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Blue Rose

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第二十話 小さくなる身体その十

「本当に」
「そう思うんだね」
「はい、僕は」
 こう岡島に答えた。
「そうです」
「そうなんだね、確かにね」
「岡島さんもそう思われますか?」
「言われてみればね、ただ僕はね」
「岡島さんは?」
「むしろね」
 吸い込まれるというよりはというのだ。
「ずっと宝石みたいだって思ってたよ」
「この海がですか」
「サファイアを溶かしたみたいな」
「そうしたみたいだってですか」
「うん、思っていたよ」
「奇麗な海だからですね」
「青くてきらきらと輝いているからね」
 だからだというのだ。
「そう思っていたよ」
「そうですか」
「けれど君の言う通りにね」
「吸い込まれそうともですか」
「思えるね、この海はね」
 海を二人で見つつだ、岡島は優花にこうも言った。
「蝶々さんも見たんだよ」
「歌劇の中で、ですね」
「そうだよ、ここに蝶々さんのお家があるっていう設定だからね」
 蝶々夫人の中ではだ。
「ここからずっと海を見てね」
「ご主人を待っていたんですよね」
「ピンカートン中尉をね」
 アメリカ海軍の青年士官だ、どうにも軽薄でいい加減な人物であり歌う歌手は人気が出ることは多いがキャラクターとしては悪い評価を下す人も多いだろう。
「ずっと待っていたんだ」
「そうでしたね」
「二人の間の子供と一緒にね」
「この海を観ていたんですね」
「そうだよ」
 まさにというのだ。
「この海を観て待っていたんだ」
「三年の間でしたよね」
「よくアメリカ領事も来ていたんだ」
 シャープレスという、良心的な人物だ。
「蝶々さんを気遣ってね」
「そのうえでずっと待っていたんですね」
「そう、けれどね」
「ご主人は本国で結婚していて」
「蝶々さんはそれを知って自害するんだ」
「そうでしたね」
「それが話の結末でね、悲しい話だよ」
 蝶々夫人という作品はだ、プッチーニ独特の甘い感傷的な音楽がその悲劇をこれ以上はないまでの名作にしているのだ。
「これ以上はないまでにね」
「そうですよね」
「プッチーニは悲劇が多い作曲家だったけれど」
「そうだったんですか」
「そうだよ、殆どの作品が悲しい結末なんだ」
 岡島もまたそのことを知っていて優花に話す。
「ヒロインが死ぬことが多いんだ」
「お話の結末に、ですか」
「蝶々夫人もそうだしね」
「じゃあここは悲劇の舞台ですか」
「そうなるね」
 岡島は否定しなかった。
「実際にね」
「やっぱりそうですか」
「うん、それだけに奇麗だけれど」
「作品がですか」
「蝶々夫人は全部聴いたかな」
「一回だけ」
 そうしたとだ、優花は答えた。 
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