剣士さんとドラクエⅧ
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103話 雪崩
ビュゴー。口に出すとしたらこんな効果音が適当、かな。雪混じりの風は全身凍てつくみたいに冷たいし、髪の毛だろうと服のすそだろうとバタバタさせてしまう。せっかく体を縮めていてもあっという間にわびしい熱は奪われる。
こういう時のための防寒具、だよね。幸いにも私の手袋の中にはパルミド地方で魔物からかっぱらったレザーマントと自分用の……つまり仕込み武器だらけで人には渡しづらいやつ……防寒具、それから予備の普通のコートを持っている。あと防寒具じゃないけどただの上着と正装の上着がある。
私自身はこの中では一番厚着してるから要らないし。それでも当然寒いけど、まぁそこは厚着してるからね、他の人を優先しよう。これがあればビュービュー吹き荒ぶ風にも勝てるよね!
「陛下、こちらを」
陛下にコートをお渡しし、清潔で大判のスカーフを姫様の首元にお巻きする。ないよりはマシだろうと思って。ククールにレザーマント、ゼシカに正装の上着、ヤンガスに上着、エルトには……渡せないと思ってたけど渡さないのも問題だからできる限り武装をとっぱらった私の上着を渡す。
まだ残ってるから変な動きして刺さらないようにね?え、何さ。普段変態的な動きして前後の魔物を同時撃破してるのは私だって?戦闘能力が高いって言ってよね。
これでちょっとはいいんじゃない?あ、そうそう、私は服の下に手甲やら腕あてやらしてるから上着はかなりの大きめサイズ。だからヤンガスでも腕、通ると思う。ぴったりの服なんて着てたらさ、動いたら筋肉の動きが激しすぎてびりっとやっちゃうからね。
本当はちょっぴりククールみたいな騎士らしい服も着てみたいけど、あぁいう服は腕と太もも辺りを盛大に裂きそうだよ……。タイツなら大丈夫かな?
「ありがとうトウカ」
ゼシカの笑顔が眩しい。だろうね、ゼシカの薄着はもう、見ていられなかったもの。リブルアーチで魔法のビキニなんていう魔法のダメージを抑えられる装備を買わなくて本当に良かった。
にしてもさ、肩丸出しは凍てつくとかいうレベルじゃないはず。ただその、その胸が私が些か寂しいばっかりに腕とか丈とかは大丈夫なのにボタンがはち切れそうなのは勘弁して欲しい……。窮屈そうだけど私のなけなしのプライドめいた何かが粉砕されたから許して欲しい……。
なんて、少し寒さを和らげつつ襲い来る魔物達をいなしつつ進んでいた。そこそこ和やかな雰囲気だよ。これで寒かったら誰かがイライラすると思うし、雰囲気だって険悪、だろう……ッ?
雪の世界で沸いてくる如く襲い来る魔物の数は相変わらず前みたいに多くはなく、ただ一体一体が強いという感じだった。だからかな、私達は聖水によって陛下と姫が魔物から認識されづらくなるようにして、何とか倒すことに集中してしまったんだ。
不穏な音をたてる雪の音に気づけないぐらい集中して、気づいた時には逃げることすら出来なかったというわけ。間抜けなことに、最悪なことに、雪崩に巻き込まれてしまった。陛下も姫も置き去りにして。なお酷いことに、気づけなかったせいで他のみんなを巻き込んで。
雪崩。前世ならほぼ死んでるだろう。だからといって今世の強くなった私でも偉大で無慈悲な自然現象に打ち勝てるほど超越的な存在なわけじゃない。戦闘能力とか、関係ないんだ。自然を前にしたら。ただ逃げれなければ巻き込まれ、なす術もない。
寸前に気づいたゼシカのメラゾーマが炸裂する前に圧倒的な質量に視界が白く染まってしまう。庇うように私の前に立っていたククールはバッと振り返り、近くの私を、わたしを……抱きしめた?
その体温はククールの氷のように冷えきったマント越しじゃあ到底わからないけど。それよりなんでゼシカを守らないの、私たちの後ろの。素直に嬉しいけど!近いからなのか!なんでなんだ!仲間想いのククールだからか!なら本当にありがたいけど!ありがとう!
白く染まった視界が暗転するのも、その一瞬後。
冷たい色の瞳を見上げ、その表情を見る前に……炎に包まれた時よりも明確な絶望感が、ひたひたと、背中を浸していったような……そんな気がした。なのに、胸の中にあったのは、確かな安心感。
・・・・
・・・
・・
・
なつかしいような、安心するような香りだなというのが目覚めた時の感想。目の前にいた大きな犬にびっくりしてそれはすぐに吹き飛んでしまったけどね。
見知らぬ場所、温かなベッド。隣のベッドで呑気に感じられるほどある意味幸せそうなのは……ククール?相変わらず布団を抱き枕にして……何の夢を見てるんだろう。その隣で同じく犬に起こされたのかびっくりした顔で固まっているのはトウカだったから、僕はすごく安心した。
上着をみんなに配ったはいいものの一番薄着のトウカがあの雪崩で平気だったのは本当に安心した。トウカ、力だけじゃなく体も強かったんだね……。風邪ひいてるの見たことないし。
「あ、あれ……ここは……」
「トウカ、どうしたの」
「なんでエルトは落ち着いてるわけ……ここはどこなんだろう……」
「誰かが助けてくれたんじゃないの?」
「あぁ、なんだ、それもそうだね」
らしくもなく狼狽えていたトウカはほっと息を吐く。流石にびっくりしたのかな。そして隣のベッドですやすやと寝息を立てているククールの肩を揺さぶった。起こさなくてもいいと思うんだけどな……。あ、でも室内とはいえ寒いし、風邪ひかれちゃこまるよね、布団かぶってないし。
「ククール、ククールってば」
「……、うぅ……」
「起きてよククール、風邪ひいちゃうよ」
「……朝ご飯はいらない……」
「何の話だよ?!」
薄目を開いたククール。すぐガクッと眠りに落ちる様子って、かなり消耗してるんだろうけど。トウカを見て朝ご飯は要らないって、何の夢を見ているのやら。妙に幸せそうだから……夢でも叶えてるんだろうか、これこそ夢の中で。
「布団をかけ直して、ククールは寝かしておこう。大丈夫そうだし」
背後にいる大きな犬があくびをした。この犬について何にも知らないけどなんとなく彼……彼女?……ちょっとそこまでわからないけど……がいれば大丈夫だと思うし。
「まぁ、そうだね」
ククールが庇ってくれたからお礼を早く言いたいのにな、と零しつつトウカは自分にかけられていた布団をククールにバサりと被せて一緒に部屋から出た。
そういえば、雪崩に向かってベギラゴンを唱えようとしたのにやっぱり間に合わなかったな。ゼシカのメラゾーマも間に合ってなかったみたいだけど、誰か雪崩を見てとっさに判断出来た人っていたのかな。トウカも無理だったみたいだ……し……?ってさっきトウカが言ったのは。
ククールがトウカを庇った?あの一瞬に?流石はと言うか……いやはや。
・・・・
後書き
ククール「(ガッツポーズ)」
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