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神葬世界×ゴスペル・デイ

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第一物語・前半-未来会議編-
  第九章 夜中の告白者《3》

 
前書き
 はい続きです。
 黙り込むセーラン、一体どうなる!?
 物語スタート! 

 
「セーラン、どうしたのかな?」
「ったく、告白が変な方向に進んでるな」
 西二番貿易区域の北側、作業員が休憩で使う小屋の外にいくつかの人影がある。
 その人影のなかで髪を目に掛かるまで伸ばし、長いポニーテールをした美琴が言った。
 彼女達は今、空に浮かぶ映画面|《モニター》の調節をしている。
 通常表示するような小さな映画面ならば、神社が調節を行っているので、わざわざ自分達がやらなくてもいい。
 しかし、今表示されているような巨大な映画面は別だ。表示するには専用の装置が必要になる。その装置は神社しか持っていないので、使うとなれば手続きが必要となる。
 その装置を調節している仲間を見た。
「みんなやさしいね」
「な、なんのことでしょう? そういえば空、空綺麗ですねー」
「本当だ、綺麗だー」
「しかし雲で隠れているぞ」
 直後最後に発言した仲間が、短髪の金髪少女蹴られ吹き飛んだ。
「兄ちゃんの下手くそ。皆暗い雰囲気にならないように頑張ってたのに!」
「ふふ、妹よ足の威力が上がったな。空子との鍛練は無駄ではなかったぞ」
「もう頑張らなくていいぞ。馬鹿長が昔のこと思い出して暗くなっている今、私達が明るくやるぞ」
「飛豊ちゃん、がんばってるね」
 飛豊の隣にいる美琴は、胸の前に両の腕でガッツポーズを作った。
 まあな、と言い飛豊は右手を左へ動かし、素早く右に振る。
 彼女の眼前に映画面が現れ、それを自分達の長に繋げた。
「おい聞こえるな、なに暗くなってんだ」
『…………』
 言葉を掛けるが、返事が帰ってこない。
 彼の元に表示されている映画面から、その姿が自分の映画面に映し出されている。
 それを堂々と覗くように、装置を調節していた仲間達が寄ってきた。
「映画面前に顔入れるな、見えないだろ」
「ペタン子はお黙り、一人だけで見るなんてNothingよ」
「皆で楽しく見ましょうねー」
「美兎、お前今の状況を楽しんでどうすんだ」
「価値の無い脳だな」
「価値が無いならお金にならなーい」
「……、禊ぎますよ?」
 笑顔の美兎の言葉に、アストローゼとニチアが慌てて近くにあったコンテナの後ろに逃げた。
 その二人はそのコンテナの後ろから、顔だけを出すようにこちらを見ている。
 そんな仲間を見て、飛豊は深いため息をついた。
「おっと、ため息したら幸せが逃げるんだった」
「それ迷信よ? むしろ腹から出すため息は気持ちを解放させるから体に良いのよ」
「そうなのか、それは知らなかった」
「出たぞ飛豊の貧乏知恵だ」
「幸せを逃さないためにため息を我慢するなんて、なんて可愛そうなの」
「美兎、あいつら禊いでいいぞ。伝達者命令だ」
「了解しました」
 笑顔で美兎はコンテナに近づく。
 その異様な笑顔に、そのコンテナの後ろにいた二人は逃げようとした。が、遅かった。
 巫女候補の美兎の束縛系術により捕らえられ、その反動でコンテナの後ろに顔が消えた。
「ふふふ、痛くありませんよう? 痛くないですからねえ?」
「束縛系術を使うとはな、止めろ。指揮官命令だ」
「断りまあす」
「止めてくれたら五千、五千で手を打つわ!」
「お金だけ貰って、後は知りませえん」
「この鬼巫女が!!」
 コンテナの後ろにいるニチアのその言葉を最後に、後から聞こえるのは悲鳴となった。
 何を禊れているのか、コンテナの背後から光が漏れ出す。
 飛豊は生きていることを祈り、心の中で合掌をする。
 どうかいい具合に禊がれていますように。
 先程まで、あーとか、ぎゃーとか、色々聞こえたがそれが止んだ。
 禊ぎが終わったのだろう、何故か肌がツルツルになっている美兎がコンテナの後ろから出てきた。
「上機嫌だな、何したんだ?」
「世の中には、知らない方がいいこともありますよ」
「そ、そうだな」
 妙に上機嫌な様子に、身の危険を感じ追及するのを断念した。
 逃げるように、顔を映画面に戻しセーランを見る。
 黙っている。
 人形のようにその場を動かない。
 どうしたものかと考え、言葉を放った。
「よく聞けセーラン。昔のことはどうでもいいから今は告白の最中だぞ、カッコ悪いところを見せるな」
 言葉は帰っては来なかった。
 予想していた通りだ。
 しかし、彼がこれ程のショックを受けるのかと疑念を持つ。
 セーランはいつもそうだからなあ。
 最近の彼は悲しんでいるも思っていたら、それが嘘だったことがよくある。
 思い返せば、セーランはまともに悲しんでいるところは最近は見ていない。小等部のときは、今とはかなり違ったが。
 小等部のときのセーランは、表に出るような少年ではなかった。むしろ、皆の後ろに付いていくようなおとなしめの少年だった。だが中等部を境に、彼は変わった。よく笑うようになり、話すようになり、
 馬鹿にもなったあ……。
 最後のはほっといて、まあ、あいつなりに考えがあってのことなのだろう。
 そして今、その馬鹿は動こうともしない。
「ゆうきだして」
「琴姫の言う通りダ、クヨクヨしててもしかないヨ」
『…………』
 美琴と空子と言葉にも、答えようとはしなかった。
 飛豊は、自分の胸の前に顔を出す灯を言う、
「明も何か言って慰めてくれないか」
「何よ、私にやれっての? しょうがないわねえ」
 そう言い、明は映画面にいるセーランを見た。
 そして息を大き吸った。
「想い人って宇天学勢院の長だったのね!?」
「今言うか――!!」
 とうに解っていたことを、まさに今聞いたように灯は驚きの声を上げた。
 飛豊の声の後に、言葉の羅列が流れた。
「どうして? いつから決めたの? なんで、てか相談無しで決めるなんて! あんた年下少女派なんて今知ったわ。おかしいじゃない、おかしいわ、なんか知らないけどとにかくおかしいわ。あの時ね!? あの時好きになったのね? ええ!?」
 眼前に表示されている映画面を掴み、更に続く。
「あ、そうねそういうことね? 今ピンチだから周りを混乱させようとしてるのね。でもまさか独立宣言しといて、辰ノ大花の長に告るなんてやるじゃない。Excellent、Wonderful、いいわよお! さあ今すぐ告りなさいな、告白の続きよお!!」
『告るぜえええい!』
「復活した――!!」
 映画面の向こうにいるセーランが、空に向かってガッツポーズをした。
 意味が分からない、さっぱりだ。
 飛豊は灯がしたことに、なんの意味があるか分からなかった。が、先程まで黙り動かなかった馬鹿長が復活した。
 空に吠えるように、セーランが背を曲げて気合いの入れ直していた。
 だが曲げ過ぎで後ろに倒れた。
 いてて、とセーランは頭を押さえ立ち上がる。
 笑顔で立ち上がるセーランを見て、皆はほっとした。
 映画面の向こうにいるセーランは、親指を立てる。
『最高だろ、俺の演技は』
「ナイスよ!」
 それに応じるように灯は親指を立て、映画面の前に突き出す。
 飛豊は自分だけが分からないのかと、周りを見渡した。
 首を曲げていたり、分からないと手を左右に振り合図してくる者もいる。
 どうやら、他の皆も分かっていないらしい。
 良かった、と安堵の息を漏らす。すると横に一つの映画面が表示される。
 こことは違う、花火打ち上げの方のだ。
 飛豊は周りに集まる仲間を退け、その群れから離れる。
 落ち着いて話せる場所に付き、映画面を見る。
 そこに映るのは、
「恋和か、どうしたんだ?」
『どうしたもこうもないですよ。一体どういうことですか、なんで灯の言葉の羅列攻撃でセーランが目覚めたんですか?』
「よく分からんが、本人が言うには演技だったらしい」
『演技?』
 恋和は首を傾げた。
 彼女の後ろには、他の仲間も見える。打ち上げ終わった花火の筒を片付けているのだろう。
 男子が主に運んでいおり、女子はそれを見ていた。
 向こう側の様子を確認し、飛豊は灯を呼ぶ。
「どういうことだ明、簡単に説明してくれ」
「一度しか言わないわ、よく聞いてなさいよ」
 飛豊は振り返り、肯定の合図に灯は左手を挙げ振っていた。
 先程まで何かを話していたのだろうか、しばし間が空いた。
「馬鹿長が前、演技について教えてくれって私に言ってきたの。まあ私は優しいからその頼みを受け入れたわ」
 途中段階すっ飛ばして行くわよ、と灯は言った。説明するのが面倒なのだろう。
 それで、と言うように息をする。
「想い人を楽しませるためにも、特技一つぐらいは身に付けたいからってね。で、練習してたわけ。でもどれだけ上手くなったか知りたいからどうにかしろって、昨日言ってきたのよ! いくら私だって困っちゃって、じゃあ告白本番の場でやってみれば? て言ったら本当にやりやがったわ、VeryeEcellentよ。
 まあ、告白する相手が辰ノ大花の長なんて知らなかったから、一瞬焦ったわね」
「…………」
『あー、飛豊があまりにもぶっ飛んだことだからついて行けてない。タイムラグ修了まで五秒前、五、四、一はい!!』
「うわっ!?」
 恋和が両の手で拍手をし、その音で飛豊は目覚めた。
 まだ気が動転しているのか、ふらふらと頭が左右に揺れている。それを後ろから来た空子が、頭に軽くチョップを入れ治まった。
 空は薄く雲に隠れ、辺りは先程以上に暗くなった。
「いつから……いや、なんでそんなことしたんだ? いくら告白でも、お前はそういうことしないだろ」
 それにセーランは答える。
 自分が表示した演技に集っていた仲間が、左右に裂けるように別れた。
 映画面に映るセーランが、群れるものを払うように手を振っている。彼が自分に見えるように皆に指示を出したのだろう。
『ふざければなんか反応すると思ってな。でも反応無しだったな』
「ったく、やることがめちゃくちゃだな」
「でもいつもの長でよかったですよ」
 ロロアの言葉に、皆は頷く。
 笑顔を見せ、セーランは宇天学勢院の長がいる艦の方へ体を向ける。
『死ぬことは本当だろうな』
「どうするんだ、下手に動けば取り押さえられるぞ」
『それでもやるのがこの俺さ』
 だからと言うように、
『宇天学勢院の隊長さんよ、俺は確かに死を定められた者を救えなかった。だからってお前達の長を救えない理由にはならない』
 演技がいつから始まったのかは分からないが、今度のセーランの言葉は何かが違った。
 深みがある……、違う。似たようなものだが、何か違う。
 そうだと、飛豊は解った。
「頑張ってるんだなあ、あいつ」
「ふふ、あの馬鹿長、皆が注目しているときに限ってかっこつけて、汚れて、そうやって支持を得てきたのよね。本当――」
「「抜け目のない男」」
「だろ?」
「よく分かってるわね」
 当たり前だ、付き合っている歴が違う。
 恋愛の方じゃないぞ!?
 変に意識をしてしまった。
 何やってんだと思いながら、声を聞いた。
『救い方が分からねえなら教えてやる、そこで待ってろ!』
 と、コンテナから動こうとした時だ。空から銃撃が警告するようにコンテナに当たった。



 セーランは上を見た。
 監視艦の甲板から、幾人かの隊員が縄を伝いながら降りてくる。
 照明の明かりがない今、正確な人数は分からない。
 その隊員が伝う縄はすでに地に付き、真っ直ぐにそれが来る。
『今の発言は宇天学勢院との接触を取るものと判断し、正式に暴動と見なす』
 空に浮かぶもう一つの映画面|《モニター》から、そう告げられた。
 は? とセーランは言い反抗する。
「暴動じゃねえだろ、俺達何もしてねえぞ」
『先程打ち上がっていた花火から、異常な流魔量を感知したとの報告があった。普通の花火ならば感知出来るほどの流魔は含まれていない』
「あー、くーそう。高く打ち上げるために流魔を注入したのは間違いだったかあ」
『何やってんだお前は――!!』
 飛豊の怒鳴り声に後ずさるが、行動と見なされ銃撃が放たれた。
 足元から数センチ離れたところへ、的確に狙っている。
 下手に動くことが出来ない今、セーランは仲間の様子を気にした。
「そっちはどうよ。見た感じそっちにも監視艦行ってるぞ」
『今その艦から隊員が降りてくるのを防いでんだ。行くならさっさと行け! 捕まるぞ!』
「わーかってんよ」
『こっちで出来るだけ時間稼ぐからお前はやれることをやれよ? じゃあな、映画面切るぞ』
 そう言い映画面が消え、降りてくる黄森の隊員の方を見た。
 突如、西二番貿易区域の全ての照明の明かりがついた。
 あいつら、さっさと逃げればいいのによ。
 いきなりの光に目が眩む。それは降りてくる隊員も同じだ。
 周りが明るくなったお陰で、降りてくる人数は七人と確認できた。その隊員も突如の閃光により、降りるのを途中で止める者や縄から落ちるものもいた。
 まだ地上からは四メートル以上あった。落ちたら足を痛め、動けないだろう。
 だから動くなら今だ。
 セーランはコンテナを蹴り、直線に走る。
 だが経験を積んでいる者、熟練の隊員はすぐさま崩れかけた態勢を立て戻し、銃撃を放つ。
 鉄の弾が飛ぶ。
 それをコンテナを背に避け、そして走り出す。
「訓練用のコルク製打撃弾を鉄製に変えたのやつか。禊ぎ系術か加護で無駄なもん削いで飛距離を伸ばしてるな」
 地面に敷かれたコンクリートを削り、弾が跳ねる。
 金属音が響き、それが幾つも重なる。
 撃たれた弾の形状は、二センチの棒状弾だ。通常の飛距離と貫通を意識した弾ではなく、打撃のみを意識した弾だ。コルク製の弾はよく模擬戦などに用いられる。弾先と後ろが平面のため摩擦や抵抗を受けやすい、そのため使うときは禊ぎ系術か、加護が必要となる。当たると打撃のような衝撃のため、打撃弾と呼ばれている。
 走りながら北側を見る。
 監視艦が一艦あり、さらに北の方。霊馮山と日来の境目辺りにも、もう一組の仲間を取り押さえるため監視艦が浮いていた。
「ったく、ここの停泊場二キロの正方形とか、どんだけ広いんだよ。まあ、日来は横十キロ強、縦八キロ弱とか本当は嘘だからなあ」
 走りながら、意味もなくぼやく。
 白の息を吐き、冷たい空気を吸い込む。
 宇天学勢院の長が乗っている艦は、ここから後 八百メートル先にある。
 ここからでもよく見える、ドレイク級戦闘艦は青に塗装され、船首が鋭く突き出している。
 それに向かい、一心不乱に走り続けた。 
 

 
後書き
 黙りは演技でしたね。
 作中でその演技は「彼女=奏鳴を楽しませるため」ですが、それ以前にセーランは彼女が死ぬことを信じられなかったわけです。
 彼女は「死ぬ」ということを肯定しましたが、自分を諦めさせるための嘘、日来に同情させ下手な動きをさせないため、など色々考えており演技で隊長=実之芽に真実を言わせようとしたわけです。
 そしたらマジ切れされたので、ああこれ本当だわ、と納得したんですね。
 そして走り出すセーラン。
 次回は、走り出したセーランのお話。 
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