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真田十勇士

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巻ノ四十九 立花宗茂その四

「これからのことは」
「調べそして」
「その調べたことをお持ち帰り下さい」
「そうさせて頂きます」
「それでなのですが」 
 約をしてからだ、宗茂は。
 笑顔になってだ、幸村にこんなことも言った。
「ここはです」
「この店では、ですか」
「はい、それがしが銭を出します」
「そして、ですか」
「好きなものをお召し上がり下さい」
「いや、それには及びません」
 幸村は穏やかな笑みで宗茂に答えた。
「それには」
「左様ですか」
「はい、それがしが食べたいものを頼みましたので」
「だからですか」
「もうそれで充分です」
「無欲な方と聞いていましたが」
「ははは、貧乏性なもので」
 それ故にと返した幸村だった。
「何か欲しいだの思うことはです」
「ありませぬか」
「あまり」
「だからですか」
「刀があり槍があり何よりも」
「家臣の方々がですな」
「それがしに過ぎた者が十人もいます」
 こう言うのだった。
「ですから」
「充分だと」
「欲を持つことはです」
 最早というのだ。
「ものについてはありません」
「ご自身が頼まれたものだけで」
「充分です」
 幸村の考えであった、まさに。
「ですからお気遣いなく」
「では」
「はい、立花殿はです」
「それがしのですな」
「召し上がられたいものをです」
「口にせよと」
「そうされて下さい」
 穏やかな声での言葉だった。
「その様に」
「さすれば」
 宗茂も頷いた、そしてだった。
 二人でそれぞれ注文したものを食べた、宗茂は高いものを頼んでいたが彼は幸村が口にしているのを見てまた言った。
「やはり」
「質素だと」
「はい」
 こう言うのだった。
「実に」
「どうもです」
「はい、そうですな」
「欲がないことがわかります」
「実際にそれがし食は好きですが」
「それでもですな」
「贅沢には興味がありませぬ」 
 こう宗茂にも話した。
「美味なものが好きですが」
「それでも贅沢には興味がない」
「そうなのです」
「美味を求めるのは人として当然のこと」
 見れば宗茂は店の中ではかなり値の張るものを口にしている、そしてそれが当然といった物腰で堂々と食べている。幸村も大名の息子らしく堂々としているが。 
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