もう一人の八神
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
新暦78年
memory:20 ヤキモチうさぎ
-side 悠莉-
コロナの師匠だったことに驚くヴィヴィオを前にしていた。
あ、そうだよ、コレだ、コレ! 思い出した! ヴィヴィオのコレが見たかったんだよ。
いやー、つっかえてたものがなくなった感じに加え、やっぱりおもしろい。
これ見たさにコロナに頼んで黙っててもらったんだった。
いやはや、なんで忘れてたんだろーねー?
ま、別にいいか。
「ユーリどういうことなの!?」
「ちょっと落ち着け、説明するから。―――私がコロナの魔法にアドバイスしていた。以上」
「それだけ!?」
短すぎる説明に声をあげる。
その姿を見て込み上げてくる笑みを我慢していると、コロナが苦笑する。
「ユーリさん、ほどほどにしたらどうですか?」
「ヴィヴィオのリアクションが面白くてついつい。……さて、ヴィヴィオ、聞きたいことあるならそれに答えるよ」
うぅ~と呻きながらも口を開く。
「……どうしてコロナの師匠やってること教えてくれなかったの?」
「いや、師匠ちゃうし。それは置いといて、黙ってた理由は……」
「理由は?」
「驚いたヴィヴィオを楽しむためだね」
「えええっ!?」
「冗談だよ、冗談……一割くらいはだけどね」
「それってほとんど本気だよね!?」
そうです本気です。
相変わらずからかいがいがあるよね、これ以上続けたら終わりそうもないし、そろそろちゃんとしますか。
「他にはないの?」
「……ユーリのせいで聞きたいこと全部忘れちゃったじゃん」
「ありゃりゃ……」
そりゃ悪いことしちゃったか?
「あっ、一つ」
「ん?」
「コロナから聞いたんだけど、あのウサギたちってユーリの魔法なんでしょ?」
「そうだけど?」
確か六課時代、なのはさんがどっかに行ってしまうことにぐずってた時に一度見せたはずだったよなー。
それから……
「もしかしたら違うかもしれないけど、あの魔法…私に見せたことがあったりする?」
「……」
「え? そうなの?」
その言葉にヴィヴィオだけでなくコロナも私に目を向ける。
……あー、コロナに黙っておくよう頼んだときにヴィヴィオに見せてないって言ったんだっけ。
頼んだ後に思い出してま、いいかってなったんだったね、うん。
「二回見せたはず。六課時代になのはさんと離れ離れになるのが嫌でぐずってた時と、あとは……」
「にゃあああーっ!? 思い出したから! それ以上言わなくてもいいから!!」
「そう?」
当時を思い返しながら続きの言葉を言おうとすると顔を真っ赤にしたヴィヴィオに慌てて止められた。
別に恥ずかしいことじゃないだろうにさ。
なのはさんと一緒にミッド郊外出掛けて一人迷子になった時のことでしょ?
その時にクィーンクゥェまで創成してなのはさんと探しまわったっけ。
……確かあのときは六課が解散してすぐだったはず。
ふとそのときのことを思い返したけど頭をすぐさま切り替える。
「もう聞くことがないのなら移動しようか。二人が来る前にオッドーから通信が来て、お茶とお菓子を用意してるだってさ」
ヴィヴィオはさっきと違った意味でうぅ~と呻きながらも頷き、コロナも頷いた。
オッドーとティードにご馳走になり、コロナを家まで送ったあとのこと。
「私にも何か教えて! ユーリ!」
「……はい?」
ヴィヴィオは突然何言い出してんの?
「急にどうしたのさ。まあ、それは置いとくとして、何かって何を?」
「……え? そ、それは…えっと、その………ぁ、私に魔法教えて!」
魔法って……
「なのはさんやレイジングハートがいるでしょうに。私も二人に教わってるし」
「う……じゃ、じゃあ格闘技!」
「それはスバルさんやノーヴェさんにがいるだろ。ノーヴェさんの許可なくあまり教えられないよ?」
そう言うとがっくしと項垂れた。
ヴィヴィオは一体何がしたいんだ?
前に会った時や通信とかじゃそんなこと一言も言ってなかったのに……
「ヴィヴィオ本当にどうしたの? いつものヴィヴィオらしくないというか……」
「そ、そんなことないよ?」
「だったら顔を逸らさないで私を見て言ってよ」
そう言ってヴィヴィオの顔を覗き込もうとするとやっぱり逸らされた。
「ヴィヴィオー!」
「え?」
「あれって……」
二人そろって振り向いた。
そこには私たちに手を振りながら駆け寄ってくる女性がいた。
「あ、ママ!」
「ただいまヴィヴィオ」
ヴィヴィオの母親で姉さんの親友の一人のなのはさんだった。
「あ、やっぱり悠莉君だったんだ」
「お久しぶりです、なのはさん」
「うん、久しぶり」
なのはさんとあいさつを交わす。
なのはさんと会ったことだし帰った方がいいかな。
親子の時間を邪魔しちゃ悪いだろうし。
「なのはさんと会ったことだし私はもう帰りますね」
「……え? もう帰っちゃうの?」
ヴィヴィオの方を見てみると傍から見てもわかるくらいにしゅんとしていた。
「そうだよ。なんだったら家で夕飯食べて行ってもいいんだよ? はやてちゃんたちには連絡入れておくし」
「ユーリ……」
なのはさんからまさかの援護射撃…というかこの人の場合は援護砲撃か?
それに加え、ヴィヴィオが私の服を掴んで若干涙目になった状態で見上げてきた。
………はぁ…こりゃ帰れそうにないな。
ヴィヴィオはマジだし、なのはさんはなんだか断りがたいオーラ出してるし。
「わかった、わかったからヴィヴィオはそんな顔しないでって」
「うん!」
ヴィヴィオはホッとすると満面の笑みで頷いた。
「ユーリ! 早く行こっ!」
「ちょっ!? いきなり腕引きながら走り出すなっ!?」
「ママも早くー」
「はいはい」
嬉しそうに私の腕を引くヴィヴィオとされるがままの私、そして笑顔でそれのあとを歩くなのはさん。
遠目から見れば仲のいい親子に見えるだろう。
そんな私たちは高町家へと向かった。
高町家へ到着すると、ヴィヴィオは自室へと着替えに行った。
ヴィヴィオがちょうどいないし、なのはさんにあの時のことを聞いてみようかな。
「なのはさん、ちょっといいですか?」
「んー? どうしたの?」
「えっと、ヴィヴィオのことなんですけど……」
そう切り出して聖王教会での再会のことからなのはさんと会うまでのことを話した。
「ってことなんですけど、ヴィヴィオがああ言い出した理由とか知りませんか?」
一通り伝えると頭を抱えたなのはさんにあきれた感じでため息をつかれた。
何故に?
「悠莉君のそういうところは相変わらずみたいだね」
「はい?」
そういうところってどういうところ?
「(にゃはは、まあ、これも悠莉君の魅力の一つなんだけどね)悠莉君、もう一度よーく考えてみて。その時のヴィヴィオの仕草や表情とか」
そう言われ、その時のことを一つ一つ思い返す。
ウヌースが見たときはいつも通りって感じだったと思う。
そのあとはコロナに魔法を教えてることをバラして……ん?
あの時はヴィヴィオの反応を見て楽しんでばかりだったから気付かなかったけど、コロナを見るヴィヴィオの目は羨望…? みたいなものを含んでた?
何か教えてって言った時もだ。
ヴィヴィオが焦ってるように見えた。
それに……―――
思い返すにつれ、何となくだけど理由がわかってきた。
「どう? わかったかな?」
「多分ですけど……嫉妬、ですか?」
「半分正解。今年に入ってなかなかヴィヴィオに会う機会がなかったでしょ? だからヴィヴィオは寂しかったんじゃなかったのかな。だから魔法を教えてもらってるコロナちゃんにヤキモチやいて、悠莉君が帰ろうとすると引き留めた。まあ、簡単に言ったら構ってほしかったんだと思うよ」
「確かに家の道場の方を手伝う回数が多くなったり、最近はイクスのお見舞いとかにも行ってますから前のように会う回数は減ってますからね。……はぁ、そう言うことだったのか、納得です」
あれ? そしたらあの時なのはさんが夕飯に誘ったのは……いやいや、まさかそんなはず…ないよな?
まぁ、別にいいんだけどさ。
疑問が解けると同時にパタパタとスリッパの音が聞こえてきた。
「ユーリ、お待たせー!」
「ん、グッドタイミング」
「だね」
「え? 何が?」
なのはさんを顔を見合わせて笑うとヴィヴィオは不思議そうに首を傾げた。
「いいや、何でもないよ。…あ、そうだ。なのはさん、今日の夕飯、私が作ってもいいですか?ただ飯っていうのは性に合わないんで」
「本当!?」
「うーん、別に気にしなくていいんだけどなー。でも、お願いしちゃおっかな」
目を輝かせるヴィヴィオに目を向けたなのはさんに了解をもらい台所に入ろうとする。
「ねぇユーリ、私も手伝っていい?」
私についてきたヴィヴィオが遠慮がちに聞いてきた。
別に断る理由はないから二つ返事を返す。
すると嬉々としてエプロンをつけて準備をしだした。
それから、二人で夕飯を作りって、食べて、魔法の練習に付き合ってと、私が帰るまで終始笑顔が絶えることはなかった。
-side end-
ページ上へ戻る