もう一人の八神
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新暦78年
memory:16 新年度
-side 悠莉-
新暦78年を迎え、私は中学二年へと進級した。
どうやら今年もライとはクラスのようで、教室にその姿があった。軽く挨拶を交わし、くだらない会話に華を咲かす。
そしてチャイムがなると同時に席に着くと担任が入ってきた。
担任の誘導に従って体育館で退屈な始業式、校長の長話に右から左に聞き流しながら終わりを待った。
「あいっかわらず校長の話はなげぇのな」
「そうだな。季節の挨拶は長い上に、内容が支離滅裂で何が言いたいのかさっぱりでいい迷惑だ」
「変わらないな、悠のそういうところ」
「それが私だからな、そう簡単には変わらんよ。そういえばリオちゃんも始業式だっけ?」
「まあな。……あ、そうだった。お前に言うの忘れてたけどリオのやつ今日からデバイス持ちになったから」
「へぇ〜、今日だったんだな」
少し感慨深くなっていると、ライが何で知ってんだ?という顔で見てきた。
「去年のクリパの時に『三年生になったらデバイスを持てるんだよ!』って、本人から直接聞いた」
「久々に悠を驚かせれると思ったんだが…ダメだったか」
「残念無念また来週ってな」
「おーい、全員席につけー。ホームルーム始めるぞー」
気づけば担任がいて、声が教室に響いた。
それを聞いてゆっくりとだが全員自分の席につきはじめた。
「おっと、そんじゃまたあとでな」
「ああ」
その後、ホームルームは滞りなく進んで行って小一時間程度で放課となった。
私たちは肩を並べ家へと足を進めていた。
「ライ、昼飯は何でもいいのか?」
「おう! 作ってもらう立場だしな。それにリオも何でもいいと思うぞ、何てったって悠の料理は何でも美味いからな」
「それはどうも。確かリオちゃん、学校終わったらそのままこっちに来るんだったよな」
ライは頷いて肯定する。
何気なしに通信端末で時間を確認しようとするとメールが届いていることに気付いた。
差出人はどうやらヴィヴィオとコロナのようで添付されている写真を見てつい笑顔になった。
「どうしたんだ、いきなり笑みを浮かべて……一体誰からだ?」
「友達だよ。年は離れてるけどね」
ヴィヴィオたちは私を含めて、お世話になった人たちに季節ごとのイベントごとに写真を送ってきてくれる。
「私たちは今日も元気です」と意味を込めて。
「ほーぅ、この子たちもSt.ヒルデなんだな」
「……ん? もって何だよ、もって」
「は? リオもSt.ヒルデに通ってんだぞ」
……………マジで?
「うわぁー…まさかこんなことで悠のそんな表情を見れるなんて思わなんだ」
言葉に出さなくても私を見て頷いて答えるライ。
今の私は結構顔に出てるらしい、我ながらあれだな、うん。
「ぉーぃ……ぅ…ぃ」
「ん? ライなんか言ったか?」
「何も。今度は何だ?」
「……いや、名前を呼ばれた気がして……って、ああ、なるほど」
?を浮かべるライをよそに勝手に自己完結する。
数十メートル先から聞き慣れた声と感じ慣れた気配。
姿が見えだすと同時にダダダッと次第に足音が聞こえだし、大きくなってくる。
そして、
「ゆ う にぃーーーっ! ドーーーン!!」
「よっと……ったく、勢いよく飛び込んでくるのは危ないからやめろって言っただろ」
弾丸のごとく飛び込んできた少女を受け止める。
腕の中に納まる少女、リオちゃんに少し呆れながら注意をすると「ごめんなさーい」ペロッと舌を出した。
「まったく……………というか…マジだね」
「だから言ったろ、そうだって」
リオちゃんの着る見たことのある制服を見てため息が出た。
ライは苦笑し、リオちゃんは何が何なのかわからずに首を傾げている。
「? いったい何の話?」
「気にしないで。ところでリオちゃん、制服のままってことは学校終わってそのままこっちに来たんだよね?」
「うん! 早く悠兄ぃに会いたかったし!」
うれしいこと言ってくれるリオちゃんの頭が撫でる。
そして、リオちゃんを加えた三人で再び帰路へと足を進め始めた。
「「ごちそうさまっ!」」
「はい、お粗末様でした」
美味しそうに食べてくれた二人の言葉に返事を返す。
ちなみに作ったものはリオちゃんリクエストのオムライス。
必要な材料は揃っていて問題なく作れた。
「さすがは悠。めちゃくちゃ美味かったぞ。な、リオ」
「うん!」
ライもこれくらいできるだろと苦笑しながら賛辞を受け取る。
「それは何より。あ、リオちゃん、ケチャップ付いてる。ジッとしてて」
「じ、自分でできるから!?」と慌てるリオちゃんをよそにそれを強行する。
「ちょ、悠に…んん、ん~っ!」
「はい、終わり。もう三年生なんだから、こういうのもう少し気をつけような」
口周りを拭き終わり、離れるとリオちゃんは顔を俯せ黙りこんだ。
よくみて見ると顔に朱が差していているように見える。
もしかして嫌だったのか、と思いながらリオちゃんの言葉を待った。
「……だったらさ、リオ、って呼んでよ」
「へ?」
「だーかーら! もう三年生なんだから私のことちゃんじゃなくてリオって呼んで!!」
「……ふむ」
ちゃん付けはやめてほしい、か。
同い年のヴィヴィオやコロナも呼び捨てだし、それくらい構わないんだけど……どうしてなんだ?
……ま、いいか。
「別にいいよ……リオ」
「っ!?」
「おいおい、自分から言っといて名前呼ばれただけで顔真っ赤とか」
「う、うっさい!バカ兄!」
「ぷははは。二人ともそこまで。リオをあんまりからかってやるなよライ」
「~~~っ!?」
「……あれ?」
ライに釘を指しただけなのに、リオの顔がさらに赤くなった。
「……リオ、早くそれに慣れろうな。それから悠は……言っても無駄か、どうせ今のも理解できてないだろうし」
と、リオの肩を叩いた。
いやまあ、確かにわかんないけど、無駄って酷いんじゃないか無駄って。
結局、どうしてこうなったのかわからず仕舞いで時間だけが過ぎていった。
-side end-
-side other-
あれからしばらくたった。
現在、悠莉は浜辺で距離をとってリオと向き合っている。
本来なら食後の運動としてライと軽く組み手をするはずだった。
だが二人の話を聞いていたリオがライから横取りして、いつの間にか組み手が試合をすることになってしまった。
「二人とも準備はいいか?」
「ああ」
「もちろんっ!」
「そうか。じゃあ改めてルールを確認するぞ? 格闘戦だがリオだけ魔法を許可。だが遠距離魔法は禁止。そんじゃあ―――始めっ!!」
ライの合図で試合が始まった。
「はあぁっ!」
速攻を仕掛け、機先を制そうとするリオ。
悠莉に向けられる拳は同門で兄弟子に当たるライにまだ及ばないものの鋭さを持っていた。
悠莉はそれを軽く体を逸らして躱して手首を掴む。
「魔力の乗ったいいパンチだけど真っ直ぐすぎる。それだけで私に当てるだけの速さと技術がないんだから虚実を入れて少しは惑わさないと」
そのまま掌底を腹部に撃ち込む。
強化も何もしていないただの掌底なのだがリオは吹っ飛び砂浜を転がった。
力の差、体格差などあるが、最たる理由は力の発し方の技術である発勁が上手いのだ。
「ま、まだだ……っ」
腹部に手を当てながらゆっくりとフラフラしながら立ち上がるリオ。
しかしその顔は笑顔で八重歯が覗かせている。
「やっぱり悠兄ぃは強いや」
「そりゃね。これまでに密度の濃い人生送ってきてるからな」
「なにそれ」
と、笑うリオ。
悠莉も笑い、構えを取る。
「んじゃ、まだ笑う元気があるようだし続きといこうか」
「はいっ!」
再び攻めてくるリオ。
今度はさっきと違い、次を頭に置きながら攻めている。
しかし、
「考え過ぎでスピードが落ちてるうえに型が崩れかけてる。そんなんじゃ力が上手く伝わらないよ。ま、いろいろ考えているみたいだけど……」
悠莉はリオの腕を掴み、流れるような動作で一本背負い。
「こういうのも予測しておかないとね」
大の字で倒れるリオに拳を突き付ける悠莉。
「ん、試合終了。勝者、悠」
リオに手を差し伸べ立ち上がらせてライの元へと戻った。
「リオ、悠とやってみてどうだった?」
「全然歯が立たなかった。一撃くらいはって思ってたけど、そんなに甘くなかった」
「ま、当然だな。俺でさえなかなか当たってくれないし、当たってもカウンターの餌食だ」
「あれはライが注意散漫だったからだし。それはそうと」
階段に腰掛ける。
そして座るように促して、
「反省会をやろうか」
-side end-
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