もう一人の八神
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新暦78年
memory:19 友達は師匠
-side 悠莉-
イクスと友達になってから数週間、スバルさんほどとはいかないもののちょくちょくイクスの様子を見に来ていた。
あの時のことは何とか外には漏れていないからイクスが再び目覚めるということは眠っているイクスと私だけ。
おかげで難なくマリアージュの生産の能力を消滅させることができた。
「じゃあねイクス、また来るから」
そう言って部屋から出るとそこにはセインがいた。
「ユーリもういいの?」
「うん。いろいろ話したし、それにあんまり長居はあれかなって」
「イクスだってもっといてくれた方がうれしいと思ってるよ。だからそんなの気にしなくてもいいのに」
「セイン…そうかもね」
聖王教会の廊下を歩きながら話しているとセインは何かを思い出したように声を上げた。
「あっ、そうだ。ユーリはこの後何か用事とかある?」
今日は道場休みだし、ここに来るつもりだったから予定を入れてない。
「ううん。何もないけど…どうかした?」
「いやさ、実は今日ヴィヴィオが友達と一緒にイクスのお見舞いに来るからさ、会ってくれたらなーっと」
「へぇ~、ヴィヴィオ来るんだ」
そういえば直接会うのはこの前の旅行以来かな。
その時にも確か……ん?
「セイン、もしかしてヴィヴィオの友達ってコロナのことだったりする?」
「ありゃ? ユーリ、コロナと面識あっけ?」
「ヴィヴィオが無限書庫司書の資格を取ってしばらくした時だったかな? 無限書庫へ行ったときにヴィヴィオにね」
「そうだったんだ」
「それにコロナの魔法について微力ながらアドバイスしてるしね」
「ユーリもゴーレム創成できたっけ?」
「んにゃ、できるのできるけどちょっと違う。私ができるのはこれ。―――アンブラ」
ポン!
そんな音と同時に影の中から一匹の黒ウサギが飛び出した。
そしてそのまま頭の上に着地した。
「うお!? 何それ!」
「私の魔法の一つで、影によるゴーレム創成……というか簡易使い魔の創成及び使役。ウーヌス、あいさつ」
―――ペコリ
「おぉー! 何かすごい!」
「ありがと。ウーヌス、お疲れ様」
そう言うと頷いて影の中に跳び込んだ。
「とまあこんな感じなことができるから参考になりそうなところをアドバイスしてるんだ」
「なるほどねー。っと、そうだった。シスターシャッハに伝言預かってたんだっけ。ゴメンユーリ、これからセインさんはシスターシャッハのとこ行かなきゃなんないからどっかでヴィヴィオたちを待っててやって」
そうだねー…中庭でいいかな、そこならわかりやすいだろうし。
「リョーカイ。中庭をぶらつくことにするよ。それじゃセイン頑張ってー」
「あいよー」
セインは背を向けたまま手を振り、軽い返事をしながらシスターシャッハがいるであろう場所に走って行ってしまった。
さてと、のんびりと中庭でも歩くなりしながらヴィヴィオたちを待とうかな?
-side end-
-side ヴィヴィオ-
今日はコロナと一緒にイクスのお見舞いに来ました。
イクスとのお話も終え、そろそろ出ようかとコロナと話していると突然部屋の扉が開いた。
「よかったーっ、まだ二人とも帰る前で」
「セイン? どうかしたの?」
セインが私たちを見るなりフゥと息を吐いてと部屋に入ってきた。
「いやさ、お二人さんにちょっとしたいいことを教えるために急いでやって来たのですよ」
「いいことですか?」
私はコロナと顔を見合わせると、そろって首を傾げる。
その様子を見てなのかセインはニシシと笑った。
「そう、多分二人にとってはね」
「セイン、もったいぶらないで教えてよ」
「それもそーだね。二人とも今から中庭に行ってみてごらん。そしたらいいことがあるかもよ。それじゃ私は仕事に戻るから、じゃーねー」
「セイン!? ……行っちゃった」
「結局いいことが何なのか教えてくれなかったね」
「うん」
セインが言ったいいことって本当に何なんだろ?
それを考えていると窓の外の何かに気づいた。
えーっと…黒いウサギの人形? あっ……いなくなっちゃった。
「ヴィヴィオ? どうしたの、ぼーっとして」
黒いウサギの人形のようなものに目を奪われているとコロナが心配そうに声をかけてきてくれた。
そして今のことを話してみることにした。
「えっとね、今、窓の外に黒いウサギの人形がこっちを見てたんだけど目が合うとすぐにいなくなっちゃって」
「黒いウサギの人形?」
「うん。これくらいの」
両手を広げて大きさを表現する。
多分これくらい50センチくらいはあった気がするんだけど……
「黒い…ウサギ……」
コロナはうんうんとうねりながら何かを思い出そうとしていた。
何かきっかけになりそうな外見やその他の特徴をあげて言った。
すると、何かを思い出したようにハッと顔を上げた。
「もしかして師匠!?」
「ひゃう!?」
「あ、ごめんヴィヴィオ」
「ううん、大丈夫だよ」
びっくりしたー、いきなり大きな声出すんだもん。
それにしても師匠ってたしか……
「私の魔法とは少し違うんだけど似てるからってことでアドバイスとかしてくれる人なんだ。師匠って言うのは私が勝手にそう呼んでるだけなんだけどね」
「じゃあさっき見たあの黒いウサギの人形って……」
「うん、多分だけど師匠が創成した影のゴーレム」
コロナから聞いたことあるけど、その師匠ってどんな人なんだろ?
「でも、これでセインが言ってた私たちにとってのいいことってわかった気がする」
「え? でも私コロナの師匠のこと……」
「大丈夫だよ」
「え?」
「私の師匠のことヴィヴィオも絶対に知ってるはずだから!」
「え? え?」
「クスッ、早く行こっヴィヴィオ」
「え? ちょ、ちょっと待ってよコロナ!?」
コロナの師匠のことを私も知ってる?
それっていったいどういうこと?
訳もわからないままコロナに手を引かれて中庭に向かった。
-side end-
-side 悠莉-
「あちゃー、見つかっちゃったか」
黒ウサギがヴィヴィオを目を合わせてしまったのでイクスの部屋から引かせた。
「コロナは私の黒ウサギを何度も見たことあるし、すぐに私だってわかっちゃうよなー。……ん? 帰って来たか。ウーヌス、ドゥオ、トレースおかえり」
帰ってきた黒ウサギたちに労いの言葉をかける。
すると、それぞれ頷いたり胸を張ったり照れたりと三者…もとい、三匹三様の動きをした。
その様子がおかしくてつい笑ってしまう。
「そういえばヴィヴィオ、私がコロナに魔法を教えてるってこと知ってたっけ?」
コロナが伝えてなかったら知らないだろうけど……何か忘れてる気がするんだよね。
なんか、こう…根本的なことを。
と、頭を捻ってるとヴィヴィオとコロナの声が聞こえてきた。
「……考えても仕方ないか。さてと、二人を案内してきてもらおうか。ウーヌス、ドゥオ、トレースお願い」
三匹は頷くと、ヴィヴィオとコロナの声がする方へと向かっていった。
-side end-
-side ヴィヴィオ-
「中庭に来てみたけど……」
「誰もいない?」
おっかしいなー、セインがここにいるって言ってたのに。
辺りを見渡してもコロナの師匠らしき人は見当たらない。
隣のコロナに目を向けてみるとうずうずしながら見渡している。
そんなに楽しみなのかな?
そんな時、近くからカサカサと音が聞こえた。
その音の方を見てみると黒いウサギが草木の間から頭を出してキョロキョロしていた。
あれって…さっきのウサギだ。あ、こっちに気づいたって……ええーっ!?
「あのウサギって三匹もいたのー!?」
黒ウサギたちは私とコロナを見つけるとダッシュでやって来た。
その黒ウサギたちを見たコロナはもしかしてといった表情で話しかけた。
「もしかして…ウヌースとドゥオとトレース、なの?」
それに頷く黒ウサギたち。
コロナは顔を輝かせ抱きついた。
「みんな久しぶり! 元気だった?」
満面の笑みで黒ウサギたちにぎゅーって抱きしめ頬擦りしている。
いつもはなかなか見ない一面にびっくりしていたけどこのままじゃ話が進まないので苦笑しながら声をかけた。
「えーっと、コロナ?」
「はっ!? ……ごめんなさいヴィヴィオ。久しぶりだったからつい」
あははーと申し訳なさそうに笑う。
でも何でだろう、こうやって黒ウサギを見てるとどこかで見たことがあるような……
そんなことを思ってると黒ウサギの一匹がコロナの腕から抜け出して私の近くに来た。
そして袖を引っ張りながらどこかに連れて行こうとした。
「え…え? もしかしてあっちにコロナの師匠がいるの?」
―――コクン
「じゃああなたたちは私たちを案内するために?」
―――コクン
それから黒ウサギたちに案内される通りについていく。
さっきまでいたところから見て死角になっていたところに連れて来られた。
何でもこの先に私たちを待っている人、コロナ師匠で私も知っている人がいるらしい。
それを伝えると黒ウサギたちは私たちの影に入っていなくなってしまった。
「ヴィヴィオ、行こっか」
「う、うん」
コロナの後に緊張気味についていく。
そして、コロナは師匠さんを見つけると口を開いた。
「お久しぶりです! 師匠!!」
コロナの後ろから顔を出してその人の顔を見た。
その人の顔はやっと来たか待ちくたびれたそんな表情で……って、
「うん、久しぶり。あと、何度も言うけど師匠はやめて、そんな柄じゃないから」
……なんでこの人がここに?
「それから、ヴィヴィオも久しぶり。元気にしてた?」
え? え? え? なんで……?
というか私どうしたらいいの?
目の前の人物に驚きを隠せずに言葉をなくしてしまう。
「……」
いやいや! 確かにこの人は私も知ってるよ!?
「ヴィヴィオ?」
「おーい、ヴィヴィオー?」
反応のない私にコロナとその人が心配して声をかけてくる。
うん、わかってる、わかってるよ。だから、とりあえずは……
「え……ええーーーーー!? コロナの師匠ってユーリだったのーーっ?!」
ある意味予想外すぎること…コロナが前々から言っていた師匠が私の一番で特別なお友達だったということを思いっきり声を出して驚いてみよう。
-side end-
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