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真田十勇士

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巻ノ五十二 島津四兄弟その九

 船頭は驚いてだ、船から彼等に言った。
「おい、もう戻って来たのか」
「うむ、この通りな」
「速いな」
「ははは、驚いたか」
「こんなに速いとは思わなかったぞ」
 船の前にいる幸村に言う、後ろには十勇士達がいる。
「しかも全員無事だな」
「この通りな」
「いいことがあったな」
 船頭は主従十一人の顔を全て見て言った。
「どうやら」
「わかるか」
「務めは果たせたな」
「無事にな」
「そしてその他にもいいことがあったな」
「うむ、そうだ」
 幸村は船頭に確かな笑みで答えた。
「何かとな」
「それは何よりだ、実はあれから少し下関に出てな」
「そしてか」
「すぐに戻って暫く休んでいた」
「この博多でか」
「御主達が戻って来るまで待てと言われてな」
「関白様にか」
「いや、殿じゃ」
 こう幸村に話した。
「小早川のな」
「小早川隆景殿か」
「わし等は小早川隆景様の下におる」
 毛利家の重臣、もっと言えば当主である毛利輝元の二人の叔父の一人である。もう一人の叔父は吉川元春だ。
「その方からの文が来てな」
「そしてか」
「ここで待っておった、しかしな」
「それでもか」
「こんなに早いとは思っていなかった」
 また言うのだった。
「実にな」
「そうか」
「うむ、しかしな」
「しかし?」
「乗るな」
 船頭は明るく笑ってだ、幸村に問うた。
「そして戻るか」
「うむ、大坂にな」
「よし、では早く乗るのだ」
「乗ってそうしてだな」
「大坂に行くぞ」
「わかった、ではな」
 こう話してだ、そしてだった。
 幸村主従は船頭の誘い通り船に乗った、彼等が乗り込むと船はすぐに博多を出た。そしてそのままだった。
 一行は大坂に向かった、今度の船旅は特に海が荒れることなくだ。
 大阪に着いた、そのうえで。
 すぐに大坂城に入り秀吉に一部始終を報告した。その報を自ら幸村と十勇士から聞いてだった。
 秀吉は確かな顔でだ、こう告げた。
「わかった、ではな」
「これよりですか」
「うむ、出陣じゃ」
「今すぐにですか」
「既に用意は整ってある」
「では」
「わしも出陣する」
 幸村にこうも言った。
「これよりな」
「では」
「うむ、ご苦労であった」
 幸村に労いの言葉も告げた。
「それではな」
「ではそれがし達は」
「褒美は用意してある」
 それは既にというのだ。
「受け取るがいい、そしてその後で」
「上田に戻れと」
「ゆっくりとしておれ」
 秀吉は暖かい笑顔でだ、幸村に温厚な声で告げた。 
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