もう一人の八神
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新暦78年
memory:17 憧れの再確認
-side 悠莉-
少し前にルーやメガーヌさんの住む、第34無人世界マウクランで旅行兼合宿を行った。
それから少し経った夏休み前のある日のこと。
「ん? プライベート通信が入ってる…スバルさんから?」
『おいーすっ! ユーリ元気? スバルです。実は今、ティアがミッドに来ててさ、事件捜査のお仕事なんだけど、あたしんちにお泊まりしてます。もし大丈夫そうなら遊びに来ないー? ってのもありなんだけど、さすがに学校があるだろうし、映像通信とかできたら嬉しいな。余裕があったら連絡ちょうだい。じゃあね♪』
へぇー、ティアさんミッドに来てるんだ。
スバルさんから通信が届いたってことはエリオやキャロにも届いてはずだよね?
「う~ん……」
「悠莉くーん!」
う~ん…ん?
「ミウラ?」
「おーいっ!」
名前を呼ばれ振り向くと私と同じように学校帰りのミウラが手を振りながら駆けてきた。
「あれ? もう学校終わったの?」
「うん。なんでもミッドとかで起きている事件のせいだって先生たちが」
ああ、確かいろんな遺跡研究者古代歴史学者たちが何者かによって殺害されている連続殺人事件のことか。
「中等部の方もそうじゃなかったんじゃ?」
「あー…何かそんなこと言ってたね」
ん? もしかしてさっきスバルさんが言ってたティアさんの担当する事件はこれだったり?
ティアさん、執務官だからあり得なくはないか。
「悠莉くん、ちゃんと先生の話聞かなきゃダメだよ?」
「あはは、以後気を付けるよ」
それにしてもミウラをあのとき誘って正解だったね。
前に比べて明るくなって友達も増えてるみたいだし、プラスに向かってるからよかったよかった。
でもまあ、相変わらずのとこもあるけどね。
「さて、これからどうしようかな?」
「これからって?」
「午前中に終わるなんて予想外だったからねー。家には誰もいないし、ぶっちゃけ暇なんだよ」
姉さんたちは仕事、アギトは休暇とってルーのとこ行ってるし。
「じ、じゃあ!」
「ん?」
-side end-
-side ミウラ-
学校帰りに悠莉くんの家に遊び行ってもいいってオーケーもらえたんだけけど……
「お、お邪魔します」
「なに緊張してるのさ。何度も家に来てるだろうに」
悠莉くんは苦笑しながら出迎えてくれた。
無理ですよ!? 男の子というより悠莉くんの部屋に入るのなんて初めてだし、わかってたとはいえ実際に二人っきりだって意識しちゃうとやっぱり緊張して…うぅ~、どうすれば……
「少し部屋で待ってて。なにか飲み物とってくるから」
―――カタン
「…………はぁ~~」
悠莉くんが部屋から出ていったため、緊張の糸が少し解けて大きく息を吐いた。
「……でも、ここが悠莉くんの部屋なんだぁ」
初めての体験だからなのか、失礼だとわかっていてもついキョロキョロと視線を動かしてしまう。
まず目に入ったのはラックに並べられた人形の数々。
「相変わらずゲームセンターとかで乱獲してるのかな?」
前にみんなで行ったときはすごかったなー。
帰るころには一人じゃ抱えられないくらいたくさんとっちゃうんだもん。
そのおかげで私もだけど分けて貰えたんだけどね。
その時のことを思い出しながら視線を動かすとふと止まった。
「ぁ……あれって……」
フォトパネル?
窓際に飾られているのが目に付き、それの前に移動した。
「これって前にみんなで撮ったやつだ…それに家族写真…この人たちは……」
「機動六課のフォワードメンバーの四人だね。スバルさんにティアさんにエリオにキャロ」
「うわっ!? 悠莉くんいつの間に!?」
「ついさっきだよ。それにしても三年前のか~、懐かしいな」
気づかないうちに後ろに立っていた悠莉くんは写真を懐かしそうに眺めた。
私の肩越しに見てるせいで話すたびに耳元に息がかかる。
うひゃっ?! ゆ、悠莉くんの顔がすぐ近くに?!
「~~~っ!」
「って、ミウラ大丈夫? 顔赤いけど」
「だ、大丈夫ですよ? そ、それよりも確か悠莉くんはこの頃に……」
「うん、この世界に跳ばされてきたんだよ。そんでもって姉さんたちと家族になって……」
悠莉くんが次元漂流者だってことは親しい人たちには伝えているらしいです。
あれ? この子は……?
「あ、その子はねヴィヴィオ。こっちでの初めての友達なんだ」
ヴィヴィオさんのことを教えてくれる。
だけど楽しそうに話す悠莉くんを見て少しムッとしてしまう。
……って、あれ? 何でこんなこと思ったんだろ?
そんなこと考えてると頭を軽くつかれた。
「あぅ」
「ほら、そんな顔しない。心配しなくてもミウラも私の大切な友達なんだから」
大切……そっかぁ…えへへ。
「(あはは、今度は笑みなんて浮かべちゃって。でも何でさっきはムッとした顔してたんだろ?)」
悠莉くんの言葉に頬を緩ませていると突然、
―――くぅ~~~
お腹がなった。
「ぁ……~~~っ?!」
「あはは、少し長話しちゃったみたいだね。ちょっと待ってて、お昼作ってくるから」
悠莉くんがそう言って部屋を出た瞬間から呼ばれるまでボクは恥ずかしさのあまり、顔を上気させ小さくうめき声を漏らし続けた。
-side end-
-side 悠莉-
あのあと、恥ずかしくて悶えていたであろうミウラは落ち着きを取り戻し、少し遅めのお昼をとっていた。
「悠莉くんはインターミドルに出場したりしないの?」
「ん~、ミウラたちのことがあるからね~。というかどうした?」
「……だって、悠莉くんとても強いでしょ? なのに出場したりしないのって、もしかして僕たちが邪魔になってるからなのかなって……」
動かす手を止めてうつむきがちにぽつりと話す。
ミウラだけじゃないみたいだね。
別にそんな気がなかっただけで、気にしなくてもいいのに……。
「そんなことない。道場の練習でみんなに教えてる方が楽しいからで、ミウラたちが理由でインターミドルに出ないとかじゃない」
「……うん」
あー、もう! いっそのこと言うか。
「それにね、一度出場した身としてもういいかなって思ったんだ」
「……え? 悠莉くんって出てたの?」
「去年のインターミドルにね」
「でも、そんなこと一度も……」
「そりゃそうだ。わざわざ言いふらすことでもなかったし、聞かれなかったし。それに偽名や変身魔法を使ってたから基本ばれてないさ」
事前に知っていた姉さんとザフィーラを除けばジーク以外変身魔法がばれてないわけだし、知ってる人は私が伝えたから知ってるわけで。
「ちなみにその時使ってた名前って、もしかして……」
思い当たる節があるのか次第に表情が驚きへと変わっていく。
「……ユウ・リャナンシー、だったり?」
「Exactly!」
「え……えええぇぇ!!?」
驚いてるせいか、暗い表情も完全になくなる。
そして、心地よく聞こえるミウラの驚きの声に自然と頬が緩む。
「都市本戦が終わった後、みんなで中継見直してたらリオがあんなこと言い出すんだから内心ひやひやだったよ」
試合にも使用していた収束魔法の応用である剣を作ってみせる。
これを見てさらに目を見開くミウラ。
「というわけでこれがおまけ程度だけど理由かな。あ、言っておくけど誰も勝てないからとかいう慢心したわけじゃないから。今は本当にミウラたちに教えて一緒に歩いていくことが楽しくて仕方ないんだから」
これ以上ないほどの満面の笑みをミウラに向ける。
「っ……うん!」
ミウラも同じように笑顔を返してくれた。
-side end-
-side other-
食後の運動として悠莉とミウラは道場で使用している海岸で簡易試合をすることにした。
勝敗は相手に有効打を与えるか参ったと言わせるか、などと他にも簡単に試合ルールを決めて、いつも練習をしている海岸で組手に備え入念に身体をほぐす悠莉とミウラ。
そこにはまだ張りつめた空気はなく互いにリラックスしている状態だ。
「悠莉くん、こっちは準備オッケーだよーっ!」
「ん、わかった。そんじゃそろそろ始めようか」
「お願いします!」
二人はデバイスに手をかけ、それぞれのバリアジャケットを展開した。
しかしミウラは悠莉の姿を見てすぐに疑問を口にした。
「やっぱりインターミドルのやつじゃないんだね」
「そりゃあの時のは仮のデバイスだったしね。こっちが本来の物なんだから」
「さっきの話聞いちゃったらいろいろと違和感感じちゃって。あ、悠莉くん刀は抜かないの?」
「今回は体術と抜刀術使うつもりだから」
そう言ってミウラからある程度距離をとる。
このくらいかな、と呟いてミウラへと向き直り構えをとる。
ミウラは気を引きしめ悠莉と同じく構えた。
「先手は譲るからいつでもかかってきな」
「はい! それじゃあ…行きます!!」
その言葉と同時に突撃に似た独自の歩法で距離を詰め、蹴打を放つミウラ。
「!?」
思ってた以上のスピードで距離を詰めるミウラに驚きながらも腕を固め防ぐ。
威力はなかなか。
悠莉を一メートル程後ろへと動かした。
それだけでは終わらなかった。
ミウラは着地後、再び距離を詰めた。
自分の攻撃が届く範囲まで近づいて打撃を、蹴打を放つ。
決して必要以上に離れないように。
「(私に距離を取らせないために距離を詰めて攻撃の手を休めない。……うん、いい判断だね。まだ私とじゃ実力差はあるんだ、距離を置いたら追い込まれてジリ貧になるだけだからそれで正解。恐れたままでは何もできない。どんな場面においてでもわずかな勇気が重要なんだから)」
自身を驚かせるくらいに成長し、意識的か無意識かはわからないものの自分やザフィーラたちが教えた対処法で攻めてくるミウラに喜びの表情を浮かべる悠莉。
「(悠莉くんの構えが緩くなった? 一撃与えるチャンスは今しかない!!)」
そんな悠莉に対して、ここが好機だと感じるミウラ。
先ほどまでとは異なり、鋭く確実に有効打を与えようとヴィータやシグナムの指導から編み出した技を思いっきり放った。
「(ハンマー・シュラーク!? ……ミウラ、決めに来てるね。だけど、これくらいじゃまだまだ私には届かない。……うん。今度は私の方からも仕掛けるとしようかな)」
悠莉は自身の間近まで迫ってくる拳を受け流し、その勢いを利用してミウラを投げ飛ばす。
ミウラは急なことに声を上げて驚いた。
「うそぉっ!?」
「クスッ、残念でした」
すぐに体勢を整え着地したが、悠莉との間に距離ができてしまった。
「ミウラ! 今から動くからちゃんと防ぐなり避けるなりしなよ! じゃないと……すぐ終わっちゃうよ?」
-side end-
-side ミウラ-
悠莉くんってやっぱりすごい!
でも、ボクの一つも攻撃が通らないのは悔しいけど……
そんなことを考えながらも五メートル以上離れている悠莉くんに目を向ける。
あんなに遠くからどうするんだろ?
遠距離からの魔法はなしのはずだけど……ううん、考えてもしょうがないよね。
どんな攻撃が来るかわからないため構えながら悠莉くんの動きを注意深く視る。
「行くよ」
右足に体重を軽くかけながら地面を蹴ろうとしている…もしかして突撃!?
「え……?」
「ミウラ…………どうする?」
う、そ…!? さっき待て五メートル以上離れてたのに一瞬で……?
一体何をどうやったの?!
気付けばボクは倒されていて、見上げた先には悠莉くん。
いつの間にか刀が抜かれていて首に添えられている。
「で、どうする?」
「ま、負けました……」
試合はボクの降伏で幕を閉じた。
「悠莉くん! 最後のあれ、いったいなんだったの?」
試合の後、すぐさま悠莉くんのところへ駆け寄った。
「ん? 縮地のこと?」
縮地? あ、そういえば大会の時に使ってたような……
「えっとね、縮地っていうのは足に魔力を集中させて地面を蹴ることで得られる爆発的な超加速を利用して一瞬で移動する歩法のこと。一応大会でも使用してた技だよ。それにしても……」
悠莉くんは説明をし終えるとボクの頭をガシガシと少し荒く撫でた。
「ちょっ! 悠莉くん?!」
「おっと、ゴメンゴメン」
謝ると同時にぽんぽんと軽く撫で、手を離した。
その頭を上げて悠莉くんの顔を見上げると嬉しそうな笑顔があった。
「偶にはこうして勝負してみるのもいいかもしれない。ミウラがちゃんと強くなってるって感じたから嬉しくてつい、ね?」
「そ、そうかな? えへへ」
悠莉くんに褒められちゃった。
でも、まだまだ悠莉くんには届かないんだろうなぁ。最初から最後まで全力って感じじゃなかったみたいだし……。
だからと言葉にせずに心の中でつぶやいて悠莉くんを見る。
「ねぇ悠莉くん。今度は最初から全力で試合してくれる?」
悠莉くんはボクの言葉に呆けた顔になったけどすぐに破顔して、
「いいよ。けどね、一応世界最強の肩書きをもってるから手は抜かないし、そう簡単には敗けないよ?」
そう言って、さっきと同じように少し荒く撫でてきた。
ボクはそれを受け入れ、悠莉くん同じように笑った。
「うん!」
-side end-
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