魔法少女リリカルなのは -Second Transmigration-
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第7話 父の思い
前書き
第7話です
ではどうぞ~
箕笠先生の発言の後、その日は解散となった。叔父叔母はとっていた宿へ切り上げて行き、高町家の面々も帰ると、俺は布団に身を投げて意識を手放した。
翌日、10時を回る頃になると、高町家からは士郎さんと桃子さんが、天城家からは先日の叔父叔母ともう1人、白髪の壮年の男が来ていた。
男の名は天城宗一郎。天城家現当主、にして俺の祖父である。
「それでは、これより依頼主である天城琉聖さんの遺言書の開示を行います。また、この遺言書は私の立ち会いの下でご本人が作成されました。よって、この遺言書は法律的に認められる物となります。その為、この遺言書は効力が発揮される場合はそれに従って頂きます。よろしいですね?」
全員に箕笠先生は最後の確認を取った。
「御当主もそれでよろしいですね?」
「うむ……」
宗一郎も返事をすると、箕笠先生は鞄から封筒を取り出す。
(まるで犬神家の一族だな)
その間の沈黙とプレッシャーからそんな事を思った。丁寧に中から箕笠先生は本書を抜き取り広げて、読み上げる。
「では、読みます……
一つ、天城家の全財産、家屋の全相続権は……
息子である、天城悠里に譲られるものとす」
まずはやはり、遺産の相続権について記されていた。これは流れからいってすごく当然だ。
「二つ、ならびに息子である悠里の親権は……
友人である、高町夫妻へ譲るものとする」
それを聞いて驚いたのは勿論、叔父叔母の2人だ。宗一郎は微動だにせず、話を聴いている。
「尚、仮に高町夫妻が親権の拒否した場合、以下の家庭へ譲るものとし、天城家はこれに……」
「ちょ、ちょっと待ちなさい!」
落ち着いて聞いていた叔母が、耐えきれなくなって声を上げた。自分達が親権を譲るものだと確信していたからか、その顔は驚愕していた。
「なんでしょうか?」
「なんだじゃないわよ!さっきから親権に天城家が関与してないじゃない!」
「その部分はこう書いてあります。仮に高町夫妻が親権の拒否した場合、以下の家庭へ譲るものとし、天城家はこれに一切関与しないものとする」
「な……」
それを聞いて今度は叔父も驚愕を浮かべた。親族であり自身の実家でもある本家が、一切関与するなと書いてあるのだから当然か。
「……嘘よ。デタラメよ!そんな紙切れ一つが遺言書になるわけないじゃない!」
「いえ、これは……」
「そんな、そんな紙切れにすぎない物が遺言書になるはずないわ!!」
「静まらんか馬鹿者が」
叔母が騒いでいるところに一つの声が響く。年老いていながらもその言葉には重みがあり、凛とした声だった。
「で、ですが御当主……」
「……すまぬが箕笠先生、その遺言書を見せてもらっても構わんかね?」
「えぇ、どうぞ」
宗一郎は遺言書を受け取ると、ゆっくりと見る。見始めてから2分程すると、ゆっくりと机の上に置いた。
「……確かに、これはあやつの……琉聖の字じゃ」
少し目を閉じて何かを考えると、宗一郎は静かに目を開いた。
「……高町、士郎くんだったな」
「はい」
「こうして会うのは、お互い初めてじゃな。……できれば、この場ではなく、琉聖もいればよかったが……」
「……」
「……率直に聞こう。お主達はこの子を、悠里を引き取るかね?」
全員の視線が士郎さんと桃子さんへと注がれる。一瞬の静寂の後、士郎さんが口を開いた。
「もちろん、引き取りますよ。この子は……悠里くんは俺達にとっても、家族同然ですから」
「そうね~。それに賑やかになるもの。私も大賛成だわ♪」
なんとも呆気なく2人は答えた。その様子は本当にあっさりとしたもので、当事者の俺もポカン……としてしまった。
……いいのか?これで
「この子の家族と俺達は長い付き合いです。それに……ウチの子供達も悠里くんの事をそう思ってますからね」
「ええ。もちろん、私達もね」
そう言って士郎さんは俺の頭を撫でてきた。本当にこの人達には頭が下がる。
宗一郎はその様子を見ると、満足そうに頷いた。
「……そなた達がそう言うなら、この子を任せよう」
「親父!?」
「本気なの!?」
言い出した本人がまさか簡単に身を引くとは思っていなかったのだろう。
まぁ、あれだけ昨日に自分達が引き取ると豪語していたのだから、同然かもしれないが……
「……なにをそんなに驚く?お主達に育てさせる事がなくなり、楽な筈だが?」
「いや、そうだが……」
「よもや、連れて行かなければならぬ理由があるのではあるまい?」
「それは……」
「ならば黙っておれ。……お前達の話など聞く耳もたんわ」
宗一郎は吐き捨ててから2人を一瞥した。
流石は天城家の、この世界での『川神流』正統後継者にして総代。有無を言わさずに黙らせるとは。
それから話はスムーズに進み、俺は高町家へ引き取られる事になった。だが名字は変わらないし、家はここのままだから、生活は前と変わらない。
さて……今俺は、別の部屋にいる。その理由は目の前にいる宗一郎が「少しだけ、悠里と2人きりで話がしたい」との事で、俺は宗一郎と別室にいる。部屋には緊張感が漂っている。
「まず、何故お主を引き取ろうとしたかだが……敢えて言うならば、ワシにとっての罪滅ぼしじゃ」
「は……?」
俺はそれを聞いたとき、思考は一瞬止まってしまった。
話を聞くと、父さんは昔から武道が優秀で、川神流の継承者に相応しい人物だった。それを妬む者もいれば、尊敬する者まで様々にいた。
かく言う宗一郎も、父さんが次期当主だと信じて疑わなかった。いや……疑いようがなかった。
そんなある日、父さんの一言で状況が一変した。
突如、父さんが家を出ると言ってきたのだ。
「勿論、ワシ達は猛反対した。理由を聞いても、奴は決して話そうとしなかった。ただ一言、『初めて自分でやりたいことを見つけた』と言ってな……ワシ達は止めだが、最終的には妻、お前の祖母が大激怒してのう……家を出て行った限りは二度と敷居を跨ぐな、と言って勘当したんじゃよ」
そんなことが……
「……本当は気付いておったのかもしれん。じゃが、ワシは天城と川神流を守るために、勘当した琉聖を特別扱いすることはできんかった。……お前の母が、お前を連れてくるまではな」
「え……?」
「お前が赤ん坊の時じゃ……ある日、愛莉殿が赤ん坊を連れてやってきてのぅ。『顔だけでも見てやって欲しい』と言ってきたのじゃよ。幸いにも妻も亡くなり、他の連中もおらんかったから、赤ん坊のお前を抱き上げさせて貰ったわい」
その表情は懐かしそうで、とても優しそうであった。
「その時に気付いたんじゃ。どれだけの事をして息子を勘当しようとも、ワシにとってはお主や琉聖は家族じゃ。……ワシがあの時にそれを気付いていれば、お主達に苦労を掛けさせる事はなかったじゃろう。……本当に、すまなかった」
宗一郎は深々と頭を下げた。
この人は、ずっと悩んでいたのだ。自身の立場に、そのせいで父さんに謝罪できないもどかしさに。そして勘当してしまった事で俺達は不幸になってしまったのではないか、という罪悪感に。
あぁ、なんて……
(なんて……不器用な人だ)
あの父にしてこの祖父あり、といったところだろうか。自分の気持ちをうまく伝えられないのは、この家系の遺伝なのかもしれない。……俺も人のことは言えないが。
「……やめてください。俺はあなたを恨んでませんし、父さん達もそんなの望んでないと思いますから。話してくれて、ありがとうございました」
「……そうか……すまんが、お主達の話を聞かせてくれぬか?どんな事があったか、なにより、琉聖はお主にとってどんな父親だったか」
「……はい」
その後は俺が宗一郎に今までどんな生活をしていたか、どんな事があったかを話した。
優しかった母さんと、どんな時も俺達を心配してくれた父さん、そして、高町家のみんな。
それを聞き終えると、宗一郎は涙ながらに満足げに頷いて見せた。幸せだった事に安堵し、よき父親となっていた父さんに感動したようだ。
「そうか……お主達は幸せに暮らしていたんじゃな……それを聞けて、本当に良かった。
礼を言う。ありがとう『悠里』」
「……っ」
初めて宗一郎から名前で呼ばれた時、俺は驚いて声を上げたが、すぐにまた黙った。どうやら話はそれまでのようで、宗一郎達は帰り支度を始めた。
「では、ワシ達はこれで失礼する。どうか、孫をよろしく頼みますぞ」
「はい、もちろんです」
「立派に育てますわ」
士郎さんと桃子さんに挨拶をすると、宗一郎は俺の前でしゃがんで目線を合わせた。
「達者でな、悠里。お主と話すことができてなによりじゃ」
「俺も、です。ありがとうございました……『じぃちゃん』」
最後の言葉で、今度は宗一郎改めじぃちゃんが驚く。
今日一番の驚きと言ってもいいだろう。
当然、いきなりの事だったためか士郎さんと桃子さん、我妻先生も驚いていた。
「そう……呼んで、くれるのか……?ワシの事を……お主達に何もできんかった、ワシの事を……」
「…それでも俺にとっては、じぃちゃんはじぃちゃんだから」
それを聞くと、じぃちゃんは俺を抱き寄せた。
「ありがとう…ありがとう、悠里……!」
力任せに抱き締められて顔は見えなかったが、恐らく泣いているのだろう。顔に少し水滴が落ちてきた。
力任せで少し苦しかったが、その抱擁はどこか懐かしく父さんと同じ感じがした。
後書き
第7話でした。
次回でこの会は終了になります。
お楽しみにノシ
ページ上へ戻る