儚き運命の罪と罰
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第十話「立ち向かうために」
前書き
すみません、今回は短めです。
あとソーディアンとデバイスがだべる話は削除しました。キャラスペックの詳しい紹介はまたもう少ししたら入れさせていただきます…お許しを。
2013/1/18 修正を入れました
海鳴市、数日前に「原因不明の自然災害」だとか「謎の巨大な爆音、その正体は?」とかそんな見出しが新聞の上で激しいダンスをしたことで話題になった市は、今はすっかりマスコミの影も消えうせオカルトマニアも退散していた。浮ついた住民もすっかり元通りの生活をして平穏を取り戻していた。
それを目下に見下ろす場所...次元艇アースラで船員の一人エイミィは溜息をついた。
「今日もめぼしい反応はなし...やっぱりあそこでジュエルシード六個とられたのは不味かったね...」
「…もう二十一個のジュエルシードは向こうとこっちで全部握ってるからな。これ以上探しても出てくる筈はない。」
ぶっきらぼうな口調でそう言った後板チョコをクロノは口に放り込んだ。床には包み紙が散乱していた。
エイミィは太るよ?だとか、鼻血でるよ?と言ったがぶすっとしてそれには返答しなかった。
クロノにとって今回のジュエルシードをめぐる騒動の中であの海上決戦こそが唯一の戦いだった。その戦いで何もできずに気絶させられたばかりかその汚名返上の機会らしい機会も今のところ無い。いや、もっと言えばもう機会など無いかも知れない。プレシアの根城の正確な場所がわからない限りは、敵がジュエルシードを21個全て必要としているとは限らないのでアレで事を始める可能性も十分にあるのだ。
こりゃあ本格的に不機嫌だ、と感じたエイミィは努めて明るい口調で話す事にした。
「わかってても調べたくなるとか、探したくなる事ってないかな?」
「知るか、機材費の無駄遣いは僕には理解できん。」
クロノの声はやさぐれていた。と言うのもこの数日間休みなくリオンの取調べは行われていてそれを担当しているのは他ならぬクロノなのだ。彼が今もリンディにリオンに対する『厳重な処罰』を求めて直訴し続けているのは言うまでもない。さらにこの数日間、彼の胃薬の量は増える一方だとも。
ただでさえジュエルシードの件は誰も責めないにもかかわらず責任を感じておりマイナス思考に陥りがちなのにその傷口に取調べと言う塩を塗りこまれているのだ。不快にならない筈がない。イライラして角に足の親指をぶつけてグキッと言う音を立てて叫ぶ事もあった。
…このエイミィと言う少女がそれを見て微笑ましく思っているのは別の話である。
とにかく今彼は地球の伝承にある『因幡の白兎』の様な状態なのだ。更に悪い事に本来兎を助ける筈の『大国主神』は非番と来ている。クロノとしては「そんな馬鹿な!」と叫びたい気分だった。
唯一の救いはリオンの取調べがなのはがリオンの部屋に通っているため時間の問題で普通の犯罪者よりは遥かに数が少ないと言う事だった。なのは様々である。
「しかしなのはは何が楽しくてアイツの所に行くんだろうな?」
さあ、とエイミィは言った。エイミィはリオンについてクロノから話を聞いていたため余り良いイメージを持っていなかった。
きっとなのはから聞いたら全く別の印象を抱く事になっただろうに
「…でね、こんな人がいたんだ。最初はただ酔っ払っててちょっと嫌な感じだったんだけどお兄ちゃんがその人のコンタクトを探してあげたの。結局コンタクトは見つからなかったんだけどその人はすごく感謝してて、お兄ちゃんに申し訳ないって謝ったの。そのあと五千円札で支払った後お釣りも貰わずに出て言っちゃったの。」
「ほう...そんな事が。」
クロノには皮肉っぽい態度で接している(無論これは戦略の上であってクロノに悪意は微塵もない)が今の会話から見て取れる通りなのはとは概ね友好な関係を築いていた...少なくともリオンはそう思っていた。
リオンはその事を自分で不思議に思っていた。確かにこのなのはと言う少女は戦力としては魔道士の中では一級なのだがリオンにとっては、彼が彼女をどうたらしこんだ所で全くメリットも無いのにどうしてか自然と柔らかい態度で接してしまう。シャルティエに聞いたら彼は「きっと彼女の人柄でしょう」と言った。確かに打算も無く無垢で優しいこの少女は人から悪意を持たれることなど決してあるまい。リオンにとって管理局に囚われている今、彼が最も楽しみにしているのは彼女との話と話をするときの差し入れとして持ってこられる彼女の家がやっている喫茶店『翠屋』のケーキだった。
「にゃはは...その時はお母さんもビックリしてたの。でも喜んでた。『恭也もこんな真摯な対応ができるようになったんだ。』って。私はその時奥にいたんだけどね。」
前に一度ボソリと「僕も翠屋に行ってみたい」と言う風な事を(勿論そんなに直接的な表現ではなかったが)言った事がある。それを聞いた時、なのはは満面の笑顔になった。その時リオンは改めて感じた。本当の意味で心優しい人間であり…そして間違いなくリオンには何も与えられないと言う事を。
「無理も無い、と言うよりもお前の親が奥へ連れていったのだろう?」
「うん、そうなの。危ないからってお父さんが。」
彼女にはリオンに与えられるものを何一つ持っていない。確かに、彼女の話にはリオンも惹きこまれた。だがそれは彼女の言っている事が『アイツ』に似ていたからに他ならない。リオンが心地よいと感じたのは懐かしさだったのだ。
時間にすれば決して遠くは無いのだろう、あの男と仲間たちと剣で斬り合いその果てに敗れ…
だがリオンにはあの海底洞窟にはもう戻れない気がした。きっとそれ程に、世界は遠い。だからリオンはなのはに『彼』の面影を感じるほど、酷く昔の事に思った。
懐かしいとは思えど、受け取れないのはもうそれをリオンが得ているから。
だがそれでもこの少女は優しかった。それでだけで...リオンに罪悪感を与えるには充分だった。やろうとしていることはきっとこの健気な少女の目的を阻む。
「どうしたの?」
丸い目が覗き込んで来た。
「ちょっと怖い顔してるけど...」
「…何でもない。それよりもこの間はなしていた事は上手くいったのか?」
そう言って話題を変えることにした。若干不審そうな顔をしたがなのはも乗ってきた。
彼女と話していてしってまず驚いたのが「学校」の大きさだった。教育機関自体は勿論セインガルドにもあったが国民の99パーセントがちゃんと教育を受けると言うのは、よほど統制の取れた国家なのだろうなリオンは思った。実は学校の話は翠屋についで彼女が多く話してくれる事なのだ。それもリオンが関心を示したからなのだろう。実際なのはからアリサとすずかという娘達と友達になったときの話は彼にして珍しく笑ったのだった。
なのはは知るわけもないがシャルティエも彼女が気に入っていた。
話に夢中になっていたが唐突に無機質な時間を告げるアナウンスによって現実に引き戻された。
「あ、もうこんな時間...」
「そうだな。」
少しだけ名残惜しそうな顔をした後紙を一枚取り出した
「それじゃあまた明日来るの。明日はどれがいい?」
すっかりお馴染みになった、翠屋のカタログだった。
なのはが部屋から出て行った後、リオンはいつものようにシャルティエを抜いた。ちなみにただの剣でも質量武器として取り上げる権限があるにはあるらしいが、それをしないのは恐らく晶術について聞きたいからだろうとリオンは考えていた。
「ふう...喋らないでいるのもやっぱり疲れますね...音を消す魔法とか無いんでしょうか?」
「何を言っているんだシャル。それじゃあ僕にも聞こえないだろう、どうやって会話するんだ。」
「む、それもそうですね。じゃあどうしましょう...」
と言ってシャルティエは黙ってしまった。喋ってもいい時にこうして黙り込んでしまうから喋ってはいけないときに喋れないのが苦痛なんじゃないのか、と思ったが口には出さなかった。チン、という澄んだ音を響かせて鞘に納め傍らの本を広げた。
それをちょうど閉じた頃、呼び鈴の音がした。なのはの時と違ってタイミングがいい。つまりリオンに与える感情も逆の可能性があると言うことだが。
(果たして、な)
「リオン・マグナス。」
この声...勿論なのはではない。そしてクロノでもユーノでもない。となると
(来たか)
管理局の法律の穴を縫うように避けてきたリオンだったが、そう何度も使える手である筈が無い。いい加減痺れを切らしてさっきも言ったように質量兵器としてシャルティエを没収する気だろう。今のはそのお使いだ。そこまでの思考を僅か一秒足らずで行い返事をした。
「ああ、いるぞ。何の用だ、取調べか?」
愛剣が没収されると言うのにその声は恐ろしく冷静だった。
お使いがドア越しにした話はリオンの予想と大差ないものだった。
するりとドアから出てその男についていくことにした。
(僕が抵抗してきたときのことを考えての人選だったのだろうな。)
そう目立つ事のないお使いの横顔を見て思う。クロノやなのはに怪我でもされたら任務に支障が出る。
(だが、好都合だ)
リオンは足を止めた。明らかに訝った様子のお使いがリオンに詰問する口調で「なにを立ち止まっている?」と聞いた。
リオンは世間話でもするような口調で返した。
「もうここに様は無いと思うと存外に寂しい気持ちににもなるのだな、と思っただけだ。」
それを聞いたお使いは目の色を変えて怒鳴った...怒鳴ろうとした
「オイ、それはどういう事だー」
その言葉が言い終わるか終わらないかの内にシャルティエが一閃して、意識を刈り取っていた。なにが起こったか当事者が一番わからなかっただろう。サーチャーでも使って見ていたのかやかましくなるアラームの音とそれに一拍遅れて管理局員の走るドタドタと言う音が響いた。
「これもひさしぶりですね、坊ちゃん。」
「ああそうだな。シャル、やるぞ。」
声は高らかに晶術を組み上げーそれと同時にさほど高くない天上に足が届くほどめいっぱいに高さを使うため飛び上がった。そして――
「「デモンズランス!!」」
紫の槍が出現。そしてそれを狙う、構える、投げる。それらの動作をほぼ同時に行い、
アースラの床から、広がる海鳴市が見えたのを確認して、リオンは笑った。
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