代に笑いかけた。
「流石は十代のアニキだドン……だけどまだまだザウルス! 永続罠《臨時収入》が発動していたドン!」
永続罠《臨時収入》。エクストラデッキにモンスターが加わる度に、最大三つまでカウンターを乗せることが可能で、最大まで乗った《臨時収入》を墓地に送ることでに二枚ドローする。異世界での事変に際して俺も使っていたカードに、確かに二枚ドロー出来ればまだ逆転の芽はある、と思ってしまう。
しかし、その芽はまやかしだと――十代のフィールドを見て、改めて思ってしまう。
「メイン2。ネオス、アクア・ドルフィン、エア・ハミングバードで、トリプルコンタクト融合!」
速攻魔法《コンタクト・アウト》によって、再び《E・HERO ネオス》はフィールドに舞い戻っていた。つまり新たなコンタクト融合が可能ということであり、三体のモンスターが再び《ネオスペース》の向こうに消えていく。
「トリプルコンタクト融合! 《E・HERO ストーム・ネオス》!」
蒼空のような透き通った青色の鎧を身に纏い、フィールドに旋風を巻き起こしながら、ネオスは新たな力を得てフィールドに舞い戻った。風と水、二つのネオスペーシアンの力を得たストーム・ネオスは、その名の通りに動くだけで旋風を引き起こしていく。
「ストーム・ネオスの効果発動! フィールドの魔法・罠カードを全て破壊する! アルティメット・タイフーン!」
「なっ……!」
剣山が驚愕に目を見開くと、ストーム・ネオスがフィールドの全てを破壊していく。十代のフィールド魔法《ネオスペース》も諸共だったが、剣山のフィールドの《凡骨の意地》に《臨時収入》、さらにはペンデュラムスケールにセットされた二枚と、明らかに剣山の方が損害は上だ。
「装備魔法《インスタント・ネオスペース》をストーム・ネオスに装備。カードを二枚伏せて、ターンエンド」
「オ……オレのターン……」
十代のフィールドには、攻撃力3000のトリプルコンタクト融合体である《E・HERO ストーム・ネオス》と、装備された《インスタント・ネオスペース》。さらに《N・フレア・スカラベ》とリバースカードが二枚に、ライフポイントは4100。
対してボード・アドバンテージだけならば、圧倒的な優位を保っていたはずの剣山のフィールドは――何もなかった。コンタクト融合を絡めた連撃により、モンスターも魔法も罠も全て破壊され、剣山のフィールドには何もなくなっていた。
「……ドロー!」
ペンデュラム召喚の弱点たる手札消費を補っていた、《凡骨の意地》に《臨時収入》も失ってしまい、剣山は必死の表情でカードをドローした。まだ諦めるわけにはいかないと、決意が感じられる叫びとともに。
「オレは《マイルド・ターキー》を召喚し、《超進化薬・改》を発動! 鳥さんを恐竜さんに進化させるザウルス! 来い、《超伝導恐獣》!」
鳥獣族モンスターをリリースすることによって、手札から恐竜族モンスターを特殊召喚する《超進化薬・改》の効果により、剣山の切り札の一つたる《超伝導恐獣》が特殊召喚された。さらにリリース素材となった《マイルド・ターキー》というモンスターは、どうやらペンデュラムモンスターらしく、再利用可能なエクストラデッキに送られていく。
「さらに《金満な壺》を発ドン! エクストラデッキからペンデュラムモンスターを三枚デッキに戻すことで、カードを二枚ドローするザウルス!」
ただしエクストラデッキに送られようが、ペンデュラム召喚が可能でなければ意味がないが――剣山はそれを魔法カード《金満な壺》に賭ける。エクストラデッキに貯まっていたペンデュラムモンスターをデッキに戻し、カードを二枚ドローする魔法カードだ。
「……よく来てくれたドン! オレは《マイルド・ターキー》に、《竜角の狩猟者》をセッティングザウルス!」
そして剣山は見事にペンデュラムモンスターを引き当ててみせ、再び二対のペンデュラムスケールがセッティングされる。これでレベル3から6のモンスターが、同時に召喚可能な準備が整った。
「ペンデュラム召喚! 来てくれ! 恐竜さんたち!」
そして新たに生成された魔法陣から、四体の恐竜がフィールドを埋め尽くした。三体の《ランスフォリンクス》と、《レプティアの侍騎兵》――それぞれ、先のターンでも十代と戦ったモンスターたちだ。
「行くザウルス……アニキ! バトルだドン!」
ストーム・ネオスに恐竜たち。それぞれデュエリストたち同様に向き合うと、剣山の攻撃の指示がフィールドを支配する。
「まずは《超伝導恐獣》でストーム・ネオスに攻撃ザウルス!」
「くっ……!」
十代LP4100→3800
フィールドで唯一ストーム・ネオスの攻撃力を上回っている、《超伝導恐獣》の一撃によって、まずはストーム・ネオスは破壊された。ただしその破壊された場所には、コンパクトながら確かに宇宙空間が存在していた。
「ストーム・ネオスに装備されていた《インスタント・ネオスペース》の効果発動! 装備モンスターがフィールドを離れた時、デッキから《E・HERO ネオス》を特殊召喚する!」
その小さい宇宙空間から十代を守るべく飛び出してきたのは、やはりというべきか《E・HERO ネオス》。装備魔法《インスタント・ネオスペース》は、装備モンスターがフィールドを離れた時、デッキからネオスを特殊召喚する効果を持っているのだから。
「なら《ランスフォリンクス》でネオスに攻撃ザウルス!」
《ランスフォリンクス》と《E・HERO ネオス》の攻撃力は互角だが、ペンデュラムゾーンにセットされた《竜角の狩猟者》の効果により、《ランスフォリンクス》の攻撃力は200ポイントアップする。先のターンは《ネクロ・ガードナー》に防がれてしまったものの、今度こそランスフォリンクスはネオスをその鋭利なくちばしで捉えていた。
「さらに二体目の《ランスフォリンクス》で、《N・フレア・スカラベ》を攻撃ザウルス!」
「ぐあっ!」
十代LP3800→2400
ネオスへの一撃はネオスが守備表示だったため、十代へのダメージはなかったものの、下級モンスターたるフレア・スカラベへの一撃は十代に痛烈なダメージをもたらした。これでも二枚のペンデュラムゾーンのカードによって、攻撃力を上昇させてはいるのだが、他の永続魔法・罠カードは他ならぬ十代が破壊してしまった。
「まだまだザウルス! 《レプティアの侍騎兵》で、十代のアニキにダイレクトアタック!」
「リバースカード、オープン! 《リビングデッドの呼び声》! 蘇れ、ストーム・ネオス!」
コンタクト融合体は他のE・HERO融合体とは違い、正規に融合した後なら蘇生することが出来る。その長所を活かすことで、《リビングデッドの呼び声》によってストーム・ネオスが再びフィールドに特殊召喚され、十代を守る大きな盾となった。
剣山の残る攻撃可能モンスターは、下級モンスターの《レプティアの侍騎兵》と、残り一体の《ランスフォリンクス》。いずれにしてもストーム・ネオスを破壊するだけの攻撃力はなく、十代がまたもや防御成功――かと思いきや、《レプティアの侍騎兵》は攻撃を止めることはなかった。
「そのまま《レプティアの侍騎兵》で、ストーム・ネオスを攻撃だドン!」
「……っ!」
《レプティアの侍騎兵》の攻撃力は僅か1800。もちろんストーム・ネオスに適う筈もなく、それ故に十代はその攻撃に警戒する。恐竜に乗った侍は、その刀をストーム・ネオスに交差させると――
「このモンスターがペンデュラムモンスター以外に攻撃する時、ダメージ計算前に相手モンスターを破壊するドン!」
――斬り裂いてみせた。下級モンスターがストーム・ネオスを破壊するという大金星をあげ、更なる恐竜たちの攻撃に繋げようとしたその時、十代のフィールドをオーロラのようなものが包む。
「リバースカード、《エレメンタル・ミラージュ》! E・HEROが効果破壊された時、そのモンスターをフィールドに戻す!」
オーロラの中から現れたのは、先程《レプティアの侍騎兵》に破壊された筈のストーム・ネオス。まるでダメージを受けた様子はなく、さらにそのオーロラからは新たなモンスターも現れていく。
「さらにこのターン破壊されたE・HEROも特殊召喚する!」
オーロラから現れたのはストーム・ネオスだけではなく、《ランスフォリンクス》に破壊されていた《E・HERO ネオス》も共だった。今度こそ剣山にストーム・ネオスを破壊する術はなく、剣山はこのターンでの決着を諦めた。
「だけど……ネオスだけでも破壊させてもらうドン! 《ランスフォリンクス》でネオスに攻撃!」
またもや《ランスフォリンクス》がネオスを破壊したものの、先と同じく守備表示なので十代にダメージはない。これで十代のフィールドにはストーム・ネオスのみとなり、剣山はバトルフェイズを終了した。
「カードを一枚伏せて、ターンエンドザウル――」
だが一部の例外を除いてコンタクト融合体は、エンドフェイズ時にエクストラデッキに戻る効果を持っている。剣山はこのターンでトドメを刺せなかったことを残念に思いながらも、フィールドにはエンドフェイズにエクストラデッキに戻るストーム・ネオスだけのため、実質フィールドを壊滅させたのだから、よしとすべきか……とターンを終了した瞬間――そのことに気づく。気づいてしまう。
剣山とて伊達に十代のことをアニキと慕っている訳ではなく、そのデュエルをこれまでに何度も見てきてきた。よって、そのことに気づくことが出来たが――剣山にそれを止める手段はなかった。
「――まさか、最初からこれを狙ってたドン!?」
「……ストーム・ネオスの効果発動! このカードはエンドフェイズ時、エクストラデッキに戻る」
フィールド魔法《ネオスペース》に装備魔法《インスタント・ネオスペース》もない以上、コンタクト融合体であるストーム・ネオスはエクストラデッキに戻ってしまう。ただし、剣山からの最初からそれが狙いだったのかという問いに、十代はニヤリという笑みでそれに答えた。
「そしてストーム・ネオスがエクストラデッキに戻った時、フィールドのカードを全てデッキに戻す!」
十代の狙い――それはトリプルコンタクト融合体にのみ許された、エクストラデッキに戻る際に発動する効果。ストーム・ネオスの場合、それはフィールドのカードを全てデッキに戻すという効果であり、強烈な旋風は剣山のフィールドの全てをさらっていく。
「ターンエンド……ザウルス」
「オレのターン、ドロー!」
お互いに一枚もフィールドにカードがない――などと言えば、まるで同格のようにも感じられるものの、実態はまるで違う。どちらが勝利者かなど、誰の目から見ても明らかだった。
「フィールド魔法《摩天楼2-ヒーローシティ》を発動!」
そしてアカデミアの校長室がまたもや形を変えていき、ヒーローたちの守る都市へと形作られた。高層ビルが立ち並ぶ摩天楼の屋上には、もちろんあのヒーローが鎮座していて。
「《摩天楼2-ヒーローシティ》の効果発動! 一ターンに一度、戦闘で破壊されたE・HEROを墓地から特殊召喚出来る! 蘇れ、ネオス!」
――《E・HERO ネオス》。その直接攻撃を剣山が防ぐ手段はなく、ライフポイントは2000とネオスの攻撃力より低く。
「バトル! ネオスでダイレクトアタック! ラス・オブ・ネオス!」
「うわあああっ!」
剣山LP2000→0
ネオスの一撃により長いようで短かったデュエルは終結し、外野のメンバーから惜しみない拍手が送られた。それを受けて剣山は苦笑いしながら、校長室の高級そうな絨毯に大の字で寝転んだ。
「あー……やっぱり、アニキには及ばなかったドン……」
「いいや、惜しかったぜ。……ガッチャ!」
「アニキ……」
十代が剣山を助け起こしながら、もはや懐かしくなったいつものポーズ――矛盾しているようだが――を決めて、お互いに健闘を讃えるように肩を叩き合って。それが終わる頃合いを見計らって、ずっと気になっていたことを剣山に問うた。
「なあ剣山。あのペンデュラムモンスターたち、どうしたんだ?」
俺のデッキに眠る音響戦士と呼ばれるペンデュラムモンスターを思いながら、他のメンバーも気になっていたであろうことを、剣山に直球で聞いていった。まさか異世界で手に入れたカードが変質した、なんて俺のようなことがないだろうが――と考えていると、剣山は困ったように笑っていた。
「その……拾ったザウルス」
「拾ったぁ?」
「そこから先はワタシが説明しマース」
さらに聞いていこうとした瞬間、校長室の扉が開いてぞろぞろと人が入ってきた。その正面に立っているのは、真紅のスーツに身を包んだ銀髪の外人――
「でも、まずは見事なデュエルでした。十代ボーイ、剣山ボーイ」
「ペガサス・J・クロフォード会長……!」
陽気に拍手してみせるその外人は、かのペガサス・J・クロフォード会長で間違いはなく。今のデュエルもどうやら見物していたらしく、剣山と十代に交互に拍手と握手をしていって。
「十代ボーイ。ヒーローシティを上手く使ってくれていると聞けば、ミスター隼人もきっと喜ぶでショウ!」
「え、ああ、まあ……」
テンションの高いペガサス会長に圧されたのか、歯切れが悪いように十代が答えて。それでもかつての旧友こと隼人のことが聞けて嬉しいのか、口の端は少し笑みを浮かべていた。
「そして剣山ボーイ。実はそのペンデュラムカード、それは鮫島校長に頼み、アカデミアに放って貰ったカードなのデース」
「か、勝手に使って申し訳ないザウルス! すぐ返して――」
「とんでもありまセーン!」
恐縮する剣山に対してペガサス会長はマシンガンのように言葉を浴びせていき、ペンデュラムカードを返そうとした剣山に、そのままの形でまた返して。
「デュエリストがカードを選ぶように、カードもまたデュエリストを選びマース……アナタは、そのペンデュラムカードに選ばれたのデース」
「オレが……?」
「もちろんデース。そしてペンデュラムを放った理由は、もちろんあの《ダークネス》に対抗する戦力とするためデース……」
《ダークネス》。その言葉を聞いた瞬間、反射的にメンバーは硬直する。そしてペガサス会長はペンデュラムカードを剣山に突っ返した後、優しく両肩に手を置いた。
「アナタたちのような若者に託すしかないとは、申し訳ないデース……では、あとは頼みマース」
そしてペガサス会長はゆっくりと剣山から離れると、校長室の外に声をかけた。ペガサス会長の護衛であろう黒スーツ姿の男性たちの間から、見慣れた青い制服を着た男が姿を現した。
「……久しぶりだな、みんな」
「――三沢!」
後書き
最終章って銘打ってから、何年もやってる感じの漫画がそろそろ終わりますね
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